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■誰も言わなかった右玉の破り方

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誰も言わなかった右玉の破り方
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マイナビ将棋BOOKS
誰も言わなかった右玉の破り方
[総合評価]
B+

難易度:★★★★

図面:見開き4枚
内容:(質)B+(量)B+
レイアウト:A
解説:B+
読みやすさ:A+
有段向き

【著 者】 神谷広志
【出版社】 マイナビ出版
発行:2019年7月 ISBN:978-4-8399-6993-6
定価:1,663円(8%税込) 232ページ/19cm


【本の内容】
第1章 角交換右玉退治 第1節 地下鉄飛車
第2節 穴熊
第3節 速攻
51p
第2章 矢倉編 第1節 ▲4七銀型
第2節 ▲4六銀型
28p
第3章 ノーマル右玉 第1節 穴熊 @強引に組む
第2節 穴熊 A超持久戦
第3節 菊水矢倉
第4節 菊水矢倉?
第5節 菊水矢倉 対積極策
第6節 急戦型
第7節 超急戦型
66p
第4章 振り飛車 第1節 四間飛車
第2節 中飛車
38p
第5章 次の一手 10問 22p

・【コラム】(1)駒のしまい方 (2)29連勝フィーバー (3)監督の決断 (4)天空の城ラピュタ

◆内容紹介
本書は棋界史上初の右玉破りに特化した戦術書です。

最近では最初から右玉を目指すだけでなく、角換わりや 相掛かりからの変化手順で右玉を組む事が有効とされる場面も増えています。

あらゆる戦術から現れる右玉を破る知識は、現代将棋において必須といえるでしょう。


【レビュー】
対右玉の戦術書。

右玉とは、「みぎぎょく」と読み(「うぎょく」ではない)、通常は居飛車で自陣の左側に玉を囲うところを右側に囲う作戦のこと。玉は堅くならないがバランスを重視し、相手から仕掛けにくくしたり、攻めをいなしたりする戦い方が特徴。

近年は特に相居飛車でバランス重視の陣形の価値が高まっており、それに伴って右玉の出現率も増加し、右玉の知識の需要が高まっている。しかし、定跡化しにくい戦い方なので、これまでは右玉の本そのものが少なく、また出版されているのは基本的に右玉側スタンスの本がほとんどだった。

本書は、対右玉の目線で、右玉戦の戦い方をガイドした本である。


各章の内容を、チャートを添えながら紹介していこう。


第1章は、「角交換右玉退治」。角換わりでの右玉を攻略する。

(1)地下鉄飛車
一手損角換わりで、先手が1筋を伸ばして右玉にした場合。(本書では基本的に後手が右玉を採用しているが、本節のみ先手が右玉。1筋の歩を伸ばした場合は、右玉にすると玉が広くて条件が良い、というのが定説)
・後手が地下鉄飛車を採用する。
・△4三金左〜△3二玉〜△2二銀〜△3三桂〜△1二香で、下段飛車を右玉側に回る。
・地下鉄飛車は右玉に近いところを直接狙うので、破壊力があるが、自玉にも近く、「(自)玉が堅いわけではないので指しこなすには終盤力が必要」(p30)とのこと。


(2)穴熊
・角換わり腰掛銀模様から、後手が右玉にした場合。
・後手は「一人千日手」で待ち続ける。
・先手は、銀矢倉から穴熊に組み替える。
・穴熊の堅さ、深さを生かして、部分的にはやや無理気味の仕掛けを行う。
・本譜の攻めは多少先手側(穴熊側)に贔屓した変化だそうだ。
・じっくりした戦いが好きな人は、▲3六歩を突かずに、先に▲4五歩と位を取り、穴熊に組んでから▲4六角の設置がオススメ。角のニラミで全局を制する。


(3)速攻
・そもそも右玉に組ませない。
・右玉の可能性がある「△6四歩〜△6三銀型」なら、この仕掛けができる。
・▲3五歩△同歩▲4五桂と単騎跳ねで仕掛けていくのは、『神速!角換わり▲2五歩型 必勝ガイド』(長岡裕也,マイナビ出版,2018.12)の仕掛けと似ているが、▲6八玉の一手を入れているところが異なる。
・ただし、この形を生かしたのがどの変化なのかはハッキリしない。(※▲6八玉に替えて▲7八金の場合、どこかで△1四角のラインが△6九飛までの詰めろになることがあって、飛を切る攻めが無理筋になることがあるが、▲6八玉ならそれはない、ということだと思われる)



第2章は、「矢倉編」

(1)▲4七銀型
・後手が同形矢倉や米長流急戦矢倉の含みを持たせた駒組みから、右玉に組んでくる場合。
・△4四銀に▲4五歩と位を取るのが急所。
・後手の左銀をどかし、2筋と3筋の歩を切って、▲3六飛と配置できれば成功形。


