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マイナビ将棋BOOKS 矢倉の新常識 |
[総合評価] A 難易度:★★★★☆ 図面:見開き4枚 内容:(質)A(量)A レイアウト:A 解説:A 読みやすさ:B 有段向き |
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【著 者】 真田圭一 | ||||
【出版社】 マイナビ出版 | ||||
発行:2019年3月 | ISBN:978-4-8399-6880-9 | |||
定価:1,663円(8%税込) | 216ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||||||||||||||
・【コラム】(1)断捨離 (2)対局中 |
【レビュー】 |
急戦を中心とした矢倉を解説した本。 矢倉戦は、後手の急戦策によって、従来の▲4六銀-3七桂型を中心とした飛先不突き矢倉がほぼ壊滅状態となり、しばらくの間プロ公式戦での登場率が極端に下がっていた。しかし、他の相居飛車戦の流行が一巡した感もあり、現在また矢倉が指されるようになってきている。 ただし、その手順は数年前までと全く違うものになっている。従来の手順・形・定跡が根本から変わってきており、新構想・新手筋・新型が次々と現れている。方向性としては、 ・先攻を重視する ・違和感のある形も追求 ⇒ 序盤戦術が急拡大 ・戦略・戦術に柔軟性 などが挙げられる。 本書は、大きく変わりつつある矢倉について、急戦策を中心に最新の攻防を解説した本である。 各章の内容をチャートを添えながら紹介していこう。 |
序章は、「矢倉超急戦、新時代の幕開け」。 主に、5手目▲6六歩のときの△左美濃急戦の概略と、5手目▲7七銀のときに本書の本編では触れない戦法の概略を解説している。他書で詳しく触れられている戦型が多いため、本章のみは指し手を本文中に列記する形になっており、かなり読みづらいので、下記のチャートを活用していただくか、盤に並べて読むことを推奨。 ・5手目▲6六歩は、△左美濃急戦で後手が一方的に攻めやすい。 ・△左美濃急戦がイヤなので、5手目は▲7七銀に回帰。 ・5手目▲7七銀で、先手が飛先不突き矢倉を目指すと、[△早繰り銀]、[△矢倉中飛車]、[△5五歩交換型]などが後手の有力策。 ・先手が後手急戦を警戒して早めに▲2六歩と突けば、[矢倉24手組]、[脇システム]、[矢倉の藤井システム(藤井流早囲い)]などが有力な展開だが、▲7七銀型に対しても△7四歩から後手が急戦を目指すようになってきた。 ・先手も▲5六歩より▲2六歩を優先し始めた。 ⇒下線部が本書のメインテーマとなる。 |
第1章は、「後手早繰り銀」。 △左美濃急戦が気になる先手は、5手目▲7七銀から従来の飛先不突き矢倉を目指すが、それでも後手は居玉で△7四歩から速攻を目指してくる。△早繰り銀の速攻が決まらなくても、左美濃に組み直せるという、二段構えの作戦となっている。 先手は右銀の活用を急ぎ、「後手は中央を目指すか飛車先突破を狙うか。先手は▲5七銀を右に上がるか左に上がるか」(p40)という、構想力を問われる将棋になる。 |
第2章は、「▲2六歩早突き型 対 早繰り銀」。 5手目▲7七銀で、▲5六歩よりも▲2六歩を優先する。先手が飛先不突き矢倉を放棄したので、後手は持久戦を選ぶのもあるが、それでも△早繰り銀ならどうなるか。 ▲棒銀なら大決戦になる可能性があるが、やや後手良しか。銀対抗ならいい勝負になりそう。 |
