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将棋最強ブックス 相振り飛車で左玉戦法 居飛車で右玉戦法 |
[総合評価] B 難易度:★★★☆ 図面:見開き4枚 内容:(質)B(量)B レイアウト:A 解説:B 読みやすさ:A 中級〜有段向き |
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【著 者】 小林健二 | ||||
【出版社】 創元社 | ||||
発行:2013年10月 | ISBN:978-4-422-75142-9 | |||
定価:1,365円(5%税込) | 224ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||
◆内容紹介 |
【レビュー】 |
右玉・左玉の解説書。 右玉は、特殊な戦法である。通常の戦型では、「玉飛接近すべからず」(玉と飛が近いと同時に狙われやすいので、なるべく離した方が良い)という格言が示す通り、飛(+攻撃陣)と玉(+囲い)は離れている。 とくろが、右玉戦法では、玉と飛は非常に近いところに配置されているが、これで戦法として成立している。下段飛車で角などの打ち込みを消し、「堅さ」よりも「広さ」を主張し、相手が攻めてきたときにゲットした駒でカウンターを狙う。自分からは攻めにくいので、千日手も辞さない。自分にも、相手にも、独特の大局観が要求される。 本書は、そのような右玉戦法の戦い方のコツを解説した本である。 各章の内容を、チャートを添えて紹介していこう。 第1章は、相振飛車での左玉戦法。通常、右玉戦法は2筋の飛の近く(自陣の右辺)に玉を移動させるので「右玉」と呼ばれるが、相振飛車では飛は左辺にいて、左側に玉を移動させるので「左玉」といわれる。 本章の左玉は、大きく分けると (1) ▲7六銀・▲6七金型 (2) ▲二枚銀型(▲6七銀・▲5七銀型)〔高田流〕 の二つになる。 (1) ▲7六銀・▲6七金型のポイント ・居玉のまま▲7五歩と位を取り、▲7六銀〜▲6七金と左辺を厚くする。 ・飛を振ったら、▲3八金〜▲4八銀〜▲5六歩 ・右辺(特に1筋)が薄くなるのは仕方ない。 ・後手の3筋攻めは無理に受けず、▲6八角の利きを生かして、軽く受け流す ・基本的に飛交換はしない。 (2) ▲二枚銀型(▲6七銀・▲5七銀型)のポイント ・居玉のまま▲6七銀〜▲5七銀と構える。 ・チャンスがあれば▲6五歩〜▲6六銀右とする。(「高田流」) →参考:『高田流 新感覚振り飛車破り』(高田尚平,MYCOM,2000)の第2部「左玉戦法」 ・「左辺は手厚く、右辺は軽く」(p64) いずれも、薄いところを突破させて、手にした桂香歩などで、左辺をカウンターで攻めるのが勝ちパターンとなる。コツをまとめると、「陣形がととのうまでは戦いを避ける。右辺の攻めには3筋の金一枚で対応する。右辺は軽い形を作って、下段飛車の構えから左辺を手厚くする。」(p74)となる。 第2章は、相居飛車での右玉戦法。もともと右玉戦法は、相居飛車で相手の攻撃形から遠ざかるところからスタートしており、むしろこっちが第1章でもいいくらいである。 本章の右玉は、大きく分けると (1) 金矢倉+右玉 (2) ▲7八金型+右玉 (3) 陽動振飛車 (4) △一手損角換わりに対する▲右玉 の四つになる。 (1) 金矢倉+右玉のポイント ・左辺は金銀3枚の金矢倉、右辺は▲4七銀だけの右玉 ・玉は▲4八玉。左右どちらにも逃げられるように広く構える ・▲2六歩型で、▲2五桂の余地を残す ・「5筋(5七)に先手の角がいる場合は、移動させることを考えておく(4八玉をどけておく)」 (2) ▲7八金型のポイント ・▲7八金・▲6七銀型で、8筋は▲7七角で受ける →後手から角交換してくる場合と、してこない場合がある ・角交換した場合は、△2八角に備えて▲3八玉としてから、飛を2筋から移動させる ・角交換せずに後手早囲いの場合は、速攻を狙われているので、駒組みに注意する。 (3) 陽動振飛車のポイント ・右玉とはいえないが、右玉模様から派生する戦型。 ・▲6七銀〜▲4七銀型を作った後、▲8八飛と振る。 ・玉は2手損でも美濃囲いに戻す。木村美濃にすると進展性がない。 →後手の矢倉模様を見て、「振飛車戦に不向きな囲い」とみて飛を振る作戦。後手玉を矢倉に限定させた効果はあるが、現代では陽動振飛車側の2手損を利用して居飛穴に組み替えられてしまうので、効果は微妙かも。 (4) △一手損角換わりでの右玉 ・1筋の位を取って、通常よりも広さを主張する。 →一時期はトッププロも採用していたが、後手が居飛穴に組み替える指し方が出て、下火になっている。 第3章は、対振飛車の右玉。これまでの第1章・第2章の右玉(左玉)は、「相手の飛から玉を遠ざける」という作戦だったが、本章では相手の飛の正面に玉を持ってくる作戦のため、考え方はかなり異なる。 この指し方は、糸谷哲郎(現六段)が奨励会時代に得意にしており、将棋倶楽部24でもかなり話題になっていた。プロになってからも何局か指しており、「糸谷流右玉」と呼ばれている。 ●糸谷流右玉のポイント ・本章では、対四間は含まない。 →▲4六歩に△3二金〜△4五歩と急戦で来られると指しにくいとのこと。 →ポンポン桂含みの▲3七桂〜▲4六歩なら対四間でも糸谷流右玉は可能。糸谷のプロ実戦もある。 ・▲4七銀〜▲3八金で右辺をしっかり固める。 ・▲3七桂〜▲4八玉が定位置。 ・9筋の端歩は突き合っておく。 →のちの▲9七角が本戦法の主眼になるため。 →角頭を攻められてもほとんどの場合反撃できる or 角香交換でも良し。むしろ「誘いのスキ」である。 ・1筋の端歩はケースバイケース。 ・飛は▲6九飛と転戦することが多い。 ・「玉の堅さで戦うのではなく、陣形を広くして、大駒を最大限に使う」(p185) ・「右玉と下段飛車の形を作ることで、左辺の駒が攻撃に参加できる」(p206) →左辺の攻めと、右辺を開拓しての入玉が狙い。 私が知る限り、右玉の本はこれまでに4冊、左玉の本は1冊しか出版されておらず、糸谷流右玉は単行本では初出である。 個人的には、糸谷流右玉が一番興味深かった。これまで戦法名といくつかの棋譜は知っていたものの、具体的な狙いなどがよく分からずにいた。一度気まぐれで中飛車を指したときに、この戦法にボコボコにされたこともあり、トラウマになっている(笑)。 どちらかといえば「右玉・左玉や糸谷流に対したときに、相手の狙いが分からず、よく分からないうちにやられてしまった」という経験がある人には必読だろうと思う。対策は書いていないが、まずは敵を知るから始めよう。 もちろん、右玉・左玉や糸谷流を指してみたい人は目を通しておきたい。本書一冊だけで右玉戦法系を指しこなすのは難しいかもしれないが、導入としてはなかなか面白い。他の本を読み、棋譜を集めて並べてからもう一度読めば、戦法のツボをより深く理解できるだろう。(2013Oct31) |