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■どうして羽生さんだけが、そんなに強いんですか?

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どうして羽生さんだけが、そんなに強いんですか?
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どうして羽生さんだけが、そんなに強いんですか?
現代将棋と進化の物語
[総合評価] A

難易度:★★★☆

図面:随時挿入
内容:(質)A(量)B
レイアウト:A
読みやすさ:A
観戦好きな将棋ファン向け

【著 者】 梅田望夫
【出版社】 中央公論新社
発行:2010年11月 ISBN:978-4-12-004177-8
定価:1,365円(5%税込) 251ページ/19cm


【本の内容】
はじめに 残酷な問いを胸に   6p
第1章 大局観と棋風 ・リアルタイム観戦記「割れる大局観」
 第80期棋聖戦第一局
 (2009.06.09,木村vs羽生,矢倉急戦△5筋交換型)
・対話篇「棋譜を見れば木村さんが指したものとすぐわかる」
 (2010.08.02,羽生善治)
48p
第2章 コンピュータ将棋の遙か上をゆく ・リアルタイム観戦記「訪れるか将棋界『X-day』」
 第80期棋聖戦第五局
 (2009.07.17,木村vs羽生,横歩取り△8四飛型)
・対話篇「互角で終盤に行ったら、人間は厳しいです」
 (2010.08.04,勝又清和)
46p
第3章 若者に立ちはだかる第一人者 ・観戦エッセイ「『心の在りよう』の差」
 第57期王座戦第二局
 (2009.09.16,羽生vs山ア,△一手損角換わり▲棒銀)
・対話篇「あれ、むかつきますよ、勝ってんのに」
 (2010.08.03,山ア隆之)
34p
第4章 研究競争のリアリティ ・観戦エッセイ「研究の功罪」
 第68期名人戦第二局
 (2010.04.20-21,羽生vs三浦,横歩取り△8五飛▲新山ア流)
・対話篇「僕たちには、頼りないところがあるのかもしれないな」
 (2010.07.31,行方尚史)
34p
第5章 現代将棋における後手の本質 ・リアルタイム観戦記「2手目△8四歩問題」
 第81期棋聖戦第一局
 (2010.06.08,羽生vs深浦,角換わり相腰掛銀)
・対話篇「優れた調理人は一人厨房でこつこつ研究する」
 (2010.09.09,深浦康市)
53p
あとがき 誰にも最初はある   18p

◆内容紹介
問題が難解なほど、 勝負が長引くほど、 この人は嬉しそうである。 激化する競争の渦中で語られる棋士たちの言葉。 『
シリコンバレーから将棋を観る』著者、待望の最新刊!!
「いつも思うのだが、羽生の手にかかると、森羅万象、複雑な事象が、 じつにシンプルなものに見えてくるから不思議である。」(本文より)

勝負師、研究者、芸術家の貌を併せ持ち、40歳の今も最高峰に立つ、「考える人」。 その真の強さとはいったい何か? 10篇の「観賞」と「対話」が織り成す渾身の羽生善治論。


【レビュー】
観戦記+インタビューの本。

「羽生善治論」という内容紹介、加えて「どうして羽生さんだけが、そんなに強いんですか?」という非常に挑発的なタイトル──。正直、当初は、この本をすぐに読もうとは思わなかった。羽生について書かれた本はたくさんあるし(本書が出版された2010年11月期だけでも、他羽生関連の本が他に2冊も出版されている)、「羽生は確かに実績No.1だが、羽生だけが強いわけじゃないし」と思っていた。

読んでみて、前述の印象はすぐに間違いであると気づいた。申し訳ないm(_ _)m

「どうして羽生さんだけが〜」は、将棋ファンではない一般人の持つ疑問であり、「将棋界大好き」の梅田自身も「いや、羽生さんだけが強いわけじゃない」(p8)と思っている。そこにまず共感を覚えた。そして梅田が自らに課したテーマは、「羽生の振る舞いや、人々が羽生に向ける特別な視線を観察し、多様な角度からの新しい問いを考え、さまざまな声に耳を傾け、いくら時間がかかってもいいから、一般の人々が抱くその問いへの答えを熟成させていく」(p10)というものだった。それが、本書に掲載された5編の観戦記(すべて羽生がらみのタイトル戦)+αである。


本書の観戦記のうち、3編のリアルタイム観戦記は、現在(2010年12月)もWEB上で見ることができる。

 ・第80期棋聖戦第一局(棋聖戦中継plus)
 ・第80期棋聖戦第五局( 〃 )
 ・第81期棋聖戦第一局( 〃 )

