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マイナビ将棋BOOKS 矢倉は終わらない |
[総合評価]C 難易度:★★★★☆ (部分的には★3.0〜3.5) 図面:見開き3〜6枚 内容:(質)A(量)B レイアウト:B+ 解説:B+ 読みやすさ:B- 有段者向き |
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【著 者】 佐藤秀司 | ||||
【出版社】 マイナビ出版 | ||||
発行:2021年1月 | ISBN:978-4-8399-7446-6 | |||
定価:1,694円(10%税込) | 224ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||||||||||||||
・【コラム】(1)指導 (2)望郷 (3)対話 |
【レビュー】 |
矢倉戦法の戦術書。 ガッチリ囲い合う相矢倉戦はかなりの長い間、居飛車党の主戦場だった。しかし、△4五歩の見直しで▲4六銀-3七桂戦法の前提が崩れ、さらに△左美濃急戦の出現により5手目▲6六歩が劣勢になり、矢倉は壊滅状態に陥った。増田康宏の「矢倉は終わった」発言もあり(※細かいニュアンスが違うらしいですが)、相居飛車の流行は他の戦型へ移っていった。 しかし、矢倉は消滅しなかった。徐々に矢倉の局数は復活している。ただし、この30年の組み方とは大きく変わっており、矢倉戦を指しこなすには新しい考え方をしっかりマスターする必要があるだろう。 本書は、先手が矢倉を目指す場合の序盤で、さまざまな後手の作戦に対応できるような正しい手順を考察する本である。 各章の内容をチャートを添えながら紹介していこう。 |
第1章は、「矢倉の変遷」。矢倉の初期から現在までの移り変わりを簡潔に解説している。 (1)「矢倉の揺籃期」(ようらんき≒初期) ・プロで矢倉が指され始めたのは戦後で(1950年前後?)、5手目▲7七銀をプロで初めて指したのは大山康晴だそうだ。 ・角道を止めた「重い形」が、当初はあまり受け入れられていなかったと思われる。 ・角の運用が一つのテーマとなり、▲5六歩を突いて金矢倉に組むのが主流になった。 ・1980年代からは飛先不突き矢倉が登場。優先順位の高い手を先に指すという思想が定着した。 (2)「後手の対策に先手の工夫」 ・矢倉は先後同型になりやすく、駒組みの選択権や主導権が先手にある。 ・△5五歩交換型急戦や、△6二飛戦法など、後手から動く作戦が出てきた。 ・△8五桂が▲7七銀に当たらないように、5手目▲7七銀を保留し、5手目▲6六歩が主流になっていった。 (3)「強敵の出現」 ・2010年代、5手目▲6六歩に対して、△左美濃急戦が猛威を振るった。 ・現在は、矢倉戦では5手目▲7七銀に回帰している。 |
第2章は、「▲7七銀の復活」。 5手目▲7七銀が主流になったことで、△左美濃急戦などにはなりにくくなったが、後手からの急戦はまだある。本章では、後手の急戦としては比較的新しい「△右桂急戦」と「△早繰り銀」を解説し、矢倉を目指すための先手の正しい駒組み手順を検証する。 (1)超急戦 ・5手目▲7七銀に対して、それでも後手が超急戦を挑む指し方。 ・△7四歩〜△7三桂〜△8五歩と進めて、 (a)▲2五歩には飛先を放置して△6五桂と単騎跳ねする。 −正確に対応すれば先手良し。ただし、知らないと指せないような大立ち回りがある。 −この超急戦は、「将棋連盟Live」(棋譜中継)では実戦例は見つからなかった。 (b)▲2五歩にいったん△3三角と受け、△6五桂跳ねを窺う。 −▲6六歩と突いておくのが無難。この形なら左美濃急戦もない。(将来▲2四歩から角交換を迫れるため) −本書には載っていないが、▲6六歩と突かずに△6五桂を誘う実戦例もある。有名なところでは、2020年10月9日の竜王戦第1局(▲羽生善治△豊島将之)など。 (2)▲6六歩の妥協案 ・後手が第1節のような超急戦を目指しているとき、▲2五歩を決めずに▲6六歩と突く指し方。 −すぐの△6五桂は防げるが、それでも△6四歩〜△6五歩を仕掛けてくる手はある。 −また、漫然と組み合うと△左美濃急戦を喰らってしまう。 −後手が早々に△7三桂と攻めを狙ってくる形では、先手は駒組みに手をかけず、▲2五歩から素早く引き角にして飛先交換し、▲4六角と好所に配置するのが良い。 ∴後手の右桂急戦は、正しく応戦すれば大丈夫。 (3)早繰り銀への対応 ・後手が囲いを簡素に済ませ、早繰り銀で攻めてくる形。 −先手の引き角〜▲4六角が間に合うと攻めづらいので、後手も急いで攻める必要がある。 −銀交換できれば後手の主張が通る。ただし、形によっては先手不利という訳でもない。 −先手が飛先交換から▲2五飛と早繰り銀を牽制してくるなら、△4四角が後手の工夫。△3三桂と飛に当てて移動させる手を狙う。 −先手がすばやく▲4六角型を作り、右銀を▲6六銀まで持ってきて、後手の攻撃陣を牽制するのは有力。時間を稼いで、右辺の攻撃態勢を築くのが真の狙い。ただし攻めは飛角桂のみになるので、工夫が必要。 ・後手にペースを握られるのが嫌なら、先手は玉の移動を後回しにして、引き角〜▲4六角を作れるようにしておくのが一案。 ・また、「一直線金矢倉」でもほぼ互角に戦えそうだし、「相カニカニ銀」のような形もあり得る。 ∴先手の準備が万端なら、桂跳ね急戦や早繰り銀は後手が良くなるとまでは行かない。 一般的に、現在の矢倉戦で先手が金矢倉を目指すなら、▲2六歩〜▲7八金〜▲6六歩(or▲5八金)〜▲5六歩の順が良い。 −飛の横利きはなるべく通しておきたい。 −▲4八銀や▲6九玉は後回しで構わない。 |
第3章は、「対△6三銀・△7三桂型」。 後手が、急戦・持久戦の両方に対応可能な△6三銀・△7三桂型を目指す形はバランス重視で、先手側から見て強敵。 (1)▲6六歩型での迎撃 ・▲6六歩〜▲6七金右型で後手の攻めを迎え撃つ。 ・後手は左美濃急戦よりは玉型が弱いので、無理攻めはできない。 ・△8五歩と飛先を伸ばしてきた場合は、▲7九角〜▲4六角で牽制するのが良い。 ∴結論的には、後手から6筋攻めの総攻撃を受けやすく、先手は受けの力が必要。あまりオススメではない。 (2)▲6六歩不突型 ・先手は6筋の歩を突かず、争点を作らないように指す。 ・先手は角を上手く転用し、後手の攻めを牽制or防御したい。 ・▲4六角と配置する場合、▲3七桂を先に跳ねると右銀が使いにくくなる。▲3七銀が先だと角が目標にされやすい。 ・▲6八角と引く場合は、8筋が厚くなっているので、後手は5筋を狙ってくる。 ∴先手が2筋の歩交換から手順に角を引いて効率よく受けるのは、全ての争点を消すことができず、指しにくくなりそう。 ・先手が5筋もギリギリまで突かない指し方がある。角の働きに差がありそうだが、意外と優秀。 ・後手は△8五歩を伸ばしていると争点がなく仕掛けにくいので、△8四歩で保留して桂跳ねの余地を残し、飛を他の筋で使ってみる。 ∴先手が5筋の歩を保留して争点を作らない指し方も、先手の苦労は多い。△6三銀・△7三桂型は難敵である。 |
