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マイナビ将棋BOOKS さわやか流疾風三間飛車 |
[総合評価] A+ 難易度:★★★★☆ 図面:見開き4〜6枚 内容:(質)A(量)A レイアウト:A 解説:A 読みやすさ:A 有段向き |
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【著 者】 杉本和陽 | ||||
【出版社】 マイナビ出版 | ||||
発行:2019年6月 | ISBN:978-4-8399-6932-5 | |||
定価:1,663円(8%税込) | 256ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||
・【コラム】(1)三間飛車の師匠 (2)ハマ公望と蒲田将棋クラブ (3)いままでとこれから |
【レビュー】 |
▲三間飛車の戦術書。 三間飛車に有力とされてきた5筋不突き居飛穴が、トマホークの脅威によって激減し、選択しにくくなった。それに伴い、三間飛車側はもともとの「急戦に対して強い」という特性を生かして、さまざまなバリエーションの作戦を採れるようになってきた。 さらに、三間飛車が有力視されるにしたがって、従来スルーされていた「初手▲7八飛戦法」がトップ棋士も含めた多くの振り飛車党に採用されるようになるなど、いま、三間飛車は非常にアツい戦型になっている。 本書では、▲三間飛車について、現在ホットな3つの作戦を解説していく。 ・△5四歩型(5筋を突いた)居飛穴に対して、玉頭銀と石田流を絡ませた「左銀速攻」 ・△5筋不突き居飛穴に対して、角のライン+玉頭銀+端桂で攻める「トマホーク」 ・エルモ囲いと従来型急戦をミックスした「エルモ囲い急戦」に対する▲三間飛車側の対策 対居飛穴では、十分に囲われる前に素早く動いて(「疾風三間飛車」の由縁)、攻め合い勝ちを目指す。対エルモ囲いは、現段階での研究を披露する。 各章の内容をチャートを添えながら紹介していこう。 |
第1章は、「左銀速攻」。△5四歩型居飛穴に対して、左銀を▲5六銀と出て、玉頭銀と石田流の二面作戦で戦う。囲いは平美濃で、積極的に動いていく。 (1)△1一玉型 ・△3三角を見たら▲6七銀と上がる。 ・△1二香を見たら▲5六銀と出る。 ・△1一玉は、△3四歩を取らせている間に居飛穴を完成させて、堅さで勝負する狙い。 ⇒先手はすぐに玉頭銀に出て、▲6五歩〜▲7五歩と、玉頭銀と相性の良い陣形を目指す。相手に離れ駒ができたら仕掛けていこう。強気に捌けば、敵陣に打ち込んだ一段飛車と玉頭銀のコンボが厳しくなる。ただし、なるべく歩を渡さないように。(△3三歩で玉頭銀を追われるのを防ぐ) ・形の違いによって、手順も細かく変わる。 ・△2二角型には、居飛穴が堅くなりにくいことを見越して端を詰めておく。玉頭銀を▲2五銀と端に応援として送りたい。持ち歩の数は常に意識しよう。 |
(2)△5五歩型 ・△5五歩型は、玉頭銀を▲4五銀と呼びこんで、△8四飛で受ける意味。 ⇒先手は、▲8八飛と向かい飛車に転じるのが本章の推奨。△8四飛を移動or交換させれば、▲3四銀が実現する。△3四歩を剥がしておくと、後で桂香を使った攻めが効果的になる。 |
(3)△4四歩型 ・△4四歩型は、そもそも玉頭銀を進出させない狙い。 ⇒先手は石田流への組み替えが有力。端角△9五角を出るかどうかは、飛を9筋に閉じ込められるかどうかをよく見極めて。 |
(4)△4四銀型 ・△4四銀型は玉を固める狙い。また、△5三銀がいないので後手の右辺はやや薄いが、角や桂のターゲットになりにくい。 ⇒△6四銀の筋はないので、先手は先に▲7五歩を伸ばしてから角を引く。急戦で動きたいが、いったん▲7六飛〜▲7七桂として、飛交換後に左桂を取られにくくしてから仕掛けよう。 |
