逆転術について書かれた本。以下の2冊を合本して文庫化したもの。
1984-07 逆転のテクニック
下巻,米長邦雄,日本将棋連盟
1984-07 逆転のテクニック
上巻,米長邦雄,日本将棋連盟
第1章〜第3章と、付録(『無双』と『図巧』)が上巻の内容で、第4章〜第6章が下巻の内容となる。表記の揺れに微妙な変更がある(例:角落→角落ち、頓死→トン死、など)以外は、特にオリジナル版との内容の違いはない。
それぞれレビュー済みなので、再掲しておきます。(2013May03)
【上巻のレビュー】
逆転術について書かれた本。「将棋世界」誌に連載された“米長流終盤逆転術”に手を加えてまとめたもの。
米長将棋の魅力は中終盤の逆転にある。自他ともに認める序盤下手(?)なので、序盤からリードを拡大して寄り切りで勝つということはほとんどなく、やや非勢の局面から力を発揮するのが持ち味である。本書は、そういう米長将棋に鋭く迫り、逆転を目指す心得が綴られている。
第1章では、「逆転するためにはとにかく終盤力の強さが必要。そのためには詰将棋を解きまくるのが一番だ。」という主張。逆転術そのものにはあまり関係がないが、終盤力の高さが逆転力のベースになってくるのは確かだ。あとからでもいいので読んでおきたい。
メインとなるのは第2章。「相手に悪手を指してもらわなければ逆転できない」というのが基本スタンスで、そのために複雑な局面に持ち込んだり、自分が悪手を指さないようにガマンしたり、逆転に持ち込むための仕掛けをしておいたりと、様々なテクニックが紹介されている。これらは人によっては目からウロコだと思う。逆転を狙いたい人はもちろんのこと、相手がどのような考えで逆転を狙ってくるかも分かるので、逆転負けが多い人も一読の価値ありだ。
第3章は米長玉の特性を解説。米長玉(9八玉型)は現在では終盤の定跡となっているし、序盤でも角筋を避けるために頻繁に用いられるようになっているが、もともとは異形と思われていた。わたしも級位者の頃は、なんとなく米長玉を使っていたが、その思想や効果については理解していなかったと思う。本章では、そのような米長玉の長所と短所が述べられ、「逆転を呼びやすい手」として描かれている。
全体的に、大きな図面が使われているが、本は小さめなので本文のスペースが狭くなり、少し読みにくくなっているのは惜しい。内容的には充実しているので、米長引退記念の出版ラッシュで復刻されるかも…?(もうピークは過ぎたか?)(2004Aug25)
※実際には、引退記念ではなく、逝去されてからの復刻出版となりました。
【下巻のレビュー】
逆転術について書かれた本。『逆転のテクニック
上巻』では米長の逆転方法が述べられていたが、下巻の本書はその実戦編である。
第1章はアマ高段者との角落戦で、主に中盤の解説。「角一枚の差をいかに逆転するか」が焦点となっている。
第2章は平手戦の自戦記。2局のみだが一応初手から投了まで。上巻で説明したことを実戦ではどのように使っているか、という観点で書かれている。
実質的に角落4局+平手2局=6局の自戦記のみなので、量がかなり少ない。図面がかなりスペースを取っており、本文が少ないのも気になる。見開きが4枚の図面と棋譜のみで埋め尽くされていることもあった。
内容的にはなかなか良いが、量の不足はちょっとつらい。これだったら『米長の将棋』シリーズなど、米長の実戦集を並べた方がいいだろう。ただし、漠然と並べるのではなく、『上巻』の考え方をしっかり頭に叩きこんだ上で並べると面白さがアップするので、一度お試しあれ。(2004Aug26)
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