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■藤森流急戦矢倉

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藤森流急戦矢倉
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マイナビ将棋BOOKS
藤森流急戦矢倉
[総合評価] A

難易度:★★★★

図面:見開き4枚
内容:(質)A(量)A-
レイアウト:A
解説:A
読みやすさ:A-
上級〜有段向き

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【著 者】 藤森哲也
【出版社】 マイナビ
発行:2014年8月 ISBN:978-4-8399-5192-4
定価:1,663円 240ページ/19cm


【本の内容】
第1章 基本図までの駒組み   6p
第2章 ▲3五歩編 第1節 ▲3五歩・2四歩型
第2節 ▲3五歩・6八角型
第3節 ▲3五歩・2六角型
52p
第3章 ▲3七銀編 第1節 ▲3七銀・4六銀型
第2節 ▲3七銀・6八角型
第3節 ▲3七銀・1五角型
42p
第4章 藤森流急戦矢倉 第1節 基本図までの駒組み
第2節 ▲7九玉型
第3節 ▲3七桂型
第4節 ▲3七桂・4五銀型
第5節 △3一玉・4二金右型
52p
第5章 同型矢倉   30p
第6章 自戦解説編 実戦譜1 高見泰地四段戦
実戦譜2 佐々木勇気四段戦
実戦譜3 森内俊之名人戦
50p

・【コラム】(1)地元のこと (2)大内一門のこと (3)親父のこと

◆内容紹介
皆さんは米長流急戦矢倉をご存知でしょうか。後手番ながら積極的に矢倉を攻め倒す気持ちの良い戦法ですが、対策の決定版が発見されたため、プロ間ではあまり指されなくなりました。

しかし、米長流急戦矢倉はこの変化以外では、常に主導権を握っており、実戦的に勝ちやすい展開が極めて多い戦法です。藤森哲也四段は研究を重ね、ついに米長流急戦矢倉の改良版を編み出すことに成功しました。

本書では、まず米長流急戦矢倉に対する先手番の対策を、級位者にも分かりやすく系統立てて解説しています。

そして、その先手の対策を打ち破る藤森流の手順について、自身の研究手順を惜しみなく披露しています。

改良された「藤森流急戦矢倉」は、級位者から高段者まで気持ちよく攻め勝てる戦法です。
本書で攻めっ気120%の本戦法をマスターして、ぜひ実戦で試してみてください。


【レビュー】
米長流急戦矢倉とその周辺変化の定跡書。

米長流急戦矢倉は、主に先手の矢倉囲いに対し、飛角銀銀桂歩で攻撃を仕掛けていく急戦作戦で、1980年代によく指された。その破壊力は高く、特に▲早囲いを完全に駆逐した。

しかし有力な対策が現れたため、完全に作戦自体が潰れたわけではないものの、玉が薄く勝ちにくい戦法と認識されて次第に廃れていき、近年は稀に指されるくらいだった。

そこに新たな息吹を吹き込んだのが、本書の著者である藤森四段。三段リーグ在籍中に、対米長流の最有力とされる先手の構えに対抗する陣形を編み出し、新たな鉱脈を見つけ出してきた。

本書は、米長流急戦矢倉と、その改良版である藤森流、そして米長流を先手が拒否した時に移行する同型矢倉について、詳しく解説した本である。


本書は大きく分けて三部構成。第1章〜第3章が従来の米長流急戦矢倉で、第4章が改良版の藤森流、第5章が同型矢倉となる。第6章の自戦記編は3局で、米長流、藤森流、同型矢倉がそれぞれ1局ずつ。本編の変化として、のちほどチャートに組み込んでおく。

各章の内容を、チャートを添えながら紹介していこう。



第1章は、米長流急戦矢倉の基本図までの駒組み。矢倉の基本的な駒組みを進めていき、途中で△6四歩が急戦の第一歩。本章の基本図は、第2章〜第5章につながっているので、まずはしっかりと頭に叩き込もう。

なお、米長流急戦矢倉には、飛角桂で攻める「速攻型」もあるが、本書では扱わず。飛角銀銀桂を使う「本格型」のみとなる。




第2章は、基本図から▲3五歩とする形。引き角で3筋の歩を交換し、角を活用する自然な手である。ただし、後手にも1歩渡すので、のちの仕掛けで強烈な△8八歩のタタキが随所に生じてくる。

