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■第68期将棋名人戦七番勝負全記録

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第68期将棋名人戦七番勝負全記録
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第68期将棋名人戦七番勝負全記録
羽生、2度目の3連覇
[総合評価] C

難易度:★★★★

図面:見開き2枚
内容:(質)B(量)C
レイアウト:A
解説:A
読みやすさ:A
上級〜向き

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【編】 朝日新聞文化グループ
【出版社】 朝日新聞出版
発行:2010年8月 ISBN:978-4-02-100185-7
定価:1,575円(5%税込) 239ページ/19cm


【本の内容】
【名人】羽生善治(防衛) 【挑戦者】三浦弘行

・【対戦者の横顔と七番勝負への抱負】第68期A級リーグ表/「節目の年、正攻法で」(羽生善治)/「読み切って指したい」(三浦弘行)/「研究合戦、終盤勝負か」(藤井猛)/「飛車のゆくえ楽しみ」(里見香奈)/戦型は様々、近年は羽生連勝/将棋名人戦、きょう開幕/充実の2人、健闘誓う/将棋名人戦、対局始まる
 

先−後

戦型 観戦記  
第1局 ●三浦−羽生○ 横歩取り△8五飛▲角交換桂跳ね型 小暮克洋 28p
第2局 ○羽生−三浦○ 横歩取り△8五飛▲新山ア流 村上耕司 26p
第3局 ●三浦−羽生○ 横歩取り△8四飛 大川慎太郎 30p
第4局 ○羽生−三浦● △ウソ矢倉 鈴木宏彦 32p

・名人戦を振り返って
 決着時の朝日新聞記事から=8p
 羽生名人「たくさんの熱意、ひしひしと」 通算7期目就位式=2p
 「地をはうように粘り強く」─防衛決めた羽生名人にきく=26p
  (予想通りの横歩取り/最後まで分からなかった/勝てたのは幸運だった/持ち時間の9時間は短かった/名人戦は1局勝つのも大変/思考固まらぬよう生活変える)
・【特別収載】第68期将棋名人戦順位戦A級特選譜
 1回戦 井上慶太八段−三浦弘行八段=12p
 8回戦 三浦弘行八段−谷川浩司九段=12p
 9回戦 郷田真隆九段−三浦弘行八段=12p
・【名人対談】棋界背負う決意
 将棋・羽生善治名人vs.囲碁・井山裕太名人=12p
 (トップで居続けたい/分からないときは好き嫌いで判断/時々に合わせて一生懸命に/伝統を次世代につなぐ責任)
・将棋名人戦・過去の成績=2p

◆内容紹介
羽生の広さvs.三浦の深さ。究極の読み比べ対決。


【レビュー】
第68期名人戦七番勝負の観戦記・朝日新聞社版。

今期の挑戦者は三浦。約15年前の1996年に「羽生七冠の一角(棋聖)を崩した男」として知られている。また、一日の研究時間が10時間とも12時間とも言われるほど研究熱心。しかし、藤井らの見立てによれば、「相手の研究にハマって負けないように研究しているのであり、三浦は実際は終盤型」とのこと(さらに藤井は「そこが自分と違うところ」とやや自虐的なコメントも(笑))。

一方、迎え撃つ羽生は、言わずと知れたオールラウンダーで、相手の研究を避けることは少ない。よって、今期は横歩取りを中心としたシリーズになった。

第1局は横歩取り△8五飛に▲角交換桂跳ね型。高橋本(『最新の8五飛戦法』(2009.12))に載っているのとは似て非なる形で、▲2六飛△6二銀の交換を入れてから角交換〜▲7七桂とするため、△8四飛のあとの△2四飛のゆさぶりがない。2010年前半の流行形である。結果は羽生の逆転勝ち。

p43の三浦のエピソードが面白い。対局で使用された駒が「宗歩好み」という書体で、よく使われる「水無瀬」や「錦旗」と多少違うため(注:「宗歩好み」は比較的オーソドックスに近い書体だが、“双玉”なのが特徴)、一枚一枚裏返して確認したという。それだけでなく、玉や金の裏(もちろん真っ白)も見たくなったが、周りの視線が気になってやめたという…(笑)

