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■創始者直伝!新嬉野流

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創始者直伝!新嬉野流
zoom
マイナビ将棋BOOKS
創始者直伝!新嬉野流
最強奇襲戦法が進化!
居飛車に加えて
嬉野流振り飛車も収録
[総合評価]
B+

難易度:★★★★

図面:見開き4枚
内容:(質)A(量)B+
レイアウト:A
解説:B+
読みやすさ:B+
上級〜有段者向き

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【著 者】 嬉野宏明
【出版社】 マイナビ出版
発行:2021年5月 ISBN:978-4-8399-6425-2
定価:1,694円(10%税込) 232ページ/19cm


【本の内容】
第1章 新嬉野流 居飛車編 第0節 嬉野流とは?
第1節 新嬉野流の出だし
第2節 対矢倉編
第3節 対雁木、右玉編
第4節 対棒銀編
第5節 菊水矢倉編
86p
第2章 新嬉野流 相振り飛車編 第1節 対三間飛車編
第2節 対四間飛車編
第3節 対向かい飛車編
第4節 対中飛車編
108p
第3章 新嬉野流実戦譜 新嬉野流実戦譜(1)
新嬉野流実戦譜(2)
新嬉野流実戦譜(3)
34p

・【盤外コラム】(1)嬉野流誕生 (2)まさかの書籍化 (3)マグロと嬉野流
◆内容紹介
常識破りの「初手▲6八銀!」から角道を開けずに速攻の斜め棒銀。相手はこれがわかっていても受けづらく、薄い玉形のまま攻め切って勝つ。

アマチュアの嬉野宏明さんが編み出し、元奨励会院の天野貴元さんが体系化した「嬉野流」は将棋界に旋風を巻き起こしました。

定跡を無視した独特の戦法に魅了され、愛用されている方も数多くいらっしゃることと思います。

しかし、嬉野流は天野さんの書籍で終わっていなかったのです!
実は創始者である嬉野さんが日々の実戦で、あるいはアマ大会で指し続け、その手順に磨きをかけていたのでした。

そこで生まれたのが▲7九角を保留する指し方。▲5六歩・5七銀型を急ぎ、場合によっては振り飛車で戦います。まさに変幻自在。

より自由度が増した分、相手の陣形によって指し方を変えていく必要がありますが、そこは本書を読めばすべて書いてありますのでご安心ください。

ぜひ本書を読んで進化した嬉野流をマスターし、相手をあっと言わせてください。


【レビュー】
新嬉野流の戦術書。

「嬉野流」は、初手▲6八銀!〜▲7九角とする型破りな戦法。主な狙いは引き角+ナナメ棒銀で、狙いは分かっていても実戦的にはなかなか受けづらい。『奇襲研究所 嬉野流編』(2015)で広く知られて以降、ネット将棋での人気戦法となっている。

ただし、創始者である嬉野氏は、ある特定の形にうまく対応できないとして、すでに「嬉野流」を辞め、「新・嬉野流」を編み出していた。

本書は、「嬉野流」ではなく、「新・嬉野流」を解説した本となる。


各章の内容をチャートを添えながら紹介していこう。



第1章は、「新嬉野流 居飛車編」

全体としてのポイントは、p89にまとめがある。
・対矢倉には、ナナメ棒銀から角銀総交換
・対△3三角には、袖飛車で3筋を攻め、五段目に銀を残すようにする。
・対△棒銀には、カウンター狙い
・攻め/守りは中途半端ではいけない。どちらかに方針を決める
・▲7九角に固執しない。
−場合によっては、▲7六歩として4四を狙うのが有効になる。

(0)嬉野流とは?
初手▲6八銀〜▲7九角として、主に鳥刺しを狙っていく作戦。
相手が居飛車の場合でも、しっかりと対策がある。
特に、後手の飛先交換に対して、▲8八歩と受ける「土下座の歩」は嬉野流の特徴の一つでもある。

ただし本節では、嬉野流の基本的な狙いや特徴については詳しく書かれていない。
(つまり、本書だけを読んでも、「従来の嬉野流」についてはほとんど分からない)
詳細は『奇襲研究所 嬉野流編』(2015)を参照すべし。


