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マイナビ将棋BOOKS 1手ずつ解説する四間飛車 ベーシックな振り飛車を級位者にもわかりやすく! |
[総合評価] B+ 難易度:★★☆ 〜★★★☆ 図面:見開き4枚 内容:(質)A(量)B+ レイアウト:A 解説:A 読みやすさ:A 中級〜上級向き |
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【著 者】 西田拓也 | ||||
【出版社】 マイナビ出版 | ||||
発行:2020年11月 | ISBN:978-4-8399-7493-0 | |||
定価:1,694円(10%税込) | 224ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||||||
・【コラム】森信雄一門 |
【レビュー】 |
▲四間飛車の指し方を1手ずつ解説する本。 定跡書や戦術書は、有段者を対象にしたものが多く、1ページで指し手が結構進むことが多々ある。級位者では指し手を頭の中で並べるのも大変だし、解説文のない手の意味が分からない、という人もいるだろう。 本書では、四間飛車を全く指したことがない人でも分かるように、初手から1手ずつ解説していく。 −たとえば、初手▲7六歩の1手にも40文字強の解説がされている。 −1ページで進む手数は2〜4手。ごくまれに5手進むこともある。 −全ての手に解説文が付く。方針が固まっている手の場合は、解説文は少なめ。 −次に指すべき手を、「次の一手」的に考えさせる場合もある。 −もちろん後手側の手も、同様に解説されている。 −解説は終盤戦の入口あたりまで。 各章の内容を、チャートを添えながら紹介していこう。(※なお、チャートは分岐のあたりまで。本文中の指し手は、本レビューでは省略します) |
第1章は、「棒銀」。初心者が振り飛車を指したときに、まず直面する難敵の一つ。 ●「基本的な対棒銀の指し方」 後手居飛車は、シンプル舟囲いからの棒銀を採用。本格的な棒銀を習得していない場合によく見られる。級位者だと頻出かもしれない。 ・ここで、ノーマル振り飛車の基本事項を学んでいく。 −相手の飛先は▲7七角で受ける。 −角道を止めて当面の角交換をさせない。 −左銀を一つは上がっておく。 −美濃囲いにしっかり囲う。 −角頭を銀で守る。 −攻められる筋に飛を移動させる。 −(捌きのタイミングでの)飛角交換を恐れない −飛を手持ちにしたら敵陣に打ち込んで桂香を拾う。 ●「後手、原始棒銀」 居飛車が居玉で一直線に棒銀に来る作戦。級位者では頻出。 ・ここでは、▲7八銀型で待つ「カウンター狙い」の指し方を学ぶ。 −前節のように、▲6七銀〜▲7八飛と備える指し方も有力。 −後手が居玉で攻めてきても、自分はある程度囲って戦場から離れておきたい。戦いになったときに玉の安定度に差ができる。 −開戦前に、なるべく離れ駒をなくしておく。 −仕掛けられた瞬間に▲6五歩ポン。 −角を捌いた後、居飛車が居玉なので、6筋歩交換がとても効果的。 −居飛車△8二飛を狙う▲4六角は、頻出の打ち場所。 ●「後手、本格派の棒銀」 居飛車が△5三銀左型から陣形を厚くしてからの本格棒銀。ただし、有段者向けの定跡書に載っている手順や形よりは、ややシンプルにしてある。具体的には、△4二金上を省略。前半は「△6四歩省略型」で、後半は「△7五歩の仕掛け後に△6四歩を突いて力を溜めてくる形」。 (※後手番なので△4二金上の一手を省略、ということだと思われるが、わたしの手元にあるいくつかの定跡書では、後手番のときも△4二金上が入っていた。) ・ここでは、これまでより発展的な振り飛車の指しこなしを学ぶ。 −美濃囲いが完成したら、相手が攻めてきそうなら備える。まだ攻めてこないようなら囲いを進展させる。 −棒銀側の端歩を突かれたら、しっかり突き返しておく。 −本格棒銀の場合は、▲8八角と引くよりも、角を右に引いたほうが良い。 −1手の余裕があれば、▲9八香と一つ上がって、ダイレクトに香を取られないようにしておく。 −棒銀を五段目に進出させない。(居飛車も△7五歩とは打たないようにする) −▲7六銀を▲6七銀と引いて、大駒交換を要求する手をしっかりマスターする。 −▲4五歩と突いて、▲4六角のスペースを作る手も考える。 |
