第3回電王戦(2014年3月15日〜)の事前情報を特集したムック。
このレビューは、2014年3月15日より前に書いていますが、
諸事情により第2局終了後に公開することになってしまいました。
遅れて申し訳ございませんでした。m(_
_;)m |
2013年春に行われた第2回電王戦は、プロ棋士とコンピュータソフトが5vs5で戦い、3勝1敗1分でコンピュータが勝った。
現役プロ棋士が初めて敗れただけでなく、A級棋士が疑問手不明のまま完敗するなど、人間側にとって衝撃的な結果となった。
一方で、後手番での無理仕掛けや入玉模様での大局観の悪さなど、いくつかのコンピュータ側の課題も浮き彫りになった。また、第2局や第3局のように競り合いになった将棋もあり、「コンピュータソフトは人間と互角以上の実力があるが、まだいい勝負ができる」という認識が持たれるようになった。
そこで、対局条件を調整してもう一度勝負してみましょう、というのが第3回電王戦である。そして本書は、電王戦を観戦して楽しむために企画された本である。
一連の情報をざっくりまとめてみた。
【ルールの主な変更点】
・持時間が5時間で、チェスクロック方式(加算)に。
(前回は4時間でストップウォッチ方式=1分未満は切り捨て)
→常に59秒で指せるソフトに有利な条件だったとされた。
・夕食休憩あり
→棋士側の疲労・空腹によって集中力が落ちるのを考慮した。
・ハードウェア統一
→前回はノートPCから600台以上の並列クラスタマシンまであり、ハードの能力差が大きかった。
今回は純粋にソフトの力を見るためにハードを統一。
ただし、1台のPCとしては相当にハイスペックなマシン。
・対局ソフトと統一ハードが事前に提供される。ソフトは電王トーナメント1週間で提供し、それ以降の変更はできない。
→棋士側が十分に練習可能になる。
前回は、提供・不提供と条件がバラバラだった。
開発者側としては、いかにソフトのクセを見抜かれないかがポイント。
この件は、将棋連盟側は難色を示したが、ドワンゴの強い要望で決まったそうだ。
(将棋連盟から「人間が勝ちやすい条件にしてくれ」と頼んだわけではないとのこと)
・対局場が有名な建物に。
→マンガ『キン肉マン』を想定したそうだ。
本書のメインは関係者のインタビュー。主な関係者と対談テーマは以下の通り。
【主な関係者】
・対局棋士×5人(菅井竜也、佐藤紳哉、豊島将之、森下卓、屋敷伸之)
・菅井: 出場することで強くなれる。
(コンピュータは強くなり続けると言われるが)人間がコンピュータを理解していけば、10年後には人間の方が強い。
・佐藤紳: ソフトを使ったことがなく、これまでの電王戦を興味深く観ていた。
(キャラを期待されていることについて)国技館でやるので、当日はまわしをつけようかと…
・豊島: (前回出場の)船江が電王戦後にレベルアップしたことに刺激を受けた。(相手の)YSSは中盤が強いようだ。
・森下: 実は市販ソフトの経験豊富。コンピュータの利用によって、ベテラン棋士が鍛え直せる可能性がある。(相手の)ツツカナはいい将棋を指すので好き。
・屋敷:
コンピュータの弱点はもうあまりないと思う。
・ソフト開発者×5人(習甦、やねうら王、YSS、ツツカナ、ponanzaの開発者)
・習甦(竹内): 弱点の矯正は、目先の調整ではなく、根本的に解決したい。
・やねうら王(磯崎):
対局後に自動学習する独自システムを搭載している(ので、同一パターンで負けることはない)。ストックフィッシュ(チェスの強いソフト)は入れていない
・YSS(山下): (老舗ソフトの)YSSは量(を読む)より質で、職人的。〔「ストックフィッシュ」を分かりやすく説明している〕
・ツツカナ(一丸):
(全体的にとても楽しそう。開発者もソフトも素直。(第2回で対戦した)船江の「ツツカナ愛」がハンパない)
・ponanza(山本):
東大将棋部出身。東大に行けば天才に会えると思っていたが、東大には天才がいなくてつまらなかった。(第2回で)初めて公式に現役プロ棋士を破ったことがややトラウマ気味。電王トーナメントで優勝してプロポーズに成功した。
・日本将棋連盟会長(谷川浩司)
ソフトの提供は連盟側から頼んだわけじゃないんだからねっ!
・運営者であるドワンゴの社長(川上)
いろいろと面白い人。補給にチョコorパイン飴は参考にさせていただきます。
・棋士のトップである竜王名人(森内俊之)
コンピュータに新手を発見されるのは残念ではない。人間が気付かなかったことを教えてもらえるのだから。
・ソフトの力を見せたBonanza×渡辺戦の開発者(保木)、対局者(渡辺明)
渡辺も「現在のコンピュータに大きな穴なし」とみている。
・代表的な市販ソフトの開発者(激指、東大将棋の開発者)
・第2回電王戦の対局者(佐藤慎一、船江恒平)
ソフトは飛車先歩交換を重視しない。(※他の箇所でも何回か出てくる)
ソフトは居玉をとても悪い位置と見ている。
ソフトは後手で無理攻めする傾向がある。
・コンピュータ将棋に詳しい棋士(勝又清和)
・出場ソフトを決める「電王トーナメント」を監修した棋士(遠山雄亮)
電王戦トーナメントの将棋を振り返りながら、各ソフトの棋風・強さ・弱点を探る。
・習甦: 攻めが鋭く、終盤の寄せも切れる。切れ筋に陥りやすく、受けが脆い。
・やねうら王: 機試に必勝手順を見つけられないようにしている。序盤重視の設定になっている。
・YSS: 粘り強い、受けが強い。序盤に難がある。
・ツツカナ: きれいな将棋。序盤が不定形の時に不安あり。
・ponanza: 後手番で無理攻めしやすい。ゴチャゴチャしたところから一気に持っていく力がすごい。序盤に難があり、アマ初段くらい。
……など
本書を読むことで、ふだんプロ将棋を観戦しているだけではわからないようなさまざまな情報を得ることができる。
個人的にとくに面白いと思ったのは、プロ棋士は(アマ有段者も)飛車先の歩交換をかなり重視するが、コンピュータは重視しない件。これがコンピュータが序盤の数十手先を見通せないからなのか、それとも本当に飛先歩交換にはさほどの得がないのか。これまで議論の対象にもならなかったことが、コンピュータの進化で真剣に検討されることに驚きを感じた。
森内も言っているように、コンピュータが新しい気付きを教えてくれる時代になっているのだと思う。巻末のファンの応援は、「人間がんばれ!」的なものがかなり多いが、それよりも電王戦タッグマッチ(2013年8月31日)のように、人間とコンピュータが互いの穴を埋められるようになっていくといいな、と思う。
人によって思いはさまざまですが、そんなこんなで、第3回電王戦を楽しもう!
※誤字・誤植等:
p71 ×「あの△3九竜(30ページ参照)…」 ○「あの△3九竜(29ページ参照」
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