(1)新嬉野流の出だし
・初手▲6八銀〜▲5六歩として、▲5七銀を先に作るのが新嬉野流。▲7九角は急がない。
−従来の嬉野流だと、対応しづらい後手の駒組みがある。(※具体的な駒組みの記載はない)
−後手が居飛車で飛先交換してきた場合は、素直に▲8七歩と受けておく。(▲7九角〜▲8八歩にこだわらない)
・後手の駒組みによって、先手の駒組みは柔軟に考える。

(2)対矢倉編
旧嬉野流では、先に▲7九角を決めていたので、主力作戦は引き角棒銀(≒鳥刺し)になるが、
新嬉野流では、角が▲8八角なので、居角を生かした戦い方も視野に入れる。(もちろん引き角棒銀も狙う)

・対矢倉では、▲6九玉の一手は価値が高い。
−将来の△5六飛や△1五角が王手になるのをあらかじめ避けている。
−ただし、これ以上囲うことは考えない。嬉野流の玉型は囲ってもほとんど堅くならない。
・△4四歩を突いているかどうかは重要。
−突いていない場合は、▲4六銀よりも▲7九角を優先する。
−▲3五歩〜▲4六銀と開戦していく。
−後手の飛の横利きが通っていない場合は、豪快な大駒切りが決まることがある。
・後手が△5四歩〜△6四角と引き角棒銀を牽制してきた場合は、▲6九玉は後回しにする。
−将来の△5六飛の王手が来てから玉を避ければ、後手の飛は△5四歩が邪魔で活用しにくい。
−後手が引き角にしたら、▲5七銀〜▲7六歩が居角を生かした指し方。△6四角に▲5五歩と止める手がある。
・先手陣にはスキが少ないので、飛を切る手は意識しよう。相手の飛を取り返すか、敵陣に馬が残れば攻めが続きやすい。
・嬉野流は8筋を突破されてしまうケースもあり得る。なるべく▲2八飛の横利きを通しておきたい。


(3)対雁木、右玉編
・▲2五歩に△3三角と受けていたら、後手の陣形は雁木か右玉になる。いずれにしても後手の左辺は△4三銀-△3二金型。
・後手に存分に組まれてしまうと陣形負けする。組まれる前に、後手が居玉のうちに速攻したい。
−後手の飛の横利きが止まっているときに仕掛けたい。
・△4五歩には▲4六歩と突き返すのが頻出の筋。


(4)対棒銀編
後手が飛先交換から素早く棒銀を繰り出してくるパターン。
(※本節の冒頭(p50)で「題目は棒銀となっているが、…後手が△8四歩から早繰り銀や鎖鎌銀などの…」と書かれているが、内容は普通に△棒銀であり、早繰り銀(△7四歩〜△7三銀〜△6四銀)や鎖鎌銀(△6四歩〜△6三銀〜△7四銀)は記述がない。)

・後手の飛先交換に対しては、すぐに▲8七歩と受けなくても良い。
−△8七歩と打たれても、▲7九角と引いておいて、後から▲9六歩〜▲9七角を狙う。
−以下、力戦になりやすい。▲8七金型の向かい飛車にするのが一案。

・後手が左辺に手をかけずに棒銀を狙ってくる場合、先手からの左棒銀はやや響きが薄い。まず後手の棒銀を抑える方針になる。
−後手の棒銀模様(三段目に銀を上がる)を見たら、▲7九角と引いておく。将来の▲8八歩を打つためと、▲4六角と出る手を用意しておくため。
−8筋と2筋で2歩を手持ちにして▲5七角と設置できると、▲2五飛〜▲8五飛の筋で逆襲を狙いやすい。

・後手が△7四銀型で、棒銀に出てくる前に△6四歩と突くのは、次に△6五歩で▲6六銀をどかす狙い。
−先手は▲5八金として、玉の上に金の冠をかぶせ、△6五歩▲5五銀のときのリスクを予防しておく。


