zoom |
第62期将棋名人戦 | [総合評価] C 難易度:★★★☆ 図面:見開き2〜3枚 内容:(質)B(量)C レイアウト:A 解説:A 読みやすさ:A 中級以上向き |
||
【編】 毎日新聞社 | ||||
【出版社】 毎日新聞社 | ||||
発行:2004年7月 | ISBN:4-620-50482-3 | |||
定価:1,890円(5%税込) | 192ページ/19cm |
【本の内容】 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||
【名人】羽生善治 【挑戦者】森内俊之 (奪取)
・森内3冠誕生(中砂公治)=5p |
【レビュー】 |
名人戦の観戦記。 前期七番勝負で羽生に4タテを喰らった森内だったが、その後覚醒。竜王戦で羽生を逆に4タテ、王将も羽生から奪取、そして史上初のA級順位戦9連勝でリベンジの舞台に立った。 第1局は、後手の森内が△ゴキゲン中飛車模様から、意表の角道を止めない向飛車。その後中飛車に振り直し、中央で千日手模様とも思える金銀の打ち換えが行われたあと、森内自認の「無理を承知で打開」(p193)が奏功し、終盤戦に入ることなく羽生が投了した。なお、森内が打開に踏み切った理由は「千日手局を含めて先後を入れ替える現行のルールでは、後手番で千日手にするわけにはいきません」(p193)。 第2局は、当時かなり研究されていた横歩取り△8五飛。同年3月の阿部-高橋(B1)などと同様の進行をたどり、61手目▲7四歩で羽生はなんと3時間46分の大長考に沈んだが、すでに後手に勝ちはなかった。“研究一発”で決まった(と言われた)将棋で、ずいぶん盛り下がった(笑)のを覚えている。なお、この▲7四歩は若手棋士の研究会ではすでに結論が出ていたとされ、森内は知っていた、羽生は知らなかったという意味でも一部でやたら話題になっていた。 しかし森内自身の記述によれば「事前の認識は『こんな手もあるかな』という程度。対局中に考え直し、読み切れたわけではありませんが、結果的にはうまくいきました。」(p194)とのこと。真偽はともかく、このように対局者が心情を吐露してくれるのはとてもよい。前期から始まった「名人が振り返る全局」は価値ある企画だと思う。 第3局は名人戦初登場の一手損角換わり。序盤で千日手模様にも見える箇所があったが、先手の羽生が上手いタイミングで仕掛けて完勝。 第4局は再び横歩取り△8五飛で、途中まで第2局と同じ進行。後手の羽生が手を変え、いきなり激しい終盤戦に突入。森内の見切りも見事だったし、羽生の粘りも見ごたえのある将棋だった。 第5局は一手損ではない、通常の角換わり。封じ手あたりまで王将戦第6局(森内が羽生から王将位を奪取した)と同じ進行。終盤は熱戦だったが、両者とも早い段階で秒読みに入ってしまい、互いに疑問手を出した結果、羽生が制勝。 第6局は名人戦ではかなり久しぶりの相矢倉。中盤で森内が出した受けの▲5七角が光った。指されてしばらくは控え室の検討陣も「なんじゃこりゃ」という雰囲気だったが、検討を進めるうちに絶妙手であることが判明。たとえて言えば、「51:49のリードを53:47にする手」という感じか?素人受けしないどころか、プロにもすぐに意味が分からない手だったが、こういう手が出るところに森内の強さ・凄さがあるし、こういう手をちゃんと解説し、歴史に残せるところに名人戦観戦記の価値があると思う。最後は羽生が素人目には分からない形作りで突然投了したため、森内の名人第一声が「えっ?あっ」(p182)になってしまったのはご愛嬌(笑) この名人奪取で森内は三冠となり、一時的ながら羽生を抑えて棋界の第一人者となった。 今期は第6局まであったためか、レイアウトが元通りの1譜2ページ(見開き)に戻り、読みやすくなった。ってことは、やっぱり過去2回の1譜3ページはページ稼ぎだったんじゃん…(-_-;) なお、加古氏の観戦記が今期から載っていないのは、2004年2月に死去したため。故人に鞭打つようではあるが、今期の観戦記集は余計なことがあまり書かれず、ちゃんとした「名人戦の記録」になっていた。どの観戦記も解説は詳細だったし、会場や背景の描写、対局者の表情などもしっかり書かれていたし、鬱陶しい私事は書かれなくても観戦記者の個性は出ていた。正直に言って、「ずいぶん良くなったなぁ」と思う。個人的にはまだ定価に見合う内容だとは思わないが…。(2008Aug29) ※第1局の森内の「後手番で千日手にしたくない」という理由を補足しておく。トップ棋士同士で持時間が長い場合、近年ではかなり先手有利の実績がある。千日手にすると先後入れ替えで即日指し直しなので、基本的には後手は千日手歓迎。ただし持時間が短くなるので、指し直し局は先手番の優位はあまりなくなる。一番勝負ならそれでもよいが、番勝負の現行規定では千日手指し直し局も含めて一局ごとに先後入れ替えなので、次はまた長時間では不利な後手番が回ってきてしまうことになる。森内の主張は後日認められ、現在では「一局完結方式」が導入された。これは、第N局が▲A△Bで千日手になった場合、指し直し局は▲B△Aとなるが、第(N+1)局は当初の予定通り▲B△Aになる、というものである。 |