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第65期将棋名人戦七番勝負 | [総合評価] C 難易度:★★★☆ 図面:見開き2〜3枚 内容:(質)B(量)C レイアウト:A 解説:A 読みやすさ:A 中級以上向き |
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【編】 毎日新聞社 | ||||
【出版社】 毎日新聞社 | ||||
発行:2007年7月 | ISBN:978-4-620-50485-8 | |||
定価:1,890円(5%税込) | 223ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
【名人】森内俊之 (防衛) 【挑戦者】郷田真隆
森内名人が振り返る全7局=7p |
【レビュー】 |
名人戦の観戦記。 十八世名人になるのは羽生善治だろうと、誰もが思っていた。しかし今期、現実に十八世を賭けて戦うのは森内である。 第1局は、後手森内の力戦向飛車。近年、特に後手番ではいろんな戦型を試している森内だが、第1局でいきなり変化球は以外だった。この対局中、いわゆる「扇子パチパチ事件」が発生。郷田が扇子を開閉する音が気になる、と森内がクレームをつけたのだ。立会人の中村が裁定をつけるまで、対局は30分中断という異例の事態となった。結局は中村が郷田に配慮を求めることで決着。しかしシリーズに因縁を残すことになった。将棋のほうは、優勢と見られた森内にミスが出て郷田の逆転勝ち。 第2局は相矢倉。先手森内が玉頭(7五、6五)に位を張った銀立ち矢倉に組んだが、中盤の競り合いの中で2つの位は消え失せ、いつの間にか歩の向きが逆になっていた。このちょっと不思議な将棋は郷田の完勝で、2連勝。 第3局は、純粋居飛車党の郷田がなんと石田流に出た。確かにこの頃、▲石田流は復活を見せていたが、それでもあまりにも意外。森内は相振飛車で応じた。両者とも不慣れな戦型となったが、郷田の駒組みにわずかな不備があり、それを力強い金上がりで森内がとがめてリードを奪う。中盤、飛車切りから金打ちというやや暴発気味の勝負手に森内が対応を間違えてしまうが、すでに郷田の気持ちが萎えていた。結果論だが、この第3局でシリーズの流れははっきり変わったと思う。 第4局は再び相矢倉。終盤に詰めろ(頭金)飛車取りがかかって郷田が投了し、森内の快勝とみられた将棋。ところが打ち上げ後に森内はなんと「投了後はどう指したらいいんですか?」調べてみると難解。この“早い投了”は第6局にも影響する。 第5局は相掛かり。流行の▲棒銀ではなく、先手は腰掛銀を志向したが、後手は早繰り銀で対抗。先手の作戦にやや問題があって後手が優勢になったが、そこからの森内の踏み込みと、丁寧に読んだ寄せの構図はすばらしかった。普通は△5八金と開き王手するところをあえて△6九金とし、それが控え室の検討を完全に上回っていたのだから…。 第6局は、今期3局目の相矢倉。森内先手のときは全て相矢倉だった。森内は上手い指し回しで勝勢となり、決め手の▲5五角は王手飛車+龍取りで、郷田投了、森内十八世名人誕生……のはずだった。しかし郷田は投げなかった。その後も森内は着実に網を絞ったように見えたが、最後は自玉への王手の応手を間違えて、壮絶な大逆転を喫してしまう。p179の行方の推測によれば、▲5五角のときに森内は勝ったと思い、いったん気がクールダウンしてしまったのは、とのこと。 ゴルフのマッチプレーでは、ボールがカップインしていなくても相手が「OK」といえばイン扱いになる。往年の名作ゴルフ漫画『あした天気になあれ』で、十中八九は入りそうだが絶対に入るとは限らない距離のパットをライバルがOKし続け、ここぞという場面で「OKではない」と言って、主人公がパットを外してしまうエピソードがある。OKをもらい続けたことで気持ちが弛緩し、OK拒否されたことで動揺し、集中力が高まらないのである。意図的ではないかもしれないが、第4局での郷田の早投げと第6局での森内の逃げ間違いには、このエピソードと似た関係があったのだと思う。 第7局は、最終局としては意外な角換わり腰掛銀。しかし定跡型ではなく、後手は△4二飛と防戦。そして意外にも後手から仕掛ける展開となったが、終盤に「読みにない手を指されて慌てた」(p223 森内コメント)ものの、時間ギリギリまで読んだ森内はなんとか勝ちをつかんだ。そしてここに、十八世永世名人(資格者)が誕生した。 今期は、ちょっと関氏の観戦記が気になった。第5局では森内と郷田の「器」の話、第7局では「羽生の前に森内が永世名人を獲ること」への森内自身の疑念をネタにしているが(氏は「羽生の呪縛」と表現)、不確定なものや妄想を元に人を評価するのはあまり好きになれないし、観戦記としてはふさわしくない話だと思う。記者は実際に見聞きしたものを伝えてほしい。ただし、第7局第12譜は臨場感があって良かった。 なお、毎日新聞社の単独開催は今期で最後。第66期からは、朝日新聞と毎日新聞の共催となる。(2008Oct05) |