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■早指しのコツ 〜秒読みで負けない感覚と技術〜

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早指しのコツ 〜秒読みで負けない感覚と技術〜
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マイナビ将棋BOOKS
早指しのコツ
〜秒読みで負けない感覚と技術〜
[総合評価]
B

難易度:★★★★

図面:見開き4枚
内容:(質)B+(量)B+
レイアウト:A
解説:B+
読みやすさ:A
上級〜有段向き

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【著 者】 木村孝太郎
【出版社】 マイナビ出版
発行:2021年8月 ISBN:978-4-8399-7673-6
定価:1,694円(10%税込) 224ページ/19cm


【本の内容】
序章 早指し将棋の方針 ・早指し戦での4つのポイント
Point1 自玉・相手玉の急所の見極め
Point2 主張点を生かす
Point3 時間責め
Point4 攻守に緩急をつける
4p
第1章 中盤編 Case1 相手の手を殺す
Case2 手厚い陣形を築く
Case3 主張を見つける
Case4 意表の手順で時間責め
・まとめ
44p
第2章 終盤編 Case1 王手のかからない形を作る
Case2 手番を握る
Case3 成功形をイメージして逆算
Case4 逆転を狙うには中段玉や入玉
Case5 とりあえず端攻め
Case6 大駒を活躍させる
Case7 攻守に緩急をつける
・まとめ
64p
第3章 実戦編 第1局 第27期銀河戦Gブロック1回戦 ▲木村孝太郎△斎藤明日斗四段
第2局  〃 2回戦 ▲中座真七段△木村孝太郎
第3局  〃 3回戦 ▲佐藤和俊六段△木村孝太郎
第4局  〃 4回戦 ▲木村孝太郎△長沼洋七段
第5局  〃 5回戦 ▲木村孝太郎△増田康宏六段
52p
第4章 序盤編 ・オリジナル戦法の基本方針
第1節 対速攻棒銀
第2節 △8五飛型
第3節 △8四飛型+中住まい
第4節 矢倉型
60p

・【コラム】 私の最近の趣味嗜好

◆内容紹介
1手〇秒、〇分切れ負け、またはフィッシャールール。普段はネット将棋を中心に、早指しの将棋に慣れ親しんでいる方は多いはず。早指し将棋は手軽に何局も指せるので、人気があります。

しかし、最後まで何があるか分からないのが早指し将棋の怖いところです。時間切迫による逆転負けは、誰しも経験があるのではないでしょうか。はたして、短時間でも局面をまとめる指し方とは―。

本書は、早指し将棋での戦い方を解説した戦術書です。定跡書とは違い、秒読みでの思考や実戦心理を踏まえた指し方を中心に紹介します。

著者は、第27期銀河戦でプロに4連勝した実績をもつ、木村孝太郎アマです。アマ棋界屈指の強豪が伝授する、早指しで負けないコツを習得してください。


【レビュー】
早指し将棋のコツ、中終盤の逆転術、木村孝太郎流相掛かりを解説した本。

木村孝太郎アマは、2018年度の銀河戦でプロを相手に4連勝を記録した。銀河戦は早指し棋戦であるが、木村アマのオリジナル戦法がプロを惑わせ(?)、また優れた勝負術で、若手・中堅・ベテランを撃破している。

本書は、木村アマの銀河戦の将棋5局などを題材としながら、木村流の早指しでの戦い方を解説した本である。


各章の内容を簡単に紹介していこう。第4章のみチャートを添えておく。



序章は、「早指し将棋の方針」
早指し将棋では、序盤のリードを維持したまま勝ち切るのは難しく、中終盤でいかに優位を拡大するか、または巻き返せるかが重要となる。
形勢によって方針は変わるが、早指しで押さえるべきポイントは4つ。

(1)自玉・相手玉の急所を見極める
 −自玉の嫌味を消し、王手がかかりにくい形を作る
 −相手玉への手がかりを作っておく
(2)主張点を生かす
 −玉の堅さ、手厚い陣形など
(3)時間責め
 −相手より1〜2分早く、決断よく指す
 −相手の読み筋にない手順や変化を入れる
(4)攻守に緩急をつける
 −攻めと受けを交互に、複雑な手を指す
 −悪手を誘発させる

具体的には、第2章・第3章で解説する。



第1章は、「中盤編」
著者の実戦を題材に、中盤で意識すべき考え方を解説する。

(1)相手の手を殺す
やや優勢の局面で、自陣にキズがあるが、攻めても勝てそうな局面の考え方。
攻め倒せるかどうか分からない局面では、離れ駒をなくし、自陣を引き締めて、キズをなくすのが良い。
自陣が堅ければ、大駒を切りやすい。
分かりやすい局面にすれば、逆転負けをしにくい。