第3章は、「▲2六歩早突き型 対 米長流急戦矢倉」。 (1) ▲2六歩に△4二銀 5手目▲7七銀で、▲5六歩よりも▲2六歩を優先させる先手に対し、飛先を受けるなら△4二銀〜△3三銀が自然。△早繰り銀がないなら、と先手は早囲いを目指してみるが、後手は△6四歩から米長流急戦矢倉を見せる。 従来なら▲4七銀-△6三銀の同型矢倉に落ち着くところだが、△4三金左!が新型。陣形が角打ちに強いので、従来の仕掛け方はできない。従来型(▲6七金右型)の先手は、囲い合っても良くならず、囲う前の仕掛けも今のところ無理筋のようだ。 (2) ▲2六歩に△3二金 後手が飛先を受けない場合、矢倉中飛車と米長流の含みの他に、△6二金-8一飛型で左美濃急戦ライクの仕掛けを狙うことができる。仕掛けの争点をめぐって、難しい駒組みになる。 (3) ▲8八角型 対 右四間飛車 (2)の派生で、後手が飛先を受けず、右四間にする。△8五歩を突き越さないので、米長流や左美濃急戦ライクの仕掛けは放棄する。先手の1歩入手はいつでもあるので、桂頭の7筋攻めを警戒しながら、△5四銀のタイミングを窺う。 |
第4章は、「△8五歩早突き型」。 5手目▲7七銀に対し、すぐに△8五歩と伸ばしてくる形。従来は、含みがなくなって(△8五桂の余地など)つまらないとされていたが、居玉で金銀も動かさずに△7四歩〜△7三桂が新しい急戦。△6五桂ポンの仕掛けを狙っている。▲6六歩から仕掛けを封じようとすると、左美濃急戦にスイッチできる。 先手としては、△6四歩を突かせないように▲5六歩〜▲7九角〜▲4六角を急ぐのが一案。急戦を封じることはできそうだが、早く形を決めているので、あとは駒組みのセンスが問われる。 |
第5章は、「先手の急戦矢倉」。 後手の急戦策は優秀なものが多くなってきたので、先手も持久戦志向をやめて急戦を目指す傾向になっている。本章が本書のメインコンテンツといってよい。 (1) 先手の米長流 5手目▲7七銀の後、すぐに▲2六歩〜▲2五歩を決めておき、△3三銀とさせて、後手急戦の選択肢を減らす。先手が飛先不突きも早囲いも放棄したことで、後手がオーソドックスな矢倉を目指せば、先手は米長流急戦矢倉を採る。 後手は、第1図〔右図〕からの3手をどの組み合わせで待つかによって展開が変わる。選択肢は、△8五歩、△7四歩、△7三桂、△6四歩、△6三銀、△3一角など。 先手の米長流には、△8五歩-△6四歩-△6三銀の組み合わせが有力だが、その場合は同型矢倉になる。攻め筋は基本的に以下の3つ。 (a)[▲4五歩△同歩▲3五歩] (b)[▲4五歩△同歩▲同桂△4四銀▲4六銀] (c)[▲4五歩△同歩▲同桂△4四銀▲2四歩△同歩▲同角] これらの攻め筋が互いにあり、玉の位置や端歩の関係で変化が多岐にわたるため、容易に結論は出ない。 同型にせずに、▲6七金左型も有力。先手番なら、後手の仕掛けの前に▲7八玉の一手が入るので、△4三金左型のときとは手順も変化する。 (2) △6四銀型 △5三銀〜△6四銀を早く作る形。▲4六歩or▲3七桂のどちらかを見たら△5三銀と上がる。 (3) ▲4七銀保留型 ▲4七銀を保留して、1手早く仕掛ける。▲4八銀型が△5七桂の防ぎになっていたり、▲3七桂にヒモが付いているなどの利点がある半面、△5六歩の垂らしがある点や、▲5八飛の転回がない点には注意が必要。 (4) 最新の対策 後手が先手と同型を目指す形。同型なら差が付かないだろうと見ている。先手は先攻を目指すが、そこまで同型で行き、どこで手を変えるか。 |
〔総評〕 早繰り銀や、桂跳ね優先など、従来は矢倉戦では見られなかった急戦や、温故知新の米長流急戦矢倉や同型矢倉などが詳細に解説されており、矢倉を指す人には必読の一冊といえます。 また、現在の矢倉は、従来の突きつめた感じの矢倉とは違って、自由度が非常に上がっている感じがあるので、矢倉への新規参入は今がチャンスかもしれない。その場合、本書の内容がとても役に立つと思います。 ※誤字・誤植等(初版第1刷で確認): p196 ×「基本図以下の指し手D」 ○「基本図以下の指し手C」 p196棋譜 △8五歩が2回ある。×「(第82図)△8五歩 ▲4六歩 △6四歩」 ○「(第82図)△5二金 ▲4六歩 △6四歩」 p206 ×「基本図以下の指し手E」 ○「基本図以下の指し手D」 |