(5)菊水矢倉編
後手が飛先を突かず、一直線に菊水矢倉を目指すパターン。
−菊水矢倉は△2二銀-△3二金と守っているので、2筋での銀交換を防いでいる。
−後手が攻める気がないので、先手は受けの手を指さず、組まれる前に攻めていく。居角で▲4六銀〜▲3五歩と仕掛け、▲3八飛と袖飛車にするのが良い。
−方針は押さえ込み。ただし、▲3五銀を急ぎ過ぎず、なるべく△5四歩を待とう。




第2章は、「新嬉野流 相振り飛車編」
天野本(『奇襲研究所 嬉野流編』)では、対振り飛車では鳥刺しを推奨しているが、玉の堅さに差があって、実戦的に居飛車が逆転負けしやすい。
特に△三間飛車は▲鳥刺しに対してカウンターを取りやすいとされる。

本章では、振り飛車に対して、嬉野流側は鳥刺しと相振り飛車の併用を解説していく。

(1)対三間飛車編
後手に石田流に組ませて鳥刺し棒銀を狙うパターンと、相振り飛車にするパターンがある。

・鳥刺し棒銀のパターンでは、▲4六銀+▲7九角に加えて、▲3八銀〜▲2七銀から△3五歩を狙っていくのが面白い指し方。
−強い人でもハマりやすい。
−ただし、しっかり警戒されると玉の堅さに差があり、先手が勝ちづらい。

・▲7九角〜▲8八飛が嬉野流独特の相振り飛車。角道を開けていない相振り飛車は非常に珍しい。
−玉を囲う前に、▲8五歩までは決めておく。
−嬉野流では5筋の歩を早く突いているので、自玉を美濃囲いにするのは相性が悪い。
 ▲3八金から銀冠にするのがよい。
−自陣の低さと、敵陣の駒の偏りを衝いて、▲3六歩!と自玉付近から石田流をめがけて開戦するのが面白い。


(2)対四間飛車編
嬉野流からの相振りでは角道を開けないので、四間飛車のエキスパートへの対策は不要。
著者は中飛車と向かい飛車の採用率が高い。

・中飛車は仮の姿。
−▲6六銀-▲7九角型にしておき、5筋の歩は伸ばさない。
−後手が四間飛車なので、金美濃に構えて4筋を厚くする。
−ぼんやりと▲7五銀と出て、後手陣の進展性を奪うのが面白い。向かい飛車に振り直せば攻撃部隊にもなる。

・向かい飛車は△7二玉型に対して適している。
−△7二銀型には向かい飛車は不向き。スムーズに△7三銀型にされて、8筋の歩を交換できない。
−矢倉に組まれる前に、8筋の歩を交換しておく。
−金無双に対しては、端攻めは効果がイマイチ。歩交換後に▲8五飛と浮いて、角交換を狙う指し方がよい。


(3)対向かい飛車編
向かい飛車は棒銀に対して強いので、鳥刺し棒銀で突破するのは難しい。
対向かい飛車には相振りを推奨。

・序盤で▲9六歩と突き、後手が居飛車か振り飛車かを探っておく。
・いったん中飛車に振り、▲5六銀型を作って、端を狙っていく。


(4)対中飛車編
中飛車に対しては、5筋の位を取らせるパターンと取らせないパターンがある。

・5筋の位を取らせるパターンは、▲6八銀〜▲7九角という従来の嬉野流から派生する。
−先手は向かい飛車にする。5筋は▲6七銀で受け止めて低い陣形を保つ。
−8筋の歩を交換する手は急がない。
−陣形がある程度まとまったら、▲7六歩を突いて左桂の活用を図りたい。
−どこかで角を飛び出せるように意識しておく。

・5筋を受けるパターンでは、飛を振る前に▲6六銀まで出て5筋を安定させておく。
−このパターンでは、後手が5筋の歩を交換すると、銀交換までセットで付いてくる。
−中央攻めと端攻めに警戒が必要なので、玉型は金美濃▲3九玉型がバランスが取れている。

