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■斬り合いで勝つ!深浦の居飛車穴熊

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斬り合いで勝つ!深浦の居飛車穴熊
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マイナビ将棋BOOKS
斬り合いで勝つ!深浦の居飛車穴熊
[総合評価]
B+

難易度:★★★★

図面:見開き4枚
内容:(質)A(量)B+
レイアウト:A
解説:A
読みやすさ:A
上級〜有段向き

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【著 者】 深浦康市
【出版社】 マイナビ出版
発行:2021年1月 ISBN:978-4-8399-7524-1
定価:1,694円(10%税込) 224ページ/19cm


【本の内容】
【構成】 高野悟志

・はじめに 「講座に入る前に知っておいてほしいこと」=2p
第1章 対四間飛車 テーマ1 対四間飛車の基本形
テーマ2 ▲7八金-△9五歩型
テーマ3 後手△6三歩型
テーマ4 後手△4四銀型
テーマ5 対△4四銀型 先手の工夫
テーマ6 後手△3二銀-△4五歩型
テーマ7 後手△3二銀-△5四歩型
テーマ8 後手△3二銀〜△4三銀型
テーマ9 △5四銀型、後手番の場合
テーマ10 △4四銀型、後手番の場合
108p
第2章 対三間飛車 テーマ1 対三間飛車の基本形
テーマ2 ▲5七銀-▲5八金を決めた形
テーマ3 対コーヤン流三間飛車
テーマ4 対先手三間飛車
テーマ5 対トマホーク急戦編
テーマ6 対トマホーク持久戦編
64p
第3章 相穴熊 第1節 対四間飛車穴熊
 テーマ1 オーソドックスな形
 テーマ2 △9五歩型相穴熊
第2節 対三間飛車穴熊
 テーマ1 先手の勝ちパターン
 テーマ2 後手の早い動きには
 テーマ3 最新の▲5八金型
40p
  深浦の会心譜 (1)対四間飛車△4三銀型 vs井出隼平四段(2019.11.29)
(2)対四間飛車△3二銀型 vs藤井猛四段(1992.06.01)
(3)対先手三間飛車 vs小倉久史五段(1995.09.19)
(4)対四間飛車穴熊 vs中田功六段(1999.01.12)
4p

・【コラム】(1)弟子 (2)おうち時間

◆内容紹介
本書は深浦康市九段による居飛車穴熊の戦術書で、相手は四間飛車と三間飛車です。

まずは基本的な形で居飛車の狙いを示したあと、少しずつ形を変えたテーマ図を掲げて、それぞれの攻略方法について伝授してくれました。

序文で深浦九段は「当初は堅くて戦場から遠いという2大要素が売りだった居飛車穴熊も、現代将棋ではプラスαが必要になってきた」と述べています。

確かに現在は「堅さよりバランス」という風潮があり、しかも「トマホーク」の出現など振り飛車の指し方も進歩してきました。

強力な居飛車穴熊とはいえ、固めているだけではなかなか有利にはなりません。 戦型ごとに生じる細かなポイントを理解して、積極的に戦う意識が必要になっているのでしょう。

また最終章では、アマチュアに人気の相穴熊についても四間飛車と三間飛車に分けて紹介しています。

本書を読んで、振り飛車に勝つ楽しさを味わってください。


【レビュー】
居飛車穴熊の戦術書。

平成時代の約30年間、対抗形は居飛車穴熊を中心に回っていた。居飛車穴熊は「堅さ」と「遠さ」を生かして、通常なら無理な攻めでも通ることが多く、高勝率を上げていた。振り飛車側は、居飛車穴熊にどう対抗するか模索を続けてきた。「堅さは正義」の時代が長く続いた。

しかし、AIが強くなるとともに、居飛穴の評価も変わり、現在では、「角交換」や「堅さに反した金銀の動き」といった「プラスα」も必要になってきた。また、トマホークなどの対抗策が見つかったことで、居飛穴側も従来と駒組みの手順を変える必要に迫られ、その影響で三間飛車の地位がかなり向上している。

