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■シリコンバレーから将棋を観る−羽生善治と現代

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シリコンバレーから将棋を観る−羽生善治と現代
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シリコンバレーから将棋を観る
─羽生善治と現代
[総合評価] B

難易度:★★★☆

図面:-
内容:(質)A(量)B
レイアウト:A
読みやすさ:A
観戦メインの将棋ファン向き

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【著 者】 梅田望夫
【出版社】 中央公論新社
発行:2009年4月 ISBN:978-4-12-004028-3
定価:1,365円(5%税込) 296ページ/19cm


【本の内容】
第1章 羽生善治と
「変わりゆく現代将棋」
変わりゆく現代将棋/予定調和を廃す緊張感/将棋の世界に革命を起こす/盤上の自由/イノベーションを封じる村社会的言説/将棋の未来の創造/オールラウンドプレイヤー思想/知のオープン化と勝つことの両立/高速道路とその先の大渋滞/将棋界は社会現象を先取りした実験場/ビジョナリー・羽生善治/二〇〇八年、ベストを尽くす  
第2章 佐藤康光の孤高の脳
―棋聖戦観戦記
桂の佐藤棋聖、銀の羽生挑戦者/羽生挑戦者「秘策」に誘導か/未踏領域に突入、「均衡の美」をタイトル保持者が解説/「孤高の脳」が生む無限の広がり/「真理」を探求する対局者、終局後の「至福の時間」  
第3章 将棋を観る楽しみ ネットの優位を活かす人体実験/「修業ですから!」/「将棋を指す」と「将棋を観る」/将棋を語る豊潤な言葉を/一局の将棋のとてつもなく深い世界/ネットと将棋普及の接点/出でよ! 平成の金子金五郎/金子の啓蒙精神/「現代将棋にも金子先生が必要です」  
第4章 棋士の魅力
―深浦康市の社会性
「喧嘩したら勝つと思うよ」/サンフランシスコの棋士たち/深浦康市の郷里・佐世保への思い/安易な結論付けを拒む「気」を発する対局者/現代将棋を牽引する同志/二つのテーブル/人生の大きな大きな勝負  
第5章 パリで生まれた芸術
―竜王戦観戦記
正しいことが正しく行われている街で/人間が人間と戦う将棋の面白さ/F1と装甲車/昼食休憩、佐藤康光棋王の局面解説/渡辺と羽生、24歳のパリ/みなぎる精気、匂い立つ成熟/羽生世代の信頼関係/繰り返す「青と壮」の戦い/自信に満ちた手つきの真意は?/記録係・中村太地四段の目/昼食休憩、米長邦雄会長の局面解説/佐藤康光棋王、現代将棋を語る/羽生名人、大局観の勝利  
第6章 機会の窓を活かした渡辺明 終局後、パリのカフェで/「立て直せる時間があるかもしれない」/羽生王座への祝辞、十七年という長さ/「勝負の鬼」が選んだ急戦矢倉/若き竜王に大きく開いた「機会の窓」/初代永世竜王への祝辞、将棋グローバル化元年/少しでも進歩しようとすること  
第7章 対談
―羽生善治×梅田望夫
リアルタイム観戦記と「観る楽しみ」のゆくえ/揺れ動き続ける局面と、均衡の美/羅針盤のきかない現代将棋の世界/対局者同士が考えていること/雲を掴むように、答えのない問題を考え続ける/人は、人にこそ、魅せられる/けものみちの時代、「野性」で価値を探していく/「相手の悪手に嫌な顔をする」真意は?/盤上で、すべてを共有できるという特性/進化のプロセスを解析する研究者たち/コンピュータとともに未来の将棋を考える/指す者と、観る者の、これから  

◆内容紹介
予測不能な未来を前に我々はいかに生き抜くべきか。『ウェブ進化論』著者が真理を求める棋士たちの姿に見出した「超一流の方程式」!

梅田望夫ブログ「My Life Between Silicon Valley and Japan」の紹介エントリー さらに詳しい紹介エントリー


【レビュー】
将棋“観戦”の魅力を書き記した本。

わたしは将棋ファンである。より具体的に言えば、「自分で将棋を指し、プロ将棋を観戦し、棋書を読む」ことを趣味とする将棋ファンである。

例えば履歴書の趣味欄に将棋と書けば、あるいは自己紹介で「趣味は将棋です」といえば、あまり関心のない人の反応は「ふーん」。関心は薄いが比較的将棋に好意的な人からは「頭良さそうですね」、悪印象を持っている人からは「はぁ?! 将棋?」、そして将棋を指す人からは「どれくらい指すんですか(棋力はどれくらいですか)」と訊かれる。

一方、「(人とは)指さない将棋ファン」というのが確かに存在する。わたしの周りでは、新聞の将棋欄は毎朝欠かさず見る人、日曜日のNHK杯だけは見ている人(加藤一二三の頭が映って盤面が見えない、などよく知っている)、将棋ソフトとはよく指す人など、さまざまに将棋を楽しんでいる。しかし彼らの多くは「将棋が趣味です」とは言えないでいる。

それはなぜか? たいていの場合は棋力がコンプレックスにある。「今度指しましょうか」というのは棋力に自信のある側が言うことがほとんどだし、強さを基準とする世界では発言しにくい。逆に関心の薄い人からは、上記のような反応しか返ってこないため、意識を共有できる人がなかなか周りにいない。だから「将棋が趣味です」とは言いづらいのだろう。

