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マイナビ将棋BOOKS 増田康宏の新・将棋観 堅さからバランスへ |
[総合評価] B+ 難易度:★★★☆ 〜★★★★ 図面:見開き4枚 内容:(質)A(量)B レイアウト:A 解説:A 読みやすさ:A 上級〜有段向き |
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【著 者】 増田康宏 | ||||
【出版社】 マイナビ出版 | ||||
発行:2018年10月 | ISBN:978-4-8399-6752-9 | |||
定価:1,663円(8%税込) | 224ページ/19cm |
【本の内容】 |
【構成】 内田晶 第1章 雁木編 第2章 角換わり編 第3章 相掛かり編 第4章 対振り飛車編 ・参考棋譜=12局 ◆内容紹介 竜王戦5組、4組で連続優勝、新人王戦でも2連覇した注目の若手棋士、増田康宏六段が活躍の原動力となっている新しい将棋観を包み隠さず明かします。 新しい将棋観とは何か。それは盤面の「バランス」を重視するというものです。これは今までの常識であった「隙あれば穴熊」という言葉に代表されるような、玉をガチガチに守るという堅さ一辺倒の将棋とは対極の考え方となります。 増田六段は言います。「穴熊は偏りすぎた陣形で、角を持ち合った将棋では隙が大きく優秀ではない」「盤面全体に金銀をバランスよく配置するのが重要」と。 本書は増田六段の代名詞でもある「雁木戦法」に始まり、角換わり、相掛かり、対振り飛車の将棋の中から、自身の将棋観が特に発揮されている将棋をお手本としてピックアップし、対話形式で指し手の意味や方針の立て方を解説します。聞き手になったつもりで読み進めれば、自然と増田六段の将棋観を理解でき、棋力アップすること間違いなし! |
【レビュー】 |
実戦ベースで増田康宏の将棋観を解説した本。 「矢倉は終わった」で知られる増田は、従来とは異なる将棋観で高勝率を上げている。特に“新型雁木”などでバランスを重視する指し方は、2017年頃から他の棋士にも取り入れられ始めている。現在(2018年後半)のプロ棋界は、「堅さ重視」と「バランス重視」の異なる将棋観がぶつかり合っている状況といえる。 本書は、増田の実戦を題材に、「バランス重視」の増田の将棋観を解説した本である。 題材は増田の実戦12局。そのうち9局が後手番となる。本編では「便宜上先後逆」で、全て増田側を手前にして解説する。 本編の解説は対話方式。難易度は★3.5くらいで、アマ二段〜四段くらいに設定された(と思われる)聞き手が、増田の将棋観を引き出していく。棋譜の流れに乗って序盤から投了まで解説していき、各局の後半では「総括」がガッツリ行われる。 巻末の棋譜は、本編の将棋の総譜が解説付きで載っている。解説内容は本編のダイジェスト的な感じ。個人的には、先に巻末棋譜を並べてから本編を読んだ方が理解しやすいと思う。 本章で解説される増田の将棋観は、大雑把に抜粋すると以下のようになる。これらは形を変えて何度も出てくる。 〔増田の将棋観(抜粋)〕 ・堅さよりもバランスを重視。 −玉も守備駒とし、陣形を広く構える。 −玉を入城しないことで、右桂も左桂も攻めに使える。 −特に角交換しているときは、玉を固めない。その場合、左桂は守備駒ではなく攻め駒。 ※角交換していないとき(orする可能性が低いとき)は、バランスよりも堅さを重視する。 ・金は一段目or二段目で使う。三段目は守備力激減。 −逆に相手の金が三段目に上がっているなら、仕掛けを与えてもOK。 −銀は高く構えても良い。 ・バランスが良ければ、角とカナ駒の交換は歓迎。 以下、各章ごとに増田の感覚をメモしていこう。 第1章は「雁木編」。題材は3局。▲4七銀(△6三銀)型の新型雁木〔下図〕によるバランス重視の構えで、2018年現在、流行している。(ただし、コラムによれば「(雁木は)対策が進み、(中略)以前ほど勝てる戦法ではない」(p64)だそうだ) 〔増田の将棋観メモ〕 ・矢倉の欠点は3つ。(+α) (1)空間が多い(打ち込みのスキが多い) (2)手数がかかる (3)銀が、相手の右桂が当たってくる位置にある ⇒駒が偏っているので、少し乱されるとバラバラになりやすい。 ・雁木は玉が薄い(堅くない)ので、受けの技術は必要。反撃されるのはやむを得ない。 ・雁木では玉も守備駒の一員と考える。 ・雁木は、以前は角交換すると8筋が薄いとされていたが、現在「打ち込みに注意すれば角交換歓迎、左桂も使いやすい」に変わった。玉を入城せず、堅さよりバランス重視になったのが一因。 ・▲4七銀(△6三銀)型の新型雁木は桂頭が守られており、角交換OKになる。 ・穴熊は堅いが、駒が偏るので、バランス重視の雁木では歓迎。 ・雁木は▲7七銀がいないので、7筋を突いて角(△7三角など)を責めても反動が少ない。 ・玉を入城しなければ、左桂も攻め駒に使える。 ・△8五飛型には左桂の活用▲7七桂が絶好になる組み立てを。 ・金はなるべく一段目かニ段目で使う。 ・相手の飛を責めるのは、受けの要素もある。 第2章は「角換わり編」。題材は3局。