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マイナビ将棋BOOKS 振り飛車の新機軸!初手▲7八飛戦法 |
[総合評価] B+ 難易度:★★★★ 図面:見開き4枚 内容:(質)A(量)B レイアウト:A 解説:A 読みやすさ:A 上級〜有段向き |
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【著 者】 門倉啓太 | ||||
【出版社】 マイナビ出版 | ||||
発行:2019年3月 | ISBN:978-4-8399-6822-9 | |||
定価:1,663円(8%税込) | 224ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||||||||||
◆内容紹介 |
【レビュー】 |
初手▲7八飛戦法の戦術書。 「2手目△3二飛戦法」というものがある。初手から▲7六歩に△3二飛!と振る作戦で、「2手目にまだ未採掘の原石があった」「後手番でも石田流ができる」ということで流行した。2008年に単行本化している。(『2手目の革新 3二飛戦法』) 当時、私は「もしかして…これって先手番でもやれるのでは?」と、初手▲7八飛戦法をしばらく指してみたが、いくつかの変化が解決できず、やめようと思っていたところ、門倉啓太四段が初手▲7八飛を指している実戦譜を週刊将棋で目にした。その将棋は、私の課題局面を解決していなかったが、「プロが指すなら成立しているのだろう」と思った。(が、序盤の課題局面と、持久戦時の作戦が上手く行かずに、しばらく指すのをやめていた) それが、近年になってトップ棋士が初手▲7八飛を採用するのが見られるようになり(直近だと2019/2/24〜25の王将戦第4局・▲久保△渡辺明、2019/3/6の王座戦・▲藤井猛△松尾、同日の王座戦・▲鈴木△郷田など)、注目が集まっている。トマホークや三間飛車藤井システムなどにより、三間飛車全体の価値が高まったことも背景にあるだろう。 初手▲7八飛戦法は、展開によっては石田流やノーマル三間飛車系を選択できて、さらに3手目▲7五歩やノーマル三間飛車にはない利点がある一方、序盤で乗り越えなければならない壁もいくつかある。本書は、そういった他の作戦とは異なる部分を重点的に解説した本となる。 本書の内容をチャートを添えながら紹介していこう。 |
第1章は、「▲7八飛戦法とは」。 ・先手番になれば、初手▲7八飛で戦法が決まる。 【利点1】 角道オープンで戦える ・▲7八飛△3四歩▲6八銀△8四歩▲7六歩で、「△4五角問題」を解消している。 ・▲7八飛△8四歩にも角道オープンで戦うことが可能。 【利点2】 相振りでも受け身になりにくい ・従来は3手目▲6六歩でも▲7五歩でも、相振りのときに先手が角道を止めた展開になりやすかったが、▲7八飛△3四歩▲6八銀△3五歩▲7六歩なら角道を止めなくても良い。 【利点3】 必ず早石田ができる ・2手目△8四歩や4手目△4二玉だと、従来は早石田にはできなかったが、▲7八飛△3四歩▲4八玉〜▲3八玉〜▲7六歩や、▲7八飛△8四歩▲7六歩△8五歩▲7七飛!で戦える。(※早石田にしない変化もある) ・共通項は「角道を止めない」。 |
第2章は、「対△8四歩の戦い方」。▲7八飛△8四歩のときの戦い方を解説する。 (1) 角交換型 角道を止めず、△7七角成には▲同桂と対応する。飛先突破や△4五角問題には、▲6五桂の筋などで対策できている。角交換後の持久戦では、美濃囲いに囲った後に「▲8五桂ポン」を狙うか、▲6六銀-7七桂型を作るか。 (2) 角交換拒否型 居飛車が角交換してこない場合も、先手は角道オープンのまま駒組みを進める。後手が角道を止めれば、▲6六銀型の石田流に組めるのが本戦法のユニークポイント。 (3) 無理やり早石田 ▲7八飛に△8四歩▲7六歩△8五歩と連続で飛先を伸ばされても、▲7七飛?!で早石田or升田式石田流に持ち込める。ただし、初見ならまず乱戦になるので、しっかりマスターしておこう。 |