第4章は、「対左美濃急戦考」。 5手目▲6六歩に対し、後手の左美濃急戦は非常に強力であるが、果たして本当に5手目▲6六歩はダメなのかを検証する。 ・自陣は右金を動かさず、後手が△3一玉型左美濃に囲うのを待つ。 ・後手が左美濃急戦を狙っているなら、飛先交換を阻止してこない。 ・一番いいタイミングで飛先交換して、横歩を取る。自陣は飛に強く、後手玉は▲3四飛に睨まれている。 ⇒△3四歩を削っているので、将来の▲2二歩〜▲3四桂が左美濃に対して厳しい手になりやすく、後手の攻めに制約を与えることができそう。 ※ただし、この指し方は▲7一銀or▲7一角の割り打ちを含みにしているので、△5二金右型にはリスクが高いかも。 ・また、先手が飛先交換するときに、▲3五歩△同歩と突き捨てておいてから▲2四歩と飛先交換するのも有力。 −あとで▲3五歩は手抜かれる恐れあり。 ⇒先ほどと同様、3四に空間を開けておくのが急所。▲3三歩のタタキも生じる。 ∴早めに3四に空間を開ける指し方は実戦的で、まだ開拓の余地がある可能性がある。 ●レイアウト ・基本的に散文形式を採っている。 ・よくある「見開き完結」や「本手順ページ冒頭型」ではなく、本手順が文章の中に埋もれているので、他書よりもやや読みづらい。いまどの手順の話をしているのか混乱しやすい。 ・また、本文中で指し手が複数に分岐してしまうことも何度かあった。 −ただし、これは文章の問題というより、レイアウトと構成の問題だ。本手順の前後や話が途切れたところに空白行を入れたり、本手順のフォントや太字or網掛けor囲み処理などを施したり、分岐が多いところはページを分けたりしていれば、もう少し読みやすくなったと思う。棋書の場合、前の流れを見直すためにページを繰り戻す読み方が多いので、この辺の工夫はしてほしいところだ。 ・「復習次の一手」に大量のページ数を費やすぐらいなら、講座編のゴチャゴチャした部分をページ増にして分かりやすくしてほしかった。(「復習次の一手」はかなり難易度が下がっている(★3.0〜3.5くらい)ので、解説編の難しさを緩和する意図だと思われるが…) 〔総評〕 左美濃急戦によって壊滅状態に陥った矢倉が、5手目▲7七銀の見直しによって少しずつ復活を果たしたものの、2018年頃から指された△7三桂急戦や△早繰り銀もなかなか大変だし、△6三銀-7三桂型も強敵だし、先手が矢倉を目指すための正しい駒組みは何か…を模索する内容だった。結局のところ、少なくとも本書では先手がどうすれば自信を持って矢倉を目指せるかは、課題のまま残っている。左美濃急戦に対して、実戦的な手法を示唆してもらえたのは収穫だった。 ただ、解説編の内容が非常に高度で、さらに読みやすさを犠牲にしてまで(?)内容を詰め込んであり、チャートを作成しながら読んでいてもすごくつらくて、投げ出しそうになってしまった。その一方で、「復習次の一手」で大量にページ数を消費して、解説編を補完するような記述も特になかった。このような構成は、考え方の習得用としても、調べ物用としても中途半端で、とても残念。 いつものマイナビ将棋BOOKSの構成であれば、内容的には十分Aを付けられるはずだったのに、どうしてこのような構成にしてしまったのだろうか…。 (2021Jan27) ※誤字・誤植等(初版第1刷・電子版Ver1.00で確認): p46下段 ×「基本図からの指し手3」 ○「基本図からの指し手4」 ※「3」はp33ですでに登場している。以下の連番もずれている。 p94上段 ×「第1図からの指し手」 ○「第1図からの指し手2」 p155下段 ×「△同 銀 ▲同 銀 △同 飛 ▲7五銀」 ○「△同 銀 ▲同 銀 △同 飛 ▲8七歩 △8五飛 ▲7五銀」 ※2手抜けている |