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■現代将棋の核心に迫る!将棋指定局面バトル 居飛車編

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現代将棋の核心に迫る!将棋指定局面バトル 居飛車編
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マイナビ将棋BOOKS
現代将棋の核心に迫る!
将棋指定局面バトル 居飛車編
[総合評価] B+

難易度:★★★★☆

図面:見開き4枚
内容:(質)A(量)A
レイアウト:B+
解説:A
読みやすさ:C
有段向き

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【著 者】 所司和晴 近藤誠也 石田直裕 石井健太郎
【出版社】 マイナビ出版
発行:2018年8月 ISBN:978-4-8399-6652-2
定価:1,663円(8%税込) 224ページ/19cm


【本の内容】
序章  指定局面選定までの経緯   24p
第1章 矢倉 第1節 ▲7七銀型対後手急戦△7三銀型 36p
第2章 角換わり腰掛け銀 第1節 ▲5八金型対△6二金・8一飛型
第2節 ▲4八金・2九飛型対△6二金・8一飛型
第3節 ▲4七銀型対早繰り銀
92p
第3章 角交換拒否型 第1節 ▲8八銀型対角交換拒否△3三角型
第2節 ▲6八銀型対角交換拒否△3三角型
64p

・【コラム】(1)石田直裕五段 (2)石井健太郎五段 (3)近藤誠也五段 (4)第1、第2グループ

◆内容紹介
現在、将棋ソフトの影響もあってこれまで見たことのないような指し方が生まれたり、過去に指されていた形が蘇ったりしています。

このような現代将棋の目まぐるしい流行の移り変わりの中で、その新しい形の是非はどうなのか?

流行形はプロ棋士の対局数が少ないので検証しようがない、とあきらめてはいけません。 それなら実際に対局してもらえばいいじゃないか、という発想で生まれたのが本書です。

本書では後手急戦の隆盛により日々新しい形が試されている
矢倉、藤井聡太七段をはじめ若手の研究が進んでいる角換わり、そして将棋ソフトによって現代に蘇った雁木という3つの戦型における6つのテーマ局面を用意しました。そしてそのテーマ局面から所司一門が誇る若手精鋭の近藤誠也五段、石田直裕五段、石井健太郎五段に代わる代わる対局していただき、それぞれの局面における一定の結論を出していくものです。

また、6局面に対する渡辺明棋王、松尾歩八段の見解も収録しています。

本書で現代将棋の最先端の研究を体感してください。


【レビュー】
指定局面戦を解説した本。

「指定局面戦」とは、ホットでまだ定跡化が進んでいないような局面や、定跡化は進んでいるがあるところから未解明、といった局面を「指定局面」にし、数人の棋士が交替で指して、その局面に対する理解を深めようというもの。

1980年代など将棋専門雑誌がたくさんあった頃は、指定局面戦の企画がときどきあったと聞いている。(すみません、当時まだ子どもだったのでリアルタイムでは見ていません)

また、『振り飛車ワールド』シリーズ(2003.01〜2004.07、2か月周期で計10冊発刊された)で指定局面戦のコーナーがあり、所司一門の若手(当時)だった松尾、渡辺明、宮田で同様の形式で戦っていた。

しかしその後は、横歩取り△8五飛や藤井システムなどの研究将棋が隆盛し、「新手一勝」の時代になったためか、指定局面戦はあまり行われなくなっていった。

本書は、そのような指定局面戦を、居飛車で、特にこの1年で考え方が激変した矢倉・角換わり・角換わり拒否(主に新型雁木)について復活させてみよう、という企画本である。


本書の構成は、以下のようになっている。(※p6にある「本書の構成」とはちょっと異なります。実際に本を読んだらこんな感じでした。)

(1)相居飛車の流行形から6つの指定局面をピックアップ
 ・なぜこの局面を選んだかは、序章と、指定局面戦後のまとめパート冒頭に書かれている。

(2)[実戦編] 指定局面から3人(近藤誠也、石田直裕、石井健太郎)で3局、投了まで指す。
 ・それぞれ先後を1局ずつ持つ。
 ・1局につき解説は6p。(指し手、図面を含む)
 ・解説中に「他の棋士」(下記)の見解も入ってくる。

(3)[まとめ編] 感想戦と、他の棋士(松尾歩、渡辺明、宮田敦史、大橋貴洸)の意見をまとめる。
 ・「まとめ」というより、「検証」に近い。ページ数はかなり割かれている。例えば矢倉編では16pもある。
 ・特に駒組みから仕掛けまでの検証に重きが置かれている。
 ・今回の実戦に現れなかった手も多数挙がっている。
 ・実戦編とまとめ編でほとんど同じ内容が書かれていることもある。(p74とp92など)