第2章は、「四間飛車vs急戦」。▲6七銀型の四間飛車に対し、棒銀以外の代表的な急戦である「△ナナメ棒銀(左銀)」と「△6五歩早仕掛け」を解説する。 ●「対ナナメ棒銀」 居飛車が左銀で角頭を狙って進出してくる急戦のこと。銀が飛の真上に来るのが「棒銀」、銀がナナメから来るのが「ナナメ棒銀」。 ・ここでは、基本的なカウンターの捌きのおさらいと、細かい違いが大きな違いになることを学ぶ。 −ナナメ棒銀は、銀が取り残されることがあまりないのが長所。半面、▲6五歩が銀に当たってくるのが短所。 −棒銀のときと同様に、攻められそうな筋に飛を回る。 −銀を五段目に進出させないのも同じ。 −展開は主に3つ。 (1)△7六歩▲同銀に単に△7二飛 (2)△7六歩▲同銀に△8六歩▲同歩と突き捨てて△7二飛 (3)7筋を取り込まずに△5五歩 細かい違いが大違いなので、しっかりマスターしよう。 −居飛車急戦では、角をぶつけられたら居飛車から交換する。(居飛車から角交換してこないなら、振り飛車から角交換すれば玉型を乱せる) ※この戦型は、形によっては詰みまで研究されているが、本書での解説はあくまでも終盤の入口まで。 ●「対△6五歩早仕掛け」 居飛車が△6四歩〜△6五歩と角道をこじ開けて、角交換から飛先突破を狙う作戦。 −△6五歩を振り飛車から取ってはいけない。 −振り飛車側は、陣形を高美濃に発展させていく。 −この戦型では、角がにらみ合っているので、▲9八香は不急の一手。△9九角成とされる展開にはなりにくい。 −△6六歩▲同銀△8六歩▲同歩△6五歩から、分岐がたくさんあって複雑。 −▲6三歩と銀頭を叩く手は必修手筋。 ※この戦型は、かつて将棋倶楽部24では、居飛車の勝率が全体的に高かった。プロでもまともにぶつかることを避け、玉頭銀で牽制する(できるように駒組みする)傾向が強い。 |
第3章は、「対居飛車穴熊」。 四間飛車の強敵。振り飛車よりも囲いが堅いので、互角の捌きでは不利。序盤で端攻めの準備をしておくか、中盤で互角以上になるように戦おう。 対居飛車穴熊には、藤井システムのように居飛穴を直接攻める作戦や、耀龍四間飛車や振り飛車ミレニアムのように相手の角筋を避けて戦う作戦もあるが、本章ではオーソドックスな高美濃or銀冠にしっかりと組んで戦う作戦を学ぶ。 −持久戦なら、居飛車の右銀は△5三銀が定位置。居飛車急戦のときに早めに突いた△7四歩は、持久戦では不急の一手。 −居飛車が△3三角と上がったら、持久戦の合図。振り飛車側は、囲いを高美濃〜銀冠へと発展させていく。 −対居飛穴では、桂の活用を早めにできるようにしておく。 ●△3二金型居飛穴vs鈴木システム(守りは高美濃メイン、攻めは▲6六銀型) −松尾流穴熊までは組ませない。△4二銀の瞬間、または△5一角の瞬間に▲5五歩と仕掛けるべし。(△4二角にはすぐに仕掛けることができないので注意) −対居飛穴では、居飛車から角交換させて左桂を跳ねたい。 −角のラインで攻められるなら、飛車切りも厭わない。 ●△四角居飛穴vs▲銀冠 −四角い堅さ重視の居飛穴に対しては、▲5五歩からの攻め合いは分が悪い。端の位を取って銀冠に整備すべし。 −銀冠にしておけば、振り飛車から端攻めをしたときの反動は小さい。(高美濃だと反動が大きい) −居飛車が△8四角型に展開するなら、相手の角を自陣に通さないように▲5六銀型が良い。 −中盤の戦いで歩を2枚以上持ったら、端攻めを考えよう。 −歩が1枚しかなくても端攻めは可能。ただし、歩を消費しすぎないように注意。 −中盤で少し失敗したと思ったときも、端攻めで勝負。 −駒組みで▲6九飛と引く手は、地味ながら価値の高い一手。飛の当たりを避け、角の可動域を増やせる。△5八銀の割り打ちが気になるので、▲4八金引もセットで考えよう。 −また、駒組みで居飛車の飛車が8筋にいないときは、▲8八角と引くのが持久戦の手筋。どこかで△6五桂の当たりを避け、▲9七角と覗く手を作っている。 −中盤で、△8六歩▲7一角成△8四飛の形になったら、▲9七桂が部分的な定跡。△8七歩成に▲8五歩を用意する。▲7七桂と違い、と金で攻められたときの被害が少ない。 |
