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マイナビ将棋BOOKS スリル&ロマン 対振り飛車右玉 |
[総合評価] B+ 難易度:★★★★ 図面:見開き4枚 内容:(質)A(量)B+ レイアウト:A 解説:A 読みやすさ:B+ 上級〜有段向き |
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【著 者】 豊川孝弘 | ||||
【出版社】 マイナビ出版 | ||||
発行:2019年9月 | ISBN:978-4-8399-6950-9 | |||
定価:1,663円(8%税込) | 224ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||||||
◆内容紹介 |
【レビュー】 |
対振り飛車の右玉作戦の戦術書。 普通、玉は飛を離して囲うのが将棋のセオリーだ。飛と玉が近いと同時に狙われやすいためで、「玉飛接近すべからず」という格言もある。特に居飛車vs振り飛車の対抗形では、戦場になりやすい飛車側から離すため、居飛車は左側に玉を囲うのがほとんどである。 しかし、「対振り飛車の右玉」という作戦がある。相居飛車での右玉は、相手の飛車の攻めから離れるために右側に囲うのだが、「対振りの右玉」では、相手の飛車の正面に玉を構える。糸谷哲郎が奨励会から若手時代に指しており、「糸谷流右玉」として知られている。(『将棋戦法事典100+』(2009.09)によれば、牧野光則が先駆者だそうだ) ところで、この「糸谷流右玉」をちゃんと扱った本は少なく、記憶の限りでは『相振り飛車で左玉戦法 居飛車で右玉戦法』(小林健二,創元社,2013.10)と『誰も言わなかった右玉の破り方』(神谷広志,マイナビ出版,2019.07)くらいである。本書は、「糸谷流右玉」の初めての専門戦術書となる。 本書の内容を、チャートを添えながら紹介していこう。 |
第1章は、四間飛車編。 (1)▲5七銀型 ・四間飛車を見たら、居玉のまま▲3六歩〜▲3七桂〜▲4六歩〜▲3八金〜▲4七銀〜▲2九飛と右辺を整えてから、▲4八玉とする。 ・続いて左の金銀を玉に近づけ、「右雁木」に収まる。 ・左桂を跳ね、飛を左翼に転回して、左辺で戦う。 ・角は、端角▲9七角から使う。9筋の角頭攻めはほぼ問題ない。(※相手がこの作戦に不慣れな場合、▲9七角に対して高確率で9筋を攻めてきそうなので、対応方法をしっかり覚えよう。それほど難しくはない。逆に、対右玉が苦手な振飛車党の人は、よほど条件が良くても美濃囲いからの角頭攻めが上手くいかないことだけはしっかり覚えよう) ・相手が手厚く守ってきたら、薄いところへ矛先を変えよう。ただし、意外と容易ではないので攻め方には注意。 ・攻め方は、棒金、端攻め、3筋角頭攻め、の3つが基本。状況に応じて、単発または複合で使おう。ただし、棒金と3筋攻めは、自玉頭での攻めになるので、無理攻めはしないように。 |
(2)▲6七銀型 (※目次にはない) ・▲6七銀型では、7筋歩交換から▲7六銀や▲5六銀と左銀を活用できる。攻めに少し重点を置きたい人にはオススメ。居飛車の新型雁木でゆっくり指すのが得意な人も相性が良さそうだ。 |
(3)四間飛車からの急戦 (※原文では「(2)」) ・対振り飛車右玉を指すとき、特に相手が四間飛車の時は駒がぶつかりやすく、振り飛車からの急戦があり得る。 ・▲4六歩よりも▲3六歩を先に突く方が無難。 ・早めに△4五歩と突かれた場合は、右玉にはしづらい場合がある。 ・△3二銀としてからの△4五歩は、かなりうるさい順もある。しっかりマスターしておきたい。 |
(4)実戦編 (※原文では「(3)」) ・豊川の研究会での弟子(奨励会員)との一局。豊川が振り飛車側を持っている。 ・振り飛車側は、本書で唯一、穴熊に組んでいる。(他は高美濃から銀冠) ・豊川は、プロで現れた対振り飛車右玉の棋譜はほぼ並べ、研究会でもかなり指してみたそうだが、出版時点での公式戦の実戦は残念ながらないそうだ。 |