後手の仕掛けに素直に応じると先手が悪いので、先手も3筋で得た1歩を生かして、▲2四歩△同歩▲2三歩△同金▲2四角の筋を狙う。



第3章は、基本図から▲3七銀とする形。歩交換よりも銀の活用を急ぐ本筋の変化だ。

第3節の「▲3七銀〜角で2筋歩交換〜▲1五角型」が、「一歩を交換しながら角を▲2六角の好位置に運び、▲7一角成を見せることで後手(※本文(初版第2刷)には「先手」となっているが誤植)の攻めを牽制する」(p95)という狙い。

この形は、△5五角と飛び出されたときに、▲3七角と合わせられるのも強み。角交換後に隙ができないだけでなく、手順に右桂を跳ねられる。これが▲4六角と合わせる形だと、角交換後に4七に空間ができて、▲6九玉型とは非常に相性の悪い形になってしまう。

この▲1五角型が米長流対策の決定版……だった。従来は。



第4章は、第3章第3節の▲3七銀〜▲1五角型に対抗する「藤森流」。本書の真打である。

▲1五角型に対し、まずすぐに△1四歩と突いて、先手角の位置を▲2六角に限定させる。こうしておくと、△3五銀!が角筋を通しながら▲2六角に当てる好手になりやすい。「左銀は5〜6筋方面へ使う」という米長流の常識を覆す発想だ。

さらに、6筋で桂を跳ねておいて△6四銀で支え、8筋歩交換後に△8三飛と引くのが藤森流の骨子。▲2六角型のメリットである▲7一角成の筋を緩和しているのが大きいのだ。

なお、藤森流の仕掛けでは5筋の突き捨ては使わない。米長流を指し慣れた人は、筋とばかりに5筋を突いてしまうので注意が必要だ。

第1節〜第4節が藤森流の基本的な変化。第5節は、すぐに仕掛けずに玉を深く囲う指し方。藤森が三段リーグ時代によく指していたそうだ。第2節のように△7五歩と仕掛けても良いが、応用編として知っておくと幅が広がる。



第5章は、同型矢倉。後手の米長流の構えに対し、先手が▲4六歩と突くと、△4四銀からの攻めが難しくなる(「歩越し銀には歩で対抗」で、▲3七桂とリンクして銀を追い払われる)ため、昔懐かしい同型矢倉に落ち着く。

同型だから先手有利…ではない。先手が先に仕掛けるものの、一気に攻め切る展開にはならず、渡した駒で後手からカウンターを喰らう展開も多い。昔から指されているものの、結論は出ていない。

米長流を志す人、米長流を避けたい人の双方にとって、何らかの指針を持っておくべき戦型だ。(もちろん、先手で米長流を真っ向から受ける人には必要ない)

端歩の有無や、▲8八玉型と▲7九玉型の違いなど、似て非なる局面の理解をしておこう。




藤森流が優秀かどうかは、現状ではまだ分からない。ただし、▲4六銀-3七桂に対して後手が専守防衛を強いられる中で、△5三銀右急戦以外に藤森流という選択肢があるとすれば、流行する可能性はある。さらに藤森流が非常に優秀であった場合、それを避けて同型矢倉が主流になることもありうる。

米長流&藤森流は、矢倉戦で後手が望めば誘導しやすい。古くて新しいこの戦型、後手の主力戦法としてマスターするには今がチャンスである。米長流と同型矢倉を網羅した本は意外となかった(一冊のうち、1つの章を割いてある程度だった)ので、本書がバイブルとなるだろう。


※なお、本書では著者の一人称は「僕」で統一されている。マイナビ将棋BOOKSとしては、とても珍しい。
※各ページにはサブタイトルが付いているが、たまにマンガ・アニメやゲームを意識したものがある。「出でよ、神龍(シェンロン)」(p119)、「お前はもう死んでいる」(p104)、「ガンガンいこうぜ」(p79)、「やったぜ△8八歩」(第2章で何度も)、「あなたの△6八歩」「みんなの△7七銀」(第4章)など。元ネタを知っていればニヤリとするだろう。それにしても、1987年生まれの藤森四段が、『ドラゴンボール』はともかく、『北斗の拳』も好きなんだね…(笑)



【関連書籍】

[ジャンル] 
矢倉
[シリーズ] マイナビ将棋BOOKS
[著者] 
藤森哲也
[発行年] 
2014年

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