第4章は、「対右四間飛車」。 居飛車が6筋に飛角銀桂を集中して攻めてくる作戦。攻撃力が強く、アマでは対右四間飛車が苦手な人が多い。(これまでの棋書では、右四間からの攻めを解説した本が圧倒的に多いからかもしれない) これまでの章では、比較的オーソドックスな四間飛車の定跡が解説されてきたが、本章では右四間の思惑通りにやらせないような四間飛車側の工夫を中心に解説されている。 ●オーソドックスな△舟囲い+右四間 −対右四間には、振り飛車穴熊に囲うのは手数がかかって危険。相穴熊になったとしても、振り飛車の主張が少ない。 −△舟囲いからの△8五桂▲8八角△6五歩に、▲同歩!が本書の推奨。 (※よく解説されている定跡は、△6五歩に▲8六歩△6六歩▲8五歩△6五銀▲同銀△同飛で居飛車良し) 対右四間が苦手な人は、p192〜p198の手順を何度も反復しよう。居飛車が途中で銀を渡せず、拠点に△6七銀と打ち込んでこられないのがポイント。 ●右四間+端桂 アマ有段者でこの作戦を得意にしている人が多い。△7四歩を突かないことで、▲7三角の打ち込みを与えない狙いがある。 −△8五桂跳ねを防ごうとする▲8六歩は△8四歩で無効。 −振り飛車は、▲6七銀型のままで▲9八香を優先し、△8五桂▲8八角△6五歩の仕掛けに▲8六歩と桂を取りに行く。 −△7三歩型は、▲7五銀!と逃げる余地があるのが欠点。それを見越した駒組みをしておく。 −先に駒得できた場合、相手の駒の効率を悪くできるなら、飛を見捨てて構わない。 ●右四間+穴熊 攻撃力と堅さを併せ持つ作戦。漫然と駒組みして、まともに右四間の仕掛けを喰らうと、振り飛車の主張点がなくなってしまう。 −△3三角と上がれば、穴熊のサイン。後手はしばらく仕掛けてこないので、先手は駒組みを工夫できる。 −端を詰めたなら、右四間が仕掛けてくる前に、振り飛車からいきなりの▲2五桂〜▲6五歩は有力。「コーヤン流」を応用した攻めに期待できる。 −端を受けてきたなら、▲7五歩としておき、△1一玉の瞬間に▲6五歩!と振り飛車から角交換を仕掛ける。 角交換後に▲4六角が狙いの一つで、▲7五歩の効果。もう一つの効果として、▲6六飛〜▲8六飛のルートが開けていることもある。 このタイミングで戦いになれば、先手の平美濃の方が堅い。 |
〔総評〕 本書では、「比較的オーソドックスで定跡化も進んでいる戦型」と、「アマに苦手な人が多く対策が必要な戦型」と、大きく二つに分かれていた。 「オーソドックスな戦型」は、第1章後半の本格棒銀と、第2章の急戦と、第3章の居飛車穴熊。本書ではかなり基本的な変化に絞って解説されているが、どちらも奥深くまで研究した定跡書がいくつも出ているので、本書で全体的な流れと感覚をつかみ取ることができたなら、有段者向けの定跡書にもトライしていってほしい。(※対局相手との感想戦で「本書の変化は甘い」といわれることもあり得ると思われるが、研究の進んだ戦型はだいたいそうなってしまうのは仕方がない) これらの内容は、「従来の定跡書のダイジェスト版」のイメージなので、この部分だけでいえば評価はBとした。 一方、「アマに苦手な人が多い戦型」は、第1章前半の原始棒銀と、第4章の右四間飛車。どちらも載っている本が少なく、普通の対応をしていると一方的に攻められやすい戦型である。本書では、対原始棒銀には相手より玉を安定させてのカウンターを、対右四間では相手の思い通りにさせない指し方を解説しているので、基本的な定跡をある程度知っている人にも大いに役立つだろう。 わたし自身、対右四間での知らなかった指し方をいくつか見ることができたので、この部分の評価はAとしたい。 ほとんどの戦型の解説は終盤の入口までなので、「そこからの指し方が分からない」という人がいるはずだが、そこからは終盤の本の領域となる。本書では、岐れ以降の指し手をダラダラと続けないことで、中盤の再現率が比較的高くなっているといえよう。 なお、初手から1手ずつ解説しているので、初級者向きの本のようだが、駒の損得や手番などの一般的な形勢判断法はマスターしているレベルが前提になっている。全体的には級位者上位の「初段を突破したい人向け」の本だと思う。 四間飛車を指していて、他の定跡書や戦術書を買ってみたものの、難しすぎて最初の20ページまでに本を閉じて積ん読にしたことがある人は、本書をトライしてみる価値が大いにありそうだ。本書でも難しいと思った人は、形勢判断の本や、手筋の本を先に試した方が良いかと思う。 (2020Nov18) |