本書は、そのような人たちに対して、「堂々と“指さない将棋ファン”を宣言する」ことを提案する本である。「(実戦の棋力が低くても)将棋観戦を楽しむ」「趣味は“将棋”ではなく、“将棋観戦”です」というのが趣旨で、渡辺明が『頭脳勝負 ─将棋の世界』(筑摩書房,2007)で述べた「野球やサッカーを見るように、(自分ができなくても)無責任に楽しんでほしい」という提言に呼応するかのようである。

……実は、本書の趣旨である「指さない将棋ファン宣言」については、まえがき数ページの中でほぼ完結している。本編のほとんど(第7章の対談を除いて)は、「指さない将棋ファンが羽生論を語るとこうなりました」「指さない将棋ファンが観戦記を書くとこうなりました」というものである。

本編について、少し解説と感想を。

●第1章 羽生善治と「変わりゆく現代将棋」
「変わりゆく現代将棋」というのは、羽生が「将棋世界」で1997年7月号から3年半連載していた講座の名前。内容は「矢倉の5手目の最善は▲7七銀か▲6六歩か(または3手目▲7八金)」を追求するもので、それぞれその後の展開がどうなるかを研究していく。

梅田は、羽生が名人戦で矢倉を指さなかったことで盤上の自由を解放したこと(タイトル戦では格調高い矢倉を指すものだ、という暗黙の圧力を取り払った)、そして「変わりゆく〜」で極序盤に至るまで最善を追求する姿勢を示したことで、現在の「従来では考えられなかった戦法」が興隆してきた、と論じている。

わたし個人としては、プロ将棋で盤上の自由を解放したのは林葉直子だと思っている。彼女は初手▲8六歩以外のあらゆる歩突きを試したし、藤井システムやスーパー四間飛車の原型ともいえる構想も放っている。

●第2章 佐藤康光の孤高の脳―棋聖戦観戦記
2008年7月17日、第79期棋聖戦第5局(佐藤康光vs羽生善治)のウェブ観戦記。「文字数無制限」と「ほぼリアルタイム更新」という、ウェブの特徴を存分に生かした渾身の文章だ。現在のところ、同じ文章が下記URLで見られる。

 ・棋聖戦中継plus: 梅田望夫氏、棋聖戦第5局リアルタイム観戦記

文人が観戦記を書くと、対局室の迫力に耐えられず控え室にこもっていたり、将棋のことをあまり書かずに自分の文章に酔っていたり、「分からない」を連発したりと、あまり良いイメージがないのだが、梅田は持てる限りの資料を事前に準備し、控え室のプロの解説を可能な限り理解しようとし、対局者の表情をしっかりと見つめた。好みにもよるだろうが、わたしには好感度高しだった。

●第3章 将棋を観る楽しみ
前半は第2章(棋聖戦観戦記)の後日談。後半は「現代にも“金子金五郎”が出現してほしい」という主張(というより願望)。金子は戦後まもなく棋士を引退した後、難しいプロ将棋をファンにできる限り分かりやすく伝えようとした人物であり、梅田は金子の大ファンである。

●第4章 棋士の魅力―深浦康市の社会性
深浦論。九州出身で地元の期待を背負っている深浦は、都会(の近く)で生まれた羽生や佐藤康とはちょっと違うという話。

●第5章 パリで生まれた芸術―竜王戦観戦記
2008年10月18日〜19日、第21期竜王戦第1局(渡辺明vs羽生善治)のウェブ観戦記。現在のところ、同じ文章が下記URLで見られる。

 ・竜王戦中継plus: 梅田望夫氏、竜王戦第1局を語る

●第6章 機会の窓を活かした渡辺明
第5章(竜王戦観戦記)の後日談と、渡辺論。渡辺が初代永世竜王・3連敗後の4連勝・羽生の永世七冠阻止などさまざまなものが懸かった第7局を制したことについて「めったに訪れないチャンス(=機会の窓)を活かした」と語る。

●第7章 対談―羽生善治×梅田望夫
羽生と梅田は旧知の仲なので、非常にスムーズで自然な対談だった。羽生はいろいろな人と対談しているが、この梅田との対談では羽生はかなり嬉々としている感じがする。梅田の「リアルタイムWeb観戦記」という試みに対して、次に続く人がいないこと、特にプロの観戦記者が「やっぱり梅田さんは一味違うね」で終わってしまっているのをとても憂えていた。

全体的に、さまざまな文献から大量の引用をし(もちろん引用元は記載あり)、それに対して持論を展開していくパターンで、かなりブログ的な文章だと思う。わたしは自分でも指すファンであるが、かなりの部分は梅田と同じような楽しみ方をしているので、共感できる部分は多かった。

客観的に見た内容としては評価Bとしておくが、「指さない将棋ファン宣言」という新しい(というよりも今まで隠れていたor大っぴらに言えなかった)ファン像を具現化した功績は、将棋の歴史上、非常に大きなものとなるのではないだろうか。(2009Sep05)


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BOOK:asahi.com
nikkei BPnet (日経BPネット)
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【関連書籍】

[ジャンル] 
棋士分析
[シリーズ] 
[著者] 
梅田望夫
[発行年] 
2009年

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