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マイナビ将棋BOOKS 横歩取り▲5八玉&▲6八玉戦法 |
[総合評価] B+ 難易度:★★★☆ 〜★★★★ 図面:見開き4枚 内容:(質)A(量)B+ レイアウト:A 解説:A 読みやすさ:A 中級〜有段向き |
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【著 者】 大平武洋 | ||||
【出版社】 マイナビ出版 | ||||
発行:2020年2月 | ISBN:978-4-8399-7196-0 | |||
定価:1,694円(10%税込) | 224ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||||||||||
・【コラム】横歩取りのスペシャリストたち (1)丸山忠久九段 (2)中座真七段 (3)佐々木勇気七段 (4)上村亘五段 (5)永瀬拓矢二冠 |
【レビュー】 |
横歩“取らず”の作戦を解説した本。 ▲7六歩△3四歩▲2六歩△8四歩…というオープニングは、かつては「横歩取りの合意」がされたと見られ、〔右図〕から当然のように先手が▲3四飛と横歩を取っていた。横歩を取らない作戦も昔からあるが、「気合が悪い」などとよく分からない表現でネガティブに見られていた。 ただし近年は、コンピュータ将棋の影響も受けて、序盤の自由化や再考察が進んだため、「横歩を取らない」作戦も見直されている。また、相掛かりの▲引き飛車棒銀が大きく後退し、相掛かりが自由度が高いとされ、マニアのものだけでなくなってきたのも大きそうだ。 というわけで、本書で解説される「横歩取りのオープニングから先手が(すぐに)横歩を取らない作戦」も採用の価値が高まっている。ただし、「横歩を取らなければ穏やかで安全」という訳ではなく、この戦型特有の激しい展開も内包しているので、基礎知識はしっかり学ぶ必要がある。 各章の内容をチャートを添えながら紹介していこう。横歩を取らない作戦は、〔右図〕から▲5八玉・▲6八玉・▲2六飛・▲2八飛・▲9六歩・▲1六歩の6種に分岐する。 |
序章は、「横歩取りの基本といろいろな作戦」。 本書は基本的に「横歩を取らない」作戦について解説していくが、本章では横歩を“取る”展開について、特徴や方針を簡単に解説する。 扱うのは、△4五角戦法、相横歩取り、△8四飛型(中住まい・中原囲い)、△8五飛戦法、青野流、勇気流。これらの作戦は、本書の「横歩を取らない」作戦に対しても、似た展開が随所に登場する。本来の「横歩を取る」作戦とどういう違いがあるのか、全体像を把握しておこう。 |
第1章は、「▲5八玉編」。本書のメインコンテンツ。 先手が横歩を取らずに▲5八玉と上がり、後手に飛の使い方を先に決めてもらおうという作戦。プロでは佐藤康光が多く指していた。 ・飛が▲2四飛・△8六飛の位置にあり、互いに角交換が可能なので、「角交換からの二枚替え」の筋が非常に重要となる。わずかな形の違いによって成否は異なってくる。▲5八玉がマイナスになる変化もあるが、ちゃんと受かるのでしっかりマスターしよう。 ・△4一玉には、▲3四飛と時間差で横歩を取る。形を決めさせたことが大きいとみている。5三の地点がやや薄いので、青野流ライクの攻撃陣が有力。△2二銀型には両桂を跳ねて中央を狙い、△4二銀型には薄くなった1筋を狙っていく。 ・△5二玉型が後手の本命。「角交換から二枚替え」の筋は、激戦で微差ながら、先手が勝っていそうだ。 △5二玉と形を決めさせたことで、改めて横歩取りに戻すのもある。▲3六飛と引けば一局の将棋。