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マイナビ将棋BOOKS 攻める振り飛車 三間飛車トマホーク |
[総合評価] A 難易度:★★★★☆ 図面:見開き4枚 内容:(質)A(量)A レイアウト:A 解説:A 読みやすさ:B+ 有段者向き |
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【著 者】 石川優太 | ||||
【出版社】 マイナビ出版 | ||||
発行:2021年4月 | ISBN:978-4-8399-7626-2 | |||
定価:1,694円(10%税込) | 224ページ/19cm |
【本の内容】 | |||||||||
・【コラム】(1)三間飛車が楽しい (2)将棋以外のこと |
【レビュー】 |
▲三間飛車・トマホーク戦法の戦術書。 「トマホーク」は、自分が三間飛車で、相手が5筋の歩を突くのを省略して一直線に居飛穴を目指したとき(5筋不突き居飛穴)に、「玉頭銀+端桂+角のニラミ」のコンビネーションで居飛穴玉を直接狙っていく作戦。このトマホークの出現により、居飛車側はかつて強いカードだった「△5筋不突き居飛穴」が使えなくなり、相対的に三間飛車の価値が高まって、プロでの採用数が復活している。 考案者をハッキリさせるのは難しいが、トマホークを世に知らしめたのはアマチュアのタップダイス氏であり、電子書籍も多数出版している。その後、プロが著者のいくつかの棋書にも部分的に解説されてきたが、本書は「プロが書いた、トマホーク専門書」としては、初めての本となる。 本書は3つの章に分かれているが、どの章も〔右図〕が基本図となっている。トマホークが先手番で、▲4八玉+▲3八銀型に限定されている。左銀や右桂を使うタイミングは章によって少し異なっている。 (※トマホークを扱う本では、「玉頭銀+端桂+角のニラミで居飛穴玉を攻める」という思想は共通だが、トマホークが後手番だったり、トマホーク側の金銀の配置が異なったりする。詰むや詰まざるやの展開や、右銀を応援に繰り出す展開では、違いが顕著に出てくるので、注意してください。) 各章の内容をチャートを添えながら紹介していこう。 |
第1章は、「攻め重視の▲4五銀・▲1七桂型」。 ・トマホークは、5筋不突き居飛穴に対して用いる戦法。 −△5四歩型居飛穴に対しては、別の作戦を用いることになる。 ・ノーマル三間飛車から、囲いを▲4八玉型で留め、△3三角を見たら▲6七銀と上がり、1筋の位を取る。 ・▲5六銀〜▲4五銀と玉頭銀を繰り出し、△8四飛と受けさせるのが本章のテーマ。そして▲1七桂と跳ねる。 ・居飛穴の完成を急ぐ△3二金には、▲2五桂で△2四角とどかして、▲6五歩と角道を通す。 −単に端に殺到するだけでなく、▲6六角と後手の△8四飛に働きかけるのを忘れずに。 −香を入手したら飛を責めることができる展開もある。 −▲8六歩の突き上げも頻出手筋。ただし成否は条件による。 ・▲1七桂の瞬間に、影になった歩を取る△1五角は、場合によっては△1四歩と突いて▲1三桂成の突撃を防ごうとしている。 −すぐに▲2五桂から攻めて、仕掛けは成立する。 ・▲2五桂を防ぐ△2四歩には、桂の進路を作るために▲2六歩〜▲2五歩と突いていく。 ・△3五歩と飛の横利きを通す手には、▲2七銀から援軍を送る。 −さらに居玉に戻して、飛も援軍に送る手はトマホークでは頻出手筋。意識しておきたい。 −結構ギリギリの手順になる展開も多い。終盤の細かいところも研究しておこう。 ・上部を厚くする△2三銀には、▲2四歩と取り込んで、角銀どちらで取り返すかを見てから次の手を決める。 |