このリアルタイム観戦記は、対局とほぼ同時進行でアップデートされたもので、前著『シリコンバレーから将棋を観る』(2009.04)にも2編載っていた。ただ単に対局の状況を書き散らかしているわけではなく、梅田がさまざまな参考文献等を入念に準備して、それを対局の状況に合わせてセレクトしつつ、立会いのプロの解説を交えながら書いている感じのものである。それゆえ、逆に指し手の進行が急流になる終盤についてはあまり書かれていない。

この「リアルタイム観戦記」という形式は、わたしは割りと好きである。観戦していれば誰でも書ける(正確には「誰でも書くことはできる」)一方で、その難易度は非常に高いと思われるが、なによりも「文字数の制約が一切ない」というのが大きい。好きなことを、好きなだけ書けるのである。図面や写真、イラストの挿入も自由だ。新聞に載るような観戦記の場合、文字数の制限が大きく、特に将棋の場合は指し手に文字数を取られる。そのためか、ただ文章を読むだけなら、併載されている囲碁の観戦記の方が読み応えがあることもしばしばだ。制限された文字数で纏め上げる観戦記者の力はたいしたものだと思うが、「文字数の関係で省略させていただく」「各自ご検討いただきたい」などと書かれるたびに、我々将棋ファンのストレスは溜まっていくのだ。

なお、本書ではリアルタイム観戦記の部分はゴシック体で書かれている(他の観戦エッセイは明朝体が使われている)。これは、WEB上の文章をブラウザで表示させるとき、通常はゴシック体(WindowsならMS Pゴシック、MacならOsaka)が使われていることを意識したものだと思われる。

また、残り2編の観戦エッセイも、リアルタイムでWEB上にアップされなかったということ以外は、基本的にはリアルタイム観戦記と同じである。


しかし、本書のキーは、どちらかというと「+α」の方だと個人的には思う。この「+α」の部分は、対局からかなりの時間が経過してから(3ヶ月〜1年強)、その対局の関係者(対局者or解説者)にインタビューを試みたものである。対局直後だと、熱気が冷めていなかったり、次の対局の準備があったりして(番勝負なので)、なかなか本音が出なかったり、一歩引いた視点からの見解が出なかったりする。一定時間が経過していると、「いろんなものが出てくるなぁ」と思う。

なお、「どの文章から読んでもOK」との旨が書かれていたが、基本的に同一章の観戦記と対話はワンセット。観戦記を踏まえて対話が行われている。観戦記の末尾に棋譜が添えられているので、[棋譜を並べる]→[観戦記]→[対話]の順がオススメ。また、第3章〜第5章は「研究」というテーマで一つの流れになっているので、できれば前から順に読むほうが良いだろう。


各章の内容とミニ感想をざーっと挙げていこう。(※内容のサブタイトルはわたしが勝手に付けたものです)
〔まえがき〕
タイトルの「どうして羽生さんだけが、そんなに強いんですか?」という、一般人の素朴な質問に対して、将棋界全体を愛する梅田は答えに窮してしまう。その問いに真摯に答えようとすれば、将棋ファンの裾野を広げることになる、と考え、なるべくさまざまな角度から羽生を見ようと決意した。

〔第1章・観戦記〕(第80期棋聖戦第1局,▲木村vs△羽生,2009年6月9日)
・将棋界はこれからの10年、抜群に面白い時代に入る
 (理由1)4世代のバトル
 (理由2)現代将棋の進化が加速
 (理由3)コンピュータ将棋の進化
 (理由4)ネットでの観戦・鑑賞がデフォルトに
・急戦矢倉△5五歩交換型の先後どちらを持ちたいか?
 → 検討陣もかなり意見が割れている
p26 野月いわく、「(木村が受け将棋というのは)見る目のない人達が作り上げたイメージで、戯言です(笑)
p36で木村が攻め込む手を指したのを見て、藤井いわく「新しい木村の誕生だ、攻める木村だ!
 → (ノ∀`) アチャー


〔第1章・対話〕(梅田+羽生,2010年8月2日)
対局から1年以上経ってから、振り返りの対談を行った。
・羽生が(半年前の竜王戦で先手を持って敗れた)急戦矢倉を(後手番で)選択した理由
 → 矢倉の中で唯一の未解決テーマだから。
・検討陣の判断が割れた理由
・作戦負けの理由
 → 時間が経ってから将棋を振り返ることに意味がある
・「木村論」
 →羽生による新しい言葉を引き出した!
・急戦矢倉の後手番の現状

