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マイナビ将棋BOOKS 黒田尭之の新研究 よみがえる右銀急戦 |
[総合評価] A 難易度:★★★★☆ 図面:見開き4枚 内容:(質)A(量)A レイアウト:A 解説:A 読みやすさ:B 有段者向き |
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【著 者】 黒田尭之 | ||||
【出版社】 マイナビ出版 | ||||
発行:2020年12月 | ISBN:978-4-8399-7528-9 | |||
定価:1,749円(10%税込) | 232ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||||||||||||||
・【コラム】(1)コラム論 (2)R.E.M. |
【レビュー】 |
△四間飛車vs▲右銀急戦の戦術書。 従来の右銀急戦は、シンプル舟囲いで、右銀を▲4六銀と上がってナナメ棒銀にする作戦だった。可能な限り早い仕掛けを目指すため、右桂は使わず、1筋の端歩も突かなかった。囲いは、左銀を▲6八銀としたり、天守閣美濃や居飛穴と組み合わせることはあったが、1手でも早く仕掛けようとシンプル舟囲いが一般的だった。 〔従来の右銀急戦の代表的な棋書〕 2001-12 四間飛車道場 第二巻 右4六銀,所司和晴,MYCOM 1992-03 急戦!振り飛車破り(3) 徹底右4六銀,所司和晴,週刊将棋編,MYCOM 1988-12 四間飛車破り 5七銀右戦法,塚田泰明,高橋書店 …など 本書の「右銀急戦」は、▲1六歩〜▲3七桂〜▲2六飛と右桂を先に活用しておくのが基本。右銀の動きは臨機応変に対応する。また、自陣に手を入れる場合は、▲6八金上と金無双の形で引き締め、左銀は△9九角成に▲8八銀と弾く手を用意しておく。最速の右4六銀の仕掛けよりも数手遅くなるが、むしろ後手側の手を進ませようとしている。よって、従来の右銀急戦とは全く違った指し方になってくる。 本書では、新型の右銀急戦を、△四間飛車の待ち方の違いで分類して解説した本となる。 各章の内容を、チャートを添えながら紹介していこう。 |
序章は、「右銀急戦の基本」。本書で扱う「右銀急戦」の全体での基本図と、各章の基本図までの手順を簡単に紹介する。 「右銀急戦」は、まずシンプル舟囲いに組み、右銀を▲5七銀と上がって、▲3六歩と突けば準備完了。従来の右銀急戦と違い、右桂の活用を重要視するので、▲1六歩〜▲3七桂とする。▲1六歩と突くのは、▲2六飛と桂頭を守ってから仕掛けるため。 |
第1章は、「△4三銀・△5二金左型」。△四間飛車としては、もっともオーソドックスな待ち方となる。 ・第1章基本図から、後手は対急戦の手待ちとして(1)△5四歩、(2)△6四歩、(3)△1四歩の3通りがある。 ・どの待ち方でも、▲4五桂!とポンポン桂の仕掛けが面白い。形によっては、正確に指されればやや無理筋だが、成功確率は結構ありそうだ。 −△5四歩型では、△6四角の反撃があって振り飛車良し。 −△6四歩型では、△6四角がないので居飛車良し。 −△1四歩型(△5四歩も△6四歩も突かない)では、△6四角には▲5五角がある(△5四歩が入っていないため)。代わりに、△1三角の筋があり、形勢判断は分かれそう。 ・△5四歩には、▲2六飛と角のラインを避け、桂頭を強化するのが本筋。 −△3二飛には、▲4六銀からの仕掛けもあるが、臨機応変に▲4六歩から▲4五歩の仕掛けを狙う。▲5五歩〜▲3五歩〜▲4五歩がこの場合の手順。 −▲4六銀〜▲3五歩の仕掛けでは、▲3四歩の取り込みの後に▲3六歩が好手になりやすい。 −チャンスがあれば、▲6八金上と金無双の形に締まっておきたい。 ・△6四歩は、角のラインを警戒している。 −△6四角の筋が消えており、互いに角のラインが利きにくくなる。 −▲2六飛がやはり本筋。 ・この変化に限ったことではないが、この戦型では△4四角〜△9九角成と香を取られる変化が頻出する。 −従来の舟囲い急戦では、ダイレクトに△9九角成はたいてい居飛車が悪かったが、本戦型では▲8八銀と弾ける。 −どちらが良くなるかはケースバイケース。 ・△1四歩は、△5四歩も△6四歩も一長一短あるということで、手待ちの意味が強い。ただし、端歩突きが生きる変化もある。 −▲2六飛に、後手が△5四歩型や△6四歩型に合流させないなら△1二香〜△3二飛だが、飛の居なくなった4筋を狙う▲4六歩が仕掛け筋。 |
