主に中終盤の考え方を解説した本。
序盤や仕掛けは難しいが、定跡という指針があり、得意戦法も設定できる。終盤は寄せの手筋がかなり整備されてきており、詰将棋や必至問題などで鍛えることができる。
では、中盤〜終盤はどうか?ほとんどの場合、定跡書の解説は打ち切られている一方、パターン化された終盤にはまだ遠く、常に未知の局面でもある。中終盤は自分の力で切り拓いていく必要があるのだ。そんなときに差がつくのが、「急所を見抜く大局観」である。
本書は、中終盤での大局観を、具体例を題材にして解説した本である。
採り上げられているテーマは、様々な戦型で雑多な感じ。目次だけでは分からないので、下記に書き出してみた。
第1章・第2章は主に級位者の疑問に答えたもの。
・1-(1)どうして居玉はダメなの?
△四間飛車vs▲居玉棒銀の例、矢倉▲居玉棒銀の例。
・1-(2)なぜ玉を取られるのか?
右四間飛車に対して矢倉に入城する悪い例。
・1-(3)級位者がうっかりしやすい筋
原始中飛車の基本的な受け方と、相振飛車での危険な筋(角頭に飛を回られて受からないパターン)。
・1-(4)の銀を交換したその後
棒銀で銀交換に成功した後の指し方。定跡書には書かれにくい「攻めのスピード感」を重視。
・1-(5)駒落ちは小技の宝石箱
と金、成駒の活用法。
・1-(6)「作戦勝ち」ってどんな形?
矢倉の作戦勝ちと、有利を拡大する方法。
・1-(7)相手の理想形を許さない
▲矢倉vs△右玉のよくありそうな局面で、玉頭での戦い方。要の駒を残す。攻めのタネ駒を残す(簡単に清算しない)。
・1-(8)振り飛車は相手の手に乗る
▲四間飛車vs△右四間。後手の囲いは銀冠と舟囲いの2つを解説。
・1-(9)受け一方にならない受け
角換わり腰掛け銀同型。相居飛車で受けるときは、受け一方でなく、なるべく後で攻め合いになるように受ける。
・2-(1)とにかく一手速く勝て!
穴熊ゼットの生かし方と、縛るときの注意点。
・2-(2)細い攻めをつなぐには
攻めの生命線を見極める。
・2-(3)ピンチを脱出!
大駒は近づけて受けよ、玉は上へ逃げる、頓死を避ける
・2-(4)詰将棋はやはり大事
詰将棋の手筋が実戦に出る例。▲1二飛(香の目前にタダ捨て)を考えてみる。
・2-(5)寄せ合いでまず一番に考える事
相手の攻めを手抜きする技術。
・2-(6)攻防の一着を探せ!
詰めろ逃れの詰めろを探す。 |
第3章は第1章・第2章と違い、編集者との対談形式で、アマ四段クラスの実戦をもとに、どう指すのが良かったかを指摘していく。第3章は少し難易度が高め。似たコンセプトの本として、『上達するヒント』(羽生善治,浅川書房,2005)がある。
・3-(1)競り合いも手筋で一発KO!
受け一方の穴熊に負けない方法
・3-(2)微差からリードを広げる
相振飛車・相金無双での作戦勝ちから、実際の有利さに結びつける方法
・3-(3)横歩取りの攻めは「飛角桂歩」
横歩取りでの考え方
・3-(4)軽くて早い攻めを意識する
横歩取りでの端攻め、中原囲いのかわしのテクニック
・3-(5)堅さを生かしたカウンター
駒の損得よりも効率を重視できる局面
・3-(6)厚みを生かしたカウンター
△ゴキゲン中飛車+銀冠での玉頭戦のコツ
・3-(7)戦いの嗅覚
8八玉よりも9九玉が終盤大きく違う、戦いの最中でも入る価値あり
・3-(8)イジワル二枚落ち撃退法I
二枚落ち▲二歩突っ切り、上手△6四銀-△5三金型の破り方
・3-(9)イジワル二枚落ち撃退法II
二枚落ち△5五歩止め、中央奪還よりも薄いところを攻めることを考えてみる
・3-(10)オトナの二枚落ち
二枚落ち▲二歩突っ切り。上手の△6五歩を咎める新構想。
・3-(11)諦めない粘り
終盤で自玉の受けがなさそうなとき、諦める前に「素抜き」の筋や攻防手がないか考えてみる。
・3-(12)長手順の詰みを考える
30手超の詰みでも、方向が合っていれば、完全に読み切らなくても数手ごとに読み直せば詰み筋に入るケースがある。 |
中盤〜終盤の入口に悩みがある方は、一つでも気になるテーマがあれば、読んでみる価値は十分。望みどおりに解決するかどうかは分からないが、もともと本ではなかなか理解しにくいところなので、少しでもヒントが得られれば前に進めるかと思う。(2011Dec10)
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