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NHK将棋シリーズ 天彦流 中盤戦術 「局面の推移」と「形勢」で読みとく |
[総合評価] A 難易度:★★★☆ 図面:見開き4枚 内容:(質)A(量)A レイアウト:A 解説:A 読みやすさ:A 中級〜有段向き |
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【著 者】 佐藤天彦 | ||||
【出版社】 NHK出版 | ||||
発行:2017年10月 | ISBN:978-4-14-016255-2 | |||
定価:1,404円(8%税込) | 256ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||||||||
◆内容紹介 |
【レビュー】 |
形勢判断をもとに、中盤の指し方を解説した本。2016年10月から2017年3月にEテレで放送された「将棋フォーカス」の講座を加筆・再構成したもの。 中盤の指し手の方針を決めるには、形勢判断が重要。局面が有利なのか、不利なのかを正確に判断することで、今後の指し手の方針を正しく決めることができる。逆に、形勢判断に誤りがあると、間違った方針で読みを進めてしまうことになり、勝ちにはつながらない。 形勢判断の本はこれまでにも何冊か出ており、判断の4要素である[駒の損得]、[駒の働き]、[玉の堅さ]、[手番]については本書も特に変わらない。ただし、本書では、解説手法や文章にこれまであまり見かけなかった新しい試み・表現が散りばめられている。 各章の内容を紹介していこう。新しい(または珍しい)試みの部分は、青太字で強調しておく。 第1章は、形勢判断。前述のように、形勢判断の4要素を比較して、有利/不利を把握していく。 ・駒の損得 有段者であれば、だいたい数秒以内で駒の損得を把握できるが、初級者にはなかなか難しい。本書では、初級者用に「駒の損得は、駒の配置を初期位置に戻して判断する」というのが新しい。 ・駒の働き [玉への密着度]、[駒の連結・連携]に加え、[争点の有無]を働きに加算しているのが割とレア。 ・玉の堅さ 代表的な囲いについて、堅さ・広さを評価してある。もちろん一長一短なので、例題で「状況に適した/適さない囲い」を選ぶ、という練習がある。 ・手番 手番の価値は中盤の進行度によって変わるが、本書では「実質的な手番」はどちらか、を練習する。これが意識的に書かれた本は今まであまりなかったと思う。有段者でも一瞬で見抜くのは難しく、普段から意識して練習しておくと良いだろう。 第2章は、中盤の序盤の考え方。 形勢判断の本では、これまで[序盤]、[中盤]、[終盤]、[最終盤]という局面の分け方をすることが多かったが、本書では、中盤を[中盤の序盤]、[中盤の中盤]、[中盤の終盤]とさらに細分化している。 本章の[中盤の序盤]は、駒がぶつかる直前から直後の領域。ここで注意すべきは以下の通り。 (1) 守備態勢を整える (2) 攻撃態勢を整える (3) 間合いを計る 他に、争点を作る/作らせない、など。自陣だけを見るのではなく、相手の駒運びとの相対関係に気を付けて駒組みしていく。自分の玉型、攻撃陣のどちらにも気を配り、仕掛けを成立させるための陣形西部も重要となる。 本章では、角換わりの難しい間合いの取り方も、分かりやすく説明できている。 第3章は、中盤の中盤の考え方。[中盤の中盤]では、駒がぶつかり、形勢に差が付き始める。ここからは題材にNHK杯の実戦譜を使用し、局面の状況把握と、方針(攻め、受け、攻守のバランス)の決め方を解説していく。1テーマあたり3p〜7pで、計9テーマ。 優勢な局面、ややつらい局面、茫洋とした局面からの指し方の例を参考に、考え方をしっかり学んでいこう。いつもいつも形勢が良くなるわけではないが、判断内容が言語化されまくっているので、必ず参考になるはず。 第4章は、中盤の終盤の考え方。[中盤の終盤]は、「終盤の入り口」と言い換えてもよく、成り駒ができている、持ち駒が豊富などの特徴がある。形勢に差が付いていることも多い。ここでは、寄せに行くかどうかの判断が必要になり、その判断基準が4つ提示されている。 (1) 攻めの種駒があるか (2) 持ち駒は豊富か (3) 自玉は堅いか (4) 敵玉は薄いか これらの条件がどれだけ満たされていれば寄せに行ってもよいか、または受けに回るのであれば「何に期待して受けるのか」(具体的には駒得、反撃、入玉など)を、4テーマ+例題3つ+実戦例7つで解説していく。 第5章は、苦しいときの考え方。「逆転術」ともいえる。 基本的な考え方は、以下の2つ。 (1) 長期戦を目指す ← 主張点を作るために手数がかかる (2) 勝負手を放つ これらを佐藤のNHK杯の実戦9局をテーマに解説していく。 この考え方自体は、これまでの勝負手・逆転術の本にも載っているものだが、NHK杯というアマの実戦に近い時間設定で解説されるのでリアリティが高い。また、佐藤が毎回逆転できているわけではないが、不利な時の考え方はとても参考になる。特に、p208の「受け駒の負担を軽減する」という表現は、これまで他書ではあまり見たことのないものだった。 第6章は、よいとき、互角のときの考え方。こちらも佐藤のNHK杯の実戦から4局。 形勢が互角以上なら自然に指せばよくなるが、以下の点には注意する必要がある。 ・形勢が良いときは、良さを維持するか拡大するか方針を決める。 ・形勢が互角のときは、局面の均衡を崩さないようにする。(無理に良くしようとしない) 暴発するクセがある人は、本章を注意深く読むとよいだろう。 全体として、形勢判断という難しいテーマに対して、非常に分かりやすく言語化されており、中級者から有段者まで、ほとんどの人が何らかの「目からウロコ」を感じるだろうと思う。 ただし、構成がわずかに「玉にキズ」。図面と文章のレイアウト自体は読みやすいが、テーマ図の強調や、欄外の記載(「第○章 △△△」などの表示)といった、他書で普通に行われている「構成の工夫」が不足しているため、「あれっ、いつ話(またはテーマ図)が切り替わったんだ?」となりやすい。また、「さっきの○○はどこだっけ」というときに、すぐに見つけにくい。講座として前から読んでいく分には特に問題ないが、繰り返しつまんで読みたいときに少しネックになる。 と、少しだけ惜しい点があるものの、内容については申し分ない。幅広い棋力の人に読んでほしい一冊だ。そして各々に「気づき」を得てほしいと思う。(2017Oct22) |