第3章は、「対△3四歩の戦い方」。▲7八飛△3四歩で、後手が居飛車のときの戦い方を解説する。 2手目△3四歩の場合、すぐに▲7六歩とすると、角交換から「△4五角問題」があるので、3手目▲4八玉〜▲3八玉か、3手目▲6八銀としてから角道を開ける。どちらも有力。 (1) 3手目▲4八玉 8筋が素通しのまま駒組みを進めるが、角交換の筋があればたいてい大丈夫。さらに角道も飛先も放置して▲6八銀〜▲7九金が本戦法特有の指し方。 (2) 3手目▲6八銀 3手目▲6八銀ならすぐに角道を開けられるが、早石田にはできないので注意。 (1)(2)どちらの展開でも、後手からの速攻は無理筋なので、駒組みを進めると第2章の展開に合流していく。 |
第4章は、「相振り飛車」。▲7八飛△3四歩から、後手が相振り飛車を目指すときの戦い方を解説する。先手は3手目▲4八玉or▲6八銀、後手は△三間飛車or△向飛車で展開が変わってくる。 (1) ▲4八玉型 対 三間飛車 4手目△3五歩の時点では、まだ後手が居飛車か相振りかは分からないので、両対応できる▲5八金左を選択したい。その金上がりを生かすなら▲4六歩〜▲4七金の形を、▲7六歩型(▲7五歩と伸ばしていない)を生かすなら▲8八飛〜▲7五銀の攻めを目指そう。 (2) ▲4八玉型 対 向かい飛車 4手目△3三角からの△向かい飛車には、早めに角交換して△3三同桂に限定させるのがポイント。左銀の自由度で差を付けよう。 (3) ▲6八銀型 対 三間飛車 ▲6八銀型の場合、△3五歩にはすぐに角道を開けておく。相振りならさっさと角交換して、▲3八金と1手でスキをなくしておくのが良い。攻撃陣は、向かい飛車+早繰り銀が本戦法での定番。 (4) ▲6八銀型 対 向かい飛車 ▲6八銀に4手目△3三角からダイレクト向かい飛車なら、すぐに角道を開けて角交換し、互いに馬を作り合う。後手が角道を止めるなら、すばやく7筋歩交換からガンガン乱戦を仕掛けていこう。 |
〔総評〕 初手▲7八飛戦法は、1手目で先手の作戦が決まり、おおむね4手までで作戦の骨格が定まるため、本書に出てくる局面の再現率は非常に高い。将棋ウォーズで試してみたところ、序盤が本書の通りになる率は、2手目△3二飛戦法よりもかなり高いように感じた。(もちろん、本書には出てこない2手目△3二飛!や△5四歩!などもあったが…)よって、特に序盤の乱戦や相振り飛車については、本書は大いに参考になった。 一方で、本戦法の初出から約10年が経ち、最近になってトッププロが採用するなど、注目が高まっているのにかかわらず、その背景や展開例については言及がなかったのは少し残念。また、実戦例がいずれも2012年とやや古く、また3局と少ないのも惜しい。いろいろと試行錯誤があったはずだし、この7年間で将棋の価値観も大きく変わったはずなので、失敗例も含めて多くの実戦譜とその変遷を見せてほしかった。 前半2/3は非常に有用なので、評価B+は少し厳しいのだが、Aにはわずかに及ばず、といったところです。 誤字・誤植等(初版第1刷で確認): p90 ×「第5図以下の指し手B」 ○「第5図以下の指し手C」 p92 ×「第5図以下の指し手C」 ○「第5図以下の指し手D」 p157上段 ×「△7六馬は▲6五銀△9四馬▲9五歩…」 ○「△7六馬は▲6五銀△9四馬▲9六歩…」 |