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マイナビ将棋BOOKS 史上最速の攻撃戦法 極限早繰り銀 |
[総合評価] B 難易度:★★★★ 図面:見開き4枚 内容:(質)A(量)B レイアウト:A 解説:A 読みやすさ:A 上級〜有段向き |
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【著 者】 佐藤慎一 | ||||
【出版社】 マイナビ出版 | ||||
発行:2018年1月 | ISBN:978-4-8399-6420-7 | |||
定価:1,663円(8%税込) | 224ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||||||||||
・【コラム】(1)石神井公園 (2)愛犬の話 (3)音楽の話 (4)苦手なもの |
【レビュー】 |
「極限早繰り銀戦法」を解説した本。 「早繰り銀」は昔からある戦法で、▲3六歩から▲3七銀〜▲4六銀と進出し、3五〜2四のルートを目指していく。角換わりや相掛かりでよく見られるが、矢倉や対振飛車ではあまり「早繰り銀」とは言わない。 本書の「極限早繰り銀」は、従来からある早繰り銀ではなく、初手から▲2六歩△3四歩▲2五歩△3三角と形を決め、▲7六歩から居玉のまま一目散に早繰り銀を目指すのが骨子。従来の早繰り銀では、2四で銀交換した時の王手飛車を避けるため、▲6八玉や▲1六歩などの1手が必要だったが、それすらも省略した「最速の仕掛け」となる。 もちろん、いつも最速で攻め切れるわけではなく、相手の出方によっては、緩急を付けたり、狙い目を替えたりする必要はあるが、玉の堅さを求めず攻めを優先したい人にとっては、うってつけの戦法である。 しかも、この戦法は、後手番や相掛かりでも使うことが可能。多少指しこなし方が変わってくるものの、先手番に限定された戦法でないというのはありがたい。 本書は、その「極限早繰り銀」を基本から解説した本である。 各章の内容を、チャートを添えながら紹介していこう。(なお、本書の巻頭p6〜p8にほぼ同じ内容のチャートがあるが、以下のチャートの方が見やすいと思います) |
第1章 極限早繰り銀 第1節 基本的な駒組み、狙い筋 初手から飛先を連続で伸ばす。後手が囲いを目指した場合、先手は居玉で早繰り銀から▲3五歩と仕掛ける。△4二角〜△6四角の反撃には、飛を見捨てる勇気があれば攻め倒せる。角交換してくるなら、銀が五段目で威張って十分で、ゆっくり駒組みする。つまり、後手が囲いを目指してくれるのは、先手にとっては楽な展開。 第2節 8筋交換型、後手横歩取り 極限早繰り銀では、先手から角交換せず(「角換わりの将棋」にはしないという意味)、8筋歩交換の阻止もしない。後手が横歩を取ってきたら、左辺は横歩取り後手番のように▲7七角-▲8八銀-▲6九玉として、角交換〜▲6六角と設置すれば、早繰り銀を生かして仕掛けることができる。 第3節 8筋交換、△8五飛型 後手が飛車先交換後、△8五飛と引いて、▲3五歩の仕掛けを受ける形。先手は角交換して、▲7七桂で飛をどかして、▲3五歩と仕掛ける。 第4節 8筋交換、△8四飛型 後手の構えは△8四飛の方がバランスが良いが、玉の位置については一見自然な△4一玉はリスキー。先手は▲6八玉と居玉を避けてすぐに▲3五歩と仕掛ける。角交換後の▲6六角と設置するのを忘れないように。 △8四飛+居玉+△5二金の場合、▲3五歩の仕掛けは無理筋(2筋の歩が切れた瞬間、定番の△2七歩の反撃が入る)なので、角交換〜▲6六角設置〜▲3五歩〜▲2四歩〜▲3五銀の順で攻める。 