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マイナビ将棋BOOKS ダイレクト向かい飛車徹底ガイド |
[総合評価] B 難易度:★★★★ 図面:見開き4枚 内容:(質)A(量)A レイアウト:A 解説:A 読みやすさ:A 上級〜有段向き |
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【著 者】 大石直嗣 | ||||
【出版社】 マイナビ | ||||
発行:2013年6月 | ISBN:978-4-8399-4763-7 | |||
定価:1,575円(5%税込) | 224ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||||||||||
・【コラム】(1)将棋との出会い
(2)メントス少年と駒取り少年 (3)厳しい奨励会時代
(4)ダイレクト向かい飛車 |
【レビュー】 |
ダイレクト向飛車の定跡書。 「ダイレクト向飛車」──って、何がどうダイレクト(直接)?普通の向飛車はダイレクトじゃないの?その疑問はごもっとも。ややこしい戦法名である。 元々、角交換振飛車は「2手損角交換向飛車」などと呼ばれていた。後手番で△8八角成と角交換し(1手損)、▲6五角の両成りを防ぐために△4二飛と途中下車してから、8三を守った後に△2二飛と振り直していた(さらに1手損)からである。 この△4二飛を省略し、△2二飛と「ダイレクト」に振るので、「ダイレクト向飛車」と呼ばれるのである。なお、従来の角道を止めた向飛車もダイレクトに△2二飛とするが、ダイレクト向飛車とは呼ばれない。 そのまま収まる展開になれば、途中下車の△4二飛を入れるよりも1手得。半面、▲6五角を直接的に受けないというリスクを冒しているので、先手が「1手得だと?そんな欲張りは許さん!」と怒ってくれば、▲6五角をめぐる乱戦となる。 本書は、▲6五角をめぐる戦いを中心に、ダイレクト向飛車の戦い方を解説した本である。 各章の内容をチャートを添えて紹介していこう。 第1章〜第3章は、4手目角交換からのダイレクト向飛車。最近のプロではこれが主流になっている。 第1章は、対持久戦。先手が穏やかに対応し、後手の1手得が実現した場合の戦いとなる。 第1節のように、後手が△4四銀−3七桂型(角交換系の振飛車での定番陣形の一つ)を選べば、▲居飛穴△銀冠の持久戦となるだろう。これも一局の将棋だが、後手は待機策となるので、リスクを犯した割には大したことがないかもしれない。 著者のオススメは、第2節の逆棒銀。△2四歩から飛先を逆襲する。先手良しになってしまう変化も多く、一筋縄ではいかないが、何度も読めば成功する形の急所が分かってくるだろう。 第2章は、△2二飛と振った瞬間に▲6五角を打たれる形。この成否にダイレクト向飛車の存続がかかっているし、このリスクの大きさによっては、角交換四間飛車を指している人もダイレクト向飛車を指すようになるかもしれないという、重要なテーマである。 もちろん、対策はあって、▲6五角に△7四角と合わせる。この後、大きく3つに分岐する。選択権は先手にあるので、後手はすべてに対応しなければならない。 (第1節)▲4三角成から角切りで金を取り、▲7五金で角を殺す。 「歩得vs金が手持ち」の構図になる。 後手陣がすごく薄く感じられて私は苦手なのだが、バランスは取れている。 (第2節)▲4三角成から▲7五歩で角を殺す。 4筋と7筋の歩が切れた形になり、難しい駒組みになる。 互いに、できるだけ歩を打たずに組めるかどうか。 本節のオススメは、△4三金と上がらされた形を生かし、△5四金〜△6五歩と位取りを目指すこと。 (第3節)▲7四同角△同歩▲7五歩で、△同歩なら再度の▲6五角を狙う。 p55にあるように、あえて△同歩もあるが、本書ではあまり検討は進んでいない。 本節では、▲7五歩に△7二飛〜△3二金と居飛車に戻す戦い方を検討。 (第4節)▲7四同角△同歩▲7五歩に、△7二金とする。 ▲7四歩と取り込まれるが、後で取り返す作戦。 先手は7四歩を支えに行くか、先に一歩手にしたことに満足して明け渡すか。 第3章は、△2二飛と振った後、▲7八玉△6二玉の交換を入れてから▲6五角を打ってくる形。これが嫌なら、△6二玉とせずに△7二金などがあるが、駒組みに制約ができるし、もともとダイレクト向飛車が「▲6五角と打ってみろよ!」というツッパリ戦法なので、ここでの妥協は考えにくい。 本章では、▲6五角に対し△7四歩!という軽い受けを解説。 (第1節)素直に▲4三角成 馬を作られるが、△6四歩と退路を消し、先手が馬の逃げ道を作っている間に好形を狙う。 (第2節)あえて▲同角 「生角+1歩得vs持ち角」の戦いになる。筋違い角に似ている。 第4章は、△9五歩まで伸ばしてからのダイレクト向飛車。先手は9筋を詰められているので持久戦にはしづらい。逆に、9筋の2手を緩手にしようとすることで、局面が急戦調になることが多い。 (第1節)▲7八金 先手は角交換後の△3三角に備え、2筋歩交換を目指す。 互いに突っ張れば激しい「三枚換え定跡」。 △2二飛▲6五角なら第2章と似た展開、 △4二飛とダイレクト向飛車にせず、2筋歩交換を誘う展開もある。 (第2節)▲6八玉型 角交換を誘って、▲3八銀!として逆棒銀に備えておく。 ダイレクト向飛車にすれば、第2章と似た展開になる。 (第3節)▲4八銀型 △8八角成から振る手もあるが、本節では△8四歩の「居飛車打診」を提案。 ▲4八銀の入った横歩取りになったり、 9筋位取り右玉や陽動振飛車など、変幻自在。 わたしは普段ほとんどダイレクト向飛車を指さないが、本書を読んで「アマには向いてない戦法かも」と思った。先手の選択肢が多くある上に、そのすべてに柔軟に対応していく必要があり、振飛車党が慣れ親しんだ美濃囲いや穴熊に収まれることが少ないからだ。後手にとって、「玉がそこそこ堅く、分かりやすい攻めがある」とか、「とにかく攻めの破壊力がある」「とにかく玉が堅い」といった、人気戦法になりやすい条件が不足気味である。 逆に、自由自在を標榜する人にはオススメの戦法。毎回違う展開を楽しみたい、自分で将棋を作っていきたいという人向け。 今のところ、ダイレクト向飛車を詳解した本はほとんどなく、これだけの分量は本書が初めて。自分で指す人はもちろん、「自分では指さないが、プロ将棋の観賞のお供にしたい」「佐藤康光を知りたい(笑)」という人も読んでほしい。(2013Jul04) ※誤字・誤植等(初版第1刷で確認): p77 ×「第13図以下の指し手@」 ○「第13図以下の指し手」 Aは見当たらない。 |