本書は、ノーマル四間飛車と三間飛車に対して、従来からの居飛穴の戦い方に加え、現代的な考え方を融合させた「居飛車穴熊マスター版」という位置づけで、居飛穴の戦い方を解説する本である。


各章・各節の冒頭には、よくある局面としてテーマ図が掲げられ、そこからの有力な手順を検討する。一部のテーマ図は初手からの手順が載っているが、大半のテーマ図では手順は割愛されている。


各章・各節の内容を、チャートを添えながら紹介していこう。



本編の前に、「はじめに 講座に入る前に知っておいてほしいこと」があり、居飛車穴熊の特長を簡単に解説する。
・居飛車穴熊は、美濃囲いに比べて堅く、遠く、王手がかかりにくい。
・序盤で駒の配置をしっかり考える。
−特に、左金の位置と、玉側の端歩の関係は重要。



第1章は、「対四間飛車」。第1節〜第8節は先手番での居飛穴、第9節・第10節では後手番の場合を解説する。
・基本的に、序盤は穏やかに進み、早い戦いは起こさなかったとする。
−四間飛車側は美濃囲いから高美濃(場合によっては銀冠)を目指す戦いを扱う。
−相穴熊は第3章で。
−対藤井システムからの急戦、耀龍四間飛車、対振り飛車ミレニアムなどの異形系は扱わない。

(1)対四間飛車の基本形
・まずは▲9六歩を突く形を見ていく。四間飛車側の左銀は△5四銀。
・▲5九角〜▲3七角とゆっくり駒組みを進めると、居飛車が打開に苦労する。
・居飛穴が組み上がったら、▲3五歩〜▲2四歩〜▲6五歩と仕掛けるのが定番の動き。


(2)▲7八金-△9五歩型
・四間側が9筋を突き越し、先手は▲7八金と上がっている形。後手が藤井システムを見せた場合に出現しやすい。
−後手は端に手をかけているので、△8二玉と△6三金を指せていない。
・この形も同様に、▲3五歩〜▲2四歩〜▲6五歩の仕掛けが有力。


(3)後手△6三歩型
・9筋を突き合っており、後手は片銀冠に組めている。△6四歩を突かず、▲6五歩の効果がやや薄い。
・この形では、2筋・3筋の突き捨てを入れず、単に▲6五歩が有力。穏やかな展開になることもある。


(4)後手△4四銀型
・9筋を突き合って、後手は高美濃から△4四銀型に組む。昔から指されている形。
・先手は、▲5九角から角の転換を目指すか、▲6八銀から松尾流穴熊まで固める方針か。
−▲5九角からの転換は難解だが、これを選ぶなら▲7九金型にしておいた方が、7筋で歩を持つ手がある分だけ優る。
−▲6八銀からの松尾流穴熊も、すぐに△5五歩と仕掛けられて、難しいながら居飛車が良くならない。
∴なんらかの工夫が必要。テーマ5へ。


(5)対△4四銀型 先手の工夫
・テーマ4から▲1六歩と様子を見て、▲3七桂と跳ねるのが工夫。
−▲1六歩は、桂を跳ねるために必要な一手。
・▲6八角から▲4六歩で一歩交換し、陣形を整えてから4筋を狙っていく。
・後手が△1四歩を省略して銀冠を急ぐなら、△8三銀と離れたタイミングで▲6八銀と松尾流穴熊を目指したい。


(6)後手△3二銀-△4五歩型
・ここからは△3二銀型。角交換に備えている。
・まず▲1六歩と突いて、幽霊角△1五角を消しておきたい。
・そして▲3七桂と跳ねて、△4五歩をロックする。△4三銀に▲4五桂を用意しておく。


