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■十一人の棋風

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十一人の棋風
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十一人の棋風
ロールシャッハとMDSによる棋士の心理分析
[総合評価] A

難易度:★★★★

図面:随時挿入
内容:(質)A(量)B
レイアウト:A
解説:B
読みやすさ:A
上級者・大学生以上向き

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【著 者】 岡本浩一 橋口英俊
【出版社】 ブレーン出版
発行:1989年2月 ISBN:4-89242-126-X
定価:980円 171ページ/20cm


【本の内容】
・本研究の方法論と、資料の科学性について=8p
  ロールシャッハ反応/多次元尺度構成法(MDS)/その他の記述

十一人の棋風
※【共通項目】(○○は棋士名、「人と将棋のあいだ」のみ下表参照)
プロフィール/○○将棋の特徴/○○の棋風認知/ロールシャッハ反応の橋口所見/人と将棋のあいだ/エピローグ/○○のデータ/Basic Scoring Table ○○/Summary Scoring Table ○○
谷川浩司 (大局重視/形勢悪化に強い/直感精読によるスマートな攻撃型/大勝負に強い) 16p
内藤國雄 (芸域の広さ/美しさのある将棋/手将棋の雄/余裕のある指し方
/複線的な思考/両面的感情/盤上での自己追求)
16p
森けい二 (序盤の早指しと終盤重視/劣勢に耐える強さ/終盤の魔術師
/ミネラルウォータと飛行機嫌い/挑発的言動)
14p
桐山清澄 (読みの独創性と粘り腰/変貌) 10p
田中寅彦 (大局観重視/ポカ) 10p
高橋道雄 (部分への着目と着目の独創性/禁欲的な傾向
/急激な状況変化での適応/思い切りのよさ/あたりまえの手をよしとしない)
14p
大内延介 (大局観重視の攻め将棋/第34期名人戦/旅行好きとルーツ探し) 16p
有吉道夫 (橋口教授の推測/見せ場のある将棋/定型の序盤作戦/有吉流の駒配置法) 14p
森安秀光   10p
羽生善治 (「サラダ記念日的」な着想/大胆な実行/まとめ) 14p
大山康晴 (受け将棋/早見え/大局観重視/悪手が続かない/安定した情緒
/抜群の自己統制力/淡白な人間関係
10p

・【エッセイ】(1)人間としての名人谷川(橋口) (2)将棋心理学の巻(内藤) (3)対局心理と投影機制(岡本) (4)棋士の自己イメージ(岡本) (5)名人の器(岡本) (6)名人位と棋士昇段のしくみ(岡本) (7)棋士とメンタル・ヘルス(橋口)/将棋用語ミニ辞典

◆内容紹介(はしがきより抜粋)
これまで、作家や経営者のロールシャッハ反応を分析した研究は発表されているが、将棋の棋士についての研究は行われていない。(中略)ロールシャッハ反応と棋風との接点を見つめることは、彼らの全人格的な個性をロールシャッハ技法の外的基準にすることに等しい。(中略)本書はその経緯で収集された基礎的な資料を提供するものである。


【レビュー】
トップ棋士を心理分析し、棋風との関連を調べた本。読み物要素もあるが、基本的には学術的な心理学分析。

岡本氏は若手の心理学者で、アマ三段(執筆中にアマ四段)。将棋の知識、棋士個人に関する知識もある程度持っている。ロールシャッハ・インタビューから執筆まで、本書の大部分を担当。

橋口氏はベテランの心理学者で、将棋知識はほとんどなし。本書ではインタビューで得られたデータのみをもとに、客観的な分析を担当している。(谷川だけは橋口氏がインタビューを担当)

本書で用いられた分析手法は以下の2つ。

ロールシャッハ反応
投影法の一種で、「インクのしみを落として作った左右対称の図形が何に見えるか」で人格を検査する。(参考:はてなダイアリー
なお、ロールシャッハ図版は原則的に非公開(事前に知られていると正確なデータにならない)。

MDS(多次元尺度構成法)
多変量解析の一手法で、「似たものは近くに、異なったものは遠くに配置」されるして、分類対象物の関係を低次元空間における点の布置で表現する。(参考:Wikipedia
本書の場合、12人の棋士を指定し、「ある2人の棋士の差」を回答者に点数化してもらう。サンプルが12人なら本来11次元になるが、それを2次元平面に展開している。


我々素人でも分かりやすいのが、二次元平面による「棋風認知」。T軸を「攻め/守り」、U軸を「切れ味/粘っこさ」などで表現され、誰と誰が対極にあるか、誰が近い棋風なのかが直感的に分かる。棋士各々の主観的な評価ではあるが、人によって感じ方が違うのがとても興味深い。

一方で、ロールシャッハ反応のデータ部分は心理学の専門家用。少なくとも、ロールシャッハの分析法を学んでいなければ、何がなんだか分からない。

それ以外の部分は、一般の将棋ファンでも読み物として読める。とはいえ、有段者クラスの棋力は必要。より楽しむためには、各棋士の棋風についてある程度自分なりのイメージがあった方が良いだろう(逆にイメージがないとつまらないと思う)。

さて、読者の興味の多くは「結局、一流棋士に共通するものはなんなの?」というところにあると思うが。それはエッセイ「棋士とメンタル・ヘルス」の中に集約されている。要は、一流棋士は「精神的に健康である」らしい。普段、棋士に関する文章に触れている人ほど、「ホント?」と思うかもしれない。その是非は、ご自身で判断してほしい。

一方で、共通しないものもいくつか。一番驚いたのは、「大局観重視」と分析された棋士が多い中、羽生は「大局観への依存が低い」とされたこと。確かに、羽生はとうてい第一感とは思えない手で周りを驚かせることが多い。このように、普段目にするプロ将棋と本書の分析との整合性をみていくと非常に面白い。

これだけ個性的な「奇書」は、他にはない。BAかで迷ったが、レア度を高く評価したい。もし将棋も心理学も分かる人ならば最高の素材だと思う。(2006Apr10)

※11人という中途半端な数が気になっていたが、どうやら何かの都合で中原が削除されたっぽい。(各棋士へのMDS用の質問には、中原も設定されている)
※このテーマを持ち込んだとき、かなりの数の棋士に断られたらしい。米長、加藤(一)あたりも断ったのかしらん…



【関連書籍】

[ジャンル] 
棋士分析
[シリーズ] 
[著者] 
岡本浩一 橋口英俊
[発行年] 
1989年

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