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■先手矢倉の逆襲

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先手矢倉の逆襲
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マイナビ将棋BOOKS
先手矢倉の逆襲
[総合評価]
A

難易度:★★★★☆

図面:見開き4枚
内容:(質)A(量)A
レイアウト:A
解説:A
読みやすさ:A
有段者向き

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【著 者】 石井健太郎
【出版社】 マイナビ出版
発行:2021年4月 ISBN:978-4-8399-7561-6
定価:1,694円(10%税込) 224ページ/19cm


【本の内容】
序章 現代矢倉の基本   6p
第1章 ▲7七銀対△7三銀急戦 第1節 横歩取り作戦
第2節 ▲6六銀型
第3節 棒銀
58p
第2章 ▲7七銀対△6四歩型 第1節 横歩取り作戦
第2節 ▲6八角型
40p
第3章 ▲7七銀対△7三桂超急戦   22p
第4章 ▲6六歩対左美濃急戦 第1節 △7四歩型
第2節 △5四銀型右四間飛車
32p
第5章 ▲6六歩対△7三銀急戦   20p
第6章 実戦譜 第1局 「端と中央のバランス」
第2局 「一瞬の攻防」
第3局 「新研究炸裂」
37p

・【コラム】(1)コロナ禍の楽しみ (2)小説派か漫画派か (3)ロードマネジメント (4)年賀詰(1) (5)年賀詰(2)

◆内容紹介
矢倉は昔から数多の棋士に愛用されている戦法です。しかし、数年前に流行した後手の急戦策によって先手矢倉が下火になった時期もありました。それでも現在は対策が進んで、矢倉は復調傾向にあります。

以前の急戦は、ある程度組みあがってから後手が攻勢を取るという展開が多かったのですが、現在は駒組みを省いて最短手順で仕掛けを狙う指し方が増えています。攻めつぶされないためには、どう指すのがよいでしょうか。

序章では、現代の先手矢倉の事情と、後手の急戦策の概要が解説されています。
第1章では、後手早繰り銀への対策について、先手の形を細分化しながらまとめています。
第2章・3章は、後手が△7三桂の形を作り、桂を主体とした速攻を狙う指し方への対応策です。
桂を軸とした急戦策は最近よく見られますが、矢倉戦での攻防はどうなるのでしょうか。
第4章では、居角左美濃急戦を紹介します。攻撃力+堅さが魅力的で、先手矢倉を指す上での難敵と言えるでしょう。
4章と5章では、前例が少ないため、筆者独自の研究を中心としてまとめられています。
第6章は、講座を踏まえた実戦編です。

本書では、後手急戦に対して専守防衛に回るのではなく、反撃しながら積極的に優位に立つ指し方を主に解説しています。ぜひ「殴り合って勝つ」面白さを味わってください。


【レビュー】
矢倉戦での後手急戦を解説した戦術書。

△左美濃急戦の猛威により、一時は衰退した矢倉だが、近年は「5手目▲7七銀」と「早めに飛先を突き越す」との組み合わせで復活してきている。ただし、その駒組みは数年前とは大きく変わってきている。また、後手の急戦もさらにさまざまなバリエーションが登場し、矢倉なのに互いに居玉の超急戦まで現れた。

後手の急戦は、駒組みを省いて最短の手順で仕掛けを目指すような指し方が増えている。また、先手は後手急戦を警戒して、5筋の歩を突かないような駒組みが出てきている。

本書では、「先手矢倉vs後手急戦」に絞って解説する。実戦での前例を踏まえつつ、著者独自の研究を加えて執筆されたものであり、公式戦に未出の工夫も含まれている。


各章の内容を、チャートを添えながら紹介していこう。



序章は、「現代矢倉の基本」

・急戦矢倉は、駒組みの早い段階で「△5四歩の省略」という大きな発見があった。
−後手の急戦の幅が広がった。シンプル早繰り銀、腰掛け銀などが現れた。
−後手の攻め筋は、大きく分けて「△7三銀からの早繰り銀」と「△7三桂〜△6五桂を狙う形」の2種類。

・先手は、受け一方の転回を避けるため、飛先の歩を早く伸ばすようになった。
−△3三銀とさせれば、後手の速攻は避けられる。
⇒本書では、「▲2五歩と突いても△3三銀と上がらず、後手が角道を通したまま攻めていく指し方」を紹介する。