(2)▲4六銀型
・△7二玉-6二金型の右玉に対し、▲4六銀-3七桂で対抗。
・ただし、一気に攻めるというよりは、銀を出たり引いたりの押し引きになる。
・▲3六歩は飛のコビンが開くので、なるべくタイミングを遅らせよう。
・「オッサン」的には、前節よりも本節の▲4六銀の方が少し優りそう。私の個人的な印象では、どちらも一気に決められる訳ではなく、攻めたり受けたりで、「強い方が勝つ」「力で勝負」という感じだ。



第3章は、「ノーマル右玉」。矢倉や角換わりからの右玉ではなく、後手が早めに角道を止め、ノーマル振り飛車や陽動振り飛車をチラつかせながら、右玉に組む作戦。「右玉使い」は、基本的にこちらの方が得意だと思われる。


(1)穴熊 @強引に組む
・先手が居飛穴に組む。
・穴熊に組めれば強いが、後手が藤井システム調の駒組みにしてきたら、かなり厳しい。
・よって、本節の作戦は欲張り過ぎで、「本来はこういう組み方はできない」ということを示している。


(2)穴熊 A超持久戦
・というわけで、いきなり居飛穴を目指すのではなく、いったん▲7九玉型左美濃に組み、矢倉に組み替え、さらに穴熊に潜るという手順を採る。
・後手から戦いを起こすのが難しいことを見越して、じっくりじっくりと組み替えて、最終的にはビッグ4まで組む。
・組み上げたら、「穴熊の暴力」で暴れる。
・早く△8五桂と跳ねてきたらガチガチには固められないが、仕掛けというレベルではないので、金2枚の穴熊に組める。


(3)菊水矢倉
・上からの攻めに強い菊水矢倉に組む。
・早めの角交換はNG。
・じっくり持久戦にして、菊水矢倉からミレニアムまで組み上げる。
・あとは、穴熊のときと同様に、堅さを生かして飛交換を迫ったり、暴れたりする。
・ただし、▲6六角〜▲5七角が変則的なので、後手が右玉にこだわらない場合は、あまり上手くいかないかもしれない、とのこと。


(4)菊水矢倉?
・本節では▲7七角から菊水矢倉に組む。
・▲4六歩で△4五歩を消し、穏やかな展開にする。
・△8二玉には、上部に厚い銀冠へ組み替え。
・後手の仕掛けがなさそうなら、さらに堅く組み替えていく。
・やはり、右玉側の仕掛けを封じて、自分だけ堅く組み、暴れていくのがポイント。


(5)菊水矢倉 対積極策
・先手は菊水矢倉で、(3)(4)の「自分だけ堅く」を狙う。
・後手は早めの△8五歩で、先手の銀冠やミレニアム△8六歩型をまず防いでくる。
・この場合、先手は菊水矢倉のままで戦い、▲5七銀〜▲3七桂で4筋逆襲の態勢を取る。


(6)急戦型
・序盤で後手が振り飛車の含みを持たせているので、対振り飛車の▲5七銀左型急戦もできるように▲6八銀と上がる形。
⇒現代では▲5七銀左型急戦は少なく、特に居飛穴全盛期にはあまり顧みられなかったが、エルモ囲い急戦にできる含みもあるので、案外やれそう。
・先手は矢倉の骨格を作り、「引き角+▲4六銀」の急戦形にする。
・玉頭の継ぎ歩の反撃には丁寧に対応しよう。


(7)超急戦型
・先手は右金を保留して▲6八銀。もし後手が振り飛車にするなら、エルモ囲い急戦で戦う。
・後手が新型雁木で右玉にするなら、引き角+▲3七銀から早繰り銀型の仕掛け。
・玉の囲いは最小限で。



第4章は、「対振り飛車編」
・対振り飛車の右玉戦法。
・糸谷哲郎(現八段)が、新人時代に連採して知られているが(プロデビュー前の奨励会員時代にもネット将棋でも連採しており、話題になっていた)、古くは灘蓮照が採用しているようだ。
・関連書籍はほとんどなく少なくとも私は記憶にない相振り飛車で左玉戦法 居飛車で右玉戦法』(2013.10)がありました。忘れてました。(sakuraさんご指摘thx!!))、急所が分からずに痛い目に遭った振り飛車党の方も多いだろう。
(※2019年9月に『スリル&ロマン 対振り飛車右玉』(豊川孝弘)が発行される見込み)

(1)四間飛車
・後手が不備で△6三銀が早いなら、すぐに6筋逆襲して先手良し。
・警戒された駒組みにも、自陣を整備してから▲6五歩の開戦は有力。ただしやや無理気味。
・△4四歩と角道を止めてきたら(糸谷流は基本的にこれ)、7筋を揺さぶって、6筋を集中攻撃する準備を整える。
・なるべく早い戦いを目指そう。


(2)中飛車
・▲5筋位取り中飛車vs△右玉。
・6筋婦警交換するのが一法。
・8筋で飛をぶつけるのもアリ。飛交換でイケるかどうかは、互いの陣形をよく見極めよう。
・△1三角に対して、1筋を逆襲するべからず。相当条件が良くても、成立しない。(自玉に近い+敵玉から遠いのが痛い)




