zoom 積ん読二等兵さんthx! |
対決 <熱闘七番> | [総合評価] B 難易度:★★★☆ 図面:見開き2〜5枚 内容:(質)A(量)B レイアウト:B 解説:A 読みやすさ:B 上級〜有段向き |
||
【著 者】 谷川浩司 田中寅彦 | ||||
【出版社】 文芸春秋 | ||||
発行:1986年5月 | ISBN:4-16-340480-5 | |||
定価:980円 | 222ページ/19cm |
【本の内容】 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||
(棋譜監修:沢田多喜男) |
【レビュー】 |
クロスレビュー方式の自戦記。田中寅彦vs谷川浩司の実戦7局を掲載。 本書は『対決 <青春七番>』(1985.12)の続編で、「ライバル」と言われた田中と谷川の対局をそれぞれが別々に自戦記を書いたものである。前作には互いに低段時代のフレッシュな対局が含まれていたが、本書では谷川は名人、田中はB1からA級棋士とトップレベルの戦いになっている。また、田中vs谷川では初の公式戦三番勝負(全日プロ決勝)も含まれている。 レイアウトは、前作から下図の様に変更されている。 個人的には前作の三段組の方が読みやすかったのだが、本書の場合は谷川・田中のどちらか一方が、ある局面に対して集中的に解説をしている場合があり、図面に対して2つのレビューを上手く配置させるのが難しかったようだ。そのため、図面がすぐに見つからず、やや読みにくくなっているが、並べながら読むのであればさほど気にならないだろう。 各局を個別にレビューしてみよう。 〔第1局〕 △四間飛車vs▲居飛車穴熊 谷川が名人を奪取した後の、初めてのvs田中戦。連盟杯戦には名人は参加せず、若手で好成績の者が名人と記念対局を行う(優勝者ではない)。田中は決勝で米長に敗れたが、記念対局に選ばれた。 谷川は、田中との関係について、この時点では「升田vs大山」や「中原vs米長」のような存在になりたいと語っている。 本局は谷川の端角作戦が成功したが、△2六銀と歩を掠めたのが悪手。読み間違えたわけではなく、「飛交換は振飛車良し」という、思い込みによるもの。もちろん、対居飛穴では通用しない。この大局観の誤りが、田中の有名な発言「あのくらいで名人になる男もいる」(p18)につながっている。 この将棋は田中の受けの攻守もあり、谷川はそのまま押し切られた。谷川は「もう田中さんの居飛車穴熊と戦うことは止めにしよう」(p37)と敗北宣言。名人が白旗を揚げたのは非常に大きく、この後約10年間、振飛車は冬の時代に入ることになる。 〔第2局〕 相矢倉 公式戦で初めて、谷川が田中の居飛穴を避けた。意地の張り合いに勝利した田中は、気合がやや乗りすぎて「ブレーキをかけるべきところで私はアクセルを思いっきり踏んでしまった」(p52)と変調。△8三角の好角からペースを握っていたが、指し過ぎてしまった。 谷川はこれまで「田中の終盤は強い」と思っていたが、本局で「田中は終盤の競り合いに弱く、居飛穴はそれをカバーするため」と考えるようになった。 〔第3局〕 △急戦矢倉 谷川の急戦矢倉△5五歩交換型に対し、田中は▲5六金と力強く対抗。互いに微妙な疑問手・悪手連発の泥仕合、闇仕合が続いたが、最後は田中が制した。名局とはいえなくとも、「熱闘」の名にふさわしい一局だった。この頃の谷川-田中戦では、谷川の光速の寄せよりも、やや不利な状況での我慢のほうが際立っているように感じられる。 不思議なのは、p88「ヘ図」とp91「E図」が終盤の同じ変化なのだが、どちらも「自分が勝ち」と言っていること。終盤でこういうのは珍しい。 〔第4局〕 △陽動振飛車 全日プロの決勝三番勝負の決着局。谷川は振り駒で後手になった。対居飛穴も、対飛先不突き矢倉の後手番にも自信を持てない谷川は、△陽動振飛車を選択。 朝9時から(対局開始は10時)盤の前で1時間も気合注入していた田中にとっては、決着の一局で自分の得意を避けられ、拍子抜けした。