〔第2章・観戦記〕(第80期棋聖戦第5局,▲木村vs△羽生,2009年9月17日)
勝又六段と協力しながらの観戦記。
・コンピュータ将棋とプロの差
・プロと超一流の差(前著に対するネット上の感想より)
・コンピュータが分かりづらいこと
p75「最近は定跡に依存しようとするソフトが負けやすい
 → これは知りませんでした。
・GPS将棋に検討させてみると…

〔第2章・対話〕(梅田vs勝又,2010年8月4日)
対局から1年弱経過して、解説役の勝又と改めて対談。
・羽生いわく「(コンピュータ将棋の実力は)棋士にインパクトを与えるほどではない」(p92)に勝又びっくり
 → 羽生にとっての「棋士」は、上位陣だけ?
・GPS将棋はこの1年で終盤の精度が上がった
・「(横歩取りで)▲2七歩を打つのが先手にとって相当損だ」(p98)
・コンピュータもかなり人間に接近してきた
・コンピュータは「横歩取りの先手番」をうまく指せるか?
 → コンピュータにとっては、何かしらの「損」から始まる後手番よりはやりやすい
・「▲CPUvs△人間」を仮定する
・「▲人間vs△CPU」を仮定する
・誰をコンピュータ戦にぶつけるか?
・「私たち(コンピュータ将棋ソフトの)開発者は、人間に負けたいと、どこかで思いながら、全力を尽くして開発しているんですよ。」(p110)

〔第3章・観戦記〕(第57期王座戦第2局,▲羽生vs△山ア,2009年9月16日)
夕食休憩後から、梅田が対局室で観戦したことについて。
・山アの「(残り)時間をめぐるドラマ」
・相手の投了に「怒る」羽生
 → あとがきで梅田が「一番印象に残っている」と語るシーン。これを生で見られるとは何ともうらやましい(・p・)
・投了の真相
 → これは棋譜だけではなかなか推し量れない。やはり「現場」を見て、当事者に訊いて、それを記者が伝えて、初めて分かるもの。
・勝ちの理由、負けの理由
・山アの「華」

〔第3章・対話〕(梅田vs山ア,2010年8月3日)
対局から1年弱経過して、対局当事者の山アと対談。
・「羽生は怖い、人としての底を見切られている」
・60手目までのあらすじと、羽生の山ア評
 → ズバリ当たっている…
・「自分の大局観が正しかったとあとでわかる」
・秒読みに切迫した山アの心理
・羽生が考慮中の23分のうち、16分目くらいから…
・頭の中の盤面の鮮明度
・「あれ、むかつきますよ、勝ってんのに」
 → 梅田が山アから引き出した本音!
・「いや、……すごいショックなんですよ」
 → 山アの羽生評。なんだかんだいって、君たち両想いでしょう(笑)。羽生x深浦とは別の意味で。

〔第4章・観戦記〕(第68期名人戦第2局,▲羽生vs△三浦,2010年4月20日〜21日)
対局後の夜に、三浦x久保x行方x梅田の4人でミーティング。
・「ゼロから始まる」(p154)
・▲5三桂成を研究するには時間が足りない
・羽生は三浦の研究を察知した
・研究への自信を揺さぶる

〔第4章・対話〕(梅田vs行方,2010年7月31日)
対局から3ヵ月後に、解説役の行方と対談。この章は、「研究」がテーマになっているだけに、符号(棋譜)がかなり多いので、やや難易度が高い。
・△2九飛の代わりに△3五飛は…
・若手→トップの情報の流れ−三浦の情報収集はやりすぎか
・研究へのアプローチの違い−大局観で勝負するため、狭いところへ持っていくため
・研究競争の副作用
・羽生とのタイトル戦のあと、木村や三浦が壊れた?
・「羽生善治という人の壁」
・▲5三歩は「羽生の手渡し」
・羽生にとって▲5三歩は
 → 羽生は結論が出ないのが大好き!

