zoom |
マイナビ将棋BOOKS 中飛車のポイント すぐ覚えてすぐ勝てる11の戦型 |
[総合評価] A 難易度:★★★★ 図面:見開き4枚 内容:(質)A(量)A レイアウト:A 解説:A 読みやすさ:B 上級〜有段者向き |
||
【著 者】 石川泰 菅井竜也/推薦 | ||||
【出版社】 マイナビ出版 | ||||
発行:2020年12月 | ISBN:978-4-8399-7497-8 | |||
定価:1,694円(10%税込) | 256ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||||||||||||||||||
※○入りの数字は、本書の「11の戦型」です。
・【コラム】(1)筋トレ観 (2)筋トレの基礎 (3)怪我 (4)アームレスリング (5)アームレスラー (6)何目指してるの? |
【レビュー】 |
中飛車の戦術書。 中飛車は昔から指されているが、△ゴキゲン中飛車が登場した後、積極的に主導権を握る▲中飛車も多く指されるようになっており、人気戦法の一つである。ただし、中飛車はバリエーションが非常に多く、またプロで流行の形とアマで頻出の形は違っているものも多い。 本書は、元奨励会三段で現YouTuberの著者が、プロの中飛車とアマの中飛車を両方経験した上で、アマに頻出の形の中飛車の急所を解説した本である。 ・中飛車での出現頻度が高い重要な11の戦型を解説。 −ほとんどは▲中飛車であるが、第4章(「対丸山ワクチン」)のみ△ゴキゲン中飛車を扱う。 ・「中飛車党が分かっているようで整理できていない、頻出するが毎回どう指すか悩んでしまうという局面に対して一定の明確な方針を打ち出せた」(あとがき) 各章の内容をチャートを添えながら紹介していこう。 |
序章は、「中飛車の魅力とは」。中飛車の良さと、基本となる狙い、さらに本書で扱う戦型の概要を解説していく。 ・中飛車は、「わかりやすい」と「合理的」であることが魅力。 −中飛車はいくつもの戦型を覚える必要がなく、一冊でたいていの局面に対応できる。 −中央に圧力をかけるので、居飛車の攻め駒と守り駒を分断でき、手厚い攻めや駒を引き付ける守りを難しくさせることができる。 −また、居飛車は中央への備えをしなければならず、中飛車は角頭を攻められにくい。 ・中飛車の基本の狙いは、以下の通り。 −角道を開けたまま▲5五歩と伸ばし、その下から銀を繰り出す。 −一直線に角頭を狙われても、中飛車側の5筋突破の方が早い。 −中央を見せ球にして、他の隙を狙っていく。 ・居飛車の主な対応と主張点は、6通りに分類される。★重要★(p16) −(1)△6三銀型や(2)△6四銀型は、いったん中央に駒を集めて、駒組み勝ちや角頭への急戦を狙う。 −(3)居飛車穴熊や(4)一直線穴熊は、中央にかける手を少なめにして、玉を固める。 −(5)丸山ワクチンは、早めに角交換して中飛車の陣形を制約する。 −(6)(7)(8)相振り飛車は、直接中飛車の囲いを責めて、中央の脅威を緩和する。 −(9)糸谷流右玉は、右辺の厚みを主張する。 −(10)飯島流引き角や(11)鳥刺しは、角道を開けないことで振り飛車の角を捌かせず、角頭攻めを狙う。 ・本書では、各戦型に対して「分かりやすく、勝ちやすい」(と思われる)形を解説していく。 |
第1章は、「対△6三銀型」。5筋の歩交換を防いで△6三銀と上がり、中飛車の捌きを抑えようとしている。 ・△6三銀は攻めには使いづらくなる。 ・居飛車の狙いは、左銀で玉頭位取りや、△7二飛の袖飛車など。 ・玉頭位取りでしっかり組み合われると、居飛車が作戦勝ちになる。 ・中飛車側は、堅さで優っているうちに手薄なところを狙いたい。 −例えば、▲6八飛と6筋を狙って△7四歩〜△7三桂を強要し、さらに▲7八飛と7筋を狙うのは汎用性が高い。 −また、同様に△7三桂と跳ねさせてから、▲9七香〜▲9八飛で9筋をスズメ刺しにするのも頻出。 ・△3三銀型は、△7二飛から速い動きを狙っている。 −7筋を交換させてから飛をぶつける筋を狙おう。飛交換拒否には、居飛車の駒が重くなるので、自玉を固めて中央に駒を集めてリードしよう。 |
第2章は、「対△6四銀型」。5筋歩交換を直接防ぐのではなく、△6四銀+△4四銀の二枚銀で5五歩を目標にしようとする。5筋と7筋を狙っており、積極的な作戦。 ・中飛車側は、▲5六銀と歩を支えて、7・8筋を攻めさせて中央のカウンターを狙うか、▲6六銀と銀対抗にして銀交換を狙って捌くか。 ・居飛車の囲いは薄い。互角に捌ければ中飛車が十分。 |
