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駒落ちの教科書 八枚〜二枚落ち編 |
[総合評価] B 難易度:★★☆ 〜★★★☆ 図面:見開き3枚 内容:(質)A(量)B+ レイアウト:A 解説:A 読みやすさ:A- 中級〜上級向き |
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【著 者】 阿久津主税 | ||||
【出版社】 日本将棋連盟/発行 マイナビ/販売 | ||||
発行:2014年7月 | ISBN:978-4-8399-5248-8 | |||
定価:1,663円 | 224ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||||||
・【コラム】(1)駒落ちの思い出 (2)対局後の過ごし方
パート1 (3)対局後の過ごし方 パート2 (4)地方遠征 |
【レビュー】 |
八枚落ちから二枚落ちまでの駒落ち解説書。 「二枚落ちでプロに勝てれば初段、完勝できれば三段」とよく言われる。よって、プロに駒落ちで指導を受ける場合、まず二枚落ち突破を目標にすることが多い。実際のところ、二枚落ちは上手に大駒がないものの、守備駒はそろってるので、下手はちゃんと構想を持って駒組みし、いくらかの技を使って仕掛けていく必要があるので、「プロに勝てれば初段」は妥当なところだろう。 また、八枚落ちから四枚落ちは、主に級位者を対象としたもの。二枚落ちよりもさらに上手の守備駒が減っているので簡単そうだが、ある程度は定型を理解していないと大変だ。 本書は、そういった二枚落ち以下の指し方を、昔からある定跡と、新しい指し方を交えて解説した本である。 駒落ち定跡書では普通、手合差の大きいところ(本書でいえば八枚落ち)から解説していくが、本書の場合は二枚落ちから解説が始まる。四枚落ち〜六枚落ち〜八枚落ち、とだんだん初級者向けの手合になっていくが、解説のレベルは比較的高めで、実質的な棋力ターゲットは、初段〜二段前後であるといえよう。 各章・各節の内容を、チャートを添えながら紹介していこう。 第1章第1節は、二枚落ちの▲二歩突っ切り。もっとも有名で、オーソドックスな昔からある定跡である。攻めは飛角銀桂、守りは金銀三枚の原則に則っており、完成された美しい定跡だ。ただし、上手からの△6六歩など紛れも多いし、上手の経験も豊富。この定跡でしっかり勝てるなら三段を名乗っても良いと思う。 指し方のポイントは、まずすばやく4筋・3筋の位を取るのが急所。これで上手の左の金銀を釘付けにし、盛り上がりを阻止する。次に▲3八飛から1歩交換し、浮き飛車から右桂を跳ねたら、玉型をカニ囲いにする。▲4六銀〜▲5六歩と整えたら駒組み完了だ。上手の薄いところを見極めて、▲3五銀〜▲4四歩と▲5五歩の2つの仕掛けを使い分けていこう。 なお、玉の囲い方は、船囲いや▲7九玉型左美濃もあるが、本書ではカニ囲いを推奨。また、二歩突っ切りと双璧の銀多伝については、p12〜13の本文中で少しだけ触れられている。 第1章第1節の後半は、△5五歩止め。二歩突っ切りや銀多伝では上手がどうしても勝てないとき、変化技として必ず一度はやってくる作戦だ。タダで取れる△5五歩に▲同角と飛びつくと、4五歩を取られて混戦になる…のが上手の狙い。ただし、これで悪いわけではなく、「取った方が明快」としている定跡書もある。 近年多いのは、左右から銀を繰り出して、中央の位をしつこく奪還しに行く展開だが、本書では上手の金銀を中央に集中させておき、玉を囲ってから2筋の棒銀を狙う指し方を提案している。 第1章第2節は、二枚落ちの▲四間飛車作戦。『駒落ち新定跡』(高橋道雄,創元社,2005)などでも紹介されており、振飛車党にはこちらの方が指しやすいだろう。何といっても指し慣れた美濃囲いの安心感が抜群だ。 