今回は、「各章の内容」ではなく、「各指定局面」について、“工夫の一手”までのチャートと図面を添えて紹介していこう。



【矢倉】
〔2018年8月現在の背景〕
・矢倉の5手目▲6六歩は減少。△左美濃急戦が有力なため。
・矢倉▲4六銀-3七桂も激減。▲4六銀に△4五歩の変化が再評価されたため。
・加藤流(▲3七銀型+▲2六歩+▲1六歩)は継続。ただし旧定跡を覆したわけではない。
⇒飛先不突き矢倉自体が激減。飛先をすぐに突き越し、なるべく△急戦矢倉の選択肢を減らすようになった。
・後手は△7四歩を早く突いて急戦を狙い、飛先は切らして戦うように。
⇒1990年代から2010年代前半までの矢倉の定跡手順は、見る影もなくなった…

〔指定局面までの指し手と、分岐直後の変化〕 (「○○!」は工夫とされる符号)


〔その他のポイント抜粋〕
・「引き角の活用が後手の居角に劣るかが指定局面のテーマ」(p53)
⇒当然視されてきた▲7九角が良いのかどうか。今回は3局とも角を引いた。
・@の▲5七銀が工夫で、角が重い半面、中央が厚く、飛の横利きが通る。▲6六銀(後手の仕掛けを牽制)or▲4六銀(攻勢)のどちらも見ている。
・Aは上部を厚くする狙いで、受けが好きな人ならあり。受けが苦手ならイマイチ。
・Bの△4二銀が工夫で、中央で早く動ける。
・矢倉志向の5手目▲6六歩or▲7七銀自体が問題かもしれない。



【角換わり】
〔2018年8月現在の背景〕
・矢倉が先手不満になったので、角換わりを目指すのが増えている。
・7手目▲8八銀が減少し、▲6八銀が主流に。角換わり拒否の雁木になったときに駒組みしやすいように。
・角交換後の△4二銀が減り、△2二銀が増加。△4二銀だと後手の玉のルートは△4一玉になり、▲2五歩△3三銀▲4五桂の早い桂跳ねの急戦策が有力になる。△2二銀なら△4二玉から囲える。
・相腰掛け銀では、△6二金-△8一飛型が大流行。△4二玉型で△4四銀〜△5五銀左と動ける。
・先手も▲4八金-▲2九飛型を採用することが増えている。
・▲7九玉は、▲4八金とのバランスが微妙だが、実戦例は多い。
・後手は△早繰り銀の選択も増えた。▲5六銀〜▲6六歩が早い場合は△棒銀を選択するか、△7三桂を優先することになる。

〔指定局面までの指し手と、分岐直後の変化〕 (「○○!」は工夫とされる符号)


〔その他のポイント抜粋〕
[指定局面A] 相腰掛け銀、▲5八金型vs△6二金・8一飛型
・@の▲4五銀が工夫で、銀交換後の▲6三銀を狙っている。△5五銀も先手良し。
・「▲4七金型は積極的に攻勢を取れるが玉が薄い」(p91)
・▲4七金型は、▲6八飛の転回も見ている。
・Aのの後手・一人千日手作戦は神経を使う。
・Bの▲6八金右は玉が堅いので実戦的。(※解明が進むとダメになる可能性もありそう)

[指定局面B] 相腰掛け銀、▲4八金・2九飛型vs△6二金・8一飛型
・Aで、先手が4筋の位を取ると、後手は右玉にチェンジし、先手も銀矢倉から5筋の歩を伸ばすのが自然。(相腰掛け銀の戦いではなくなる)
・▲4五歩〜▲4六角は部分的には有力だが、▲4八金型では玉を固めにくいので、ゆっくりした展開ではイマイチか。
・@Bの△4四歩はややリスキー。
・Bの攻め方は、アマにも真似しやすそう。違う形でも、銀交換後に▲6三銀と打ち込む筋を常に意識しておきたい。
・▲7九玉や△3一玉は、▲6九飛(△4一飛)の含みを持たせた手。
・指定局面Bの▲4八金vs△6二金は先手が戦いやすそう。
・今後は▲4八金vs△5二金がトレンドになりそう。

[指定局面C] ▲4七銀型vs△早繰り銀
・指定局面Cの▲4八金は、「先手がいつでも▲4五桂の仕掛けを見せ、展開によって玉形を使い分けることができる」。(p147)
・▲2九飛では何か工夫が欲しいところ。
・先手が右玉を目指すと、飛の横利きが止まった瞬間に△7五歩の仕掛けがある。
・@の△5四角が好手で、先手の中住まいはまとめにくい。
・Aの▲6八玉は△7五歩を誘っているが、当たりがきつい。実際に△7五歩▲同歩△同銀となった局面が研究課題。
・Bの▲5六銀の場合、早繰り銀戦の定番である2筋の継ぎ歩に対して、△3五歩がある。
・総合的に、指定局面Cは後手の方が戦いやすそう。先に▲5六銀と備えるなら指定局面Aに合流するが、先手としてはそもそも指定局面Bの方を選びたい。