第2章は、「△4三銀・△3二金型」。△3二金はバランス重視で、玉型は薄くなるが、居飛車の急戦をしっかりと受け止めようとしている。2筋を突破されにくく、△4五歩と反発しやすい。 ・第2章基本図から、後手は(1)△5四歩、(2)△6四歩、(3)△1四歩の待ち方がある。 −第1章と左金の位置が違うので、展開は大きく変わる。 −(3)△1四歩は、(1)(2)に合流することが多い。 ・△5四歩は、△3二金型と相性の良い中飛車への転回を目指すとともに、△6四角の余地を残す手。 −先手は▲6八金上と金無双にして、後手の手を見てから仕掛け筋を変えるのも有力。例えば3筋に備えてきたなら▲4六歩から仕掛けるなど。 ・△6四歩は、△5四銀の余地を残している。 −△3二金型ならではの指し手もある。△6三銀〜△7四歩から袖飛車を狙う指し方など。 |
第3章は、「△3二銀・△5二金左型」。△3二銀型で待機し、△4五歩▲3三角成に△同銀と取って2筋突破を防げる。△4三銀を保留したまま、どのように駒組みを進めるかが後手の課題となる。 ・第3章基本図から、△3二銀型のまま待つ手は(1)△5四歩、(2)△6四歩、(3)△1四歩の3つ。 ・△5四歩には、△5四歩+△3二銀型に特有の▲9七角という筋がある。▲5七銀左急戦での山田定跡▲9七角と同様の筋だ。 ・△6四歩には、角交換後の▲3一角が緩和されているものの、角交換をいったん拒否する▲5五歩の筋がある。 −後手は△5四歩型との違いを生かす順を模索するが、現時点では見つかっていないようだ。 ・△1四歩は、△5四歩と△6四歩を保留し、△3二銀型を生かした指し方がある。 −△4五歩〜△4四飛と浮くのが一法。飛先が通っているので飛を浮くことができ、△5四歩と△6四歩が保留してあるので飛の可動域が広い。ただし正確に対応すれば先手良し。 |
第4章は、「後手振り飛車穴熊」。後手は振り飛車穴熊に組んで、堅さと遠さを主張する。 ・第4章基本図から、後手の候補手は(1)△7一金、(2)△7四歩、(3)△4三銀の3つ。 ・△7一金は、穴熊囲いを完成させる自然な手。損になることはない。 −穴熊の駒組みを進めさせる前に最速で仕掛けたくなるが、これまで通り▲2六飛〜▲6八金上と整えてから仕掛ける。 ・△7四歩は、先手の玉頭を攻める思想。穴熊と袖飛車の組み合わせは相性が良い。 −玉頭の攻め方は、△7五歩▲同歩△7二飛と、単に△7二飛の2パターンある。先手はどうやって玉頭を受けるか、複数の考え方があるので、自分に合ったものを選びたい。 ・△4三銀は、玉頭銀での積極的な構成を目指している。 −△7一金と締まる手も省略している。主な狙いは、△6五銀と、▲4六銀に△4五歩と反発する手を見ている。 |
〔総評〕 わたしは将棋を本格的に始めたころ、右4六銀急戦のシンプルな形に魅かれてしばらく愛用していた。そのうち、玉の薄さが気になり、自分で囲いをアレンジしていたりしたが、金無双の形が当時の私と同じ考え方で使われていることは嬉しく思った。 一方、右側の桂をメインに使っていく仕掛けは当時考えたこともなく、また▲4六銀-3七桂型にもこだわらない仕掛けが新鮮だった。駒組みとしては非常に分かりやすく、仕掛けの段階では同一局面にかなりなりやすいというメリットがあって、△四間飛車のいろいろな形に対して似た仕掛けを使っていける。 ただし変化は膨大で、マスターするのは大変だし、なかなか一方的に居飛車良しになるわけではないようだ。簡単に得意戦法にできるようなものではないようだが、この戦型ならではの「部分的な定跡」が何回も出てくるので、実戦で試しながら本書で確認していけば、「△四間飛車にはこれ一冊で対応可能」というレベルまでは行けるかもしれない。 (2021Jan08) ※誤字・誤植等(初版第1刷・電子版Ver1.00で確認): p121上段 ×「第1図以下の指し手A」 ○「第1図以下の指し手B」 p126上段棋譜 ×「▲同 飛 △6六金 ▲8六馬」 ○「▲同 飛 △同 金 ▲8六馬」 p201上段 ×「第1図以下の指し手A」 ○「第1図以下の指し手B」 |