2.6KB

<< 直前のページへ戻る
 

■コンピュータvsプロ棋士

< | No.0900 | >

トップページ > 棋書ミシュラン! > コンピュータvsプロ棋士
コンピュータvsプロ棋士
zoom
PHP新書(711)
コンピュータvsプロ棋士
名人に勝つ日はいつか
[総合評価] B

難易度:★★★

図面:随時挿入
内容:(質)A(量)B
レイアウト:A
解説:A
読みやすさ:A
将棋ソフトに興味がある人向き

【著 者】 岡嶋裕史
【出版社】 PHP研究所
発行:2011年1月 ISBN:978-4-569-79435-8
定価:756円(5%税込) 198ページ/18cm


【本の内容】
第1章 渡辺竜王との夢の対局 竜王を追い詰める将棋ソフト/彗星のごとくボナンザは現れた/ボナンザは自動学習する/ボナンザは「羽生っぽい手」を指す/ボナンザの「設計図」を公開/「設計図」を公開する意味/勝負を決した一手/「その日」は遠くない 26p
第2章 ディープブルーが勝利した日 将棋・囲碁・チェス・オセロ、ゲームの複雑さ/チェスソフト開発の大物たち/真相は闇の中─ディープブルーの突然の解体/アドバンスト・チェスの登場 12p
第3章 将棋ソフトが進歩してきた道 「合法手を指せるだけ」の製品/定跡を外れるととたんに弱くなる/コンピュータに「手」を読ませる方法/一番有利になる局面を選ぶには/「駒得プログラム」を乗り越えて 24p
第4章 「手を読む」と「局面を評価する」は違う 代表的な手の読み方、選択的探索と全幅探索/なんて先まで読めば「十分」か/いい手を抽出するルール/ミニマックス戦略/アルファベータ法/「水平線効果」と人間の思考 28p
第5章 局面をどう評価するか 「局面が落ち着くまで読め」/コンピュータに教えることの難しさ/「銀」のいる場所の点数化/ボナンザの卓見 16p
第6章 清水市代女流王将vs「あから2010」 対局は静かに始まった/「あから」、力戦を仕掛ける/「あから」の名前の意味/「あから」の合議制とは何か/コンピュータは刺激されるか/再びの△4四角に侃々諤々/「あから」驚愕の一手/清水女流の長考/「あから」、反撃に出る/清水女流「失着」/「あから」の波状攻撃/清水女流の記者会見 60p
第7章 名人に勝つ日 浮き彫りになった「あから」の問題点/クラスタ・システムの課題/グリッドコンピューティングは?/人間の真似からの脱却/名人に勝つ日/将棋の魅力は失われない/思考の極北へ/複合将棋の可能性 14p

◆内容紹介
佐藤康光九段「やはり人の感覚ではない」
藤井猛九段「筋ってもんがないですね」
清水市代元女流四冠「人間に近いと感じた。胸が熱くなった」

コンピュータがプロの将棋棋士に初めて勝利を収めた。2010年10月11日、清水市代女流王将(当時)に公開対局で将棋ソフトの合議「あから2010」が勝利したのだ。チェスのチャンピオンにコンピュータ「ディープブルー」が勝利を収めて13年、渡辺明竜王と「最強の将棋ソフト」ボナンザの激闘から3年、ついに「知性の象徴」をめぐる人間とコンピュータの歴史の新しい扉が開かれた。
人間の頭脳に挑む将棋ソフトはいかに進歩してきたのか。その指し手はどのように決定され、人間の思考とどこがどのように違うのか。「読み」と「局面評価」はどのように行うのか。
清水女流と「あから2010」の激戦譜を辿りながら、コンピュータの思考の特徴を浮き彫りにする。さらに、名人に勝利するのはいつの日か、そのために乗り越えるべき課題とは何なのか、考える。


【レビュー】
コンピュータ将棋ソフトと人間との戦いについて書かれた本。

2010年10月11日、コンピュータ将棋ソフト「あから2010」が清水女流王将に勝利した。2007年3月に「Bonanza vs 渡辺竜王」が企画され、渡辺が僅差で勝ったことを覚えている人も多いと思うが、今回はコンピュータが公式の場でトップレベルの女流棋士を破ったのである。※1