●「オッサンの主張」
本書では、著者の神谷は一人称を「オッサン」で通している。(※出版時点で58歳)

オッサンならではの軽妙トークでとても楽しく読める半面、ときどき話が脱線していたり、若い人には分からない話が仕込まれていたりするので、この文体は好みが分かれるところ。「文章が面白くて、どんどん読んでいける」と見るか、「関係ない話が多くて、その分内容が削がれている」と見るか。

すでに大ベテランなので、若手の新感覚には完全に対応していないことを自覚しており、あくまでも「オッサンの感覚」に基づいた解説が全編を通して繰り広げられており、ところどころに「オッサンの主張」がある。

(例)
・「近年AIが飛先の交換を急がず、それに従う風潮があるがオッサンは断じて認めない」(p20)
・「▲4八金-2九飛型はAIや若手棋士が生み出したものではなく、昭和前半にはすでにあった」



●コラム
通常、戦術書のコラムは「各章の終わりに1pずつ」で、ページが余ったときに穴埋めする意味合いが強いのだが、本書のコラムは「オッサンの自由」で、最長6pも書かれている。(「コラム」は「囲み記事」の意味だが、もはやコラムではなく「エッセイ」)

内容は、サッカー(2018年ワールドカップ)や、『天空の城ラピュタ』など、将棋とはほとんど関係のないものも自由自在に書いている。

その中で、(将棋に関係のある)「29連勝フィーバー」のウラ話が面白い。(※「29連勝」とは、2017年12月〜2018年6月にかけて、藤井聡太がデビューから負けなしの29連勝を達成したもの。20連勝を超えたあたりから、当時の連勝記録(28連勝)を持っていた神谷に取材が殺到した。ちなみに、コラムタイトルは「29連勝フィーバー」だが、ページ肩では「28連勝フィーバー」で統一されている。)「オッサン」の空前絶後(?)の揺れ動く複雑な気持ちがよく表れている。



〔総評〕
本書は、「定跡書」というよりは、「戦い方のカタログ」という感じ。知識を求めるよりは、大まかな方針や戦いの呼吸を学ぶのに適している。

そもそも右玉戦法自体が、持久戦でスキができるのを待ったり、相手の攻めをいなしたり、カウンターを狙ったりという作戦なので、他の戦術書と比べて、本書と同一局面になる可能性はあまり高くはない。

それよりも、これまで「右玉にされると、何を狙って戦えばよいのか分からなかった」とか「右玉側が何を狙っているのか分からなかった」という人に向いていると思う。

本書は「右玉破り」の本なので、右玉側の本も併せて読めば理解が深まりやすいと思う。(※なお、著者は『変幻自在!現代右玉のすべて』(青嶋未来,2018.05)は知っているものの、整合性の確認はしていないそうです)

(2019Aug03)


※誤字・誤植等(初版第1刷で確認):
目次 ×「A超持急戦」 ○「A超持久戦」
p10下段 ×「▲6六歩で△5六銀…」 ○「▲6六歩で▲5六銀…」
p33下段 ×「すかさず△4五歩だし」 ○「すかさず▲4五歩だし」
p41上段 ×「▲5三歩△6二金…」 ○「▲5三歩△6二金寄…」
p41下段 ×「次の▲6四成桂が激痛…」 ○「次の▲6四成銀が激痛…」
p79下段 ×「本譜▲2八飛で▲3四歩は…」 ○「本譜▲2八飛で▲3四飛は…」
p125下段 ×「香を拾って▲3五歩…」 ○「香を捨てて▲3五歩…」または「歩を拾って▲3五歩…」
p128下段 ×「ミレニアム囲いにされた時でも△8五歩と突く好形…」 ○「ミレニアム囲いにされた時でも▲8六歩と突く好形…」
p145下段 ×?「▲6四歩は残る▲5五歩は残るで…」 ○「▲6四歩は残る▲5五歩は残るで…」(※現在では誤用だが、将来は許容されているかも?)
p151下段 ×「焦って△3六銀には…」 ○「焦って▲3五銀には…」
p155下段 ×「ここはを交換する」 ○「ここは飛先を交換する」
p157下段 ×?「対振り飛車で急戦ができる方法は…」 ○?「対振り飛車で急戦ができる方には…」
p192上段 ×「結果ほ、とんどの人が…」 ○「結果、ほとんどの人が…」
p194上段 ×「目の前の金(駒得には…」 ○「目の前の金(駒得)には…」
p200下段 ×「△4五同銀で▲6七銀は…」 ○「▲4五同銀で▲6七銀は…」
p203 ×「ズーが入ってきて」 ○「ズーが入ってきて」
p222下段 ×「駒損回復は図って」 ○「駒損回復を図って」
p224上段 ×「対して△8四飛には…」 ○「対して△8三飛には…」



【関連書籍】

[ジャンル] ユニーク戦法
[シリーズ] マイナビ将棋BOOKS
[著者] 神谷広志
[発行年] 2019年

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