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マイナビ将棋BOOKS 斬り合いで勝つ!深浦の居飛車穴熊 |
[総合評価] B+ 難易度:★★★★ 図面:見開き4枚 内容:(質)A(量)B+ レイアウト:A 解説:A 読みやすさ:A 上級〜有段向き |
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【著 者】 深浦康市 | ||||
【出版社】 マイナビ出版 | ||||
発行:2021年1月 | ISBN:978-4-8399-7524-1 | |||
定価:1,694円(10%税込) | 224ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||||||
【構成】 高野悟志 ・はじめに 「講座に入る前に知っておいてほしいこと」=2p
・【コラム】(1)弟子 (2)おうち時間 |
【レビュー】 |
居飛車穴熊の戦術書。 平成時代の約30年間、対抗形は居飛車穴熊を中心に回っていた。居飛車穴熊は「堅さ」と「遠さ」を生かして、通常なら無理な攻めでも通ることが多く、高勝率を上げていた。振り飛車側は、居飛車穴熊にどう対抗するか模索を続けてきた。「堅さは正義」の時代が長く続いた。 しかし、AIが強くなるとともに、居飛穴の評価も変わり、現在では、「角交換」や「堅さに反した金銀の動き」といった「プラスα」も必要になってきた。また、トマホークなどの対抗策が見つかったことで、居飛穴側も従来と駒組みの手順を変える必要に迫られ、その影響で三間飛車の地位がかなり向上している。 本書は、ノーマル四間飛車と三間飛車に対して、従来からの居飛穴の戦い方に加え、現代的な考え方を融合させた「居飛車穴熊マスター版」という位置づけで、居飛穴の戦い方を解説する本である。 各章・各節の冒頭には、よくある局面としてテーマ図が掲げられ、そこからの有力な手順を検討する。一部のテーマ図は初手からの手順が載っているが、大半のテーマ図では手順は割愛されている。 各章・各節の内容を、チャートを添えながら紹介していこう。 本編の前に、「はじめに 講座に入る前に知っておいてほしいこと」があり、居飛車穴熊の特長を簡単に解説する。 ・居飛車穴熊は、美濃囲いに比べて堅く、遠く、王手がかかりにくい。 ・序盤で駒の配置をしっかり考える。 −特に、左金の位置と、玉側の端歩の関係は重要。 第1章は、「対四間飛車」。第1節〜第8節は先手番での居飛穴、第9節・第10節では後手番の場合を解説する。 ・基本的に、序盤は穏やかに進み、早い戦いは起こさなかったとする。 −四間飛車側は美濃囲いから高美濃(場合によっては銀冠)を目指す戦いを扱う。 −相穴熊は第3章で。 −対藤井システムからの急戦、耀龍四間飛車、対振り飛車ミレニアムなどの異形系は扱わない。 (1)対四間飛車の基本形 ・まずは▲9六歩を突く形を見ていく。四間飛車側の左銀は△5四銀。 ・▲5九角〜▲3七角とゆっくり駒組みを進めると、居飛車が打開に苦労する。 ・居飛穴が組み上がったら、▲3五歩〜▲2四歩〜▲6五歩と仕掛けるのが定番の動き。 |
(2)▲7八金-△9五歩型 ・四間側が9筋を突き越し、先手は▲7八金と上がっている形。後手が藤井システムを見せた場合に出現しやすい。 −後手は端に手をかけているので、△8二玉と△6三金を指せていない。 ・この形も同様に、▲3五歩〜▲2四歩〜▲6五歩の仕掛けが有力。 |
(3)後手△6三歩型 ・9筋を突き合っており、後手は片銀冠に組めている。△6四歩を突かず、▲6五歩の効果がやや薄い。 ・この形では、2筋・3筋の突き捨てを入れず、単に▲6五歩が有力。穏やかな展開になることもある。 |
(4)後手△4四銀型 ・9筋を突き合って、後手は高美濃から△4四銀型に組む。昔から指されている形。 ・先手は、▲5九角から角の転換を目指すか、▲6八銀から松尾流穴熊まで固める方針か。 −▲5九角からの転換は難解だが、これを選ぶなら▲7九金型にしておいた方が、7筋で歩を持つ手がある分だけ優る。 −▲6八銀からの松尾流穴熊も、すぐに△5五歩と仕掛けられて、難しいながら居飛車が良くならない。 ∴なんらかの工夫が必要。テーマ5へ。 |