一方、谷川の狙いは「作戦勝ちすれば、田中さんの十八番を回避して採用した「陽動振飛車」も「逃げ」ではなくなる」(p103)というもの。 しかし、田中はわずか3ヶ月前の順位戦で同じ形を経験済みで、あっさり優位に立つ。なのに、優勢を意識した途端、田中に震えが生じてしまう。前作からここまで11局ならべて思うのは、田中は完璧に勝とうとするあまり、踏み込みが甘くなるという悪い癖があったようだ。 将棋は終盤に二転三転するも、両者が「谷川勝ち」の雰囲気で進んでいて、田中は数回訪れた逆転ワザのチャンスをつかめなかった。 番勝負で谷川が勝ったことで、「谷川vs田中」はターニングポイントを迎えた。 〔第5局〕 相矢倉 三番勝負を制した後、谷川は絶好調。名人防衛戦第1局(vs森安)も快勝している。本局は、これまでの「田中がリードし、谷川が勝負手から追い込む」という構図から、「谷川の序盤構想に田中が対応する」という形に変わっている。 本局も二転三転の熱戦だった。戦型が相居飛車メインになり、玉型がほぼ互角になったことで、前作よりも接戦が増えたようだ。 〔第6局〕 相矢倉▲棒銀 名人を防衛して余裕が出た谷川は、田中の得意を受け止める心境になった。とはいえ、対居飛穴で勝てる気はしない。谷川は、田中の▲飛先不突き矢倉に△早囲いで対抗することにした。 終盤に谷川が錯覚から一手バッタリの悪手を指し、珍しい逆転負け。田中の終盤も見事だった。本局は将棋まつりの早指し戦だが、田中は時間がないときのほうが余計なことを考えず、強いのではないだろうか。 なお、p174下段で、田中が「序盤〜中盤で手が広く迷いそうなところ」での考え方を書いており、参考になる。 〔第7局〕 相矢倉▲2九飛 当時大流行の▲2九飛戦法で、後手の田中が「谷川新手△8四角」を踏襲。指した本人に答えを聞く、というやり方だ。谷川は、対中村戦の感想戦で中村が触れていた▲6八銀右を答として指したが、前進流の棋風に合っておらず、田中に攻めまくられて敗勢。だが、ここで谷川vs田中戦のパターンが出る。田中が勝ったと思った瞬間、緩んでしまうパターンだ。田中の「この将棋、後はマンガです」(p218上段)にもよく表れている。 本書の7局も一つの「ストーリー」になっているが、前作『対決 <青春七番>』の7局も併せ、14局で大きな流れのあるストーリーになる。ぜひ、「2巻セット」で楽しんでいただきたい。 本書の7局の結果は4-3で谷川リード、2冊の計14局では7-7の五分となったが、大事な対局はほとんど谷川が制している。力量にはほとんど差がなくても、何か見えない部分での差がつき始めた感じがする。 そして本書が出版された1986年度は、あの羽生善治がデビュー(四段昇段は1985年12月)しており、勝率1位を記録している。谷川の「ライバル」は、田中から羽生になっていくのである。 なお、前作の予告では、第二弾である本書は『<相剋七番>』になる予定だったらしい。「相剋」の意味は、「対立・矛盾する二つのものが互いに相手に勝とうと争うこと」(goo辞書−デジタル大辞泉)。なぜタイトルが変更されたかは不明。また、予定されていた第三弾は出版されていない。(2011Aug02) ※誤植・誤字等(第1刷で確認): p22下段 ×「▲2三飛から△2八飛成の方を選んだ。この△2八飛成…」 ○「▲2三飛から▲2八飛成の方を選んだ。この▲2八飛成…」 p58上段 ×「これには関心するより…」 ○「これには感心するより…」 p66下段 ×「平穏にコトを治める」 ○「平穏にコトを収める」 p68上段 ×「私の△5五同歩を見た時…」 ○「私の△5五同角を見た時…」 p94下段 ×「▲4九玉と逃げれば△3九金まで」 ○「▲4九玉と逃げれば△3九金打まで」 p102上段 ×「次に▲4四歩△同歩なら」 ○「次に▲4五歩△同歩から」 p128上段 ×「I図で△5八竜…」 ○「J図で△5八竜…」 p145C図 △9九馬(最終手)が太字ゴシックでない。 p149D図 △3三桂(最終手)が太字ゴシックでない。 p159 ×「G図は絶好の…」 ○「H図は絶好の…」 |