メインは▲4八金-▲2九飛型のバランス重視の駒組みで、これも2018年現在、流行中だ。 〔増田の将棋観メモ〕 ・角換わりで相手が△8五歩(▲2五歩)型なら、▲9六歩(△1四歩)と端を受ける必要はない。中央に手をかけたい。 ・端を受けずに突き越させると、相手の研究しづらい局面にしやすい。(角換わりの研究は、両端を受け合った形をベースにすることが多い) ・ただし、後手番で手待ちの構想なら端を受ける。相手の手詰まりを誘う。 ・▲4八金-2九飛型が好形。 ・後手番なら△4一飛として、▲4五歩の仕掛けを封じるのもある。 ・三段目の金の評価が低い。金を三段目に上がらせているなら、仕掛けを与えても不満なし。 ・4筋の位(▲4五歩)を取ってきたら、桂跳ね(▲4五桂)が無くなるので、△5三銀への繰り替え(△3三銀から)が有効。 ・(バランスが良ければ)角とカナ駒の交換はOK。 ・銀は高く構えても良い。 〔作戦・戦法〕 ○第6局 序盤で△9四歩を突いて先手の早繰り銀を誘い、△6二銀-7三桂から速攻で反撃していく作戦〔下図〕。先手の早繰り銀が▲3五銀まで来た瞬間に△6五桂と跳ね出す。 第3章は「相掛かり編」。題材は3局。メインは後手の立場での▲引き飛車棒銀対策となる。 〔増田の将棋観メモ〕 ・バランスや駒の働きが勝れば、角銀交換でもOK。 ・相掛かりでは2筋の歩交換は送らせて、陣形整備を優先させたい。 ・自陣の歩(3筋〜7筋)を突くタイミングに注意。飛先の合わせ歩に耐えられるかどうかよく考える。 ・やはり自陣が安定していれば角金交換OK。できたばかりの馬も惜しむ必要はない。 〔作戦・戦法〕 ▲引き飛車棒銀対策が2つ。いずれも通常の△8四飛-△3三角型よりも積極的。 ○第7局 ▲引き飛車棒銀対策(1) △1四歩-△1三角 △1四歩を早めに突き、飛先交換したら△8四飛と引いておく。棒銀▲3六銀に△3五歩と突き〔下図〕、▲同銀なら△1三角から銀を下がらせる。歩損するが、後で取り返せる見込み。△3五歩に銀を引くなら、ヒネリ飛車風に戦う。 ○第9局 ▲引き飛車棒銀対策(2) 9筋の歩を伸ばして棒銀を誘う。▲2四銀まで進まれたときに△4四角とし〔下図〕、2歩あるので十分戦える。飛が成り込まれても大丈夫。端歩(9筋)を受けられたら、飛先交換して△8五飛と引き、△9五歩▲同歩△9六歩で香交換を挑めば、先手は棒銀を生かしにくい。 第4章は「対振り飛車編」。題材は3局で、対△角交換振り飛車穴熊、対△角交換振り飛車(美濃)、対▲三間飛車穴熊の3つ。 〔増田の将棋観メモ〕 ・角交換振り穴は歓迎。バランス重視で指せば、振り穴の方が角打ちのスキが多くなりやすい。 ・角交換振り飛車には、▲4七銀-▲5八金-▲6七金の駒組みが有力。駒の連結は堅くないが、角の打ち込みが少ない。 ・角交換振り飛車に対して、3筋歩交換は気にしない。バランス重視で指せば、歩を有効に使う場所はない。ただし、位を取られないように注意。 ・バランス重視で玉を固めないときは、左桂は守備駒ではなく攻め駒。 ・角交換していないとき(する可能性が低いとき)は、バランスよりも堅さを重視し、しっかり囲う。 〔作戦・戦法〕 ○第10局 対△角交換振り飛車穴熊、▲地下鉄飛車-増田流 ・▲4七銀型で、右金は▲5八金。(※相居飛車とは違い、▲4八金型よりも▲5八金型の方がバランスが良い) ・▲8七銀型ではなく、▲8八銀型が優ると考える。スキが少なく、将来▲8六桂も打てる。桂頭は左金を▲6七金直としてバランスを取る。目指す形は〔下図〕。 ・以下、地下鉄飛車で9筋を攻める。また、いいタイミングで▲4一角と打ち込んでおきたい。 ○第11局 対△角交換振り飛車(美濃)、▲7五歩位取り+地下鉄飛車 ・早い段階で▲7五歩と位を取る〔左下図〕。相手の進展性(特に銀冠)を削ぐため。ただし、すぐに位の確保をする必要はない。 ・この作戦でも右金は▲5八金、左金は▲6七金へ。 ・今回は7筋位取りなので、将来的に左銀は▲7六銀。目指す形は〔右下図〕。 ・やはり▲8六桂を打てるようにしておきたい。 ・美濃囲い相手にも地下鉄飛車は有効。ただし、対美濃では▲9九飛だけでなく▲8九飛も一考。 〔総括〕 本書の解説はあくまでも増田の将棋観であり、全てが現在のプロ棋士の共通認識とまではいえないので(これから主流になる可能性はあるが)、鵜呑みにはせず、自分なりに消化するようにしよう。 増田感覚を知った上で、「全くその通り」「よく言語化してくれた」と同意するも良し、「いや、私はこうだと思う」と反発するも良し。 私の場合、将棋を覚えたころから「矢倉が良い形に見えない…」とずっと思っていたので、「新型雁木」にはほぼ賛成です。「堅さvsバランス」については賛否がかなり分かれると思いますし、各々の感覚を大事にすればよいと思います。「三段目の金」については、これまであまり言語化されてこなかったので、各々がいったん考えてみるキッカケになるでしょう。 ボリューム的にもうちょっと欲しかったのでB+にしていますが(実戦ベースでこの内容なら25〜30局くらいあればAを付けたい)、現代的な将棋観の一つを知ることができるという意味で良書だと思います。 ※誤字・誤植等(初版第1刷で確認): p13上段 ×?「△6四角には…」 ○案「今度△4五銀▲5五角△6四角には…」 |