▲3六歩から青野流にしたときは、△8八角成の変化が激しい。 △5二玉に対して、横歩を取らずに▲2六飛も一局の将棋ながら、展開によっては大乱戦になることも。 ・横歩を守る△8四飛なら、決戦にはなりにくい。▲2二角成〜▲6六角の筋は、飛の横利きがあるので手所食いになる。 ・後手が横歩を取る△7六飛なら、▲7七角と通常の後手番ライクに指すか、形の違いを衝いて相横歩取りにするか。居玉を避けているのが大きく、自由度は高い。また、先後逆で1手の違いがあるので、青野流ライクの急戦はあまり心配ない。 |
第2章は、「▲6八玉編」。 先手が横歩を取らずに▲6八玉とする。「決戦になった場合に強く戦えるようにしている」(p122)。横歩取り▲勇気流と同様に、▲7八金に玉のヒモが付いている半面、△9五角のラインがある(例えば▲8四飛とは回れない)ので、▲5八玉型とは異なる展開になる。(当然ながら、リスクも利点もある) ・特に、「△5二玉に対して▲2二角成から攻めていく手順はやや無理筋」(p145)となる。 ・先手が横歩を取る場合は、▲6八玉型は左金にヒモが付く半面、右金は浮いているので、▲3六飛との相性は悪い。やはり青野流ライクの攻め方(▲3六歩〜▲3七桂)が有力。 ・相横歩型に持ち込む場合、▲6八玉型がマイナスにならないように注意。 |
第3章は、「飛車引き編」。 先手が横歩を取らずに飛を引く作戦。以前は「ここで横歩を取れないのでは消極的」と言われたこともあるが、現在は相掛かりが盛り上がっている影響もあって、見直されている。 ▲2六飛と引けば、基本的には相掛かりの将棋に戻る。相浮き飛車なら先手の攻めが決まりやすい。後手が引き飛車ならジックリした展開に。 ▲2八飛と引く場合は、「相掛かり▲2八飛型」と「後手に横歩を取らせる」が両天秤となる。プロでは高橋道雄が得意にしている。 |
第4章は、「完全力戦編(▲9六歩、▲1六歩)」。 先手が横歩を取らず、飛の位置も決めずに、端歩を突いて様子を見る作戦。 ▲9六歩と9筋の端歩を突くメリットは、▲8四飛と回ったときに王手飛車にならないことや、角が動きやすいことなどがある。 一方、▲1六歩と1筋の端歩を突くのは、後手に横歩を取らせて、先後逆での「横歩取り△4五角戦法」に持ち込んだときに、定跡での決定版とされる▲8五飛(本譜では△2五飛)に対して▲1七桂!と逃げることができるので、結論が変わってくる。この変化は『居飛車奇襲戦法』(井上慶太,創元社,2002)にも載っており、ほぼ同じ結論である。ただし、これ以外には▲1六歩の直接的なメリットはなさそう。使えるとしたら、相手が定跡に詳しく、さらに「横歩を取ってみろ」と挑発すれば乗ってくるタイプのとき限定となるので、多用は控えたほうが良いかもしれない。 |
【総評】 本書は、「横歩取りが苦手だから横歩を取らない作戦をやりたい」という人向けというよりは、どちらかと言えば「普通の横歩取りとは違う空中戦をやりたい」という人向けだろう。 特に「角交換から、飛と金銀二枚替えの両狙い」の筋(通常の横歩取りでは▲3四飛型になるのでほとんど経験しない筋)が互いにあって、決行するかどうかを見極めたり、自分の方が経験値が高い展開を模索したりするのは、やり甲斐がありそうだ。 そのためには基礎知識は必要となる。本書の作戦は部分的には他書にも書かれているものもあるが、「横歩を(すぐ)取らない」という視点で捉えたものは他にはあまりないので、目を通しておきたい一冊といえる。 (2020Mar21) ※誤字・誤植等(初版第1刷で確認): p139上段 ×「見ていきたと思います。」 ○「見ていきたいと思います。」 p207下段 ×「1手多く指し手いる」 ○「1手多く指している」 |