■2手目△3二銀システム |
2手目△3二銀システム 驚愕の奇襲! 現代将棋に残された最終兵器 |
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著者 | 二歩千金 |
出版社 | マイナビ出版 |
発行年月 | 2024年4月 |
ISBN | 978-4-8399-8604-9 |
定価 | 1,848円(10%税込) |
ページ数 | 268ページ |
本の高さ | 19cm |
[総合評価] | A |
難易度 | ★★★★ |
対象棋力 | 上級〜有段向き |
図面 | 見開き4枚 |
内容 | (質)A(量)A |
レイアウト | A |
解説 | A |
読みやすさ | A |
【本の内容】 |
序章 2手目△3二銀の知られざる世界 | 7p |
第1章 ▲7六歩△3二銀▲2六歩 第1節 シン・パックマン(△4四歩▲同角) 第2節 力戦四間飛車(歩を取らず@) 第3節 角道不突き雁木(歩を取らずA) |
93p |
第2章 ▲2六歩△3二銀▲2五歩 第1節 無理やり向かい飛車(△2四歩) 第2節 都成流(△3一金) 第3節 サイキック腰掛け角(△4四角) |
80p |
第3章 先手振り飛車 第1節 パックリアン戦法(対中飛車) 第2節 飯島流引き角(対四間飛車) 第3節 高田流左玉(対三間飛車) |
58p |
第4章 初手▲7八銀探求 第1節 山崎流(▲9六歩) 第2節 康光流(▲6八飛) 第3節 メイドシステム(▲7九角) 第4節 ハロウィン殺法(▲8六歩) |
28p |
・【コラム】(1)「二歩千金」前史 (2)幻の△3二金システム? (3)△3二銀システムの起源 ◆内容紹介 見たこともない序盤戦術で相手を翻弄し、あっという間に勝勢を築いて勝ち切る。 ネット将棋でもアマ大会でも無双できるような、そんな奇襲戦法はないものか。 ・・・ありました。 将棋ブロガーとして知られる二歩千金さんが開発した「2手目△3二銀システム」です。その名の通り2手目に△3二銀と突き、さらに△4四歩と突いていく独自の世界。 そこから「シン・パックマン」や「力戦四間飛車」「角道不突き雁木」につながっていきます。 また、相手が飛車先を突いてきた場合もあくまで変態チックな陣形を維持できるのが「2手目△3二銀システム」の真骨頂。こちらは「無理やり向かい飛車」や「都成流」「サイキック腰掛け角」に移行します。 「序盤の鉱脈があらかた掘り尽くされた現代将棋においてラストフロンティアといっても過言でない作戦」と著者が言うように、2手目△3二銀は手つかずの未開の地、最後の楽園です。 本書で「2手目△3二銀システム」を身につければ相手をキリキリ舞いさせて勝つことができるでしょう。とっておきの奇襲戦法をぜひ自分のものにしてください! |
【レビュー】 |
「2手目△3二銀システム」の戦術書。 通常、将棋の2手目はほとんどが△3四歩か△8四歩である。近年は「2手目△3二飛戦法」や「嬉野流」のように、2手目に歩を突かない作戦も出てきていて、そこでさらに本書の「2手目△3二銀」〔下図〕という作戦が登場した。 本書の「2手目△3二銀システム」では、通常形の戦いを目指すのではなく、2手目△3二銀を最大に生かした変則的な指し方をメインに解説していく。金銀の連結の良さや、角道を開けていないことなど、メリットはいくつもある。 各章の内容を、図面を添えながら紹介していこう。 |
