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■羽生善治の定跡の教科書

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羽生善治の定跡の教科書
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羽生善治の定跡の教科書 [総合評価] B

難易度:★★
  〜★★★

図面:見開き3〜4枚
内容:(質)B(量)B
レイアウト:A
解説:B
読みやすさ:A
初級〜中級向き

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【著 者】 羽生善治
【出版社】 河出書房新社
発行:2014年7月 ISBN:978-4-309-27511-6
定価:1,404円 226ページ/19cm


【本の内容】
第1章 各戦法の特徴 ・居飛車編
・振り飛車編
12p
第2章 各戦法の定跡・居飛車編 ・相矢倉戦の定跡
・角換わり腰掛け銀戦の定跡
・相がかり戦の定跡
・横歩取り戦の定跡
100p
第3章 各戦法の定跡・振り飛車編 ・向かい飛車戦の定跡
・三間飛車戦の定跡
・四間飛車戦の定跡
・ごきげん中飛車戦の定跡
・藤井システム戦の定跡
・相振り飛車戦の定跡
106p

◆内容紹介
本書は、アマチュアの方はこれだけマスターしていただければ十分と思われる10の戦法を解説しています。一手一手の意味を理解し得意な戦法を身に付けて、将棋をもっと楽しんでください。


【レビュー】
総合定跡書。

本書は、相居飛車、対抗形、相振飛車の10大戦法について、初手から駒組み、仕掛けまでを解説している。


レイアウトは上下に段組みされていて、図面は基本的に見開き4枚(各ページの上段に1枚、下段に1枚)。図面には矢印や網掛けが多用されていて、どの駒がどのように動いたかが視覚的に見やすくなっているのは初級者にはうれしい工夫う。

字体はすべてゴシック体で、これは賛否が分かれるところだが、一般的な明朝体よりも濃く見えるので、棋書慣れしていない人にはこの方が読みやすいだろう。ルビは一部の漢字には付いているが、総ルビではなく、小学高学年程度の漢字力は必要。なぜかアルファベットにまでルビが付いている(例:Mに「えむ」)のは謎。


各章の内容を図面を添えながら紹介していこう。


第1章は、「各戦法の特徴」。本書で解説する10大戦法を、1戦法につき1ページ、図面1枚と解説文270字程度で概説する。ざっと読んで、「この戦法は好みに合いそうだ」というものがあれば、該当する章を先に読むのが良いだろう。

第2章・第3章は、「各戦法の定跡」。ここからは定跡の解説になる。各定跡の最後に1ページのまとめがあるので、おさらいに使おう。指し手は見開きで2〜4手くらいずつのゆっくり進行となる(たまに5〜9手くらい進むこともある)。

●相矢倉の定跡

・5手目は▲7七銀。
・飛先▲2六歩は7手目で、早め。
・先手は攻めの態度を決めずに矢倉に入城する。森下システムライク。
・後手は△4一玉型矢倉で、先に△6四銀-7三桂型を作る。
→先手は▲4七銀型で受ける。〔右図〕
→互いに入城して、△8五桂に▲4五歩△同歩▲同桂△4四銀▲4六銀と仕掛けて、本章の定跡は終了。

[所感]
後手に4六銀-3七桂型を組ませるという、珍しい形。実戦でもほとんど見られないので、なぜこの形が矢倉の代表的な定跡として選ばれたのかは不明である。

●角換わり腰掛け銀の定跡

・比較的オーソドックスな組み方。
・同型腰掛銀の仕掛け順は、近年の「42173」ではなく、旧来型の「437…」を紹介。(p70)
・△7三桂保留〜▲4八飛△4二金右
→互いに入城してからの仕掛けまで。

[所感]
角換わり腰掛銀の序盤は、手順前後が許される部分と許されない部分があるし、級位者向けの解説はなかなかないので、数手ごとに丁寧に解説されているのは良い。ただし、級位者の将棋で角換わりになるのか?という疑問はある。

●相がかり戦の定跡

・5手目▲2四歩は無理
・先手は浮き飛車、後手は引き飛車
・▲3七銀戦法〔右図〕
→後手は▲3四歩の垂れ歩を△3三歩の合わせから除去する。先手は▲3五銀から▲7六飛とヒネリ飛車の配置にするところまで。

[所感]
相掛かり▲3七銀戦法は、1980年代後半〜1990年代前半にはよく指されていたが、最近はあまり見ない。これも、級位者の将棋で相掛かりになるのか?とは思うが、初心者用の本で相掛かり棒銀を習うことが多いので、一つ上のステップとして、知っておくのは良い。

