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■野獣流攻める矢倉

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野獣流攻める矢倉
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マイコミ将棋BOOKS
野獣流攻める矢倉
[総合評価] C

難易度:★★★☆

図面:見開き4枚
内容:(質)B(量)A
レイアウト:A
解説:B
読みやすさ:A
中級〜有段向き

【著 者】 泉正樹
【出版社】 毎日コミュニケーションズ
発行:2008年10月 ISBN:978-4-8399-3001-1
定価:1,470円(5%税込) 224ページ/19cm


【本の内容】
第1部 ジェットコースター矢倉 ・急戦矢倉=42p
・3七銀戦法=41p
・先後同型矢倉=18p
・スズメ刺し戦法=26p
138p
第2部 矢倉アドベンチャー ・ウソ矢倉=35p
・本格的相矢倉=21p
・角にらみ合い型=22p
82p

・【コラム】エルチャンの基準/エルとママの戦い/チョコレート事件/大好きなトリミング/エルの研究会

◆内容紹介
本書は攻めに重点を置いた矢倉の戦術書です。素早く攻撃態勢を整えて、玉の囲いもそこそこに、猪突猛進、攻撃を開始します。
一度攻め始めたら小難しいセオリーなど気にせずに、ひたすら攻め続けるのが野獣流。将棋は攻めているほうが楽しく、しかも勝ちやすいので初段を目指す方には最適だと思います。
本書を読んで野獣流攻めの極意をマスターし、勇猛果敢、ガオーと襲い掛かってみてはいかがでしょうか。


【レビュー】
矢倉の定跡書。

現在主流の飛先不突き矢倉ではなく、基本的にすべて先手が▲2六歩と突くタイプの矢倉を解説。その中でも、先手が積極的に攻勢をとるタイプの戦法が選ばれており、解説もじっくりと駒組み勝ちを狙う順はスルーし、攻め勝つ順を中心にしている。

「なんでいまどき旧式の矢倉?」と思ったが、どうやら将棋マガジン誌に掲載された原稿の焼き直しらしい(将棋マガジンは1996年に廃刊)。いつ載っていたかは本書では不明だが、内容からして80年代前半だろうと思われる。ただし、第2部は「消費税(1989年施行)」の話や、「大山先生(1992年死去)が見たら…」という文章が出てくるので、1990年代以降の原稿かもしれない。〔情報求ム〕

もっとも、古い型だからといって、役に立たないわけではない。もともとこの形で結論が出たわけではないし、▲2六歩型にするかどうかは先手次第である。つまり、先手が望めば本書に載っているような形に誘導できるということだ。

本書に載っているのは7戦型。矢倉の戦型は言葉だけでは分かりづらいので、図面を用いて説明していこう。


【第1図】急戦矢倉(二枚銀) 【第1部−(1) 急戦矢倉】

▲6六歩を突かずに矢倉の駒組みを進め、右銀を早繰り銀風に▲4六銀まですばやく繰り出し、左銀を▲6六銀とすれば【第1図】のような攻撃形が完成。カニカニ銀に似ているが、中央突破を目指すよりは3筋方面の攻略を目指す。▲6六銀は△6四角のけん制。場合によっては左銀の攻撃参加もある。

後手の対策は△4四銀型、△4四歩型など複数あるが、どちらでも先手は同じ形から仕掛けることができるので、得意戦法にするにはもってこいの戦法だと思う。これとセットでカニカニ銀を覚えれば鬼に金棒だ。

ただし、自玉はとてつもなく薄いので、独特の感覚が必要になるし、攻めを切らさない技術も必要だ。たまに仕掛ける奇襲ではなく、徹底的にこれを指すくらいの覚悟を決めたい。


【第2図】3七銀戦法(加藤流) 【第1部−(2) 3七銀戦法】

いわゆる「加藤流」とよばれる型。先に▲2六歩を突く旧型で、【第2図】の局面で▲3七銀と上がる。飛先不突き矢倉▲3七銀戦法から【第2図】に合流することもできるが、飛先不突き矢倉は▲2六歩をできるだけ後回しにしようとしているので、図の局面で突く人はごく少ない。ここからの変化は非常に多岐にわたる。

前半は、▲3五歩△同歩▲同角の歩交換があっさり成立した場合、▲3六銀から▲2六角(または▲4六角)として攻める。基本的な矢倉崩しの陣立てである。

有段者以上では、あっさり3筋歩交換を許さず、△6四角と出てくる人がほとんどだろう。その場合の「野獣流▲3七銀」は、以下の点が特徴。
 (1)▲7九玉型(入城しない)→理由は簡単に書かれているが、割愛されている…
 (2)▲3七銀型で(棒銀の余地を残しながら)1筋を詰め、その後▲4六銀-▲3七桂型で攻める。ただし飛車は▲2八飛、香は▲1九香のまま(現在主流の▲4六銀-3七桂は、▲3八飛+▲1八香を入れる)。
 (3)角は▲5七角


【第3図】先後同型矢倉 【第1部−(3) 先後同型矢倉】

矢倉の先後同型というのは何種類かあるが、ここでは双方が加藤流▲3七銀の構えを取り、さらに双方が角による3筋(7筋)歩交換を果たした図。

互いに攻め合う激しい順になりやすい。本書に書かれているのはその一例。

後手の最善と思われる順が割愛されているのはちょっとどうかと……。


【第4図】スズメ刺し 【第1部−(4) スズメ刺し戦法】

クラシカルなスズメ刺し戦法。【第4図】から次に▲2五桂△2四銀▲1三桂成△同銀▲1四歩△同銀▲同香△同香▲同飛△1一香▲1三歩△同香▲同角成△同桂までが有段者必修の一本道手順。この後スズメ刺し大成功、となるのだが…、この形のスズメ刺しは後手の対策決定版が出ていたはず…。

また、p110で△2四銀▲2五歩△3三銀(▲2五歩を突かせてスズメ刺しを放棄させる)は後手2手損でダメとされているが、現代感覚ならこれは普通にあるのでは?

