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マイナビ将棋BOOKS 急所を直撃!とっておきの雁木破り |
[総合評価] B+ 難易度:★★★★☆ 図面:見開き4枚 内容:(質)A(量)B+ レイアウト:A 解説:A 読みやすさ:A 有段向き |
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【著 者】 小林裕士 | ||||
【出版社】 マイナビ出版 | ||||
発行:2019年5月 | ISBN:978-4-8399-6914-1 | |||
定価:1,663円(8%税込) | 224ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||||||||||
・【コラム】(1)アマ時代の雁木戦法 (2)枝豆会 |
【レビュー】 |
△雁木に対して、先手が攻める作戦を解説した本。 「雁木は有力な作戦」という認識が広まって、数年経つ。注目された△6三銀型の新型雁木(「ツノ銀雁木」とも)だけでなく、△5三銀型雁木も状況に応じて使われている。居角の良さ、△3三桂と跳ねられる余地、角交換に強い、などの利点が言語化されたことと、受け方(例えば先手の3筋攻めに対して△4三銀-△3三金!で受け止める、など)が整備されてきたことなどが、採用が広がっている理由の一つといえるだろう。 雁木を採用するのは後手が多いが、先手も黙ってみているわけにはいかない。さまざまな雁木対策が考えられているが、△雁木を攻めて破ろうというのが本書のコンセプトとなる。 各章の内容をチャートを添えながら紹介していこう。 |
第1章は、「雁木 対 ▲3七銀型急戦」。多くのページが割かれており、本書のメインコンテンツとなる。 後手の作戦が居飛車か振り飛車かハッキリしない段階でも、▲6八玉〜▲3六歩〜▲3七銀と速攻を目指す。(※それだけ雁木攻略が厄介だともいえそう。後手が飛を振れば△三間飛車vs▲居飛車急戦になるので(▲3六歩を突いておいて持久戦を目指すのも実戦例を見かけるが)、何らかの備えは必要である。三間飛車の復権もあって、このオープニングもときどき見かける。) ▲3五銀-▲3四歩と押さえ込めれば、まずは先手満足。 ただし、その後は先手楽勝という訳ではない。具体的な良さの出し方もしっかり学ぼう。 |
第2章は、「雁木 対 腰掛け銀」。 先手は左美濃+腰掛け銀で、△雁木の攻略を目指す。二枚銀を並べた△5三銀型雁木に▲4五歩と真っ向から仕掛けを狙うが、駒組みで▲6六角と上がっておくのが先手の工夫。 後手から角交換されたときに、▲8八角型だと王手になり、▲7七角型だと詰めろになるので手抜けないが、▲6六角型ならそのいずれもクリアしているので放置が可能になる。 また、▲7九玉型左美濃にしておくことで、飛を切る強襲が可能になる。なお、陣形の進展性はないので、攻め切る覚悟で。 |
第3章は、「相雁木」。 角換わり模様から後手が角道を止め、相腰掛け銀になったとき、先手が右四間などの攻勢を採らず持久戦模様になると、先後同型の相雁木になる。本章で扱うのは、互いに「右銀は腰掛け銀+▲7九玉型+右金は▲6八金右+端歩は突き合い」と固め合った同型から、いかに打開するか。本書の推奨は、▲4五歩〜▲1五歩〜▲4五桂の仕掛け。 |
第4章は、「雁木△7四歩〜△7五歩型」。 第1章の▲3七銀型急戦を後手が受け止めるのは大変なので、後手が△3二金を省略して△7四歩〜△7五歩と動き、袖飛車を狙ってくる作戦。後手の理想の一つは、7五で歩を交換し、中段飛車によって早繰り銀の進出を止めること。先手は、7筋を放置して▲3五歩と攻めたい。 なお、本章の展開は、ほぼ第5章「実戦編」の第3局▲小林裕△森下戦(2019.02)に準じている。 |
第5章は、「実戦編」。小林裕士七段の公式戦から3局を自戦解説する。第1局と第2局は定跡編では触れなかった形に、第3局はほぼ第4章と似た内容になる。 第1局 ▲西尾明 △小林裕士、C級1組順位戦、2018.07.03 後手の小林が雁木を採用。先手は左美濃から▲3七銀〜▲3五歩の速攻。第1章と攻め筋は似ているが、先手の玉型や後手が早繰り銀で反撃しているところが異なる。p183第4図あたりは、p175第4章第18図と似た局面になっているが、細かい部分や手番などが異なり、別の将棋。 第2局 ▲藤井聡太 △小林裕士、叡王戦、2018.09.17 本局も後手の小林が雁木を採用。▲4七銀型vs△5三銀型の相雁木で、後手はカウンター狙い。 第3局 ▲小林裕士 △森下卓、C級1組順位戦、2019.02.05 雁木△7四歩〜△7五歩型で、第4章とほぼ同じ展開をたどる。 〔総評〕 本書では、「△雁木に対する先手の攻め方」が3つと、「△雁木が▲急戦に反発する作戦」が1つ示された。それぞれ思想が違っているので、その特徴を掴んで、どれを採用するかを決めよう。 第1章の▲3七銀型急戦は、自玉の囲いを最小限にして▲3五銀-▲3四歩型を構築することを優先する指し方。後手がしっかりした陣形を作る前にいい形を作ろうということだが、玉は基本的に薄い。研究も必要だが、中盤を力で勝負したい人向けだろうか。 第2章の腰掛け銀は、自玉は▲7一玉型左美濃で堅く、攻撃陣も飛角銀桂とすべての駒を使っていくが、後手もガッチリとした陣形になり、一番堅いところを攻めていくことになる。イメージとしては、飛車落ちの▲右四間定跡に近い。歩の技を的確に使えるかどうか。進展性や柔軟性は少なく、堅陣を生かして最後まで流れるように攻めるのが得意な人向け。 第3章の相雁木は、角換わりからの変化となる。先手が角換わり腰掛け銀を得意としているなら、この作戦になるだろう。同型からの打開がテーマで、仕掛けた後も押したり引いたりの展開になりそうだ。 第4章の△7四歩〜△7五歩は、後手は居玉で、先手は▲6八銀型左美濃になるので、玉型に差がありそうだが、7六-7七に空間があるこの玉型は見た目ほど堅くはない。後手で雁木を採用したいが▲3七銀急戦が厄介だと思っている人向け。逆に、先手で▲3七銀型急戦を採用する人は、本章の対策イメージは必須だ。 表紙のキャッチコピーにある「さらば雁木!」「これにて完全攻略」とまではいかないと思うが、特に▲3七銀急戦はノーマル振り飛車にも影響がありそうで、2019年の注目作戦となっていくだろう。 |