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早分かり 相矢倉定跡ガイド | [総合評価] B 難易度:★★★★☆ 図面:見開き4枚 内容:(質)A(量)A レイアウト:B 解説:B 読みやすさ:B 有段向き |
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【著 者】 所司和晴/著 渡辺明/推薦 | ||||
【出版社】 マイナビ | ||||
発行:2013年12月 | ISBN:978-4-8399-4931-0 | |||
定価:1,575円(5%税込) | 256ページ/19cm |
【本の内容】 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
◆内容紹介 |
【レビュー】 |
矢倉戦法の定跡書。 矢倉がプロの最前線で戦われるようになって50年以上が経過しているが、いまだに結論は出ていない。その途上において、飛先不突き矢倉の登場や、穴熊への組み替えといった大きな転換点があったり、さまざまな急戦矢倉が登場したり消えたりしてきた結果、有力な作戦は絞られてきた。 現在でも残っている戦法は、▲3七銀系統の▲4六銀-3七桂、、加藤流、脇システム。それと消えそうで消えない森下システムである。なお、5五で歩を交換する急戦矢倉も有力だが、互いに矢倉囲いに入城する戦いではない。 本書は、プロで戦われている矢倉戦の最新定跡を一望できる本である。 本書では、それぞれの戦型で最も本筋と考えられている手順に絞り込まれているため、各節の定跡手順は基本的に一本道となっていて、その道から変化する手順のみを変化手順として解説するスタイルを採っている。そのため、各節のチャートは他の定跡書のようなツリー形状にはならず、櫛歯状(またはオジギソウの葉が閉じたような形、─┬┬┬┐←こんな感じ)になっている。 各章の内容をチャートを添えて紹介していこう。なお、少しでも見やすくなるように、本筋とされる手順には薄水色の背景を付けてみた。 序章は、「基本図まで」。各章・各節の基本図に至るまでの手順を初手から解説している。また、矢倉24手組に至るまでに派生するさまざまな作戦についても簡単に述べてある。現代矢倉は24手組まではほぼノータイムの同一手順で進むことが多いが、その手順の意味を1手ずつ理解することができる。 本章に載っている派生作戦は以下の通り。 @ウソ矢倉、無理矢理矢倉、矢倉阻止 A5手目は▲7七銀か、▲6六歩か △早繰り銀、△原始棒銀 B△右四間、△三手角、△左美濃 C早囲い、藤井流早囲い D△5三銀右急戦 E△5三銀右急戦、米長流急戦矢倉 F米長流急戦矢倉、現代矢倉24手組 G森下システム(第7章)、▲3五歩 H脇システム(第6要) I後手が入城せずに△5三銀or△9四歩、▲3七銀戦法(加藤流)(第5章) J▲4六銀阻止 K▲4六銀-3七桂 ▲5八飛型(第4章) L△8五歩型(第3章) △7三角-△8五歩型(第2章) △9五歩型〜宮田新手▲6五歩(第1章) 第1章は、▲4六銀-3七桂vs△9五歩型。第1節ではいわゆる「91手組」、第2節では▲2五桂△4二銀に▲5五歩と仕掛けていく形を解説する。 91手組は、2013年ごろまでトッププロなどで盛んに指された将棋で、なんと91手目まで一直線に進んでそこから勝負、というもの。そこに至るまでには当然膨大な分岐があるが、現状では後手が途中で変化する術が見当たらない。また、91手組の結論も「どうやら先手勝ち」で確定しそうである。 第2章は、▲4六銀-3七桂vs△8五歩型(△7三角と引く形)。第1節は先手が穴熊に組み替えてから強攻する形で、第2節は先手が9筋を受けて待機する形。 △8五歩型は玉頭から反撃しやすく、△9四歩で止めておくと△8六歩▲同歩△8七歩〜△9五桂の筋がある。半面、△9三桂〜△8五桂がないので、先手は穴熊への組み替えが有力。特に△7三角と引いた形では穴熊に組みやすく、王手がかからない遠さを利用して、かなり無理気味の攻めも利くようになりやすい。 