(2)手厚い陣形を築く
自玉周辺の傷を消すとともに、自玉周辺に金銀を配置する。
手厚く、負けにくい手となりやすい。
ときには入玉を考えたいが、その場合は方針を一貫すべし。途中で攻めに転じると失敗しやすい。

(3)主張を見つける
形勢が良くないときには、自分が相手より優っている主張点を生かすように指したい。
玉の堅さを頼りに暴れる、玉の耐久力をさらに上げて長期戦に持ち込む、など。

(4)意表の手順で時間責め
相手が予想していない手を事前に考えておき、ノータイムで指して、相手に考えさせる。
意表を衝く手は、複数の意味を持つ攻防手であるのが望ましい。最善手でなくてもよい。



第2章は、「終盤戦」
第1章と同様に、著者の実戦を題材に、終盤で意識すべき考え方を解説する。
特に、自玉を安全にする技術についての解説が多い。

(1)王手のかからない形を作る
自玉を追う手のかからない形にすることで、逆転負けを減らすことができる。
また、対抗形では手に困ったら端攻めをすると、対応を間違えさせやすい。

(2)手番を握る
「終盤は駒の損得より手番」。
相手の攻め駒を空振りさせたり、攻めの起点の駒を食いちぎったりして、手番を握りたい。
穴熊崩しには、大駒を切る手を考えたい。相手の受けるスペースを消すように小駒を貼り付けよう。

(3)成功形をイメージして逆算
攻めも受けも見当たらず、主張点もないときの考え方。
自分勝手でもいいので、逆転の最終形をイメージして、それが実現できるように逆算する。
また、攻め駒を相手陣へ向かわせ、少しでも敵の玉型を乱しておきたい。

(4)逆転を狙うには中段玉や入玉
玉の位置が高いと寄せにくく、読みづらい。

(5)とりあえず端攻め
端攻めは玉の周辺での戦いになるため、アヤを付けやすく、間違えさせやすい。
玉頭攻めも逆転の起点になりやすい。
複数の筋を攻めると、受けが複雑になって間違えさせやすい。

なお、自分の立場では、間違いに気づいても気持ちを切らさず、すぐに切り替えたい。

(6)大駒を活躍させる
遊んでいる大駒を働かせる手を考えたり、大駒を四方に利く位置を探したりするのが良い。

なお、受けてもキリがないときは、開き直って攻め合う。

(7)攻守に緩急をつける
逆転を狙うには攻め形を作る必要がある。
ただし、攻めだけでは相手も受けのことだけを考えればよいので、受けも交えて、相手の読む変化の量を増やすことが逆転につながる。

また、形勢が悪いときは秒読みでもノータイムで指すことを推奨。(ただし、読み抜けて相手に決定打を与えるリスクもある)



第3章は、「実戦編」
アマ代表として出場した第27期銀河戦(2018年)で4連勝したときの実戦譜(5戦目の敗局も含めて)を自戦記形式で解説する。

(1)vs斎藤明日斗四段戦
相掛かり模様の力戦。飛車先を急がずに保留し、▲7八金〜▲6八銀と上がって角の退路を確保して、▲5六歩から右銀を繰り出す。

・戦いが始まったら、大駒の利きを通しておく。
・終盤戦は、「金を取るゲーム」である。特に玉にいちばん近い金銀を取りに行くのが最短の寄せになりやすい。

(2)vs中座真七段戦
相掛かり模様の力戦。1局目の後手バージョン。
角頭に歩を打たせて、後にその歩を取りに行き、激しい駒交換を避けてじっくりと陣形を発展させ、手厚くジワジワと優勢を拡大させる展開。