第3章は、「対居飛車穴熊」。しっかり囲うことを優先している。 ・△5四歩から居飛穴に組むのは、バランスが良いが、争点も増えている。 ・一直線穴熊は、中央にかける手をできるだけ省いている。中飛車側も穴熊に組み、石田流からのカルサバが本書の推奨。 −石田流に組むときに、▲6六飛の途中下車はしないほうが良い、というのが本書の見解。 |
第4章は、「対丸山ワクチン」。△ゴキゲン中飛車に対し、早めに角交換して、5筋が争点にならないようにしている。 ・角交換で△3三銀型が強要される。 ・通常は▲9六歩△9四歩の交換後に▲7八銀が定跡で、角交換振り飛車のじっくりした戦いになりやすい。 ・本書の推奨は、9筋を受けずに中飛車側からガンガン攻めること。 −端の位を取らせる代わりに5筋の歩を交換しておくと、方針が明快で実戦的に有力。 −2筋の逆棒銀も中飛車側の有力策。9筋に手をかけた居飛車の立ち遅れを衝いている。 ・持久戦は、居飛車が7筋位取りから玉頭を厚くする指し方があり、中飛車側が駒組み負けしやすいようだ。 |
第5章は、「相振り飛車」。一般的に相振り飛車の飛の位置は中央から遠いほど良いとされる考え方があり、中飛車を咎める相振り飛車は昔から一案だった。 ・近年は、「中飛車左穴熊」という有力な相振り対策もあるが、本書では独自研究を解説する。 ・対三間飛車には、左辺と右辺の攻めを両狙いする形を狙う。 −三間飛車側が高美濃+△3三銀の組み合わせにしてくることは非常に多い。 −3筋の歩交換は浮き飛車▲5六飛で阻止しておく。 −▲9六歩と突くタイミングがポイント。角の位置を保留し、後手の手を見てから▲6六角か▲7七角かを決める。 −9筋で香交換すれば、先手が指し易くなる。 ・対向かい飛車には、一直線に中央の棒銀を繰り出す。 −角道を開けない▲5五歩が本書での研究手。 −向かい飛車は△4三銀型に手数がかかるので、一直線棒銀で早く動く。 −中央の棒銀で銀交換できたら、▲9六歩〜▲9七角の陣形を作る。 −なお、この指し方は、対四間飛車でも使える。 ・相中飛車はアマでは頻出。 −後手が先手と同じ指し方をしてくる場合、先手が何らかの工夫をしないと手詰まりになりやすい。 −序盤で角が向かい合っているときに▲7七角と上がり、左銀の動きを自由にするのが良い。 −左銀を▲4六銀と玉側に上がるのが急所。 |
第6章は、「その他の作戦」。糸谷流右玉、飯島流引き角、鳥刺しを解説する。 ・対中飛車の作戦は、プロでよく出る形と、アマでよく出る形の差が大きくなってきている。 ・糸谷流右玉は、プロではほとんど見られないが、アマでは良く出てくる。 −組み切られると難しい将棋になり、相振り飛車ライクの駒組みから攻められやすい。右玉の急所が難しく、中飛車側の攻撃陣の構築に時間がかかるのが原因。 −中飛車側は囲いを最小限にして、左桂を跳ねた速攻を狙いたい。 −▲6九飛と右玉の玉頭を狙い、桂交換して、端で角を捌けば攻撃陣に活が入っていく。 ・飯島流引き角も、アマでよく見る形。 −持久戦にするなら、▲6六銀型に組んで7筋の位を取るべし。囲いが互角になるなら、攻めの桂の働きで差を付けたい。 −急戦を狙うなら、居飛車の玉の移動に時間がかかるので、後手が居玉のうちに(▲4八玉型のままで)▲5五歩とつっかけたい。 ・鳥刺しは古くからある形。嬉野流がアマで流行し、増えてきている。 −持久戦になれば、鳥刺し側は駒組みが難しく、中飛車側は銀冠に組めて指し手に困らない。 −▲6六銀の銀対抗なら、互いの攻めの銀を交換して戦う。 −または、▲6七銀で居飛車の攻めの銀を相手にせずに戦う指し方も有力。鳥刺しの最初の一太刀を形良く受け止めるのがポイント。 −どちらの形でも、▲6八角型で▲4六角の余地を残して戦えばOK。 |
〔総評〕 本書の11戦法は、中飛車をやっていると確かによく見かける戦型だなと思ったし、第2章・第3章以外はプロではあまり見ない戦法だった。 中飛車はプロでも人気の戦法で、特にこの20年は中飛車をテーマにした本もたくさん出版されたが、アマでよく見かけるがプロでは出ない形というのが確かにあった。中飛車が人気戦法であるがゆえに居飛車のバリエーションも多く、基本的に棋譜を共有されないアマでは、各人が自分の得意な形を伸ばしていった結果なのかと思う。 本書では、中飛車側の有力な変化だけでなく、中飛車側が陥りがちな勝ちにくい変化も書かれているし、客観的な形勢判断に加えて、実戦的な指し易さも考慮されている。自分で中飛車を指す人だけでなく、「自分は中飛車を相手にすることはない」という人はいないはずなので、アマには必読の一冊といえるだろう。 ※誤字・誤植等(初版第1刷・電子版Ver1.00で確認): p30上段 ×「第4図以下の指し手@」 ○「第4図以下の指し手」 Aがないので、@は不要。 p80上段棋譜 ×「▲6四銀 △同 銀 ▲同 飛」 ○「▲6四銀 △同 歩 ▲同 飛」 |