第3章は、▲4六銀-3七桂vs△8五歩型(△7三角と引かない形)。第2章のように△7三角と引くと、先手に穴熊に組み替えられて強攻されやすいため、角を引かずに指す方針が流行している。 この形で有名なのが、第1節の「銀損定跡」。第1章の「91手組」と双璧になっているが、銀損定跡の方が途中から茫洋とした戦いになる。 また、第2節は▲2五桂とぼんやり跳ねておく形で、銀損定跡以前はよく指されていた。 第4章は、▲4六銀-3七桂で▲5八飛と回る形。5筋で一歩交換してから3筋攻めができれば、攻め筋が広がって攻撃力が増す。 5筋の勢力は▲飛銀vs△角なので、後手は当たりを避けて△7三角と引く。そこで素直に5筋交換するのが従来の指し方で、第2節。▲2五歩△1三銀と後手の玉型を歪ませてから5筋交換するのが比較的新しい指し方で、第1節となる。スズメ刺しからの1筋歩交換を見せて▲1三銀の悪型を強要し、今度は中央で歩交換して先手のみ好形を得ようというのが趣旨だ。 第5章は、いわゆる加藤流。▲4六銀-3七桂が全盛の時代にも加藤一二三九段が信念を持って指し続け、現代でもある程度価値が認められている作戦である。玉を入城した後、▲1六歩と▲2六歩を突いて様子を見るのが特徴。 △7三銀を待って(一瞬△6四角が引けなくなる)▲4六銀と上がるパターンが第1節、△9四歩に▲1五歩と突き越す(▲4六銀-3七桂型の攻撃力が激増する)のが第2節。 第6章は、脇システム。▲3七銀戦法で▲4六角と出れば、ほぼ間違いなくこの形に誘導することができるので、「アマにオススメの作戦」とされることも多い。半面、先後ともに似たような攻め筋・反撃筋があり、わずかな違いで成否が変わってくることから、「研究している方が勝つ作戦」とも言われる。 プロでは「一部のマニア向けの作戦」というイメージがあったが、2013年1月の棋王戦挑決第2局(▲渡辺△羽生)で突如復活し、トッププロでも時折指されるようになった。 角が向かい合った同型から角交換して▲2六銀と棒銀に出るのが基本の攻め方。 第1節は1筋攻めに▲同銀と出る形で、脇システムの基本形。終盤がかなりきわどいが、最近は後手が避ける傾向にある。 第2節は1筋攻めに▲同香と取る形で、当初は「無筋である」と完全スルーされていたが、実は有力手であることが分かってきた。 第3節は、▲2六銀のタイミングで△5五歩と突き捨てる。この瞬間なら突き捨てを手抜きすることは難しい。5-7-9筋と突き捨てておいて紛れを多くし、△6九角と手筋の反撃に出る。半面、歩を多く渡している欠点が表面化することもありうる。 第7章は、森下システム。玉の入城を優先し、後手の動きを見てから対応する作戦だ。手広く構えられるためプロ的に好まれていたが、一時期は△5二金型のスズメ刺しに苦戦して絶滅しかかっていた。しかし、スズメ刺しの対策が見つかった(p217)ため、再復活している。後手の対策は、もともと指されていた△4三金右型に回帰している。 本シリーズは「東大将棋ブックス」シリーズの後継にあたるが、分岐が分かりにくい箇所が多く、チャートを作りづらかった。 「東大将棋ブックス」では、各見開きの分岐が@AB…で示され、さらに細かい分岐は(1)(2)(3)…で統一されているので、チャートがどこにつながるかが分かりやすかったが、本書では@A…があったりなかったりするので、どこから分岐しているのか分からなくなることがあった。特に、別の変化の中に同じ符号(「▲4六銀」など)が混在しているときは、変化手順の解説なのか、本筋の解説なのか混乱しやすい。 この辺りは、本筋を右ページにまとめたり、変化手順に網掛けやフォント変更などを加えたりすれば改善されるだろう。今後の編集者の腕に期待したい。(2014Jul04) ※誤字・誤植等(初版第1刷で確認): p164 ×「この順は将来▲4六銀。3七桂…」 ○「この順は将来▲4六銀・3七桂…」 p175棋譜 ×「▲4六角△9四歩」 ○「▲4六角△4三金右▲2六歩△7三銀▲2五歩△8五歩▲7九玉△3一玉▲8八玉△2二玉▲1六歩△9四歩」 ゴッソリ抜けている… p251上段 ×「B図で▲6四角は△同銀…」 ○「B図で▲6四角は△同角…」 |