・相手の大駒の利きを遮断することを意識する。
・最終盤は常に勝負どころという気持ちで臨みたい。

(3)vs佐藤和俊六段戦
▲中飛車vs△一直線穴熊。
▲5七銀の瞬間に△5一銀が著者の工夫。里見流のような速攻を封じて序盤戦を乗り切る。

(4)vs長沼洋七段戦
▲一直線銀冠vs△三間飛車穴熊。

・戦いが始まる前に大駒の道を通しておく。タイミングに注意。
・秒読みで相手に迷ってもらうような「おまじないの歩」を垂らす。

(5)vs増田康宏六段戦
相掛かり模様の力戦。

・形勢が悪くても、手厚い陣形を築いてチャンスを窺う。



第4章は、「序盤編」
著者の銀河戦4連勝の原動力となったオリジナル戦法(「木村孝太郎流」)を解説する。
ある意味、本書のメインコンテンツは本章となる。


・相掛かり模様でスタート。
・飛先の歩を▲2六歩で保留し、▲4八銀〜▲7八金〜▲6八銀〜▲5六歩と指す。
・後手に先に飛先交換させる。
−▲6八銀の効果で、後手の飛先交換のときに▲8七歩の一手ではなく、▲5七銀右と5筋の歩を守る手が間に合う。
−△8七歩には対策がある。
∴基本的思想として、相手に飛先交換をさせ、自分は駒組みでリードするか、先に仕掛ける展開を目指そうとする作戦。


(1)対速攻棒銀
後手が飛先交換後、一目散に棒銀に来る場合。
先手の受け方は、▲6六歩と▲6六銀がある。

・▲6六歩の場合、銀交換されて横歩も取られるが、先手陣の上部を厚くして、先手から積極的に動く展開になる。
・▲6六銀の場合も銀交換されるが、先に好位置に駒を配置できるため、先手がやや指しやすい。
∴先手は銀交換を甘受しても、駒組みで優位に立つことができる。


(2)△8五飛型
後手が△8五飛と引いて、▲3五歩の仕掛けを封じる手。
著者のイメージでは出現率がもっとも高い。

・自陣は▲6九玉でいったん完成とする。あとは攻める。
−低い陣形を活かし、飛車切りも視野に入れる。
・攻めは、▲4六銀からの速攻か、▲5五歩〜▲5六銀でじっくり指すか。

・▲4六銀は△4五歩で追い返されてしまうが、角交換後に飛先交換し、一歩持って▲3五歩△同歩▲1六角が成立しそう。
−△8五飛型には、好タイミングで▲7七桂で飛を追う手がある。

・▲5五歩〜▲5六銀は、駒組みを進める。
−自玉は▲7九玉まで囲い、低く深くしておく。
−仕掛け筋は▲4五歩〜▲3五歩〜▲1五歩〜▲4五桂。
−相手が右玉にしてきた場合は、玉頭を盛り上げてプレッシャーをかけていく。


(3)△8四飛型+中住まい
△8四飛型は、▲7七桂に当たらないことと、飛を横に使いやすいのが後手のメリット。
ただし、▲6六角が飛に当たる。

・後手が△7五歩として先手の角の活用を抑えてくる筋がある。
−放っておくと棒銀で突破されるので、反発する。
−棒銀を受け切れないときは、他のところで反撃できる順を考えたい。


(4)矢倉型
後手が矢倉に組んできた場合、先手は雁木に組むか、仕掛けを狙う。



〔総評〕
タイトルは「早指し将棋のコツ」であるが、内容の全てが早指しに特化しているという訳ではない。どちらかといえば「木村孝太郎流の将棋のコツ」といった方が合っているだろう。

早指し将棋での指針や、逆転の考え方などは、アマにとって参考になる内容が多いが、初めて聞くものは少なく、従来の早指し本や逆転術の本などでも見られた記述が多い。これまでに早指し本・逆転術の本を読んだことのない人は一読の価値はあるだろう。

本書のメインコンテンツは、第4章の「木村孝太郎流・相掛かり」だと思う。第3章の5局のうち3局がこの実戦解説となる。

相掛かりなのに飛先の歩を保留し、駒組みを急いで模様勝ちを狙うという考え方は、英春流とやや似た思想を持つが、堅陣を作り上げるというよりは、攻めの主導権を得ようとしているイメージで、面白い作戦だと思う。

自分で使いこなすのはなかなか難しいかもしれないが、これをやられたときに初見だとかなり困ってしまうと思うので、相掛かりを指す人は読んでおくべき一冊。

(2021Sep09)


※誤字・誤植等(初版第1刷・電子版ver1.00で確認):
p84下段 ×「後手勝ちの局面だが、気付けなかった。」 ○「後手勝ちの局面だが、気付けなかった。」
p123上段 ×「先手は陣形の発展が望めないこと対して、…」 ○「先手は陣形の発展が望めないことに対して、…」
p190上段 ×「第16図以下の指し手@」 ○「第16図以下の指し手」 ※A以降はない。



【関連書籍】

[ジャンル] 逆転術
[シリーズ] マイナビ将棋BOOKS
[著者] 木村孝太郎
[発行年] 2021年

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