〔第5章・観戦記〕(第81期棋聖戦第1局,▲羽生vs△深浦,2010年6月8日)
・みんなの深浦評
・将棋の進化の物語を最高峰の将棋から読み取る楽しさ
・2手目△8四歩と指せない?!−原因は角換わり同型にあり
・2手目は△8四歩!深浦に秘策ありか
・角換わり腰掛け銀富岡流−▲2二歩の局面
・Ustreamでリアルタイム観戦の道が開けた

〔第5章・対話〕(梅田vs深浦,2010年9月9日)
・新手は「素材」である
・素材は若手が、調理はトッププロが
 → ギブ&テイクは成立している、若手からの一方的な搾取ではない
・将棋の最先端とインターネットの最先端は似ている
・生煮えのまま出してしまった△3三同桂
・「結論めいたもの」が伝染する
・△3三同桂はもうダメ?−羽生の口述より
・「す・ご・い・長・い・変・化・な・ん・で・す・よ」
 → 意識がほとんど将棋に行ってしまい、口調が超ゆっくりになる羽生!CPU使用率100%のPCのようだ!これを生で見られた梅田が超うらやましい!
・結論が出て、もう二度と公式戦に現れない順こそ、ちゃんと記録に残さないと
・角換わりの後手で戦えるのは同型だけ…
 → 2手目△8四歩問題。▲7六歩△8四歩と突いた場合、先手が居飛車党なら、矢倉/角換わりを選択することができ、後手は避けることができない。角換わり腰掛け銀の同型で後手が勝ち目がないとなると、2手目に△8四歩と突くことはできなくなり、結果として矢倉も角換わりも消滅する…というもの。
 本書を読んでいる最中に、竜王戦第6局(▲羽生vs△渡辺)が指され、同型ではないが角換わり腰掛け銀で後手が勝った。「後手で戦えるのは同型だけ」が覆されるなら、再び2手目△8四歩が動き始めるかもしれない。

・2手目△8四歩−深浦の見解
・佐藤康光に期待?!
・羽生はスペシャリストとして求道者になるよりも、将棋全体の進化を追究していた

〔あとがき〕
羽生の強さを3つに分類してまとめている。


どうして羽生さんだけが、そんなに強いんですか?」−この問いに対する答えは分からないが、梅田が提示したいくつもの要素により、「おそらくこういう感じだからだ…」とは言えそうだ。

しかし、いま現在、わたしの胸に去来している新たな疑問は、「羽生さんだけがそんなに強いのに、どうして渡辺竜王は羽生さんにも勝ってしまうのですか?」 梅田さん、次回作はぜひこれでお願いします(笑)。


ところで、前著『シリコンバレーから将棋を観る』のレビューで、「梅田の「リアルタイムWeb観戦記」という試みに対して、次に続く人がいないこと、特にプロの観戦記者が「やっぱり梅田さんは一味違うね」で終わってしまっている」と紹介した。あれから約1年半経つが、次に続く人はあまりいないようだ。先ほど「誰でも書くことはできる」と述べたが、確かに梅田のレベルで書くには、相当の知識……よりも、「将棋マニアっぷり」と「将棋愛」が必要だと思う。梅田自身がハードルを上げてしまったのかもしれない。わたしには、それを梅田自身も承知していながら孤軍奮闘しているようにも見える。

でも梅田さん、安心して。後に続く人は確かに少なく、現在は大きなうねりとはなっていないかもしれないが、「uniqueで価値のあるもの」と思っている人は大勢いる。

unique
 【名】類のない人[物・こと]
 【形】
   (1)ただ一つだけの、ほかに存在しない、唯一の
   (2)並ぶもののない、比類のない、優れた
   (3)〈話〉変わった、珍しい、ユニークな
   (4)〔場所{ばしょ}・もの・人などに〕固有の、特有の
   (5)《コ》固有の
   (6)《数学》一意的な


 本文での意味は【形】(1)or(2)

英辞郎 on the Web:スペースアルクより

WEBの世界にいる人から見れば、「急速に普及しないのは、魅力に欠けるからか(´・ω・`)」と思うかもしれない。しかし技術屋の世界から見れば、「技術は枯れてから(例えば特許切れ(出願から20年)してから)普及する」ことも多い。また、これを見て育った若い世代が社会の中心を担うようになってから花開く可能性も高いだろう。数年後〜十数年後には、WEB観戦記が百花繚乱の時代になっていると予想する。

エポックメイキング的には前著の方が上だと思うが、個人的に「数年後にもう一度読んでみたい」度では本書の方が優る印象だった。よって、ごくわずかの差ながら、Aを進呈仕る。(2010Dec17)

※誤字・脱字(第1版で確認)
p199 誤字というほどでもないが…「井上慶太八段」の「太」だけが明朝体になっている(他はゴシック体)。



【関連書籍】
 『
シリコンバレーから将棋を観る─羽生善治と現代
[ジャンル] 
観戦記
[シリーズ] 
[著者] 
梅田望夫
[発行年] 
2010年

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