「あから」は強豪ソフトの激指、ボナンザ、YSS、GPS将棋による「合議制」を採用し、より良い指し手を選ぼうとしたもの。

「清水vsあから」の概要については、下記リンクを参照してほしい。

 ・「トッププロ棋士との特別対局 「清水市代女流王将vs.あから2010」について」(情報処理学会)
  報道関係者向けのプレスリリース。

本書は、「清水vsあから」を中心に、コンピュータ将棋の歴史と現状、そして今後の課題などについて、コンピュータ将棋の知識があまりない人にも理解できるように、分かりやすく書かれた本である。※2

第1章は、3年半前の「渡辺vsボナンザ」の焦点となる局面(終盤の△1五金)からスタート。△1五金に対して、わたしレベルでも見える▲2六香※3をボナンザは指せず、圧倒的な駒得と引き換えに「桂馬Zの穴熊」を作られて、ボナンザは敗れた。「僅差で負けた」という結果よりも、コンピュータの課題が明らかになったという意義が大きいという。

この章では、ボナンザで採用している「自動学習」について、パソコンの日本語変換システム(IME)の例を出しているのが分かりやすかった。なお、「渡辺vsボナンザ」については、『ボナンザVS勝負脳』(保木邦仁,渡辺明,角川グループパブリッシング,2007.08)で詳しく論じられている。

第2章は、チェスでチャンピオンを破った「ディープブルー」の話。コンピュータチェスの発展は、コンピュータ将棋とは切り離せない関係にある。本章では、各種盤上ゲームの複雑さの比較、チェスの現状、「アドバンスト・チェス」の話などが紹介されているが、いろんな本で紹介されている話なので、少し詳しい人は飛ばしていってもかまわないだろう。

第3章から第5章は、将棋ソフトの進化の歴史をたどっていく。ざっくりまとめると、以下のようになる。
 合法手を指せる (二歩や王手放置をするソフトも多かった)
   ↓
 定跡をなぞる (逆に定跡を外れると全然ダメ → 「定跡はずし」が対将棋ソフト必勝法と考えられていた時期は長い)
   ↓
 読みを入れる (探索木)
   ↓
 局面評価 (まずは駒得から)
   ↓
 選択的探索と全幅探索 (処理速度の進化により、全幅探索が復活)
   ↓
 枝狩りの発達 (読むべき手を絞り込む方法)
   ・アルファベータ探索
   ・ミニマックス戦略(「自分の指し手の場合は、得点が最大になるように行動し、相手の手番では得点が最小になると仮定する」(p92))
   ・水平線効果(コンピュータが嫌なこと(自分に都合の悪い局面)を先送りしてしまう現象。人間っぽい(笑))
   ↓
 局面評価の向上
   ・局面が落ち着くまで(当たりの駒がなくなるまで)読みを進める
   ・銀の価値の評価を工夫する
   ・ボナンザの自動学習


これらも少し詳しい人なら飛ばしてしまってもかまわない。

第6章は、「清水vsあから」の観戦記。本書のメインである。棋譜を数手ずつ切り取り、その間にエピソードや大盤解説場のコメントなどを挿入していく形で、一般的な新聞観戦記と似たスタイルを採っている。下記リンク先でコメント付きの棋譜を見られるので、比較してみると良い。

 ・清水市代女流王将vsあから2010 棋譜中継(駒桜−女流棋士会ファンクラブ)
  棋譜中継(コメント付き)、中継ブログ、中継動画など。

また、マニアックな方は次のリンク先をどうぞ。

 ・清水市代女流王将vs.あから2010の棋譜と合議サーバのログ(情報処理学会)
  棋譜、合議サーバのログ、各プログラムの読み筋が公開されている。
  ほぼ記号ばかりで、専門家向け。

