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マイナビ将棋BOOKS ▲6七金左型矢倉 徹底ガイド |
[総合評価] B+ 難易度:★★★★☆ 図面:見開き4枚 (左3枚、右1枚) 内容:(質)A(量)A レイアウト:A 解説:B 読みやすさ:B 有段向き |
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【著 者】 所司和晴 | ||||
【出版社】 マイナビ出版 | ||||
発行:2019年11月 | ISBN:978-4-8399-7124-3 | |||
定価:1,694円(10%税込) | 238ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||||||||||||||
・【コラム】(1)将棋センター (2)弟子の活躍 (3)6七金左型矢倉の系譜 (4)実戦の▲6七金左型矢倉1 (5)実戦の▲6七金左型矢倉2 |
【レビュー】 |
矢倉▲6七金左型(△4三金左型)の定跡書。 矢倉囲いは、通常は右金を▲6七金右と上がって金銀を密集させ、玉を入城する定番の囲い。相居飛車の主流の囲い方として、長く君臨してきた。 ところが近年、矢倉の囲い方に新たな選択肢が現れた。それが▲6七金左型である。 部分的な囲いだけを示すと、〔右図〕のようになる。左金を6七に上がり、玉の定位置は7八。堅さよりもバランス重視となっており、特に角交換した時に自陣の角の打ち込みが少ないのが主張点となる。 後手が△4三金左矢倉を指し、それを有力と見た先手も▲6七金左矢倉を指したのが近年の流れ。飛先不突き矢倉などで、居飛車の飛車先から攻めてこられないときに、中盤の臨機応変策として用いられることはこれまでにもあった。本書の著者の所司も採用している。ただし、現在の▲6七金左型矢倉は、飛先から攻められる可能性があるときでも用いる。 新しい囲い方と思われがちだが、実は昭和初期に活躍した土居市太郎名誉名人が採用していて、「定山渓の戦い」(1940年)が有名。例えば『序盤戦!! 囲いと攻めの形』(1990)のp59では「土居名誉名人の構え」と紹介され、「天野矢倉より柔軟かつ軽く、軽妙な棋風の土居らしい。」と評されている。 本書はどちらか(または双方)が▲6七金左(△4三金左)型を採用した矢倉戦を本格的に解説した本となる。 各章の内容をチャートを添えながら紹介していこう。 |
序章は「本書の概要」。各章のテーマ図へと分岐するまでの手順を中心に解説。 従来の飛先不突き矢倉の手順から、現在の飛先を早く突き越す手順に主流が変わったことについて、途中で変化するとどのような作戦になるのかが分かる。 特にp15までは、主に後手側に様々な急戦策が生じやすい。先手が飛先を早く突き越すことで△3三銀を上がらせ、後手の居角急戦の大半を阻止することができる。 序章後半は、先後ともに▲6七金左(△4三金左)とできるタイミングがあり、いろいろな組み合わせで第1章〜第5章への分岐となる。 |
第1章は、「▲6七金左型矢倉 対△8五歩・4三金右型」。先手が6七金左型矢倉を採用し、後手は従来の矢倉を採用している。 第1節は「▲7八玉に△7三桂」。後手が桂跳ねを優先し、△6四歩〜△6三銀〜△6五歩の仕掛けを狙う。先手も▲3七桂〜▲4六歩〜▲4七銀から同じ攻め形を目指し、互いに機をはかって仕掛けを狙っていく。 |
第2節は「▲7八玉に△7三銀」。△7三銀型から△7五歩▲同歩△同角と7筋の歩を切り、△7四銀型が実現すれば好形となる。先手は▲4六角と上がって後手の7筋歩交換を牽制するが、後手も△6四角と対抗して角のにらみ合いが続く。その後、本節では▲3七桂を本線とするので、先後で攻め形は違ってくる。 |
第2章は「▲6七金左型矢倉 対 △8四歩・4三金右型」。先手が▲6七金左型矢倉を採用し、後手は8筋を△8四歩で保留している。 第1節は「▲6七金左に△4二角」。後手は攻め形を決めずに玉を囲おうとする。先手の攻撃陣は、▲3七桂だと△8四歩型が生きやすいので、▲3七銀を採用する。後手はいったん△4二角と上がっているので、△6四角の牽制はしにくく、△8四歩型を生かして△7三桂となる。 |