あとは、後手が7筋歩交換から△7四銀と進出してきた場合、△6四銀と早繰り銀できた場合、△6四歩と受けに重点を置いてきた場合が書かれている。


【第5図】対ウソ矢倉 急戦 【第2部−(1) ウソ矢倉】

▲7六歩△3四歩▲2六歩△4四歩から始まる矢倉をウソ矢倉という。△無理矢理矢倉ともいう。通常の矢倉は後手番での悩みが多いので、近年増えてきている形だ。普通に組ませると、逆に後手だけ飛先不突き矢倉になるため、それを阻止する意味で先手は引き角(▲7九角)などから角交換を狙う将棋が多い。

しかし野獣流では、後手には好きなように組ませ、【第5図】のように▲4七銀型から▲5五歩△同歩▲同角と角交換、その後▲5六銀−▲4七金(場合によっては▲5七銀も)と「中原流急戦矢倉」によく似た展開に持ち込む。要は、駒組み勝ちを狙うのでなく、「その構想は欲張りすぎですよ」と急戦で咎めにいくというわけだ。

やや無理気味の攻めでも仕掛けるという「野獣流」がよく現れた一文がこれ。ちょっと笑った(笑)。チャンスと見れば打って出るのが野獣流の真骨頂。…大山康晴十五世名人がご覧になれば、『そんなに急いでどうするの』と悲しまれるかも。“受けの達人”大山先生は一度目のチャンスを必ず見送り、2、3度目も平然と見送ることが多かった。しかし猛進君には大山流の奥義はとても無理。攻めを捨て受けていたのでは、牙を抜かれた良獣?になってしまうから。」(p163-164)

この章は、後手の指し手に非常に不満あり。後手は飛先交換のためとはいえ、p171第16図の△2二玉は大悪手なのでは?角筋を生かして攻められてるし、結局飛先交換もできない。これを本筋として解説しているのは疑問符。

p175第19図も同様。「△2一玉は不急」とあり、深く掘り下げられていないが、本譜△8四歩よりマシでは?結局△8四歩〜△8五歩は生かせていないし。


【第6図】先後同型矢倉(4七銀-6三銀型) 【第2部−(2) 本格的相矢倉】

本格的矢倉といってもいろいろあるが、いわゆる「先後同型▲4七銀−△6三銀型」。20〜30年ほど前によく指されたが、現在でもたまに見かける。端歩の関係などで仕掛けが変わってくるが、基本は
 (1)▲4五歩△同歩▲同桂△4四銀▲4六銀
 (2)▲4五歩△同歩▲3五歩△同歩▲同角
の2つの筋。

本章では、端歩の突き合いがない形と、互いに端を詰めた形を解説している。▲1七角と引く余地があるかどうかで仕掛けも変わるので注意が必要だ。


【第7図】角にらみ合い型 【第2部−(3) 角にらみ合い型】

【第3図】から▲4六角△6四角と角をにらみ合い、そのまま▲8八玉△2二玉まで入城した形。脇システムと似ているが、双方の3筋(7筋)の歩が切れて2歩ずつ持っているため、非常に激しい攻め合いの変化になりがち。

代表的な展開は、先手が▲2六銀と棒銀に出た瞬間、△4六角▲同歩△4七角▲1五歩でどうか。これも脇システムに似ているが、持ち歩で違いが出そう。

ただ、端を破ったあと「△1一歩(の受け)は▲2一飛をうっかり」(p207)うっかりって何よ…定跡書なのに「うっかり」って何なのよ…


解説を簡素化するためとはいえ、後手に悪手を指させているのが目立つし、後手の最善手を「指しづらい手」(p130)とか「ここまで指されることはない」という理由でスルーしているのがとても気になった。わたしはそれらの手が第一感だっただけに、なおさら。

おそらく、本書序盤のp16-17で△6二金(悪手)を指させて潰し、その後「△4二金右の方が断然よい」というところで、その3手先までしか書いてないところで、私はあまり良い印象を持たなかったのだと思う。その後は、どうも眉にツバをつけて読むようになってしまった。

一方で、講談でも語っているかのようなリズミカルな文体は読んでいて楽しく面白かったし、初段前後というもともとの対象棋力を考慮すれば、勇気の湧いてくる解説も○ではある。問題があるとすれば、専門的な解説になったり、級位者向けの解説になったり、かなり波があるところだと思う。

まずまず面白かったのだが、これを本棚に取っておきたいか、またはこれから強くなる人に薦めたいかというと「うーん??」となってしまった。(2008Nov28)

※初版の誤植:
p152 下段l.2「途絶えてしまします」→「途絶えてしまいます」

※本書で気になるのは、「P○○からの分岐」に間違いが多いこと。特に前半部に多い。
 p.48 「P2から」→「P6から」
 p.41 「P19から」→「P18から」
 p.62 「P44から」→「P50から」

古い原稿を再構成したためだと思われる。なお、p.62のサブタイトル「コンピュータもお手上げ」は意味不明。

※コラムについて
全編にわたって、愛犬「エル」の話。ほとんど将棋には関係ない内容だが、わずかにコラム(5)で「エルも著者の研究会に参加している」という話がある。定跡書のコラムでここまで愛犬の話をしたのはおそらく史上初めてだろう(笑)。


【他の方のレビュー】(外部リンク)
棋書解説評価委員会
ビーケーワン



【関連書籍】

[ジャンル] 
矢倉
[シリーズ] マイコミ将棋BOOKS
[著者] 
泉正樹
[発行年] 
2008年

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