第2章は、「玉頭銀を恐れない△8二飛待機型」。 第1章では、▲4五銀の玉頭銀(△3四歩取り)に△8四飛と浮いて受けていたが、本章では△3四歩を守らず、△3二金と上がる展開を解説する。 ・△3四歩を取らせるが、△8四飛より△8二飛の方が目標にされにくいという意味。 ・先手は▲3四銀と歩を取り、玉を囲わずに攻めるのと、▲5八金左から囲い合いにするのと、2つの方針がある。 ・玉を囲わずに攻めるなら、▲1七桂〜▲2五桂〜▲6五歩。 −ただし、やや無理気味のようだ。 ・△3四歩を取れたことに満足して、囲い合いにする方が優りそう。 ∴先手がやれそうだが、難しい変化が多くて後手の穴熊が堅く、実戦的に振り飛車が勝つのは大変。 |
第3章は、「工夫の▲6七銀・▲1七桂型」。 先に玉頭銀を進出させると、第1章のように△8四飛と浮いて受けてきたら飛を目標に仕掛けやすいが、第2章のように△3四歩を守らずに固められると実戦的に大変。 そこで本章では、▲6七銀型のまま、玉頭銀の進出を保留し、先に▲1七桂と跳ねてみる。 ・居飛穴が中途半端なうちに仕掛けを見せる。 ・角筋と▲1三桂成の突撃だけでは、やや無理攻め気味。 ・▲2五桂と跳ねてから、▲5六銀の援軍は必要だ。 −△5一金▲4五銀△8四飛なら、第1章に合流するので振り飛車が指せる。 −よって、▲5六銀には△5五歩として、▲4五銀に△5三銀or△5五歩で違う展開にしてくる。 ・△5三銀〜△4四銀は、第2章と後手の角の位置(△4二角→△2四角)が違う。これで成立する変化が出てくる。 ・▲1七桂に△2四歩は、2筋の先手の攻めを遅らせて、居飛車の手を進める狙い。 −▲2五歩〜▲2四歩〜▲2五桂は時間がかかりすぎて上手くいかない。 −▲2五歩で2筋はそのままにして、▲5六銀と上がる手は有力だが、結構大変。 −▲2五歩と突いておいて、▲5八金左と5筋を固めるのが最有力か。居飛車に△5四歩〜△5三銀を許してしまうが、▲7五歩〜▲6八角から石田流を目指す。 |
〔総評〕 本書は、すでに他書でトマホークの思想や基本的な狙いなどは知っているという前提で、応用編の位置付けとなっている。テーマ局面も絞られており、▲ノーマル三間飛車vs△5筋不突き居飛車穴熊で、▲4八玉+▲3八銀型のトマホーク作戦に限定して解説されている。少し形の違うトマホークを指している人にとっても、仕掛け筋は大いに参考になるだろう。ただし、自陣の形が違っていても成立するかどうかはほとんど触れられていないので、自分で考える必要がある。 プロでは5筋不突き居飛穴の採用がかなり減ってはいるが、居飛車が△3四歩を守らない作戦でも実戦的には大変だったり、それを警戒して振り飛車が先に▲1七桂を跳ねるなど、互いの工夫にかなりのページが割かれており、また多くの変化が難しい勝負に落ち着いている。「トマホークの出現により三間飛車が復活」と言われるが、「意外に微差なんだな」というのが正直な感想だ。 「トマホークで居飛穴をぶっ潰す指し方」を求めている人には、なかなかスッキリと勝てない変化も多く、しんどいかもしれない。居飛車の立場で「5筋不突き居飛穴でトマホークに対抗できる指し方はないか」という人や、三間飛車の立場で「トマホークを指しているがなかなか勝てないときがある。なぜなのか」と悩んでいる人向けの本だと思う。 (2021May08) ※誤字・誤植等(初版第1刷・電子版ver1.00で確認): まえがき ×「随筆を進めるに連れて」 ○「執筆を進めるに連れて」 p83上段 ×「△5一銀と堅める」 ○「△5一銀と固める」 p204上段 ×「△4一金と堅めにいくのは…」 ○「△4一金と固めにいくのは…」 |