第5節 △4二銀型 5手目が△2二銀でなく、△4二銀の場合。雁木や右玉への発展が望める半面、2筋が弱くて矢倉への発展が難しい。 8筋歩交換後、▲4六銀と出て、△7六飛or△8四飛ならこれまでと同様。△8五飛のときはすぐに角交換しておく。▲7七桂で飛をどかし、居玉解消して▲6六角設置の流れはこれまでとだいだい同じ。 △4四歩型には先手も陣形を整備し、後手が雁木を目指すなら「いきなり▲3五歩」(p69第8図から▲3五歩)か、「▲4六歩から棒銀」(p72第11図)が有力。後手が右玉模様の△6四歩・△6三銀型には、▲4六銀〜▲3五歩と仕掛け、△4五歩と突き違いの歩を突かせて、▲5六銀と腰掛銀にチェンジして4筋を狙うという、二段構えの作戦が有力。 第2章 後手番早繰り銀 極限早繰り銀は、後手番でも使うことができる。ただし、先後の1手の違いを意識した指し回しが必要。 第1節 後手番早繰り銀 VS ▲3四飛型 角換わりの出だしから、角交換せずに2筋歩交換をゆるし、その間に早繰り銀を進出する。後手番なので銀の進出は1手遅れる。その分が、居玉解消の1手が遅れることになるが、仕掛けてから居玉解消でも攻めがつながる。 第2節 後手番早繰り銀 VS ▲2五飛型 1手遅れるので、第1章第3節と同じように攻めるのは、後手の居玉が祟る。後手番では△5四歩から5筋位取りで飛角の利きを遮り、角頭を狙う指し方がオススメ。5筋を受けてきた場合は、中央での仕掛けに切り替えよう。 第3節 後手番早繰り銀 VS ▲2六飛型 先手番より1手遅れなので、居玉解消を省略して△7五歩と仕掛ける。王手飛車の筋には注意して、ポイントを稼ぐ指し方をしよう。 第4節 先手の持久戦策 △7三銀に、先手は▲6六歩と角道を止めて持久戦を目指す。本節では、先手に飛先交換は許し、後手が急戦を目指していく。引き角から7筋歩交換し、△7四銀〜△4四銀の攻勢を取る。 実戦例はまだ少ない。第3章の自戦記#3(藤井聡太戦)も参照のこと。 第3章 極限早繰り銀 自戦解説 第1局 対 上村亘四段 極限早繰り銀の公式戦1号局。△8五飛型。第1章第3節と違い、互いに5筋を突き合う将棋。 第2局 対 小山怜央アマ 第1章第5節に準じる。講座ではp69で▲3五歩から仕掛けていたが、本譜ではいったん▲7九玉と一呼吸おいてから▲3五歩の仕掛けとなった。 第3局 対 藤井聡太四段 第2章第4節を参考に。講座編p119での最終手△7三桂に替えて、△6五同銀とした将棋。その後もじっくりとした手将棋になった。 第4章 相掛かり早繰り銀 早繰り銀は相掛かりでも使える。(ただし、それは「極限早繰り銀」とはいえないと思われる) 飛先交換をせずに銀の進出を目指す。後手が腰掛銀ならスピード勝負で勝てる。 第1節 相掛かり早繰り銀 VS 8筋交換型 △7四歩-△7三桂には先手の工夫が必要で、相掛かり戦では▲3五銀の瞬間が甘く、スピード負けしやすい。後手の中住まいには、▲6九玉型で5筋位取りが有力。 第2節 相掛かり早繰り銀 VS △7二銀型 後手が飛先交換を遅らせ、△7二銀と様子を見てきたとき。▲3六歩を横歩として取らせるのは許せないが、▲7六歩を横歩として取らせて5筋位取りにするのは有力。p177第4図参照。 第3節 自戦解説 対 小林宏七段 講座にはない△6二銀型。中央が厚いので、3筋の攻めを目指す。 まだ指され始めたばかりの戦法なので、これから定跡の変遷が起こるはずだが、基本的な狙い筋として押さえたい一冊である。 なお、将棋世界2017年8月号付録『極限 早繰り銀戦法』も参照するとよい。掲載されている実戦は3局とも異なる。(2018Mar11) |