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■これが決定版!相中飛車徹底ガイド

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これが決定版!相中飛車徹底ガイド
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マイナビ将棋BOOKS
これが決定版!相中飛車徹底ガイド
[総合評価] A

難易度:★★★★

図面:見開き4枚
内容:(質)A(量)A
レイアウト:A
解説:A
読みやすさ:A
上級〜有段向き

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【著 者】 杉本昌隆
【出版社】 マイナビ出版
発行:2017年10月 ISBN:978-4-8399-6309-5
定価:1,663円(8%税込) 224ページ/19cm


【本の内容】
序章 基本の考え方   10p
第1章 相美濃▲7七角 第1節 ▲7七角同形
第2節 角交換後△4二銀
第3節 角交換型同形
第4節 後手最強の対策
46p
第2章 角交換先手6八銀型 第1節 ▲6六角作戦
第2節 後手・▲4六銀阻止作戦
第3節 後手△2二同飛型
34p
第3章 中飛車→相三間 第1節 中飛車→相三間
第2節 ▲5八金左型
第3節 ▲8五歩・△2五歩型三間
第4節 後手中飛車不動型
第5節 後手△1四歩不突き三間
34p
第4章 金無双
(※
「金無双・対穴熊など」が正しい)
第1節 金無双・対穴熊など
(※
「第1節 金無双」が正しい)
第2節 ▲5六飛型
第3節 金無双VS美濃
第4節 美濃VS穴熊
第5節 金無双VS穴熊
48p
第5章 相中飛車の感覚 第1節 その他の序盤(後手の視点)
第2節 後手・囲い後回しの場合
第3節 ▲9六歩△9四歩のとがめ方
30p
第6章 相中飛車左玉対策 相中飛車左玉対策 12p

・【コラム】(1)▲7七角か他の手か (2)電王手一二さん (3)勝ってはいけない勝負 (4)見られる勝負 (5)一大イベント

◆内容紹介
相中飛車戦術書の決定版!

本書は先手中飛車に対して後手番も中飛車に構える、相中飛車の戦型についての戦術書です。中飛車党はもちろん、中飛車に対して何か武器を手に入れたい方にとっても即戦力となる一冊です。


【レビュー】
相中飛車を解説した本。

アマで中飛車党同士なら、戦型は必然的に相中飛車になる。また、一方が対中飛車に自信がない場合、その場しのぎで相中飛車になる場合も多い。ただし、千日手になりやすいためか、プロではどちらかが譲るケースが多く、相中飛車の実戦例は非常に少ない。

よって、相中飛車を扱った本も少なく、わたしの知る限りでは、『5五の龍』(マンガ)と『相振り中飛車で攻めつぶす本』(鈴木大介,浅川書房,2010)くらいだった。

本書は、相中飛車をプロの視点で解説した、おそらく史上初めての相中飛車の専門書である。


前述のとおり、プロの実戦例は非常に少ないため、本書は杉本とその生徒たちによる共同研究であり、定跡までは昇華していない。ただし、傾向や流行形についてはインターネット対局などでかなりのリサーチをしているそうで、頻出形はきっちり押さえられている。

また、相中飛車は中央での勢力が拮抗するため、中央ではほとんど仕掛けが成立することがない。意外と地味な展開になり、他の箇所(端や玉頭攻めなど)を視野に入れておくことが必要で、さまざまな手筋や、作戦勝ち/作戦負けのパターンを知っている側が有利になりやすい。

よって、本書では「相中飛車の定跡を覚える」というよりは、相中飛車での「考え方」や「手筋」、また「特有の形勢判断」に敏感になることに重点を置くのが良いだろう。


各章の内容を、図面を交えながら紹介していこう。

各章は囲い方によって分類されている。第1章〜第3章は、相美濃の戦い、第4章では他の囲い方を扱う。コラム(1)によれば、「相中飛車戦は相美濃が圧倒的に多い」とのことだ。なお、本書では、前述2冊で扱っていた「見せ槍銀」は登場しない。