第2章は、「三間飛車編」。 (1)▲5七銀型 ・対三間飛車では、▲3六歩〜▲4六歩〜▲4七銀〜▲3八金〜▲3七桂〜▲2九飛の順で組む。(桂頭を先に守る) ・7筋で一歩交換し、▲4五歩早仕掛けの筋で、自分の玉頭から仕掛けるのが有力策。 |
(2)▲6七銀型 ・▲6七銀型は、あとで▲5六銀左と腰掛け銀にできる含みがある。 ・振り飛車が3筋歩交換を狙って△5一角と引くなら、▲6五歩〜▲5六銀左〜▲4五歩の仕掛けが見込める。 ・ただし、意外と大変なので、飛を左辺に回って戦うほうが良さそう。後手が角を引かなくても、左辺攻めは有効。 ・対三間飛車に限らず、持久戦模様のときは、左辺で桂歩(ときには銀も)を交換して手持ちにしておき、次の攻撃のチャンスを模索するのが一つのパターン。 |
第3章は、「向飛車編」。角道を止めたノーマル向飛車と、角交換型向飛車がある。 (1)ノーマル向飛車 ・角道を止めた向飛車には、▲3六歩〜▲3七桂〜▲4六歩〜▲4七銀〜▲3八金〜▲4八玉〜▲2九飛と組む。 ・持久戦なら左辺で動く。地下鉄飛車からの端攻めが有効。 |
(2)角交換向飛車 ・角道オープン振り飛車から、角交換して向かい飛車にする将棋を扱う。 (△ダイレクト向飛車だと、1手の差がどのように影響するか興味があるが、本書では扱われない) ・先に▲3七桂と跳ねているので、△逆棒銀の筋は大したことがないが、1筋を突き合う前は王手飛車の筋に注意。 |
第4章は、「ゴキゲン中飛車編」。 (1)ゴキゲン中飛車編 ・対ゴキゲン中飛車には、▲4六歩〜▲4七銀〜▲3六歩〜▲3七桂と組む。 ・中飛車は高美濃に組みづらい(左金が△5二飛を迂回する必要がある)ので、端角▲9七角は狙い目。やはり、美濃囲いからの9筋逆襲はまず成功しない。 (2)実戦編 豊川の研究会での弟子(奨励会員)との一局。第1章の四間飛車編とは逆に、豊川が▲右玉側を持っている。 |
〔総評〕 わたしはこれまで、対振り飛車の右玉戦法を「“奇襲”寄りの“ユニーク戦法”」という認識でいたが、本書を読んでその認識を改めたいと思った。 もし相振り飛車で、持久戦でここまで組めたら大満足に思える訳である。序盤のリスキーな変化も少なく、普通に「作戦勝ちを見込める戦法」だと思う。 ただし、本書では「対振り飛車右玉」をそこまで優秀と見たポジションとはしていないようで、右玉側が上手くいかない変化も多く採り上げられていた。 確かに、積極的な仕掛けを狙っていく感じではないが、序盤を穏便にバランス型の陣形に組み上げ、左辺で歩・桂・銀・香などを手にしてチャンスを待つ、というじっくりとした指し方を好む人には、かなり指し易い作戦のように思う。タイトルでは「スリル&ロマン」とあるが、実際にはちょっとずつ良くする将棋の造りになりやすいだろう。 基本的には、序盤の駒組み以降はやや手将棋模様になりやすいので、本書の指し方は定跡というよりは、いくつかの狙い筋を体感する感じで読んでいくと良いと思います。 なお、オヤジギャグ解説で知られる豊川だが(『豊川孝弘の将棋オヤジギャグ大全集』という本まで出ている)、本書ではダジャレは一切なく、超マジメな解説文となってます(笑)。(コラムに、豊川のオヤジギャグのルーツが書かれていますよ。) (2019Sep27) ※誤字・誤植等(初版第1刷で確認): p39下段 ×「▲2二飛成△5七桂成▲同金…」⇒本文と図面に違いあり。本文を「▲2三飛成」にするか、または参考図の▲2三龍を▲2二龍とする。 p45〜p58 ▲6七銀型を扱っているが、ページ上部の肩書きはずっと「▲5七銀型」になっている。 p59 「第1章では…第2章では…」となっているが、章立ては第1章のままなので、「第1節では…第2節では…」が妥当か。ただし、本書では「章」の下位は「節」ではなく、「@」「A」などで分けられていて、p45〜p58のように@の下位にAがあったりするなど、章・節の混乱が見られる。 p62結果図 本譜にない「△4七歩▲3九銀の交換」が入っている。 |