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先手三間飛車破り 急戦で仕掛ける方法を徹底解説 |
[総合評価] S 難易度:★★★★☆ 図面:見開き4枚 内容:(質)A(量)S レイアウト:B 解説:A 読みやすさ:B 有段向き |
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【著 者】 青野照市 | ||||
【出版社】 創元社 | ||||
発行:1988年9月 | ISBN:4-422-75036-4 | |||
定価:2,300円 | 268ページ/20cm/H.C. |
【本の内容】 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
◆内容紹介 |
【レビュー】 |
三間飛車vs居飛車急戦の定跡書。 四間飛車に比べるとややマイナーで、採用数が少なめの三間飛車。とはいえ、古くは大野源一や大山康晴らが採用していたこともあり、三間飛車に対して急戦を仕掛ける研究は徐々に進められてきた。 △三間飛車に対しては比較的仕掛けやすいものの、▲三間飛車に対しては仕掛けが難しくなるとされていた。それは現代でもあまり変わっていない様で、▲三間飛車に対しては△居飛穴を目指すケースが圧倒的に多くみられる。 しかし、先手番なら急戦、後手番なら居飛穴と、器用に使いこなせる人はそう多くはない。急戦党なら、先手でも後手でも急戦で仕掛けたい…と思うのは道理である。 そんな要望に(?)応え、▲三間飛車への急戦を追求したのが本書である。 本書では、△三間飛車と▲三間飛車に対して、船囲い急戦で仕掛ける方法が詳細に解説されている。本書の前後にも対三間飛車急戦を扱った本は出版されているが、本書の解説量と精緻さは群を抜いている。本書の後に更新されている部分ももちろんあるが、急戦党にとっては間違いなくバイブル級。 ただし、現代の本に比べて、多少読みにくい部分はある。図面配置はオーソドックスな見開き4枚型だが、解説量がかなり多いために相対的に図面が少なく、本文と図面を近接させることがあまり意識されていないので、図面を探すのに労力を食われることがある。 各章の内容を、チャートを添えながら紹介していこう。 第1章と第2章は、△三間飛車への仕掛けを解説。メインの▲三間飛車への仕掛けも、ここでの知識がベースとなってくるので、しっかり消化しておこう。 第1章は、△4三銀型三間飛車。仕掛け自体は一番楽とされる。これが基本定跡となり、「居飛車が後手の場合や、端歩で二手費やした場合に、振り飛車側の陣形が少しずつ違ってくるので、その攻略法も、少しずつ工夫をしなければならない」(p12)。 先手が▲3六歩と急戦の意思を示したら、すぐに△5二金左、また▲4六歩には△5四歩がマスト。どちらも△7二銀よりも優先度が高い。先手は角交換を目指して▲4六歩と突いていく。 本章の結論は、「△4三銀型三間飛車には、いったん▲5七銀左として、△6四歩と突かせてから▲4四歩と攻めれば先手が指せる」となる。 ※ただし、この仕掛けは、現代の目で見るとやや不思議な感じがするかもしれない。長らく「振飛車には角交換」と言われ、(本章ではあっさり△4三銀と上がってくるが)△3三同銀と取れる形でも、角を交換すれば持久戦になれば振飛車の方が指しづらくなる、とされていた。しかし、角交換振飛車の発達した現代では、形によっては「角交換大歓迎」となることがありうると思う。 第2章は、△4二銀型三間飛車への仕掛け。『羽生の頭脳 3 急戦、中飛車・三間飛車破り』(1992)でもおなじみで、仕掛けの前に△2二飛と構え、▲5五歩△同歩▲4五歩と仕掛けるのが特徴。角交換後の▲8八角にどう対応するかが分かれる。 第3章以降は、本書のメインとなる先手三間飛車破り。 第3章では、まず△三間飛車への▲5五歩△同歩▲4五歩の仕掛けと同じように、▲三間飛車に対して△5五歩▲同歩△6五歩と仕掛けたらどうなるか、を検証していく。 結論から言えば、この仕掛けは成立しない。▲三間飛車では、仕掛けの前に▲4七金の一手が入っているため、△5六歩の垂れ歩が無効であり、また5八にスペースができているので、中央で銀交換するとすぐに▲5八飛と活用されてしまうのが主な理由となる。 