第2節は「▲6七金左に△7三銀」。後手番ながら積極的に右銀を攻めに繰り出し、▲7八玉型を咎めようとしている。先手は後手に7筋歩交換をさせて、左辺に金銀を盛り上がる構想もあるが、本節では▲4六角とけん制するのが本線。後手も△6四角と対抗し、▲3七桂と跳ねると第1章第2節と非常によく似た形になる。 |
第3章は「▲6七金左型矢倉 同型」。先後双方が6七金左型矢倉を採用し、同型で非常に難解。 第1節は「△3二玉に▲3七桂」。先手が攻撃形を▲3七桂に決める。後手は△7三銀も一局だが、本節の本線は△7三桂からの同型。互いに▲4六歩〜▲4七銀〜▲2九飛の形を作る。仕掛けは▲4五歩からで、攻めがつながるかどうか。 |
第2節は「△3二玉に▲3七銀」。先手が攻撃形に右銀を採用する。次は3筋歩交換が狙いなので、△6四角と牽制し、先手も▲4六角とすればまたしても角対抗型となる。同型をずっと続けるのは先手が先攻できるので、後手は△5三銀型を採用する。部分的には脇システムと似ているが、角の打ち込める場所があまりないので、全く異なる展開になる。 |
第4章は「△4三金左型矢倉」。先手は従来の矢倉を採用し、後手が△4三金左型矢倉を採用している。先手は▲3七桂〜▲4六歩だと後手から先攻されそう。 第1節は「△4三金左に▲3七銀」。先手から先攻しようと▲3七銀型を採用する。△6四角の牽制が間に合っていないので、後手は3筋歩交換を甘受して玉頭を盛り上げる方針になる。 |
第2節は「△4三金左に▲6八角」。先手は攻め形を決めずに囲いを優先し、相手の出方を見る。後手の攻め形は△7三銀も一局だが、本節の本線は△7三桂。先手が▲3七銀の形を採ると、またまた角対抗型が出現する。 |
第5章は、「▲藤井流早囲い 対 △4三金左矢倉」。先手は▲2五歩を決めた早囲いで、後手が△4三金左型矢倉を採用する。 第1節は「△3二玉に▲3七銀」。先手が囲い切らず、攻撃形構築を優先して▲3七銀と上がる。後手が△6四角と3筋歩交換を牽制してくるので、先手はスズメ刺しから香交換を狙っていく。しかし△3七角成!の強襲が有力。 |
第2節は「△3二玉に▲8八玉」。早囲いの所期の目的を達成するため、囲いを優先していく。後手は△7三桂を先に決め、▲3七銀なら△6四角と牽制する。角筋を避けて互いにスズメ刺しを目指すと、先手玉が端に近づきすぎているようだ。 |
〔総評〕 本書はまえがきにもある通り、「狭く深く」の内容となっていて、終盤で形勢がハッキリするまで細かく書かれている。現状では▲6七左型(△4三金左型)の戦型を最も詳しく解説した本となる。特にプロ将棋観戦時に最適なガイドブックとなるだろう。 一方で、考え方や手筋が多く書かれているわけではないので、「▲6七金左型矢倉を指しこなす」といった「戦法習得」の目的には、あまり適していない。 ただ、これまでの所司本と比較すると、非常に読みづらい(変化が探しにくい)本となっている。 例えば「東大将棋ブックス」シリーズであれば、分岐のところで「@▲7六歩 A▲2六歩…」となっていて、さらに細かく分岐するときは「(1)△3四歩 (2)△8四歩…」などと、数字記号を使って少しでも見やすくなる工夫がされていたが、本書では「▲7六歩で▲8四歩は…、本手順に戻って▲7六歩は…」という書き方になっており、いま現在どの変化を追っているのかが混乱しやすい。また、各章・各節のテーマ図も、「図までの手順は序章を参照」となっているが、序章のどこを見ればよいかは書かれておらず、該当ページを探し回ることになる。 読みやすさが改善されれば、「狭く深く」限定だとしてもAでいいと思う。本レビューでは分岐チャートと該当ページ数を添えておいたので、少しは読む助けになるだろうか。(2019Dec01) ※誤字・誤植等(初版第1刷で確認): p7目次 下段 ×「第2節 第2節 △4三金左に…」 ○「第2節 △4三金左に…」 p12 ×「現在主流一手。」 ○「現在主流の一手。」 p226下段 ×「ていねい端を受ける」 ○「ていねいに端を受ける」 |