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マイナビ将棋BOOKS 本田奎の相掛かり研究 |
[総合評価] A 難易度:★★★★ 〜★★★★☆ 図面:見開き4枚 内容:(質)A(量)A レイアウト:A 解説:A 読みやすさ:A 上級〜有段向き |
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【著 者】 本田奎 | ||||
【出版社】 マイナビ出版 | ||||
発行:2020年10月 | ISBN:978-4-8399-7429-9 | |||
定価:1,694円(10%税込) | 232ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||||||
・【コラム】(1)三段リーグ (2)将棋ソフトについて (3)タイトル戦を終えて (4)自炊 |
【レビュー】 |
相掛かり▲5八玉型の戦術書。 本書のテーマは、飛先を交換せず▲3八銀△7二銀としてから▲5八玉とする、「▲5八玉型」。本書のわずか2ヶ月前にも、相掛かり▲5八玉型をテーマとした佐々木本が出版されているが、有力視している形が異なっている。 佐々木本: (※緑色は佐々木本と本書で似たテーマのもの) ・△4二玉型 ・後手が玉型を決めずに飛先交換 ・△居玉早繰り銀 ・先後同型(△5二玉型〜飛先交換後△8四飛) ・先手が玉の位置を決めずに▲9六歩 (※▲5八玉型ではない) 本書: (※緑色は佐々木本と本書で似たテーマのもの) ・先後同型(△5二玉型〜飛先交換後△8四飛or△8二飛) ・後手が玉型を決めずに△1四歩型 ・後手が玉型を決めずに△3四歩 ・△7四歩早突き(=△居玉早繰り銀) ・△4二玉型 なお、同じテーマでもメインで解説する進行は異なるものになっている。もともと後手の対策は多岐にわたるし、指す人によって主張がぶつかりやすい戦型なので、扱う形の違いは個性が出やすいところになる。 各章の内容をチャートを添えながら紹介していこう。 |
第1章は、「△5二玉型」。 後手が玉型を先手と同じにしてついていく指し方。 第1節は、「△8四飛型」。 後手が先手と同じ△5二玉型で、飛の引き場所を△8四飛としてきた場合になる。 ・△8四飛型は、飛の横利きが中段に通っている。半面、将来の▲6六角が飛に当たりやすい。 ・同型なら、先手が1手早いのが生きやすい。 −△7四歩で飛の横利きが止まった瞬間に、▲2四歩と合わせて横歩を狙う筋が有力。 ・飛の横利きを止めず、△9四歩〜△9五歩なら持久戦を狙う。 −後手がは9筋に手をかけているうちに、金銀を盛り上げる。 |
第2節は、「△8二飛型」。 後手の玉型は先手と同じ△5二玉型で、飛の引き場所を△8二飛としてきた場合。本節の後半の変化は、比較的最近(2020年2月)の本田の実戦と繋がっており、執筆時点でかなり有力視していた変化といえるだろう。 ・△8二飛型は狙われにくく(▲6六角の筋がない)、自陣に利いているので、持久戦から比較的穏やかな形になりやすい。 −また、歩を突いても飛の横利きを止めないので、自陣を膨らませやすい。 ・▲2四歩の揺さぶりは、△8二飛型でも有効。 −横歩は取りにくいが、後手に角交換をさせたり、飛の位置を調整したりして、少しずつポイントを稼ぐ。 ・完全に持久戦にして、手将棋の勝負にするのもあり。 |
第2章は、「△1四歩型」。 ▲5八玉型に対して、後手が玉型を決めず、△1四歩と突く形。 ・角の呼吸を楽にしているので、▲2四歩△同歩▲同飛の飛先交換に対し、△2三歩の一手ではなくなる。 −そのため、△6四歩や△7四歩を突きやすい。 −半面、後手の中央の駒組みは遅れることになる。 ・本田の推奨は▲3六歩。後手が飛先交換後に▲9六歩と突く。 −後手が△3六飛と横歩を取れば▲8二歩の桂取りが狙い。 −後手が△3四歩なら▲2四歩△同歩▲同飛から手を作れそう。 |
第3章は、「その他の形」。 ▲5八玉に対し、第1章の△5二玉、第2章の△1四歩の他にも、後手には有力な手がある。本章ではそれらをまとめて見ていく。 ・▲5八玉に△3四歩は、後手がすぐに玉型を決めず、あとから玉の位置を選べる。半面、▲2四歩の合わせから横歩を狙われやすい。 −先手の飛先交換に対し、後手が横歩を取られないように飛の引き場所が△8四飛に限定される。 −先手は▲2八飛の引き飛車にして、早繰り銀の形を狙えば、後の▲6六角とリンクしやすい。 ・▲5八玉に△7四歩は、後手が横歩を取らせて右銀の進出を急ぐ作戦。 −佐々木本では、▲2四歩△同歩▲同飛に△1四歩として、先手が横歩(7四歩)を取りにくいという展開がメイン。 −本書では、▲2四歩△同歩▲同飛に△2三歩として、後手が横歩(7四歩)を取らせる代わりに銀の進出を急ぐ展開をメインとしている。 −先手は△7四歩を取ることはできる。さらに欲張ると大変なので、▲2六飛まで戻して、持久戦にして歩得を主張したい。 ・▲5八玉に△4二玉は、後手が持久戦を目指している。 −佐々木本では、後手が飛先交換後に△8五飛と引く形を多く解説していた。 −本書では、後手が飛先交換後に△8二飛をメインにしている。 −△4二玉型だと腰掛け銀にしやすい。玉のコビンが開く形にならない。 −また、3二と3一の両方をカバーしているので、▲3四飛に対応しやすい。 −先手は▲3六歩と突いておき、後手がゆっくりするなら▲3五歩と伸ばしておく。それを嫌う△3四歩なら、飛先交換するのが有力。 |
〔総評〕 佐々木本とは一部の戦型が重なっているが、有力視している進行が異なっており、この辺りは各棋士の個性や好みの違いといっていいだろう。相掛かりは序盤から手の広がりが多くなりやすいので、2冊を併せて読むことで、▲5八玉型をさらに相互補完できたといえる。(逆に、1冊だけでは不十分ともいえる) 内容的にも甲乙はつけがたく、▲5八玉型を指す人や、後手で相掛かりを指す人にはどちらもマストだといえそうだ。どちらを先に読むべきか、についても特に優先順位はないので、載っている形に興味があるかどうかで選んで構わない。 あえていえば、本書の方が戦術部分のページ数がやや多めで、佐々木本は実戦譜が結構多めになっている。また、内容紹介文で「指す将・観る将ともに楽しめる内容」となっているが、普通にガチ目の戦術書なので、「観る将専門」の人には少々しんどいかもです。 ※誤字・誤植等(初版第1刷・電子版ver1.00で確認): p90 ×?「VSや研究会での実践が多い」 ○?「VSや研究会での実戦が多い」 p90 ×「課題になってくる思う」 ○「課題になってくると思う」 p224上段 ×「▲3二歩成△同金▲3二飛成…」 ○「▲3二歩成△同金▲同飛成…」 |