(7)後手△3二銀-△5四歩型
・△3二銀型で、角道を開けずに△5四歩としてくる形。
・まず▲3八飛と寄って、後手の手に合わせて指していく。


(8)後手△3二銀〜△4三銀型
・△3二銀型で待機していた後手が、△4五歩も△5四歩も指さずに△4三銀と上がる形。動きが鈍そうだが、手が進むとアグレッシブになることもある。
・先手は松尾流穴熊を目指す。後手の動きに対応していく。
・後手が手待ちを繰り返すなら、堅く組み直してから仕掛ければよい。
・▲6八銀の瞬間に△8五桂が怖い順。このタイミングだと▲8六角と逃げるしかない。
−松尾流穴熊にこだわると、後手の猛攻を喰らう。引いた銀を▲5七銀と戻るのが面白い。
⇒p220の「深浦の会心譜@ 対井出隼平四段戦」(2019)も参考にしたい。


(9)△5四銀型、後手番の場合
・ここからは居飛車が後手番の場合の戦い方。(図面は先後逆表示。総譜はないので、本レビューでも先後逆にしておきます)
・△5四銀型に対しては、後手番では待機が良い。千日手でも満足。


(10)△4四銀型、後手番の場合
・△4四銀型では、先後の差が大きい。
・▲2六角型にして、ゆっくり攻め上げて先後の影響を小さくしたい。



第2章は、「対三間飛車」
・三間飛車は、四間飛車に比べてフットワークが軽い。居飛穴が完成する前に3筋から動いてくる変化が多い。
−場合によっては、居飛穴にこだわりすぎないようにする。

(1)対三間飛車の基本形
・まずは▲5六歩不突き(あとで突く)からの居飛穴。
・スムーズに組めれば居飛車十分。
(※ただし、後で出てくる「トマホーク」のため、5筋不突き居飛穴はやりづらくなっている)


(2)▲5七銀-▲5八金を決めた形
・5筋の歩を突き、右の金銀を活用しておく。
・▲4六銀〜▲6八角の筋があるので、石田流には組まれにくい。
・振り飛車側が、あっさり▲1一角成と香を取らせる指し方がある。意外と難しいので要注意。


(3)対コーヤン流三間飛車
・中田功八段(愛称がコーヤン)が得意としていた作戦。(※というより、プロではほとんど中田功の実戦ばかり)
・振り飛車が角道を通した後、いきなり△8五桂と居飛穴を直接攻めてくるのが特徴。
・さまざまな変化があるが、藤井聡太新手▲5五歩が決定版となっており、プロ公式戦では見られなくなった。


(4)対先手三間飛車
・ここからは居飛車が後手番の場合の戦い方。(図面は先後逆表示。総譜はないので、本レビューでも先後逆にしておきます)
・三間飛車は先後の差が大きいとされる。振り飛車側はより積極的な動きを目指せる。
−△7四歩から△7三角と活用する手がある。角を大きく使えるが、将来の玉頭攻めが厳しくなり、一長一短ではある。


(5)対トマホーク急戦編 (※先手トマホーク。図面・棋譜は先後逆表示。)
・5筋不突き穴熊に対して、端桂から居飛穴を直接攻める作戦。
・△6二玉型で保留し、△9四歩を急ぐ。玉の囲いに手をかけず、端攻めを視野に入れている。
・角筋を通し、端桂△9三桂と玉頭銀△6五銀のコンビネーションで攻めてくる。
・トマホークの雰囲気を感じたら、5筋不突きを放棄して▲5六歩と突き、△6五銀に対する受けを用意しておく。
⇒トマホークにより、5筋不突き穴熊は指しにくくなった。5筋を突いた穴熊ならそこまで怖くない、と三間飛車が復権するキッカケとなった。


(6)対トマホーク持久戦 (※先手トマホーク。図面・棋譜は先後逆表示。)
・テーマ5で速攻を封じた場合の展開。
・もはやトマホークと呼べる展開ではないが、▲6六歩と角道を止めさせられているのがテーマ2との大きな違い。
−三間飛車側は、▲6六歩と角道を止めさせたことで、△5一角〜△3五歩の石田流を目指してくる。
−▲4六銀で石田流を牽制するタイミングを覚えておきたい。
−居飛車が後手番だと手が進んでいないので、場合によっては、居飛穴を保留することも必要。