第2章は、「トマホーク」。 ここ数年で普及した、5筋不突き居飛穴に対して有力な作戦。三間飛車側の玉型は、基本的に美濃囲いには収めず(※棋書、先後、展開によって細かい違いあり)、角のライン+玉頭銀+端桂で居飛穴玉を狙う。本章では▲4八玉が玉の定位置。 穴熊に潜らせてから仕掛けるのが藤井システム系との大きな違いとなる。また、端攻め一本ではなく、▲6六角で△8四飛にちょっかいを出すなど、左辺での細かいポイントを挙げるのも忘れずに。 5筋不突き居飛穴にトマホークが有効なのは、5筋の歩によって角のラインを妨げられないため。よって、「三間飛車には5筋不突き穴熊でOK」といわれていた時代は終わりを迎えたが、通常の5筋を突いた居飛穴には効果が薄まることがあるので、何でもかんでもトマホークにしないように注意。 端桂に跳ねるのは、居飛穴に潜らせてから。△4二玉と戻る余地を与えない。また、攻め始めたら止まらないようにしよう。「迷ったら▲2五桂と▲6五歩の構えを維持」(p171)するようにしよう。 △1四歩と受けてきた場合は端桂が効かないので、▲3七銀〜▲4六銀で攻める(※通称「マッスルトマホーク」(将棋世界2019年9月号p96))。右桂は▲3七桂から使う。銀冠穴熊でディフェンスラインを上げてくるなら、地下鉄飛車も出動させて右辺で戦おう。 |
第3章は、「エルモ囲い急戦」。エルモ囲いと従来型の急戦とのミックスで、2018年〜2019年に急速に普及した戦型である。(※エルモ囲い急戦は、『将棋世界2019年6月号』の「升田幸三賞 選考会」にて「丸田祐三九段が指して、かなり体系化していた」という話が出ていたが、当サイトでは未確認です。該当する棋書も分かっていません) エルモ囲いは堅さと広さを兼備しており、従来の舟囲い崩しは通用しない。さらにバリエーションが豊富で、トーチカへの組み直しや、△4一玉型エルモ囲いなどもある。半面、6三の地点は薄くかったり、△3四歩を狙って▲4五銀の揺さぶりが効果的だったりと、弱点がないわけではない。互いに、従来との陣形差を考えた捌きが必要になってくる。 居飛車の急戦策は、右銀による斜め棒銀か、△6五歩早仕掛けが有力。振り飛車側は、左銀の使い方が重要で、それぞれ相性の良い・悪い形がある。 ・▲6七銀型: △6四銀急戦には▲5六歩、△6五歩急戦には▲5六銀と構える。逆に▲5六歩が早いと△6五歩急戦が刺さってくる。舟囲いよりもかなり居飛車が指しやすい。 ・▲6八銀型: △6五歩急戦を受け止めやすい。△7三桂には▲8八飛と先受けしておき、▲6八銀型は崩さない。通常の△7三桂急戦からエルモ囲い特有の攻め筋に変化していくので注意。 ・▲5七銀型: △6四銀急戦には▲5七銀+▲6七金で受け止め、陣形の発展を狙う。△6五歩急戦に対しては軽く指し、△6五歩の仕掛けに▲6八飛+▲4六銀型から捌いていく。 |
〔総評〕 本書では、三間飛車でもっとも多い「対居飛穴」を、5筋突きと不突きで分けている。 「左銀急戦」は、玉頭銀と石田流のミックスで、石田流側の仕掛けが比較的シンプル(いい条件での飛交換を狙っていく)なので、指し方自体は分かりやすいと思う。半面、▲5九角と▲6八角の引き方の細かい違いなど、プロでも難しそうな部分もある。 「トマホーク」は、5筋の歩の突き/不突きで大きく指し方を変えなければならないものの、「左銀急戦」と玉頭銀の部分は共通なので、感覚的な相性は良さそう。本書を読んでから、試しに自分の実戦でトマホークライクの仕掛けを試したら、藤井システム系の仕掛けよりも攻めがつながりやすく感じた。 次に多い「エルモ囲い急戦」は、居飛車の仕掛けを2つに大別し、三間側の左銀の使い方によって相性の良い/悪いを分けてあるので、自分にとって戦いやすそうな形を選べる。ちなみに、どれも対居飛穴とは矛盾していないので、好みで選択可能。 また、各章のまとめの入れ方(ポイントとなる図面、ショートコメント、参照ページなど)や、参考棋譜の入れ方(各章の巻末に、1局につき2ページ、自戦記や各指し手の解説はなく、ショートコメントのみ)も、戦術書としては理想的。 対三間飛車には、他にもいくつかの居飛車作戦はあるが、これ一冊で現状の▲三間飛車は8割方指せるように思えた一冊である。+ ※誤字・誤植等(初版第1刷で確認): p72下段 ×「すでに桂を6五まで跳ねているが大きく」 ○「すでに桂を6五まで跳ねているのが大きく」 p103下段 ×「それを上回るの攻めを…」 ○「それを上回る攻めを…」 p175上段 ?「△6七飛は怖くない」⇒文脈が通らない。p168の同じ表現を誤植してしまったものと思われる。 p244上段 ×「▲6七金型と▲5六銀+▲5八飛の構えはバランスが良く」 ○「▲6七金型と▲4六銀+▲5八飛の構えはバランスが良く」」 |