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マイナビ将棋BOOKS 変幻自在!現代右玉のすべて |
[総合評価] A 難易度:★★★★☆ 図面:見開き4枚 内容:(質)A(量)A レイアウト:B 解説:A 読みやすさ:B 有段向き |
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【著 者】 青嶋未来 | ||||
【出版社】 マイナビ出版 | ||||
発行:2018年5月 | ISBN:978-4-8399-6574-7 | |||
定価:1,663円(8%税込) | 216ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||||||||||
・【コラム】(1)三段リーグ (2)趣味のチェス |
【レビュー】 |
△右玉全般の戦術書。 かつて右玉は、「消極的」「変化球」と思われていた時期もあった。しかし近年では、多くの戦型でバランス重視の駒組みを重視するようになり、右玉の地位は飛躍的に向上している。 青嶋は本書で、右玉は「攻守のバランスが取れた戦法で、陣形の隙のなさで玉形の薄さをカバーできている戦法」(まえがき)と考えている。駒組み・構想の自由度が高く、急所が分かりにくく相手が対応しにくいといった、実戦的な利があると評価している。 本書は、右玉を得意とする青嶋が、右玉の戦い方を余すところなく記した本である。 ・右玉戦法は先手番も後手番もあるが、本書では右玉はすべて後手番で統一しており、千日手狙いもOKとしている。 ・[レイアウト] 少し他書と異なる。多くの棋書では、ページの右上に本筋の棋譜が数手表示され、その解説を本文中に記しているが、本書では[棋譜]-[本文]の構成が1ページ内に2回出てくる。 棋譜を短く分割できているので、対応する本文がハッキリしていて分かりやすい半面、通常のレイアウトに慣れていると、後半の棋譜(特に棋譜が右端でなく、本文に挟まれている場合)がやや見づらく感じるかもしれない。 一応、棋譜部分を明朝体の太字にすることで区別されているが、もう少し見やすくする工夫は欲しいところ。棋譜と本文に間をもっと空ける、思い切って極太ゴシック体を採用する、棋譜を囲むなどが考えられた。 なお図面の配置は他書と特に変わらず、各ページの左側に2枚ずつで、見開き4枚。 各章の内容を、チャートを添えながら紹介していこう。 |
第1章は、「角交換型 風車右玉」。「風車」は「かざぐるま」と読む。 (1)駒組み 角換わりの時は、通常は後手から△7七角成と角交換するのだが、本章では先手から▲2二角成とさせる。この場合でも、普通は△3二金と戻す手が必要なので、手の損得としては変わらないのだが、本章では△2二金型のまま、その1手を駒組みに使う。さらに飛先(2筋)は受けず、△4三銀と上がる。 |
(2)先手の急戦策 ・▲棒銀には、直接受けずに、▲1五銀に△3二銀!が△2二金型を生かした受け。 ・▲早繰り銀に対し得ては、△5四銀右の腰掛け銀から、早繰り銀を押し返す手が間に合う。右玉にはこだわらず、柔軟に。 |
(3)腰掛け銀 ▲2八飛・5八金型 ▲腰掛け銀には、右玉を完成させて△3二金と戻しておく。▲5六角を警戒して、△5四歩が大事な一手。 |
(4)腰掛け銀 ▲2九飛・4八金型 バランス重視の▲2九飛・4八金型には、やはり右玉を完成させて、△3二金と金銀を連結させておく。自陣を安定させ、△5四銀左から△6五歩を狙う。ただし、△3二金を省略し、△3一飛を狙うのもアリ。 |
第2章は、「風車右玉」。角交換しない形の風車となる。 (1)駒組み ノーマル振り飛車模様の駒組みからスタート。△4三銀〜△3二金で雁木の左枠を作るのに対し、先手は矢倉に囲うのと、囲いを省略して早繰り銀を目指すのがある。 |
(2)矢倉 先手が三枚の金矢倉を作ってから攻めてくる場合。 ・▲棒銀には、銀が働く前に6筋から反撃する。 ・先手3筋歩交換には、△5四銀左と活用を急ぎ、手持ちの歩で8筋を継ぎ歩攻めする。 ・▲3五歩突き捨てからの棒銀には、△3六歩と突き出しておいて、6筋を攻める。 ・ただし、▲4六歩〜▲4七銀型にされると、一局ではあるが、後手が勝ちにくそう。居玉のまま△4五歩を急ぐのが本書の推奨。 |
(3)矢倉急戦 △右玉が安定する前に、先手が自陣を二枚矢倉で済ませ、▲早繰り銀or▲棒銀から急戦に出る作戦。△雁木に対する▲急戦の一変化となる。 △6三銀型では受け止めにくいので、△6五桂から先攻したい。後手陣は一瞬の安定感はあるので、飛捨ての強攻も視野に。 |