・5手目▲7七銀と▲6六歩は一長一短。
−現在は5手目▲7七銀が主流になっている。
−石井は▲6六歩も有力視しており、第4章・第5章で独自策を解説する。



第1章は、「▲7七銀対△7三銀急戦」
5手目▲7七銀から先手が飛先を早めに伸ばしたのに対し、後手が飛先を受けず、△7四歩〜△7三銀と右銀の進出を急いでくる作戦。

(1)横歩取り作戦
先手が△3四歩を飛で取りにいく指し方。

・▲3四飛に対し、[変化1]の△3三角は、▲2四飛を防ぎ、飛を簡単に2筋に戻らせない指し方。
−左辺が矢倉の場合は、▲3五飛と引くのが好形。▲3六飛〜▲2六飛は角で狙われやすい。

[変化2]の△4四角は、左桂の活用を見ている。ただし、先手の飛はスムーズに2筋に戻れる。
−先手は歩得の代償に手が遅れているので、慎重な駒組みが必要。

[変化3]の△8六歩は、出版時点で公式戦未登場。8筋で継ぎ歩をして、飛を2筋に転回するのが狙い。
−先手は▲8七歩を極力打たないようにしたい。


(2)▲6六銀型
先手が飛先交換を保留し、▲6六銀〜▲7七角として角で8筋を受ける指し方。
−先手陣は矢倉ではなくなってしまうが、左辺がしっかりしており、攻めに専念しやすい。

[変化1]の△6四銀は、初志貫徹で早繰り銀にする指し方。
−先手は飛先を交換し、△2三歩と打たれたら横歩を取る方針で指す。自分だけ1歩得で、相手が歩を持たない展開なら指しやすい。

[変化2]の△3三角は、後手も飛先交換を防いでバランスを取る手。
−▲早繰り銀vs△雁木、または▲早繰り銀vs△矢倉や▲腰掛け銀vs△矢倉の展開になる。
−後手が矢倉模様なら、先手は腰掛け銀が石井の有力視している作戦。5筋保留を生かしている。


(3)棒銀
先手が飛先交換し、引き飛車から棒銀にする指し方。

・後手が2筋をどのように対処するか。
−後手がノーガードで早繰り銀に来るのは、先手良し。後手は銀交換できるが、2筋を受けるのが難しくなる。
−△4四角〜△2二角〜△3三桂で棒銀を受けるのが流行っている。棒銀を▲3四銀と呼びこんで△7五歩と仕掛けていく。棋士によって見解が分かれそう。
−△6四銀〜△4二銀は、先手の棒銀で銀交換させても構わないという指し方。後手の角の働きが良くなるという主張になる。先手はすぐに棒銀を捌かず、▲6六銀とバランスを取っていく。または、棒銀を▲3六銀〜▲4五銀と中央方向に使うのも有力だ。



第2章は、「▲7七銀対△6四歩型」
5手目▲7七銀に対し、後手が飛先を受けず、△6四歩から△6三銀〜△7三桂のようなバランスの良い陣形を目指してくる作戦。

(1)横歩取り作戦
後手が飛先を受けないので、先手が横歩を取る作戦。

[変化1]の△7四歩+△3三角は、第1章と同様に、▲2四飛を防ぎ、飛を簡単に2筋に戻らせない指し方。
−▲3五飛に対し、△6四歩型では△2三金と△2二銀を選ぶことができ、後手の作戦の幅が広い。

[変化2]の△8五歩+△3三角+△2四歩は、あとで△4四角と出たときに▲6六銀と上がられる変化を牽制している。
また、▲3五飛に△2四歩とすることで、先手の飛を2筋に戻らせないようにする。
−▲3六飛には△4四角としてくる。この角が好位置なので、▲4六歩から銀を繰り出して後手の角にプレッシャーをかける。
−先手は△4四角をどかして▲2六飛と2筋に戻って駒組みを進める。
−ただし、▲3六飛型のまま玉を固めるのも有力。出版時点で公式戦未登場だが、指し手が分かりやすい。

[変化3]の△4四角は、先手の飛はスムーズに2筋に戻ることができるが、△3三桂から桂を活用しやすく、△6二銀型のまま駒組みを進めることができる。
−△4四角とする場合は、△6三銀ではなく△8五歩の方が良い。△6二銀型なら、後手は王手飛車を気にせずに△6五桂と跳ねることができる。
−初期のころから研究され、実戦例は少ないが、後手にとって有力策。

∴横歩取り作戦は、後手の作戦が4通りあり、先手はそのすべてに対策が必要となる。


(2)▲6八角型
後手の△7三桂〜△8五歩〜△6五桂の狙いに、▲7九角〜▲6八角と対応する指し方。
−横歩取り作戦よりは、矢倉らしい展開になりやすい。

・後手が飛先を受ける気がないので、先手も飛先交換を急がなくてよい。
・▲5六歩はしばらく保留する。
−△8四歩型のまま△5四歩〜△5五歩と動かれないようにしている。
・▲6八角と1手使って上がっているので、3筋の歩交換を角で行うと手損。右銀を繰り出したい。
−ただし、相手の陣形次第では、手損を承知で、角で3筋歩交換を行う展開もあり得る。
−後手は先手の早繰り銀を牽制して、△5四銀や△4四歩としてくる可能性が高い。