ポイントは、四間飛車に振って美濃に囲う。6筋の位が取れれば左銀を繰り出して6筋を棒銀のように攻める。上手が6筋位取りを拒否すれば、6筋で1歩交換してから▲5六銀と腰掛け、右四間に振り直して玉頭を攻める。 この作戦は定跡が整備されていないので、本書のような展開にはならないかもしれないが、比較的平手に似た感覚で指しこなすことができる。 第2章第1節は、四枚落ちの右端突破作戦。四枚落ちで昔からあるのが棒銀定跡だが、1筋の垂れ歩と銀捨てのタイミングが難しく、難解。本書ではスズメ刺しのように端に桂を成り捨てる作戦を推奨する。 ポイントは、まず2筋の歩を交換して▲2六飛と浮き飛車に構える。右辺を横歩取り▲新山ア流のような形に整備したら駒組み完了。後は1筋に桂を捨て、1筋の歩を伸ばせばよい。 第2章第2節は、四枚落ちの左端突破作戦。こちらも第1節と狙い筋は同じで、端に桂を成り捨てていく。 ポイントは、9筋の歩を伸ばして▲7七角と上がる。次に▲9八飛と端飛車に展開し、9筋の歩を交換して、▲9六飛と浮き飛車に構える。落ち着いて美濃囲いに入城したら、▲9七桂〜▲8五桂〜▲9三桂成からと金を作る。あとは、と金を安易に捨てないように活用しながら龍を作ればよい。 第3章第1節は、六枚落ちの左端突破作戦。昔からある定跡だ。 まず、角道を開けて4手目に▲6六角と9筋を狙う。次に9筋の歩を伸ばして▲9八飛と端飛車に振る。そして角を切ってでも9筋を突破する。 個人的には、この定跡はオススメしたくない。3手目▲6六角が異様で平手に応用が利かないのが一点。もう一つは、角を切る点。「角を切ってでも飛を成る」は正しい考え方なのだが、この定跡では「角を切って、香〜飛を成っていく」となっているため、初級者に誤ったメッセージを与えていると思う。 第3章第2節は、六枚落ちの右端突破作戦。 まず2筋の歩を伸ばす。飛先交換はせず、▲2五歩は「位」として考える。具体的には、△2四歩から盛り上がられるのを阻止することで、将来の引き角の利きが1三まで通ることをあらかじめ確保しておくのが狙いだ。次に、1筋の歩を伸ばして、▲1七香〜▲1八飛とスズメ刺しの態勢を取る。上手が玉まで使って1筋を守ろうとすれば、引き角で駒を足せばOK。 この指し方は、小さい駒(価値の低い駒)から攻めていくので、第1節の左端突破作戦よりもスジが良く、個人的にはオススメ。 第4章は八枚落ち。「数の攻め」を行えばよいので、棒銀作戦が普通だが、本書ではオリジナルの作戦を提案する。 まず、4手目▲6六角で上手の右金を8二に釘付けにする。次に、▲5六歩〜▲5七角で、上手の左金を2二に釘付けにする。そして、▲5五歩〜▲5八飛と中飛車に構え、▲7七桂〜▲6五桂〜▲5四歩と仕掛ける。 飛の上に角が載った形が変わっているが、狙いは開き王手で▲9三角成or▲1三角成とすることだ。ただし、この指し方で勝てるようなら、すでに初段近い実力があると思われるため、プロの名人相手でも八枚落ちではない手合だろう。「こんな指し方もあるんだ」というくらいに思っておくとよい。 先に記したように、解説のレベルは比較的高いので、「八枚落ち」に魅かれて初級者が読むと大変。少なくとも六枚落ち以上でプロの指導を受けている人には良いだろう。以下のような人にオススメしたい。 ・六枚落ちで、左端突破定跡が上手くいかない (右端突破に切り替えよう) ・四枚落ちで、古来の棒銀定跡が上手くいかない (端に桂を捨てる本書の方がラク) ・二枚落ちで、二歩突っ切りを完璧にしたい ・二枚落ちで、銀多伝以外でいい指し方が欲しい振飛車党 でも、やっぱり個人的には、「二枚落ちには銀多伝が最適」だと、本書を読んだ後でも思ってしまう(笑)。二歩突っ切りで勝てたらカッコいいけどなぁ……。(2015Feb08) ※誤字・誤植等(初版第1刷で確認) p23下段 ×「△7五同玉だが」 ○「△7六同玉だが」 p205下段 ×「四枚落ちの右端突破…」 ○「六枚落ちの右端突破…」 |