(4)左美濃 先手の囲いは1手早く、堅い。ただし居角のため、△4五歩をタイミング良く突ければ効果的。△7三桂型の余裕はないので、△5二金と上がって銀交換に備えよう。左美濃は角に弱いので、角交換を狙おう。(本節は「▲矢倉vs△右玉」というより、「△雁木vs▲左美濃急戦」。先手の仕掛けは▲3七銀急戦or腰掛け銀。) |
第3章は、「角交換型矢倉右玉」。 (1)駒組み 出だしは通常の角換わり。▲4五桂ポンの仕掛けを警戒し、中央を厚くしてから右玉を目指す。先手の指し方によっては危険を伴うので、右玉にこだわりすぎないように。 |
(2)▲4六歩型 △6三銀型で右玉を目指す場合、ある程度駒組みが進んでいれば、▲4五桂ポンは大丈夫。 △4四銀-△5四歩の形に組み、先手の陣形が偏っているなら、△5五銀とぶつけていこう。角銀を持てば手になる。先手がバランス型の▲4八金-▲2九飛型でも同様だ。 |
(3)▲4五歩型 先手が4筋位取りで▲4六角と打つなら、左金を右玉に寄せて待つ。先手が穴熊に組んで、▲7七桂から▲6五歩の打開が焦点。 |
第4章は、「矢倉右玉」。先手が角道を止める矢倉戦で、後手が右玉を目指す。 (1)駒組み ▲7九角の瞬間は、先手からの2筋強襲に注意。△3三銀-△3二金が間に合うようにしておく。 |
(2)△8一飛型 △8一飛から右玉を作ると、米長流急戦矢倉や5筋歩交換型に似た作戦が期待できるが、飛を5筋に回りにくく(▲2四歩〜▲同角が△5一飛に当たる)、ハッキリしない。先手の3筋歩交換〜▲3八飛も手ごわい。 |
(3)△5二飛型 5筋の歩を突かずに、先に△5二飛が後手の工夫。△6二玉型で玉飛接近形でも、足早に5筋から動けば主導権を握れる。3筋歩交換も逆用できる。 先手は銀交換後の△5五角が▲2八飛に当たらないように、▲3六歩を突かずに駒組みして持久戦になる。 |
(4)対早囲い ▲早囲いの場合、途中で舟囲い+▲7七銀のような低い陣形になる展開がある。この場合、△5二飛型よりも、△8一飛型で上から攻めるほうが良い。 |
第5章は、「右玉のセオリー」。 右玉の作戦でのコツ、指針、よく使う手筋などを、ほぼ見開き完結方式で9テーマ解説していく。指針は、相手の陣形によって異なってくる。これまでの章とは基本的に独立しているので、本章を先に読んでおくのも一法。 (1)持久戦なら端歩を突け p122の△9四歩▲9六歩の交換について、端歩を突かないとどうなるか。 (2)△8五歩型は△6二玉、△8四歩型は△7二玉 自分の飛先の歩の進み具合と、自玉の配置の相性について。 (3)歩を持ったら継ぎ歩を考える 相手が3筋歩交換をしたら、入手した歩で8筋の反撃から考えたい。 (4)飛車を攻める手に好手あり たくさん駒を投資してでも、相手の飛を捕まえたい。(※場合によりけり。(5)のパターンでは効果が薄い) (5)駒を蓄えて攻め込む 左辺である程度戦って駒を持ったら、左辺を受け流して玉頭勝負に持ち込む。 (6)丁寧に受ける 相手のおかわりを消す、6筋は右玉の急所、△8一飛で8三や8四の打ち込みを消す、玉頭に自分の駒を置いて攻めのスペースを消す、など。 (7)厚みを築く 盤上に自分の駒を増やす。 (8)一瞬の堅さを生かす 右玉は攻め合いで一応の囲いが残っていることが多い。 (9)筋違い角の攻防 角交換型風車で、△3三桂〜△2一飛〜△2四歩を狙うときに、▲1六角と桂頭攻めを狙われたときの反撃方法。桂は捨てることになるが、先手を歩切れにして筋違い角を負担にさせる。 また、▲5六角の筋違い角には、△5五角と狭いところに打てないか、考えてみよう。 〔総評〕 かつては亜流と考えられていた右玉も、駒組みの考え方の変化により、戦術の一部として当たり前のように考えられる時代になっている。ただし本書では右玉を、先述の一部ではなく「最初から目指すべき形」として捉えているし、また手待ち作戦よりも「(場合によっては)積極的に攻勢を狙う作戦」として考えているところに大きな特徴がある。 また、第5章で右玉のコツを改めて示しているところも大きい。 本書によって、私の右玉に対する考え方は、「180度変わった」とまでは言わないが、「60度くらい変わった」というイメージがある。 最初から右玉を目指すのはわたしにはちょっと難易度が高い気がするが、本書を読むことで、右玉が自分の実戦に現れた場合も苦手意識がなくなったように思えたし、右玉への組み替えも選択肢として挙がるようになった一冊だった。 |