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将棋最強ブックス 最新振り飛車破り〈下〉 四間飛車破り・三間飛車破り・向かい飛車破り・中飛車破り |
[総合評価] D 難易度:★★★ 〜★★★☆ 図面:見開き4枚 内容:(質)B(量)B レイアウト:A 解説:B 読みやすさ:A 中級〜上級向き |
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【著 者】 屋敷伸之 | ||||
【出版社】 創元社 | ||||
発行:2012年9月 | ISBN:978-4-422-75138-2 | |||
定価:1,365円(5%税込) | 224ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||||||
◆内容紹介 |
【レビュー】 |
振飛車破りの戦術書。どの振飛車に対しても「舟囲い+▲4六銀-3七桂-2六飛」型で仕掛けるのが特徴。 本書の「▲4六銀-3七桂-2六飛」は、〔右図〕のような攻撃形を採る。「▲5七銀左戦法」が研究されるよりも前の1960年代〜1970年代の指し方で、ハッキリ言って「最新」ではなく、現代では廃れた形である。 似た形は『森下の四間飛車破り』(森下卓,MYCOM,1996)で何局か見かけたことがあるにはあるが、「出戻り銀への対抗策」として出現した形だった。四間側△4三銀に対し、▲4六銀急戦を見せたところ、△3二銀と戻ったので、▲4六銀-3七桂-2六飛型に組む、というものだ。 最近の本では『振り飛車破りユニーク戦法』(田丸昇,創元社,2005)の第2章「クラシック戦法」で見たのが最後だと思う。田丸本では、「ポンポン桂」と「4六銀-3七桂-2六飛」の両対応の戦法だった。 この戦法の長所としては、「攻めは飛角銀桂」の格言に沿っており、厚い攻めが期待できるところ(対振飛車急戦では「飛角銀」か「飛角桂」の攻めになりやすい)。短所としては、仕掛けの形を作るまでに手数がかかるのでスピード感に欠け、振飛車側に存分に組まれてしまうところ。なお、現代の振飛車使いがあまり見慣れていないので対応されにくい、という実戦的な利点はあるだろう。 各章の内容をチャートを添えて紹介していこう。 第1章は、四間飛車破り。先手(居飛車)は、▲5七銀〜▲3六歩〜▲1六歩〜▲3七桂〜▲4六銀〜▲2六飛と構える。これはどの振り飛車に対してもほぼ同じ。▲1六歩に対し△1四歩と受ける場合の攻防がメインとなっている。 第2章は、三間飛車破り。四間飛車のときも後手は△4三銀〜△3二飛と回っていたので、それよりも後手が1手早い計算になる。本章では1筋を突き合った図が基本図となる。 第3章は、向かい飛車破り。後手が△3二金型から飛先を逆襲してくるので、いったん▲2五歩と押さえてから▲2六飛と浮く形になる。△3二金型の守備力が高いが、2二飛が角筋に入っている点と、5筋が薄い点を突いていく。 第4章は、中飛車破り。基本的に後手はツノ銀中飛車タイプだ。△3二金型の守備力が強いので、▲4六銀-3七桂戦法にとっては一番の難敵かもしれない。 さて、本書を読んでいろいろ思うところがあるのだが…… 一つ目は、そもそも本戦法が「あまり筋の良い戦法ではない」ということ。攻めが飛角銀桂で厚いのは良いのだが、攻めに手数をかけているのに自陣は舟囲いで薄い。同じ手数をかけるのなら、左美濃+▲4六銀の方が良いと思う。また、▲5七銀の次に▲1六歩というのが早すぎるように思える。正直、「このタイミングでここに手が行くようでは…」という感じだ。 二つ目は、「ココセがひどい」と感じたこと。 例えば、四間飛車編で「実は1筋を受けるのは甘い」と言っておきながら、三間飛車編では当然のように1筋を突き合っている。四間に比べて1手早いのが完全に無駄だ。その他、全体の8割は後手が1筋を受ける変化になっているが、後手にとってメリットのある展開は出てこない。全体的に、後手の待ち方は非常におとなしく、反発する感じが少ない。ひと目捌けそうな局面でもどんどん歩を打ってしまうし、 また、あるところでは「(受けの)△5三金は形が乱れる」と言ってスルーしている一方で、別のところでは当然のように金が上がってきたりする。 個人的にココセと思ったのは次の手。p19△2八龍、p99△5五同歩、p101△5五同歩、p109△6三金、p110△5三飛、p155△5四銀左、p177△6三銀(ここまで来たら△5一飛などでは?)、p195△1五同歩(△4五歩とかは?)、p203△4二角、など。具体的な手のほかに、左美濃の可能性を鑑みずに一目散に美濃囲いにしているところや、無造作に△4三銀と上がるところなど、序盤の駒組みも甘さを感じる。 三つ目は、分岐の部分の検討が少ないこと。明らかに居飛車優勢(例えば無条件の香得)になってから、振飛車に何の主張もさせずにフルボッコにしている時代の解説のほうが多い。もっと振飛車の修正案をたくさん示して、「どのように対策しても互角以上に戦えますよ」という結論を導いてほしい。 本書は、「“これにて良し”からの実戦的な攻めを知る本」または「振飛車のがんばりを許さない指し方を学ぶ本」という意味合いで捉えるべきなのかもしれない。ノーマル振飛車使いの人は、一応こういう指し方があるということで、何か対策を考えておいたほうが良いだろう。(2012Sep25) ※誤字・誤植等(初版で確認): 特に見つかりませんでした。 ※わたしなりの本戦法対策案を考えてみました。 ・美濃囲いにするなら、左美濃急戦がないと判断できるまで△7一玉をキープ。▲3六歩に△8二玉がタイミング。 ・▲5七銀に△4三銀は、居飛穴対策のためには仕方ないか。 ・左金(4一金)はあわてて上がらない。(後述) ・1筋は突き合わない。△1四歩としても、振飛車のメリットは少なく、▲2二歩と打たれたときに△1三桂と逃げる余地があるくらい。後回しにして、他の箇所に手をかけたい。 ・△5四歩よりも△6四歩を優先したい。先手の舟囲いは6筋が薄いので、△6五歩と伸ばしておけば終盤で必ず勝負にできる。左金を保留しておけば、△6二飛と転戦も可能。 ・△1二香は余裕があれば上がっておく。 ・▲2六飛までセットされたら△3二金と上がる。 目指すのは〔右図〕。▲3五歩に△4五歩と反発する。飛先突破を阻止していて、△6五歩が反撃の種になっているので、駒交換の捌き合いは歓迎するという考え方。 玉の堅さ重視なら、△3二金で△5二金左でもOK。この場合は、▲3五歩に△3二飛で対応する。5筋を絡ませられないので先手の仕掛けは単調になり、対▲右4六銀戦法の感覚でよい。△6五歩も△1二香も指せているので、十分対応できそうだと思う。 |