第2局は横歩取り△8五飛vs▲新山ア流。対△8五飛のエース級だ。羽生の封じ手からの鋭い切り込み、▲6一龍の「ギヤチェンジ」、控え室の誰も読めなかった▲5三歩など、羽生の力が存分に発揮された一局。しかし全体的には羽生の方がやや苦しめであったという。

第3局は横歩取り△8四飛。局面に対する認識が、控え室・検討陣と対局者の間で大きくズレていた。シリーズ全体に見られる傾向ではあったが、本局では特に顕著。終盤、互いに1分将棋の中、羽生の悪手で逆転したが、三浦は寄せ切れず、秒を59まで読まれて指すことができずに投了した。しかし投了図では、まだまだ混戦になる余地があった。記録には残らないが、実質的には珍しい「時間切れ負け」に近い状態である。

p88でまたも三浦の面白エピソード。虫嫌いの三浦が、対局室に侵入してきたアリを退治するかどうか葛藤したという。TV中継を気にしたらしい。結局、そっと払いのけたらしい。

第4局は、意外な△ウソ矢倉。タイトル戦での登場は珍しい。序盤はある程度定跡化している部分はあるが、通常は手将棋ぎみになるところ。羽生の感想として「初めて見る局面なのに、こんなところにまで相手の研究は行き届いているんだと思った」(p122)そうだ。三浦の研究の深さを表すエピソードである。

本局も非常に難解で、終盤で控え室と対局者の見解が異なる展開が続いていた。

結果として、羽生が4連勝で防衛したが、序中盤は三浦が優位に進める展開が多く、また終盤で形勢の針が大きく揺れ動くことも何度もあった。このスコアはやや意外でもある。


七番勝負の観戦記以外の部分について。前年と違うところは、
 ・各局観戦記のあとに、モノクロ写真が掲載されている。(第1〜3局=各4p、第4局=5p)
 ・七番勝負が4局で終わってしまったので、挑戦者・三浦のA級順位戦の観戦記を掲載。
 ・囲碁の井山名人と「名人対談」
など。モノクロ写真は、観戦記の情景をかなり補完してくれるので、非常に良いと思う。来期以降も継続してほしい。

ただ、新聞記事の写真が載っているのは良いが、字の周囲にかなりのモスキートノイズが発生した状態で載っている。おそらく、編集者が写真(スキャン画像?)を保存画質70〜80程度のJPG形式で保存してしまっているのだろう。単行本の写真としては、やや見苦しい状態になっているので、来期はもう少し改善してほしい。JPGでも保存画質95くらいにすればよい。

防衛後の名人へのロングインタビューは、今回も充実していて良い。羽生がいろいろ読みを明かしてくれるのは◎。

また、特別収載として、囲碁の井山名人(20歳!)との対談が掲載されている。対談は2009年12月11日なので、七番勝負とは直接関係はない。トップから見た囲碁と将棋の違いがメイン。似て非なる分野との交流は良いものだ。内容は次のとおり。

棋士にとって若さとは?/次の手を決めるとき、どこまで論理的で、どこから勘?/師匠との関係/研究会/短い持時間と2日制の差/封じ手/長く続けるためのモチベーションの保ち方/緊張/名人の責任/囲碁・将棋の魅力の伝え方

少し前まで、「名人戦観戦記の本は、内容の割には値段が高い」という印象があったが、少しずつ内容が良くなっているし、他の技術書(定跡書や次の一手問題集)の値段が上がってきたこともあり(我々ファンにとってあまり嬉しいことではないのだが…)、かなり適正価格に近づいているように思う。といいつつ、まだBを差し上げてませんけど。(2010Dec07)



【関連書籍】

[ジャンル] 
名人戦観戦記
[シリーズ] 
[著者] 
朝日新聞文化グループ
[発行年] 
2010年

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