(5)対△4四銀型 先手の工夫 ・テーマ4から▲1六歩と様子を見て、▲3七桂と跳ねるのが工夫。 −▲1六歩は、桂を跳ねるために必要な一手。 ・▲6八角から▲4六歩で一歩交換し、陣形を整えてから4筋を狙っていく。 ・後手が△1四歩を省略して銀冠を急ぐなら、△8三銀と離れたタイミングで▲6八銀と松尾流穴熊を目指したい。 |
(6)後手△3二銀-△4五歩型 ・ここからは△3二銀型。角交換に備えている。 ・まず▲1六歩と突いて、幽霊角△1五角を消しておきたい。 ・そして▲3七桂と跳ねて、△4五歩をロックする。△4三銀に▲4五桂を用意しておく。 |
(7)後手△3二銀-△5四歩型 ・△3二銀型で、角道を開けずに△5四歩としてくる形。 ・まず▲3八飛と寄って、後手の手に合わせて指していく。 |
(8)後手△3二銀〜△4三銀型 ・△3二銀型で待機していた後手が、△4五歩も△5四歩も指さずに△4三銀と上がる形。動きが鈍そうだが、手が進むとアグレッシブになることもある。 ・先手は松尾流穴熊を目指す。後手の動きに対応していく。 ・後手が手待ちを繰り返すなら、堅く組み直してから仕掛ければよい。 ・▲6八銀の瞬間に△8五桂が怖い順。このタイミングだと▲8六角と逃げるしかない。 −松尾流穴熊にこだわると、後手の猛攻を喰らう。引いた銀を▲5七銀と戻るのが面白い。 ⇒p220の「深浦の会心譜@ 対井出隼平四段戦」(2019)も参考にしたい。 |
(9)△5四銀型、後手番の場合 ・ここからは居飛車が後手番の場合の戦い方。(図面は先後逆表示。総譜はないので、本レビューでも先後逆にしておきます) ・△5四銀型に対しては、後手番では待機が良い。千日手でも満足。 |
(10)△4四銀型、後手番の場合 ・△4四銀型では、先後の差が大きい。 ・▲2六角型にして、ゆっくり攻め上げて先後の影響を小さくしたい。 |
第2章は、「対三間飛車」。 ・三間飛車は、四間飛車に比べてフットワークが軽い。居飛穴が完成する前に3筋から動いてくる変化が多い。 −場合によっては、居飛穴にこだわりすぎないようにする。 (1)対三間飛車の基本形 ・まずは▲5六歩不突き(あとで突く)からの居飛穴。 ・スムーズに組めれば居飛車十分。 (※ただし、後で出てくる「トマホーク」のため、5筋不突き居飛穴はやりづらくなっている) |
(2)▲5七銀-▲5八金を決めた形 ・5筋の歩を突き、右の金銀を活用しておく。 ・▲4六銀〜▲6八角の筋があるので、石田流には組まれにくい。 ・振り飛車側が、あっさり▲1一角成と香を取らせる指し方がある。意外と難しいので要注意。 |
(3)対コーヤン流三間飛車 ・中田功八段(愛称がコーヤン)が得意としていた作戦。(※というより、プロではほとんど中田功の実戦ばかり) ・振り飛車が角道を通した後、いきなり△8五桂と居飛穴を直接攻めてくるのが特徴。 ・さまざまな変化があるが、藤井聡太新手▲5五歩が決定版となっており、プロ公式戦では見られなくなった。 |
(4)対先手三間飛車 ・ここからは居飛車が後手番の場合の戦い方。(図面は先後逆表示。総譜はないので、本レビューでも先後逆にしておきます) ・三間飛車は先後の差が大きいとされる。振り飛車側はより積極的な動きを目指せる。 −△7四歩から△7三角と活用する手がある。角を大きく使えるが、将来の玉頭攻めが厳しくなり、一長一短ではある。 |
(5)対トマホーク急戦編 (※先手トマホーク。図面・棋譜は先後逆表示。) ・5筋不突き穴熊に対して、端桂から居飛穴を直接攻める作戦。 ・△6二玉型で保留し、△9四歩を急ぐ。玉の囲いに手をかけず、端攻めを視野に入れている。 ・角筋を通し、端桂△9三桂と玉頭銀△6五銀のコンビネーションで攻めてくる。 ・トマホークの雰囲気を感じたら、5筋不突きを放棄して▲5六歩と突き、△6五銀に対する受けを用意しておく。 ⇒トマホークにより、5筋不突き穴熊は指しにくくなった。5筋を突いた穴熊ならそこまで怖くない、と三間飛車が復権するキッカケとなった。 |