【角換わり模様からの△角交換拒否】
〔2018年8月現在の背景〕
・2017年から雁木が大流行。
・角換わり志向の▲8八銀を悪形とみて、角交換を避ける考え方。
・▲引き角から2筋歩交換は、後手にとっては損ではないと考え方が変わった。ソフトの影響とされる。
・△4三銀型がバランスが良く、柔軟性もある。(角道が通っている、銀が敵桂の射程に入らないなどの利点もある)
・▲8八銀は組み替えても矢倉にしかできないので、▲6八銀が増加。ただし、引き角から矢倉には組めない。

〔指定局面までの指し手と、分岐直後の変化〕 (「○○!」は工夫とされる符号)


〔その他のポイント抜粋〕
[指定局面D] 角換わり拒否、▲8八銀型
・@の▲6七金左は、角交換に強い陣形を目指している。ただし、8筋・9筋が薄いのが難点。
・Aは▲矢倉+早繰り銀。歩越し銀の不安はあるが有力。
・Bの▲矢倉+▲4七銀型は手数がかかるが有力。
・▲8八銀型は先手が守勢になりやすい。先手は引き角から矢倉にするしかない。
・後手は△6三銀型の新型雁木が有力。角を使いやすい。
・Bの近藤-石井戦、先手の寄せが素晴らしいのでぜひ鑑賞してほしい。

[指定局面E] 角換わり拒否、▲6八銀型
・角換わり模様では、従来はほとんど▲8八銀型だったが、新型雁木の登場により、「引き角〜矢倉〜2筋歩交換+角交換」の価値が低くなっており、現在は▲6八銀の方が主流に。
・▲6八銀型では、角交換拒否のときに、先手は引き角から矢倉にはできないが、角筋を通したままで戦ったり、雁木に組むことが可能。
・この場合、後手は△4三金右の方が上部に厚い。△4三銀だと3筋・5筋ともに弱い。
・先手の基本形は[▲5六銀の腰掛銀+▲4八金]。積極性がある。
・後手が受け重視なら@の△6四歩、攻め合いならAの△6四銀。ただし受け姿勢でもどこかで△7五歩の反撃は意識しておきたい。
・先手が腰掛銀を急がず、▲4七銀型の新型雁木に組んだのがB。他の2局に比べ、先手としては積極性には欠ける。
・Bの終盤、▲5二銀不成は思わず「んっ?! (ノ゚ο゚)ノ オオオオオ!!!」と歓声が上がりそうな一手。ぜひご鑑賞を。



【総評】
本書に登場する「指定局面」は、プロでの最先端のテーマ局面なので、定跡化は進んでいないものの、もしかしたら出版時にはすでに何らかの見解が出ている可能性すらある。そこまでではないとしても、どんどん解明が進むか、あるいはすぐに指されなくなる可能性もあり、「賞味期限」は非常に短い(「生モノ度」が非常に高いので、「消費期限」かもしれない)。読むなら、遅くとも半年以内(出版は2018年8月下旬)を推奨したい。

ただし、読むのは骨が折れる。[実戦編]・[まとめ編]ともに、見開きで30手以上進むこともあり、図面は不足気味。図面のないところから変化の解説が始まることも多々あり、全体的に、脳内だけで局面を追っていくのは難しい。解説を読んで変化を追っていくと、元の局面に戻るだけでも大変だ。少なくとも自称“RAM512KBのRocky脳”ではしんどかったです(・・、) よって、ソフト等を使ってあらかじめ棋譜を並べておき、逐次再生しながら解説を読むことを推奨する。


それにしても、こういったシリーズが「居飛車編」から出版されることに、「時代は変わったなぁ…」と思う。ほんの20年弱前は、「振り飛車編」だけ出て「居飛車編は売れないから出版なし」なんて普通に言われていたのですよ……。(2018Sep01)

※誤字・誤植等(初版第1刷で確認):
p102棋譜 ×「△8七歩成▲同玉△8五銀▲9五玉」 ○「△8七歩成▲同玉△8六歩▲同玉△8五銀▲9五玉」 ※2手抜けている。
p147下段 ×「…できるという点挙げられる」 ○「…できるという点挙げられる」
p166棋譜 ×「▲2五歩△同玉▲1七角△2七玉▲1八銀…」 ○「▲2五歩△同玉▲2六歩△同玉▲1七角△2七玉▲1八銀…」 ※またしても2手抜けている。
p187上段 ×「銀桂交換だが歩切れで先手やや不満。」 ○「銀桂交換だが歩切れで後手やや不満。」 歩切れになっているのは後手。
p216 ×「石田石井戦と別れた。」 ○「石田−石井戦と別れた。」 ※間違いではないが、他の箇所での書き方と統一したい。



【関連書籍】

[ジャンル] 
棋譜解説
[シリーズ] マイナビ将棋BOOKS
[著者] 
所司和晴 近藤誠也 石田直裕 石井健太郎
[発行年] 
2018年

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