第1章 |
遺志を継いだ将棋 |
私が喋るうちに、大内の眼は大きく見開かれ、何度も何度も頷き、驚きのことばを弾き返した。
「驚いたね。真部君の後を指し継いだ形になったんだ」
「真部さんは、もう一手指したかった、といっていたそうですよ」
不意に、大内がくしゃくしゃの笑顔になった。
「残念だな。勝ってやらなきゃいけなかったな」 |
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第2章 |
敗者の笑顔 |
自力、他力が錯綜する順位戦最終局というのは、ファンの心をつかみやすいのである。日本人の――といいかえてもいい。長丁場を闘った後の結果というものには、はかなく、もののあわれみたいな匂いがする。 |
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第3章 |
悲しい眼 |
負けたと本能で分かったろう。悲しい眼になった。そこに秒読みがかぶさり、手が泳いだ。私はそっと部屋を出た。こうした勝負は手が泳いだら負けである。 |
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第4章 |
詰みを逃す悲劇 |
私は声を発した。
「詰んでただろ」
木村がきっと私を睨んだ。
「どこでですか」
「香を取るところ」
しばし木村の目が泳いだ。 |
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第5章 |
類型的な悪手 |
勝負所で短気になる。多くの棋士が、棋士としての継続年齢とともに多くなる事象が、彼にも起きたのだ。 |
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第6章 |
最後に間違えたほうが負ける |
よくも悪くもさわやかな棋風なのである。そしてこの、さわやかという形容詞が決して褒めことばにならないのがプロの棋界であるというところが彼の不幸なのだ。 |
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第7章 |
穴熊感覚の毒 |
「いやあ、若い人相手に、ひょっとしたら勝てるんじゃないかと思ったら、ひどいことやってしまいましたわ」は正直者の伊藤らしい率直なひと言だった。 |
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終章 |
将棋界を変えた羽生と森内 |
羽生は常に一番だった。いじめっ子が幅をきかす将棋界で、彼はずっとガキ大将のままである。 |
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