第3章は、「相穴熊」


第1節 対四間飛車穴熊 (△四間飛車穴熊vs▲居飛車穴熊)
・振り飛車側は、互いに穴熊に潜る前に△5四銀と玉頭銀で揺さぶるのが定番の動き。

(1)オーソドックスな形
・△5四銀に対し、▲6六銀と▲6六歩がある。
・▲6六銀型で、おとなしく組み合うと、四枚穴熊にはできるが、攻撃力不足になって、やや居飛車不満か。角交換を視野に入れた駒組みが良い。
・▲6六歩型では、しばらく囲い合いになるが、6筋に争点ができる。居飛車は右金を地を這う動きで囲いに寄せ、▲6八飛を用意しておけば潰されることはない。


(2)△9五歩型相穴熊
・振り飛車側が端歩を突き越している形。いわゆる「端歩位取り穴熊」。
・持久戦になれば、端の位の分だけ振り飛車が良い。
・居飛車は早めの動きを目指したい。
−▲7八金と締まってから▲6五歩と角交換を挑むのがオススメ。△7七角成に▲同金で、穴熊を乱されずに進められる。
 (ただし、一時的に金銀が穴熊から離れた形になるので、組み上がるまでは注意が必要)
⇒かなりバランスの取り方が難しい形なので、アマの時間の短い将棋では指しづらいようにも見える。


第2節 対三間飛車穴熊 (△三間飛車穴熊vs▲居飛車穴熊)
・三間飛車は、左銀を活用しやすい。△4二銀〜△5三銀〜△6四銀と、四間飛車のときよりも銀を一路囲いに近づけやすい。
・互いの囲いが同型になりやすく、先手番が打開に苦労することが多い。
・居飛車は、早い動きを目指したい。

(1)先手の勝ちパターン
・固め合いにはせず、▲8八銀と穴熊のハッチを閉めたら、▲3六歩〜▲6八角として、2筋・3筋で動く。

(2)後手の早い動きには
・振り飛車が固め合いにせず、▲9八香に△4二飛〜△4五歩と動いてきたら、無理せず▲4八飛と受けて、穏便に駒組みを進める。

(3)最新の▲5八金型
・序盤で▲5八金右と上がり、△6四銀に▲6六歩と突く狙いの指し方。最近増えてきている。
・バランスを取り、4筋を狙われにくくしている。




〔総評〕
居飛穴の様々な頻出局面をテーマ図としており、すでにある程度居飛穴を指している人にとっては、「即戦力のガイドブック」として強い味方になりそう。特に振り飛車が比較的オーソドックスな指し方をしてくる場合には有効だ。

半面、すでにたくさんの居飛穴本を読んでいる人にとっては、既視感のある局面が多く、新しい知識は少ないかもしれない。テーマ図はたくさんあるので、一つ二つでも新情報があれば良いということであれば、一読の価値はある。

逆に、居飛穴を指し始めの人・これから指そうという人にとっては、ややハードルは高い。「居飛穴であれば当然の順」という感じで書かれている箇所が多く、「居飛穴の理想形」「思想」といったものはまとめられていない。

また、「三間飛車藤井システム」や「耀龍四間飛車」、「振り飛車ミレニアム」といった、近年台頭してきた変則系振り飛車については、記述が何もないのはちょっと残念(「トマホーク」は記述あり)。テーマ図として掲げることは難しいかもしれないが、指し方の指針や、逃してはいけない急所など、居飛穴党としてのコツが記されていれば良かったなぁ。

棋書としての完成度は高いので、人によってはA以上だと思う。個人的には、「新鮮味やユニークポイントはあまりないが、普通に美味しいプチ高級食パン」というイメージでした。

(2021Feb10)


※誤字・誤植等(初版第1刷・電子版ver1.00で確認):
p67上段 ×「銀冠を完成指せるのは」 ○「銀冠を完成させるのは
p187上段 ×「次に△6三金から△7二飛なれば…」 ○「次に△6三金から△7二飛となれば…」



【関連書籍】

[ジャンル] 穴熊
[シリーズ] マイナビ将棋BOOKS
[著者] 深浦康市
[発行年] 2021年

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