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マイナビ将棋BOOKS すぐ勝てる!急戦矢倉 |
[総合評価] A 難易度:★★★☆ 〜★★★★ 図面:見開き4枚 内容:(質)A(量)A レイアウト:A 解説:A 読みやすさ:A 中級〜有段向き |
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【著 者】 及川拓馬 | ||||
【出版社】 マイナビ | ||||
発行:2013年2月 | ISBN:978-4-8399-4607-4 | |||
定価:1,575円(5%税込) | 224ページ/19cm |
【本の内容】 | |||||||||||||||
【構成】 大川慎太郎
◆内容紹介 |
【レビュー】 |
急戦矢倉の定跡書。 矢倉(特に後手番)で相手に追随していくと、▲4六銀-3七桂型や▲脇システムなどに収まることが多い。これらの戦型は、先手の研究が生きやすい形だ。後手としてはどこかで変化したいが、すでに数多くの類型で研究し尽くされ、自分の力を出すチャンスがない場面も多い。 それならばと、急戦に打って出るのも一つの選択だ。普通は後手からの仕掛けは無理になりやすいが、矢倉の場合は先手が角道を止めて穏便に指そうとしているので、後手からの急戦が通ることも多い。 本書は、矢倉での後手急戦(+▲米長流)を詳しく解説した本である。 載っている戦法は、(先後の米長流は一つとして)全部で4つ。後手の急戦は他にもあるが、一本調子の原始棒銀や右四間飛車はあえて外している。 各章の内容を、チャートを添えながら紹介していこう。 第1章は、先手番の米長流急戦矢倉。通常は後手番で使用される米長流を、先手番で使おうというもの。ただし、ノーマル矢倉戦では以下の条件が必要となる。 (1) 先手は5手目▲7七銀とする。(▲6六歩と止めない) (2) 後手が早めに△4四歩と角道を止める。 普通の矢倉戦ではこれらの条件はなかなか実現しにくいため、どちらかといえば、出だしが▲7六歩△3四歩▲2六歩△4四歩からウソ矢倉模様になったときに使えることが多いようだ。 米長流の攻撃法は、攻め方として非常に参考になる筋が多いので、指さない人もぜひ一読されたい。右四間飛車と違って、いろいろな筋で歩が使われるのが面白い。 ポイントとしては、後手の「飛先交換〜△9五角」(p26)の態勢が強力なので、先手は攻める前に▲9六歩(p31)が必要になる。対して後手は「7筋歩交換〜△8四角」(p39)で牽制してくるが、従来の本にはあまり載っていない攻め方(p39〜42)で先手良しとなる。 第2章は、後手番の米長流急戦矢倉。元々はこちらがオリジナルだ。先手が5手目▲7七銀でも▲6六歩でも使えるのは大きな長所。1手の差がある分、先手番のときよりも攻め方が限定される部分があるが、後手番でも攻め方は第1章とあまり変わらない。 米長流は玉が薄いので、慣れないうちは反撃を食らって負けることが多く、即戦力にはなりにくい戦法だと思う。特に、流れるように手をつないでいくので、その場で考えていくのは短時間では難しい。ただし、経験値が貯まってくれば、常に自分だけ経験豊富な形に持ち込めるし、いろいろな手筋や押し引きを覚えられるので、マスターしたときにはかなり強力な武器になるだろう。 第3章は、△5三銀右急戦。郷田流、阿久津流などとも呼ばれた形で、△5三銀右型から5筋の歩を角で交換する。早めに動くので急戦と呼ばれているが、攻め潰そうというわけではなく、小競り合いから作戦勝ちを狙うことが多い。2008年の竜王戦で渡辺明が2つの新手を出して以来、この5年でちょこちょこ指され、進化し続けている。 本章前半(p69〜)の、先手が総矢倉で受ける形は、アマなら結構ありそうだ。この場合は5筋交換にこだわると良くならない。雁木で作戦勝ちを狙う指し方は、ぜひマスターしておきたいところ。 後半(p89〜)は、プロでも実戦例の多い形。こちらはプロ観戦ガイドとしても使える。 個人的には非常に好きな作戦だ。先手が志向する▲4六銀-3七桂や脇システムなどを外すことができるし、5筋を交換しておけば何かと手は作れる。そして何よりも、毎回違う形になるので、経験を生かしつつも、その場でいろいろと考える楽しみがある。即戦力にはならないが、末永くお付き合いできる戦法といえるだろう。 第4章は、田丸流△5三銀左戦法。単行本ではおそらく初登場だ。矢倉なのに(?)左銀が5三に来る。攻め方で米長流と似た部分があるが、2筋を受けず、角道がずっと通ったままなのが大きな違いだ。 攻めは、「△6五歩▲同歩△8六歩▲同歩△6五桂」の一種類と、とても覚えやすい。半面、2筋が薄くて必ず反撃が来るので、いなし方をマスターする必要がある。また、猛烈な攻め合いになることがあるので、強気な方にオススメだ。 本戦法は、仕掛けが早く、間口も比較的狭いので、即戦力としては効果大。また、米長流と違ってまだあまり知られておらず、ベテラン棋客にも大いに通用するポテンシャルがある。新しい戦法なので検討の余地もあり、右○間○車のように、相手にイヤな顔をされることも少なそうだ。 第5章は、△矢倉中飛車。古くからある戦法だが、先手が矢倉中飛車を嫌って、5手目▲6六歩が主流になったので、指される機会が少なくなっている。裏を返せば、5手目▲7七銀には現在も有力な戦法である。 多くの変化で後手が勝ちやすいのだが、先手の正しい受け方も開発されており(p210〜)、なかなか一筋縄ではいかない。そこで本書では、先手が正しく受けてきても十分に戦える(であろう)指し方として、[及川の新研究]がp217から披露されている。まだ実戦例もほとんどなく、未開の地だが、いち早く取り入れて試してみるのも面白いだろう。 といっても、使えるチャンスはあまりないかもしれないが…。(そもそも、アマで5手目▲7七銀とする人は、加藤一二三九段の真似をしているわけではなく、▲米長流や▲カニカニ銀など急戦の含みを残しておきたい人が多いと思われ、先に仕掛けられてしまうかもしれない) 本書と同様に急戦矢倉を解説した本としては、近年では『対急戦矢倉必勝ガイド』(金井恒太,マイナビ,2010)などがある。本書と重なっているテーマが多いので、比較してみるといいだろう。書名からは相反する本のように思えるが、どちらも意外と公平なスタンスを保っている。あえて言えば、本書はやや急戦側を、金井本はわずかに対急戦側に味方した立ち位置である。どちらも良書なので、併せて読んでおきたい一冊だ。(2013May10) ※誤字・誤植等(初版第1刷で確認): p145 棋譜部 ×「途中2図以下の指し手 ▲7七銀 △8五歩…」 ○「途中2図以下の指し手 △8五歩」 途中2図の時点ですでに▲7七銀と上がっている。 |