●横歩取り戦の定跡

・横歩取り△3三角〜△8四飛型。
・相横歩取り、△4五角戦法も紹介あり。
→先手は▲6八玉-3八銀型。後手は中住まい金開き。〔右図〕

[所感]
1970年代の形。中原囲いや△5二玉型中原囲い、△8五飛など、1990年代後半以降の新しい形にはコメントがない。『羽生の頭脳 10』(1994)にも載っているので、基本といえば基本だが、本書出版時の2014年にこの形を見ることは少ない。

●向かい飛車戦法の定跡

・▲向飛車
→片美濃を作ってから▲7八金〜▲8六歩の仕掛け〔右図〕

[所感]
先手がかなり早い段階で向飛車を明示しているので、後手の駒組みはちょっとぬるいように思う。

●三間飛車戦の定跡

・△三間飛車vs▲5七銀左戦法+3七桂〔右図〕
→▲5五歩△同歩▲4五歩の仕掛けまで

[所感]
非常にオーソドックスな対三間飛車の急戦定跡。玉の囲い方は「6二〜7二〜8二の方が振り穴の余地があって得」と解説があるが、この考え方は1980年代の本によく書かれていたような。

●四間飛車戦の定跡

・△四間飛車vs▲左美濃
→四枚美濃にガッチリ組み替える。

[所感]
四枚美濃への組み替えが成功しており〔右図〕、後手の対応が激甘い。羽生自身、『羽生の頭脳 4』(1992)で、この理想形を許してはならない旨の解説をしている(▲6六銀に△6五歩と突けるようにする)。1980年代の定跡のようだ。

●ごきげん中飛車の定跡

・△ゴキゲン中飛車vs▲4七銀型
→▲7七銀〜▲3六銀の急戦〔右図〕

[所感]
ゴキゲン中飛車は1990年代終盤に現れた戦法で、本章の急戦は2000年代初頭によく指されたもの。出版時(2014年)は超速全盛ですね…

●藤井システム戦の定跡

・▲四間飛車藤井システム
→美濃囲いの前に1筋を連続で突く〔右図〕

[所感]
藤井システムも1990年代後半に現れた戦法。本章の作戦も、2000年前後に指されたものだと思う。

●相振り飛車戦の定跡

・▲向飛車+金無双vs△三間飛車+美濃囲い〔右図〕
・3手目▲6六歩に△3五歩

[所感]
これも古い感じはあるものの、「相振飛車の基本形」といってもいいだろう。後手だけ美濃囲いで、先手は金無双で妥協、というのは多少違和感はある。

なお、「相振りでは向・三・四に振るのが有力」の旨があるが、出版時(2014年)には中飛車左穴熊も優秀性を認められている。

【総評】
全体的に定跡が相当古い感じがした。ただ、どちらかに悪手を指させて潰すような「やらせ定跡」ではない

ゴキゲン中飛車や藤井システムなど、2000年前後に現れた比較的新しい戦法も扱っているものの、どの戦法の定跡も「各戦法の比較的初期に指された形」を扱っているようで、歴史の長い戦法では50年近く前(1970年代)のものもある。

では、その定跡が「基本」かというと、それも微妙。よほどファン歴の長いベテランで、かつ最近の定跡に疎い人でないと、この形にならないように思う。「定跡」には固定されたものはほとんどないので、こういう本は作りが難しいのは仕方ないが…。

また、仕掛けの直後で解説が終わっているので、その後どう指すかはよく分からない。終局までの代表的な棋譜が添えてあれば良かったのかな、と思う。

解説自体は丁寧で、いろいろ使える手筋や考え方も散りばめられているので、読んで損はしない。ただ、「○○のような(新しい)考え方もあるが、まずは基本を覚えよう」というより、「古い(よくいえば“初期の”)考え方」そのものがベースとなっているので、これを定跡として覚えてしまうと、あとで知識を更新していくのが大変になりそうに思う。

(※私がそうでした。将棋をちゃんと始めた1999年ごろに、1980年代前半の本で定跡を覚えたのですが、新しい知識がなかなか取り込めず、ずっと古い定跡で指していて、それで「自分のほうが良い」と思って指しているので、毎回不利になっていたように思います。)

本の出来栄えとしてはBなんですが、使える度でいうとCに近いと思います。

※誤字・誤植等(2014年11月3刷で確認):
p3 「角換わり腰掛け銀」のルビが「かくがわりこしかけけぎん」になっている
p59 ×「先手が手損になるようでが、」 ○「先手が手損になるようですが、」



【関連書籍】

[ジャンル] 
総合定跡書
[シリーズ] 
[著者] 
羽生善治
[発行年] 
2014年

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