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マイナビ将棋BOOKS 現代横歩取りのすべて |
[総合評価] A 難易度:★★★★☆ 図面:見開き4〜6枚 内容:(質)A(量)A レイアウト:A 解説:A 読みやすさ:A 有段向き |
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【著 者】 村田顕弘 | ||||
【出版社】 マイナビ | ||||
発行:2014年10月 | ISBN:978-4-8399-5369-0 | |||
定価:1,717円 | 248ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||||||||||||||||||
・【コラム】(1)少年時代の思い出 (2)新手メーカーの本音 (3)棋士の性 (4)勝負と真理 (5)羽生善治名人との初対局 |
【レビュー】 |
横歩取りの定跡書。 2014年ごろの横歩取り事情は、内容紹介にあるように、△8四飛+△5二玉型が優秀と認められ、後手がかなり巻き返していた。これは、古くからある「△8四飛+金開き中住まいの△5二玉」ではなく、「△5二玉型中原囲い」や、または「△7二銀型△5二玉」である。 低く構えてスキの少ないこれらの形は、以前に猛威を振るった新山崎流を無効化しただけでなく、後手から△2四飛と飛交換を迫る手筋が有効となった。 先手番としては、新しい対策を模索する必要が出てきたが、玉の位置や玉型の発想が広がったことにより、先手にもさまざまな工夫がみられるようになった。 本書では、2014年9月1日までの実戦例をサンプルとして、村田顕弘の結論と見解を出した本である。 プロの最新形が題材なので、指し手の難易度が高めで、図面も見開き4〜6枚と多くなっているが、[結果図]がグレーアウトされている工夫のおかげで、格段に見やすくなっている。この工夫はぜひ他の本でも取り入れてほしい。 各章の内容を、チャートを添えながら紹介していこう。 〔序章〕は、「横歩取り戦 成立までの変化」。横歩取りという戦型になるためには互いの暗黙の合意が必要である。 また、プロの横歩取りで圧倒的多数である「△3三角戦法」に対して、先手/後手ともにさまざまな変化球がある。ここでの「変化球」とは、「勝負としては一局の将棋だが、厳密にはわずかに損と思われる指し方」のことで、微小な損も嫌うプロでは出現しにくいが、特にアマは奇襲の一つとして知っておくべき知識であろう。 奇襲的な指し方については、第1章を参照。本章では、「金上がりを省略するメリットは特にない」ことと、「△2三歩型」について少し述べられている。 |
〔第1章〕は、「奇襲の成否 その他の駒組み」で、本書のメイン以外の指し方を解説していく(メインの「△3三角戦法+△8四飛型+△5二玉型」は第2章以降)。なお、第1章の戦型は、詳解された本が他に結構あるものの、従来の結論より先の変化も多く公開しており、「村田流」もあるので、“横歩取りは奇襲に限る”派の人も一読の価値はある。 第1節 △4五角戦法/奇襲△3三角戦法/△3八歩〜△4四角戦法 第2節 相横歩取り/△3三桂戦法/△4一玉戦法 第3節 △8五飛戦法(△4一玉型/△5二玉型)/△8四飛型(△4一玉/中住まい) |
第2章〜第5章は、本書のメインコンテンツ。後手の形は「△8四飛型+△5二玉型」に限定。先手の形によって章を分けている。 〔第2章〕は「▲5八玉型の攻防」。先手は中住まいを目指す。 第1節 ▲5八玉型vs△2二銀型 後手は△2二銀型で先に玉を囲う。あとで△2三銀と活用することも。 ・▲3八金型中住まい(p49〜) ・▲3八銀型中住まい(p62〜) ・▲3五歩早突き型(p70〜) 第2節 ▲5八玉型vs△2三銀型 後手は玉の囲いを保留して△2三銀を優先する。囲い方を後で選べるメリットがある。 ・▲7七角+5九金型中住まい(p77〜) ・▲3八金型中住まい(p83〜) いきなり△2四飛と飛交換を迫る指し方、など。 |
〔第3章〕は、「▲6八玉型の攻防」。▲6八玉型は、右辺を攻められたときに玉が遠い、4筋の歩を伸ばしにくい、▲7八金にヒモが付いている、などのメリットがある一方、左辺を戦場にしにくい、中央が薄い(▲6八銀の応援が利かない)などのデメリットがある。 第1節 ▲6八玉型vs△6二銀型 4筋の歩を伸ばせば先手が戦いやすいので、後手はその前に急戦を仕掛けたい。この展開は、前著『アマの知らない マル秘定跡』(2013.07)でも触れられている。 第2節 ▲6八玉型vs△7二銀型 △7二銀型は飛の打ち込みに強い半面、玉頭は薄い。△7二銀型に対して4筋の歩を伸ばすのは効果が薄く、△6二玉と寄られてしまう。 |
〔第4章〕は、「▲4八銀型の攻防」。後手の形を見てから陣形を選ぶ作戦で、▲3六歩と突きやすい。激しい変化を含んでいる(チャート参照)。 |
〔第5章〕は、「新構想」。これまでになかった先手側の工夫、後手側の工夫で、出版時には主流にはなっていないものの、これから流行の可能性があるものをまとめてピックアップしている。 第1節 先手側の工夫 ・△5二玉に対していきなり▲1六歩と様子を見る ▲5八玉、▲6八玉、▲4八銀のいずれも保留して後手の陣形を見たい。 ・山ア流 △5二玉に対して▲2八飛と引く。ゆっくりした戦いを狙っている。なお、2000年代初頭に流行した「山ア流」や、2010年前後に横歩取りを駆逐しかけた「新山ア流」とは全くの別物。 第2節 後手側の工夫 ・菅井流 ▲2六飛に△2三歩!(通常は△2二銀) 1歩を使ってしまうが、左銀を△4二銀と活用できる主張がある。 ・千田流 ▲2四飛に△2四歩! 菅井流と似た狙い。 ・西尾流 ▲8七歩に△3四飛。 ▲3三角成△同桂▲2一角には△4五桂がある。桂跳ねによって、△3二金には△3四飛のヒモが付いている仕組み。 ・△2三銀 玉の位置を決めずに△2三銀。 ・YSS新手 コンピュータ発。初めから△6二玉と囲う。 |
〔第6章〕は、「青野流」。△3三角に飛を引かず、▲3四飛のままで▲5八玉〜▲3六歩〜▲3七桂を急ぐ、攻撃的な作戦だ。不安定な飛の位置を許さんと後手が動けば、非常に激しい攻め合いになりやすい。 2002年には一号局が指されているが、爆発的な流行をしないまま、ずっと「有力であるが変化球」的な立ち位置であった。ただし、横歩取りメインストリートの変化が潰れると何度も再注目されているし、2017年〜2018年には「佐々木勇気流▲6八玉」とのセットで、ついにセンター奪取の兆しがある。 |
プロ最新形を追った本なので、末端の変化はすぐ古くなる恐れはあるが、時間が経っても資料的価値が残る一冊といえるだろう。 |