本書全体と、特に本章を読んで思うのは、「完全に計算のみによって判断をしているはずのコンピュータソフトに、人間にも似た“棋風”がしばしば現れる」ということ。

例えば、先手清水の▲9八香(居飛穴の意思表示)に対して、あからは△4四角と「居飛穴を拒否」した。そしてそれは「あからは居飛穴に組まれるのが“嫌い”」と表現されている。いかにも人間っぽいではないか。もともと、ボナンザは角を切りたがる性質があり、すでに棋風が存在しているという印象があったが、より強くなった将棋ソフトに「人間っぽさ」が感じられるのが面白い。

他には、佐藤康光が「やはり人の感覚ではない」と表現したところ。これは、「後手が△8二玉のあと、美濃囲いを完成させる△7二銀よりも飛車先を先受けする△2二飛を優先した」という局面へのコメントである。人間であれば、飛先を受けずに△8二玉と突っ張ったのなら、△7二銀まではセットだろうということだが、逆にこの一貫性のなさが人間ぽく見える。「急に飛先が不安になった」と考えたらどうだろう。プロ棋士なら「そんな弱みを見せるわけにはいかない」というところではある。

また、「合議制」によって、中盤の難所でソフト同士が盛んに「もめていた」というのもとても興味深い。今回は議論が一致しない場合、何回か「再検討」をさせる仕様になっていたが、「この件は持ち帰って検討します!」というのがとても人間っぽいと思う。

将棋の方は、清水が長考後に少しずつ崩れる形で、最後は秒読みに追われ、ソフトの正確な終盤に屈する形になった。本文中でも指摘のあった「▲2四歩の突き捨て」や「遊び飛車と馬との交換」については、実戦心理ならではの葛藤があったのかもしれない。

本書では軽くスルーされていたが、わたしが個人的に一番感心したのは、ソフトが△5二金打とした局面。薄くされた片美濃を、本美濃に再構築したのだ。「振飛車党なら自然に手が行く」という手ではあるが、非常に感覚的で、居飛車党の読みの中にはなかなか入れづらい手でもある。「本美濃の再構築は価値が高い」と判断しているところ、素晴らしい。

2010年10月11日は、「コンピュータがプロを倒した日」として記念碑が建ったわけだが、数年前から「奨励会三段がボナンザにコロコロ負けている」という噂はあったし、この半年前に週刊将棋で企画された「週将アマCOM戦」ではアマトップレベルが惨敗していたので、コンピュータ将棋に詳しい人ほど、今回の結果に驚くことはないかと思う。

第7章は、今回の「清水vsあから」で新たに浮かび上がった問題点、課題について。大きく分けて3つ。

 ・クラスタシステムの信頼性up
 ・グリッドコンピューティングはいまのところ非現実的
 ・人間の模倣からの脱却


本書を読むことで、「清水vsあから」の背景や、そこに渦巻いている開発者の人間的な努力というのが理解できる。すでに棋譜中継で詳しい内容を知っている人も、本書を読んでから観なおせば、また違った印象を持てるはずだ。

今後まだまだ続いていく(はずの)「人間vsコンピュータ」。本書は1時間前後で気楽に読めるライトな本なので、ぜひ読んで造詣を深めてほしい。(2011Feb12)

※1 ^ なお、多くの報道で「コンピュータがプロ棋士に勝った」とされていたが、日本将棋連盟は「基本的には奨励会を突破した者が棋士(正会員)であり、女流棋士は棋士ではない」という立場を取っており、女流棋士は正確にはプロ棋士ではない。

※2 ^ 著者によれば、「この書籍は、将棋ソフトに触れるのが初めて、あるいは使ったことはあるけれどもどんな理屈で動いているのかは気にしていなかった、という方を対象に、将棋ソフトがどのように指し手を決定しているのか、人間の思考とどこが同じでどこが違うのか、実際のところどのくらいの強さなのか、といったことを解説したものです。」(「まえがき」より)

※3 ^ この対局の棋譜は完全に忘れていましたが、局面をひと目見て「▲2六香だろうなぁ」と思ったのは間違いないです。



【関連書籍】

[ジャンル] 
コンピュータ将棋
[シリーズ] PHP新書
[著者] 岡嶋裕史
[発行年] 
2011年

< | >

トップページ > 棋書ミシュラン! > コンピュータvsプロ棋士


Copyright(C) 1999-2017 【将棋 棋書ミシュラン!】 All Right Reserved