序章は、「基本の考え方」。

本書全体の基本図が〔右図〕[相中飛車基本図]。見ての通り、中央の勢力がイーブンになる。

中央の戦いは少ないため、飛は機を見て振り直すのを前提としておく。また、端攻めには特に注意を配ろう。この辺りは、他の相振飛車戦と似たところがある。


第1章は、「相美濃▲7七角」。[相中飛車基本図]から、互いに美濃に囲い合い、端歩を詰め合って、▲7七角とした〔右図〕が本章の基本図。

第1章・第1節は、〔図〕から△3三角で、後手がマネ将棋を続けた場合。途中で真似が続かなくなり(▲4六銀に△6四銀としづらい)、先手が▲6六角-▲7七桂の好形を得ることができる。先手良し。

第1章・第2節は、〔図〕から△7七角成〜△4二銀の場合。いきなり▲8八飛!が好手で先手ペース。知らないと指せない一手だ。8筋の歩を切ることで、端攻めがより効果的になる。

第1章・第3節は、〔図〕から△7七角成〜△3三桂の場合。▲6六角の先着で先手ペース。

第1章・第4節は、〔図〕から△7七角成〜△4四角と、後手が好所の角を先着した場合。先手にとって強敵だが、▲4六歩〜▲4五歩から角を追って▲4六角でいい勝負。

逆に言えば、相美濃▲7七角で後手が勝負するならこの変化しかなさそうだ。後手で相中飛車を挑む人は、ここを集中的に検討するのが良いだろう。

・〔手筋〕△6五角の手筋に注意。p52、p53、p73を補足で読んでおこう。

第2章は、「角交換▲6八銀型」。[相中飛車基本図]から、互いに美濃に囲い合い、端歩を詰め合って、▲2二角成〜▲6八銀とした〔右図〕が本章の基本図。

自ら角交換するのは手損だが、銀のルートの差で先手は作戦勝ちを目指している。先手は▲4六銀と活用できるが、後手は△6四銀とはできず、△4四銀になってしまう(≒好所の△4四角が打てない)というわけだ。

第2章・第1節は、▲6六角作戦。互いに左の銀桂を活用し、▲6六角の好位置に先着する。後手から先攻があるが、カウンターで先手勝てる。

ただし、受けの力は必要なので、p72の「△1七角▲2九玉が意外に寄らない」をしっかりマスターしよう。端攻めでは金銀の入手がないことによる、相中飛車特有の現象だ。

第2章・第2節は、後手の▲4六銀阻止作戦。〔図〕から△4四角と先着して、▲7七銀と上がらせようとしてくる。▲7七銀だと先手作戦負けになるので、▲7七角と合わせて先手指せる。

第2章・第3節は、△2二同飛型。〔図〕の前で角交換されたときに、△2二同銀ではなく△同飛と取る。▲5三角から馬が作れるが、後手は手順に向飛車にできたことが大きいとみており、杉本が警戒する順。互角なので、後手もやりがいがありそうだ。

・〔手筋〕▲6五角(or△4五角)は相中飛車・相美濃特有の手筋。美濃の玉頭を棒銀風に攻める時に決め手になりやすい。p81〜を参照。
・〔手筋〕△5七桂(金の両取り)を甘受するのは、相中飛車・相美濃特有の手筋。受ける場合と手抜きを使い分けることを意識しよう。p85参照。


第3章は、「相中飛車→相三間」。互いに三間に振り直す。通常の相三間と違い、互いに5筋の歩を突いているので、歩交換から横歩を取る筋が決め手になったり、カウンターを喰らったりすることがある。