第1章第1節は、「シン・パックマン」。 初手から▲7六歩△3二銀▲2六歩△4四歩!〔下図〕と指す作戦。従来からある「パックマン」(▲7六歩△4四歩)と思想が似ている。 p19〜p40は、従来の「パックマン」の解説。『奇襲大全』よりかなり奥まで書かれており、「パックマン対策の決定版」(と言われている変化)と「その後」まであって、パックマンが気になっている人は(△3二銀システムと直接の関係はないものの)必読。 ※そもそも△4四歩に▲同角としなければよいのだが、普段そうしている人も、この後の「シン・パックマン」の理解を深めるため、ちゃんと読んでおこう。 【関連書籍】 ・『奇襲大全』 ・『イメージと読みの将棋観』(将棋世界2007年6月号) ・『奇襲破り事典』 ・将棋ブログ「将棋上達の科学」(2017) 従来のパックマンは、非常に激しいやり取りがあるものの、「やはり奇襲」(≒正確に指せば先手良し)という結論に落ち着いているが、本節の「シン・パックマン」は、△3二銀▲2六歩の交換が入ることで事情が変わり、後手の条件が格段に良くなる。 ・▲2六歩が先手の負担になりがち。 ・△3二銀で後手の陣形が引き締まり、△2一桂が浮いていない。 ・先手は先に歩得した(△4四歩を取った)のに、歩切れに泣く展開すらある。 先手の良い要素がないので、従来型以上に「先手は△4四歩に飛びつかず、通常形に戻す」のが最善になりそうだ。 しかし、その場合は次節の「力戦四間飛車」に移行する。 |
第1章第2節は、「力戦四間飛車」。 先手が△4四歩に食いつかず▲2五歩と伸ばして来たら、△4三銀!が見たことのない手。さらに▲2四歩△同歩▲同飛△3二金に▲2三歩と打ってくる(後手が誘っている)のが本節のテーマ図。〔下図〕 ※なお、おとなしく▲2八飛△2三歩なら平和な展開になりそうだが、この場合は次節の「角道不突き雁木」になる。 ここから△3一角と引いた後、△4二飛と振って4四歩を守ってから、△3四銀〜△2三銀で2三歩を回収してしまうのが狙い筋。 ・角が一時的に使いにくいが、将来的に捌くことができる。 ・先手は歩切れに泣かされる展開が多い。 |
第1章第3節は、「角道不突き雁木」。 初手から▲7六歩△3二銀!▲2六歩△4四歩!▲2五歩△4三銀!として、▲2四歩△同歩▲同飛△3二金におとなしく▲2八飛△2三歩〔下図〕となった場合、後手は左辺の形を活かして雁木で戦う。ただし、なかなか角道を開けないのがほとんど見たことのない形となる。 ・先手速攻棒銀には、△3一角〜△2二歩〜△3四銀が嬉野流ライクの妙防で受け止めることができる。 ・先手早繰り銀には、3筋の争点がない(▲3五歩からの仕掛けはない)。▲3五銀の進出に注意しながら、引き角で素早く反撃する。 ・先手鎖鎌銀には、△3四歩と角道を開けて、▲2五銀に△3三桂を用意する。 ・先手腰掛け銀には、▲5六銀を見たら△3四歩と角道を開ける。角道を開けなかったのは、棒銀系の急戦に対応するため。以下は通常形になるが、速攻早繰り銀をやられずに雁木で戦えているのが後手の主張。 |
第2章は、「初手から▲2六歩△3二銀!▲2五歩にはどう戦うのか?」を解説する。 第2章第1節は、「無理やり向かい飛車」。 単なる歩交換を許さず、△3四歩▲2四歩△同歩▲同飛△3三角!〔下図〕からカウンターするのが本節の作戦。 ・▲3四飛の横歩取りには、△2三銀〜△2二飛で向かい飛車。 −先手が飛を定位置に戻すなら、後手は逆棒銀。 −先手が相振り模様なら、5筋位取り+金での抑え込みが有力。 −あっさり▲3三飛成の飛車切りには、△4四歩のパックマンライクな技で後手ペース。 ・横歩を取らずに▲2八飛と引くなら、△2四歩が面白い手。 −▲2二歩なら千日手コース。(『必殺!陽動振り飛車』の筋) −銀冠にして居飛車で戦うのも有力。この場合、角交換させた方がよい。 −△3三銀から向かい飛車にするのが主眼。ただし、本美濃まで囲ってしまうと自信なしで、△3二金型で急戦を見せるのがよい。 −居飛車側が仕掛けを封じて居飛穴を狙うなら、地下鉄飛車を意識しておく。左美濃の場合は△6四角と早めに覗いておく。耀龍四間飛車などに似た指し方。 −▲4六歩から急戦を狙ってくるなら、△2三飛!〜△2二角!がまたまた見かけない駒組み。 |