(6)対トマホーク持久戦 (※先手トマホーク。図面・棋譜は先後逆表示。) ・テーマ5で速攻を封じた場合の展開。 ・もはやトマホークと呼べる展開ではないが、▲6六歩と角道を止めさせられているのがテーマ2との大きな違い。 −三間飛車側は、▲6六歩と角道を止めさせたことで、△5一角〜△3五歩の石田流を目指してくる。 −▲4六銀で石田流を牽制するタイミングを覚えておきたい。 −居飛車が後手番だと手が進んでいないので、場合によっては、居飛穴を保留することも必要。 |
第3章は、「相穴熊」。 第1節 対四間飛車穴熊 (△四間飛車穴熊vs▲居飛車穴熊) ・振り飛車側は、互いに穴熊に潜る前に△5四銀と玉頭銀で揺さぶるのが定番の動き。 (1)オーソドックスな形 ・△5四銀に対し、▲6六銀と▲6六歩がある。 ・▲6六銀型で、おとなしく組み合うと、四枚穴熊にはできるが、攻撃力不足になって、やや居飛車不満か。角交換を視野に入れた駒組みが良い。 ・▲6六歩型では、しばらく囲い合いになるが、6筋に争点ができる。居飛車は右金を地を這う動きで囲いに寄せ、▲6八飛を用意しておけば潰されることはない。 |
(2)△9五歩型相穴熊 ・振り飛車側が端歩を突き越している形。いわゆる「端歩位取り穴熊」。 ・持久戦になれば、端の位の分だけ振り飛車が良い。 ・居飛車は早めの動きを目指したい。 −▲7八金と締まってから▲6五歩と角交換を挑むのがオススメ。△7七角成に▲同金で、穴熊を乱されずに進められる。 (ただし、一時的に金銀が穴熊から離れた形になるので、組み上がるまでは注意が必要) ⇒かなりバランスの取り方が難しい形なので、アマの時間の短い将棋では指しづらいようにも見える。 |
第2節 対三間飛車穴熊 (△三間飛車穴熊vs▲居飛車穴熊) ・三間飛車は、左銀を活用しやすい。△4二銀〜△5三銀〜△6四銀と、四間飛車のときよりも銀を一路囲いに近づけやすい。 ・互いの囲いが同型になりやすく、先手番が打開に苦労することが多い。 ・居飛車は、早い動きを目指したい。 (1)先手の勝ちパターン ・固め合いにはせず、▲8八銀と穴熊のハッチを閉めたら、▲3六歩〜▲6八角として、2筋・3筋で動く。 (2)後手の早い動きには ・振り飛車が固め合いにせず、▲9八香に△4二飛〜△4五歩と動いてきたら、無理せず▲4八飛と受けて、穏便に駒組みを進める。 (3)最新の▲5八金型 ・序盤で▲5八金右と上がり、△6四銀に▲6六歩と突く狙いの指し方。最近増えてきている。 ・バランスを取り、4筋を狙われにくくしている。 〔総評〕 居飛穴の様々な頻出局面をテーマ図としており、すでにある程度居飛穴を指している人にとっては、「即戦力のガイドブック」として強い味方になりそう。特に振り飛車が比較的オーソドックスな指し方をしてくる場合には有効だ。 半面、すでにたくさんの居飛穴本を読んでいる人にとっては、既視感のある局面が多く、新しい知識は少ないかもしれない。テーマ図はたくさんあるので、一つ二つでも新情報があれば良いということであれば、一読の価値はある。 逆に、居飛穴を指し始めの人・これから指そうという人にとっては、ややハードルは高い。「居飛穴であれば当然の順」という感じで書かれている箇所が多く、「居飛穴の理想形」「思想」といったものはまとめられていない。 また、「三間飛車藤井システム」や「耀龍四間飛車」、「振り飛車ミレニアム」といった、近年台頭してきた変則系振り飛車については、記述が何もないのはちょっと残念(「トマホーク」は記述あり)。テーマ図として掲げることは難しいかもしれないが、指し方の指針や、逃してはいけない急所など、居飛穴党としてのコツが記されていれば良かったなぁ。 棋書としての完成度は高いので、人によってはA以上だと思う。個人的には、「新鮮味やユニークポイントはあまりないが、普通に美味しいプチ高級食パン」というイメージでした。 (2021Feb10) ※誤字・誤植等(初版第1刷・電子版ver1.00で確認): p67上段 ×「銀冠を完成指せるのは」 ○「銀冠を完成させるのは」 p187上段 ×「次に△6三金から△7二飛なれば…」 ○「次に△6三金から△7二飛となれば…」 |