なお、中飛車に対して居飛車では戦いにくい。戦場が5筋になりやすいのが原因。



第3章は、「新嬉野流実戦譜」
ネット将棋の持ち時間の短い実戦から、3局を解説する。
本編では見られなかった指し方が紹介されているので、しっかり見ておきたい。

以下に各局のトピックスを抜粋しておく。

[1局目]
・▲5五歩と中央に位を取り、△3一角の活用を邪魔する。
・駒交換の前に、中原囲いライクの構えにして、少し玉を堅くしておく。
・角銀総交換後、▲2六飛〜▲3七桂の構えから、持駒の銀を▲4五銀と設置する。

[2局目]
・後手が飛先を突かず、△4二銀として、居飛車と振り飛車の両にらみ。
・先手も飛先を突かず、相振り飛車を見越した駒組みにする。
 (△向かい飛車+△4三銀+△3二金は、嬉野流の速攻棒銀対策として有効)

[3局目]
・後手の居飛車に対し、5六歩を取らせる(横歩取らせ)指し方。(第1章第4節で軽く触れられたもの)
・歩得vs手得の構図になる。
・ナナメ棒銀を狙うとき、相手の守備駒とぶつかるようにしたいので、自陣内でさりげなく力を溜める。
・戦いながら、中原囲いにする。



〔総評〕
「嬉野流」の▲6八銀〜▲7九角から、「新嬉野流」の▲6八銀〜▲5六歩に変化したことで、序盤は少し変化があった。また、鳥刺しの基本的な狙いは同じながら、含みが多くなり、「奇襲戦法」から「総合戦法」に昇華したように思う。

また、創始者自身が「対振り飛車には、鳥刺しではなく、相振り飛車が有力」と語っていることもある意味で衝撃的だった。新嬉野流の相振り飛車は、序盤で角道を開けないという非常に独特なものなので、その指しこなし方は、(先後どちらを持つとしても)本書をちゃんと読まないと理解するのは難しいだろう。

今後、この新嬉野流は特にネット将棋で広がる可能性が高いので、実戦を指しているアマチュアには必読だと思う。


ただ本書では、部分的に整合性が取れない記述がチラホラあった。(分岐の2つ目以降がないとか、「これまでの…」に該当する部分がないとか)一度書いた文章を再構成するときに間引いたのかもしれない。

また、解説文でも、どの局面から繋がっているのかがすぐには分かりづらい書き方がちょいちょい見られた。(例:「○○で△△なら」というのが一般的な書き方だが、「△△なら」で始まる文がときどきあった)

本としての完成度はちょっぴり不満があるものの、内容としては必読なのだった。

(2021May21)


※誤字・誤植等(初版第1刷・電子版ver1.00で確認):
p26下段 ×「…△6四角と反発するかだ。…分岐で解説したい。」 ⇒△6四角の解説がない。
p28下段 ×「角では無く」 ○「角ではなく
p34下段 ×「▲2八飛の横効き」 ○「▲2八飛の横利き」 ※p37(2ヶ所)、p40、p185も同様。
p36上段 ×「△3三角は雁木や右玉狙いと…」 ○「△3三角は雁木や右玉狙いと…」
p39上段 ?「今までの例と同様に、取るか取らないかで見ていこう」 ⇒ここまででは、取る例だけだった。
p42上段 ×「歩越し飛車の愚計で」 ○「歩越し飛車の愚形で
p46上段 ?「第33図以下の指し手@」 ⇒A以降がない。
p61上段 ?「第45図以下の指し手@」 ⇒A以降がない。 
p74上段 ×「△6五歩ではなく△8六歩も考えられる手で」 ○「△8五銀ではなく△8六歩も考えられる手で」または「△6五歩▲5五銀に△8六歩も考えられる手で」
p103上段 ×「第8図以下の指し手@」 ⇒A以降がない。
p133下段 ×「自玉を少し堅めて」 ○「自玉を少し固めて」 p134下段も同様。
p200下段 ×「いくつか実戦集を見ていただく」 ○「いくつか実戦譜を見ていただく」



【関連書籍】

[ジャンル] 奇襲・超急戦
[シリーズ] マイナビ将棋BOOKS
[著者] 嬉野宏明
[発行年] 2021年

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