第2章第2節は、「都成流」。 前節では先手の飛車先交換に△3三角としたが、代えて△3一金!〔下図〕の都成流も有力。飛の成り込みを防いでいる形を活かす。 ・先手が▲3四飛と横歩を取るなら、△4四角!から△3三銀〜△2二飛と向かい飛車にできる。 ・▲2八飛と引かれたら、△3三角or△4四角とする。(△2三歩はダメ) −△3三角は旧式都成流。次に△4四歩〜△4三銀〜△2二飛を狙う。ただし、▲4六歩から仕掛けられると、やや後手が押され気味になってしまう。 −△4四角〜△3三銀が新式都成流。「都成流対策の決定版」とされていた▲2四歩にも対応できており、居飛車で棒銀にすれば後手がやれそう。ソフト流の▲4六歩にも、阪田流向かい飛車ライクで後手がやれる。 |
第2章第3節は、「サイキック向かい飛車」。 初手から▲2六歩△3二銀!▲2五歩△3四歩に、先手が飛車先交換を保留して▲4八銀と来たら? △4四角〜△3三銀〔下図〕と「サイキック腰掛け角」に構える。 ※▲4八銀ではなく▲7六歩なら、角交換からダイレクト向かい飛車が有力。(p169) ・向かい飛車から逆棒銀にして、△4四角の力で△2六歩と打ちやすい。 ・飛を振る筋は臨機応変に。ときには居飛車もあり。 ・△4四角は簡単には追われない。▲3七桂に△6二角と引くのが良いタイミング。 ・角の位置も△4四角にこだわり過ぎず、臨機応変に変える。 |
第3章は、先手振り飛車に対する指し方を扱う。 第3章第1節は、「パックリアン戦法」。 将棋YouTuber鷺宮ローランさん考案の対▲中飛車の作戦。初手から▲5六歩△3二銀▲7六歩△4四歩から始まる。 ・▲5六歩が突いてあるため、「パックマン」とは変化が異なる。先手は5六歩が負担になりやすい。▲4四同角△4二飛▲5三角成には、すぐに△4七飛成とする。 ・先手が△4四歩に食いつかなければ、△4三銀として5筋を受け、角道を突かないまま駒組みを進められる。そして〔下図〕がパックリアンの基本図。 ・超速の銀対抗の形に組んだとき、△3四歩を突いていないので、先手からの捌きは難しく、後手はゆっくりと陣形と整えられる。 ・▲5六銀型にも後手は超速ライクに組むが、▲4六歩〜▲4五歩の攻めに備えて角道を開けておく。ここを封じておけば、先手は手詰まりになりやすい。 ・▲6六歩〜▲6七銀型はバランスが良く、後手からの速攻は難しいが、代わりに4筋位取りで主導権をとれる。 ・先手が左銀を保留して▲4六歩と4筋位取りを消してきたら、△7三桂〜△3一角!が後手の秘手。なんとこれで8筋突破を狙い、手になっている。 |
第3章第2節は、「飯島流引き角戦法」。 初手から▲7六歩△3二銀▲6八飛とすぐに四間飛車に振ってきたとき、後手は飯島流引き角戦法が有力。〔下図〕 ※角道不突きを活かして「居飛穴音無しの構え」も有力。 ・後手の速攻はなかなか成立しないので、△5三角から左美濃に囲う。 ・後手は仕掛けのチャンスを待ちつつ、美濃穴熊への組み換えで堅さ勝ちを狙おう。 |