第3章は、「▲7七銀対△7三桂超急戦」
後手が居玉で△7三桂〜△6五桂と跳ねてくる超急戦。
−後手急戦の中で最もスピード感があり、破壊力もある。
−▲6六歩とすればすぐには潰されないが、6筋に争点ができてしまうので、突きたくない。

[変化1]の▲5六歩は、次に▲7九角と引いて角の活用を目指す指し方。

[変化2]の▲7九角は、△6五桂▲6六銀△8六歩の飛先交換に▲8八歩と受けて、次に▲6八角と△8六飛に当てて攻めを呼び込む指し方。
−▲7九角に△6四歩なら▲6八角。△雁木vs▲早繰り銀になったときに、△4二角〜△6四角という受けが消えている。

どちらの変化も、互いに居玉なので、角での王手が切り札になりやすい。先手では、▲2四角や▲9五角の王手を常に意識したい。

∴まだ決定版の定跡はなく、未知の手が眠っていそう。



第4章は、「▲6六歩対左美濃急戦」
5手目▲6六歩に対し、△左美濃急戦が有力で、現在のプロ公式戦では5手目▲6六歩は激減している。
本章では、石井の研究を中心に、先手が対抗できる(かもしれない)指し方を紹介する。

・従来は、後手が左美濃急戦模様にしたとき、先手は金矢倉に組んでから攻めの手を指そうとしていた。
・本書では、▲4八銀〜▲3六歩を先に指し、先手からも攻めの手を狙っていく。
−右金を一段金でキープすることで、後手から△6六歩の取り込みが金に当たらず、また飛を切る展開のときに一段金が生きる。

(1)△7四歩型
・△7四歩は、後手が左美濃急戦を仕掛けようとしているなら自然な一手。
・先手は△7四歩を見たら▲7九角と引き、△7三桂にも▲3七桂と攻めの手を指す。
・2筋の歩交換から横歩を取り、攻め続けるのが狙いの一つ。
−ただし、後手の右金の位置によっては攻めが続かない恐れがある。展開によっては先手も後手陣を牽制しながら駒組みを続ける。


(2)△5四銀型右四間飛車
後手が△7三歩型のまま右四間飛車に組む指し方。

・前節のような、先手が横歩取りで動いていくのは難しい。陣形を整備して、徐々に駒を前に進めていく。
・6筋が薄くならないよう、角は居角でキープ。
・後で膠着状態にならないよう、早めに2筋歩交換を済ませておく。
・矢倉への入城は目指さず、金矢倉+▲5八玉型でバランスを取る。



第5章は、「▲6六歩対△7三銀急戦」
5手目▲6六歩に対し、後手が早繰り銀で戦う指し方。
後手は5筋を突かず、従来よりも一手早く攻めてくる。

[変化1]の▲5八金右は、さらに▲6七金〜▲7九角として受けに手をかける指し方。
−先手は▲7八金を省略し、▲7九角〜▲4六角と転回して、後手の攻めを牽制する。

[変化2]の▲2六歩+▲7九角は、飛を攻めに使う指し方。激しい変化になる。
−後手は▲7九角に△4四角と工夫し、2筋を受け流して戦う。△3三桂と活用できる。
−先手は△4四角のときに、▲2四歩と▲7八金がある。石井は▲7八金の方が有力と見ている。



〔総評〕
最近の矢倉戦は、考え方が数年前とは激変しており、棋譜中継のコメントを読んでいてもなかなか理解しきれないことすらある。

本書は、絶賛激変中の急戦矢倉の最先端を解説しており、特に後手が先手の飛先を受けない場合の急戦についてとても理解が深まった。わたし自身はいま現在、先手で矢倉を目指さないし(初手▲2六歩)、後手で飛先を受けない指し方は怖くてとてもできなかったのだが(汗)、本書を読んで少しは分かるようになったので、指してみようかなと思い始めている。

ただ、本書の指し方は非常にプロ的。生兵法でやるとどちらを持っても痛い目に遭いそうだが、本書の解説が高度ながら平易で、混乱せずに読み進めやすいので、「やってみようかな」と思ってしまうのかもしれない(笑)。

(2021May14)


※誤字・誤植等(初版第1刷・電子版ver1.00で確認):
p93上段棋譜 ×「△4二金寄」 ○「△4二金右」



【関連書籍】

[ジャンル] 矢倉
[シリーズ] マイナビ将棋BOOKS
[著者] 石井健太郎
[発行年] 2021年

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