すなわち、表紙にある「なぜ先手三間飛車は攻めにくいのか?なぜ先手番と同じ攻めではうまくいかないのか?」という疑問には、本章で答えている。 第3章で、▲三間飛車には△5五歩▲同歩△6五歩の仕掛けが通用しないことが分かった。そこで、別の仕掛けを考える。表紙の「では、どういう仕掛けで攻略すべきなのか?」という問いに、このあと答えていく。 p106〜p109に「対先手三間飛車の速攻作戦の分類」がある。▲三間飛車への有力な急戦を4つ紹介しており、第4章の中に含まれてしまっているが、これらが本書のキーとなる部分で、まず最初に押さえるべきポイントである。 4分類を簡単に紹介しておこう。 |
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第4章〜第6章はつながっているので、チャートはまとめて紹介する。 第4章は、▲三間飛車への△三歩突き捨て作戦。7・8・9筋の歩を突き捨て、9筋で一歩入手して△7六歩と角頭に打つのが基本の狙い。 ただし、▲5八金型には三歩突き捨て作戦は成立しない。▲5八金型では、仕掛けの途中で△6七角と打てないのが理由の一つ。必ず▲4七金を見届けてから仕掛けよう。 また、三歩突き捨てといえば加藤一二三九段だが、加藤の実戦ではほとんど△4二金直▲3六歩の交換を入れて仕掛けているとのこと。本章では、「△4二金直の省略は不安だが、それでも▲3六歩を指させていないことが大きい」として、その交換がない指し方を追求していく。 さらに、△9四歩に先手が端を受けず、玉側の方に手をかける指し方も本章で解説。この形では、9筋突き越しになるため、これまで有効だった▲9六香がない。結論としては、「△9五歩と伸ばしてから△7五歩と仕掛けられれば、9筋突き合い型より仕掛けた後の戦いが楽。」となる。 第5章は、第4章を踏まえた上での、▲三間vs△9五歩型の基本定跡。 後手が9筋の歩を2つ突いたので、この端歩を無駄手にさせて中央での戦いに持ち込む意図で、▲5七銀と上がる。そうすると、仕掛けは△6五歩となり、△四間飛車▲4五歩早仕掛けと似た展開になるが、先手が4六歩-3六歩を突いていること、後手が4二銀型で9筋を突き越していることがどう影響するか。 結論は、「横からの攻め合いになると、(手が進んでいるために上がった)▲4七金はマイナス」。先手が高美濃を生かすには、玉頭戦に持ち込む必要がある。▲4七金を省略して▲3七桂でも、後手の仕掛けは成立する。 第6章は、実戦的な▲8八飛。△7三桂のないときに▲8八飛と仕掛けをいったん封じるのが骨子だが、損得勘定は難しいとされる。 △棒銀で行けば、▲7八飛と戻ることになり、先手は丸々2手損。しかし9筋の端歩2手との交換になっている計算になり、損得微妙。 △7三銀〜△6五歩〜△6二銀で、手損で6五歩早仕掛けにスイッチする手法もあるが、20世紀は手損に対するアレルギーが強く、邪道感もあったようだ。 指す人は少なかったらしいが、富沢流も有力。△4二銀型で△3三角と上がり、△6五歩と仕掛けていく。 |
第7章は、△左6四銀戦法。有力だが、△四間飛車への急戦と比べて2手差があり、先手は▲3六歩〜▲4七金と高美濃を完成できる。ただし、これも損得は微妙で、例えば▲4七金型のため、△7六飛と走らせたときに▲6七金とする受けがない。そこで、▲4七金以外で後手の仕掛けを待つ手段として、▲9八香も検討される。 第8章は、山田流ライクの仕掛け。△7五歩▲同歩△6四銀の順で銀を出る。ただし、後の展開は対△四間飛車の山田流とはかなり違ってくる。 結論は、「△7五歩の仕掛け自体は成立するが、後手有利を立証するのは容易ではない」。 本書では、主に▲三間飛車への急戦策を検証してきたが、なかなか居飛車有利にはならないものの、仕掛ける手段はいくつかあるようだ。現代では、▲三間飛車への対応はほとんど居飛車穴熊になっているが、とにかく早く戦いにしたい人には急戦もオススメ。もしかしたら、三間飛車党の対急戦の経験値が不足気味の現代では、実戦的にはむしろ急戦の方が有効かもしれない…?(2016May21) ※誤字・誤植等(第一版第五刷で確認) p47下段 ×「第4図は、お互いに」 ○「第5図は、お互いに」 p82上段 ×「先手優勢なった」 ○「先手優勢となった」 |