第3章第3節は、「高田流左玉」。 対▲振り飛車には、相振り飛車にして玉を左に囲う「高田流左玉」に組むのも有力。角の配置は「△4四角型(上弦の角)」と「△3一角〜△4二角型(下弦の角)」に分かれるが、本書では角道不突きを活かした「下弦の角」を扱う。 ・角道不突きなので、△2二飛〔下図〕の瞬間に仕掛けられる心配はない。 ・先手石田流本組みには、右辺の守りを△7二金だけで済ませ、左側での銀多伝を目指す。 −4筋位取り拒否には、△6二銀と引いて角交換を挑むのがよい。 ・先手が左銀を繰り出して来たら、▲7五銀まで来てから△6四銀とぶつけていこう。 ・「高田流対策の決定版」とされる▲右矢倉には、先手の攻撃形の構築が遅れているので、玉を右に囲って「ショーダンシステム」の構えにするのが有力。 |
第4章は、「初手▲7八銀研究」。 本書の「2手目△3二銀」の形を先手番で「初手▲7八銀」として成立するのかどうかを検討する。結論を言えば、全体として先手の得が活きるとは言い切れないものの、破綻することはなく、戦法としては成立している。また、先手ならではの変化も発生する。 |
第4章第1節は、「山崎流」。 初手▲7八銀に対し、 ・2手目△8四歩には通常形に戻す。(あくまで変則戦法にこだわるのは難しそう) ・2手目△3四歩には、 −▲6六歩のパックマンはいまひとつ。後手番パックマンより条件が劣る。 −▲9六歩△9四歩の交換を入れてから▲6六歩〔下図〕が「山崎流パックマン」。 以下、△6六同角▲6八飛△4四角!が「スイッチバック角」で要警戒の手。しかし、▲6三飛成△6二飛以下、飛を手にすれば9筋の突き合いが活きてくる。 |
第4章第2節は、「康光流」。 初手から▲7八銀△3四歩に▲6八飛〔下図〕が「康光流」。発案は佐藤康光で、『将棋マガジン』1996年6月号の記事が由来となっている。 ・▲6六歩〜▲7六歩で角道を開けることができる。後手が飛先交換してきたら、「無理やり向かい飛車」と「都成流」のミックスで迎え撃ち、千日手にはならずに互角をキープ。 |
第4章第3節は、「メイドシステム」。 初手から▲7八銀△3四歩▲7九角!〔下図〕がYouTuber押木ゆいさん考案の「メイドシステム」。本書では、次に▲5八飛として、飛の横利きを通しておく。 ・後手の飛車先交換には、▲8八歩!と土下座の歩を打ち、▲8七銀〜▲7六銀〜▲8七歩〜▲8八飛と8筋逆襲を狙う。このとき、先手中飛車型なら▲5七角と上れるのが利点。 |
第4章第4節は、「ハロウィン殺法」。 初手から▲7八銀△3四歩▲8六歩!〔下図〕が著者命名の「ハロウィン殺法」。ハチロクでウィン。考案者は複数いるらしい。 ・後手の飛車先交換に対し、 −▲7六銀〜▲8五歩はうまくいかない。 −おとなしく▲8六歩と収め、銀冠にしても一局の将棋。メイドシステムにしてもよいし、▲7六歩以下奇襲を仕掛けてもよい。 |
〔総評〕 まだこんな指し方が眠っていたんだ!というのが第一の感想。さまざまなケレン味を散りばめた上で、ちゃんと戦法として成立しているのがとても面白かった。先手の対応によってさまざまな展開があるので、分かりやすく指しこなすのは難しいが、非常にやりがいのある作戦だと思う。 級位者にはあまり向いておらず、どちらかといえば「有段者で個性のある作戦を指したい人」や「定跡どおりの知識マウント勝負があまり好きではない人」にはオススメ。もちろん、「この作戦に対してハマりたくない人」は必読である。 (2024Apr17) |
【余談】 ・ときどきサブタイトルや本文中にアニメネタをぶっこんでくるの好き。(笑) ・コラム(2)の、2手目△3二金からのハメ手が面白い!先手の飛車をあっという間に捕獲してしまう。 【誤字・誤植等】(初版第1刷で確認) ・p160上段 ×「△2銀!が目の覚める…」 ○「△2六銀!が目の覚める…」 |