[相中飛車基本図]から、互いに美濃に囲い合い、端歩を詰め合って、▲7五歩△3五歩▲7八飛とした〔右図〕が本章の基本図。

第3章・第1節は、中飛車→相三間。〔図〕から△3二飛▲7四歩△同歩となる。互いに5筋を突いている、互いに美濃囲いを決めているのが通常の相三間と違うところ。激しい展開になりやすい。

・〔手筋〕▲5四歩と横歩を取ると△7六角がある。成立/不成立を見切ること。うまく△5四歩を取れると、▲5五角の筋ができてくる。

第3章・第2節は、▲5八金型。〔図〕から△3二飛▲5八金左△5二金左としてから▲7四歩。今後は△7六角の筋がない。

第3章・第3節は、▲8五歩・△2五歩型三間。〔図〕に至る前に、互いに8筋・2筋の歩を伸ばし、7筋・3筋の歩も伸ばしてから相三間にした場合。広い空間がキズになりやすい。

第1節〜第3節の中飛車→相三間は、先手ペースになりやすい。

第3章・第4節は、後手中飛車不動型。「相三間」ではなく、「先手のみ三間」。〔図〕から、後手が相三間に追随せず、△5五歩と仕掛ける。後手の最有力手段。8筋・2筋の伸ばし合いがあれば先手に有利に働くので、序盤の駈け引きも必要になる。

第3章・第5節は、後手△1四歩不突き三間。これまでは互いに端の突き越しがあったが、本節では先手が9筋を突き越したのに対して、後手が1筋を突かずに先に三間に振り直す。「相三間」ではなく、「後手のみ三間」。これに対しては、先手から角交換して、銀の働きの差を主張するのが良い。

第4章は、「金無双・対穴熊など」。相美濃以外の囲いの対抗全般を扱う。

(※初版第1刷では「第4章 金無双」「第1節 金無双・対穴熊など」となっているが、入れ替わってしまっている。)

プロは、仮に相中飛車を指すなら金無双を選択するそうだ。理由はp143にあり。5筋が守られているので、飛を転回しやすいのが大きいとのこと。

第4章・第1節は、相金無双。相向飛車に振り直した後、金無双の玉頭を突く▲3六歩!〔右図〕が知らないと指せない一手。相中飛車で金無双を指すなら意識しておきたい。

第4章・第2節は、▲5六飛型。△3三角〜△2二飛の作戦に対し、▲4六銀から▲5五歩△同歩▲同銀〜▲5六飛で作戦勝ちを狙う。第1章p28でも出てきた形。この形にできたら、ゆっくり指そう。

第4章・第3節は、▲金無双vs△美濃。美濃側から先攻で切れば後手ペース、仕掛けを抑えて端攻めを間に合わせれば先手ペース。変化は多く、本書の中では結論は出ていない。

杉本は、相中飛車では金無双を推奨しているが、アマの短時間将棋では、無理気味でも先攻できる美濃の方が指せるかもしれない。ご自身で判断されたい。

第4章・第4節は、▲美濃vs△穴熊。第2章の相美濃で出てきた「角交換〜▲6八銀」がオススメの作戦。▲4六銀〜▲6六角を設置してスズメ刺しが実現できる。

第4章・第5節は、▲金無双vs△穴熊。金無双は5七に金の利きがあるので、第4節のような▲4六銀型にせず、低い陣形からのスズメ刺し(〔右図〕)が杉本のオススメ。

第5章は、「相中飛車の感覚」。主に、変則的な序盤の相中飛車について、を扱う。

第5章・第1節は、「その他の序盤(後手の視点)」。

・7手目角交換〜▲5五歩〜▲6五角 〔左下図〕
・7手目角交換〜▲6五角 〔右下図〕(以下△7二銀に▲5五歩)



どちらも正確に指せば先手無理筋だが、知識として知っておく必要がある。

第5章・第2節は、後手が囲いを後回しにする場合。相手の囲いが分からない場合は、端歩よりも玉頭の歩突きを優先するのが良い。形勢は互角。

本書では、第4章までの戦いはほとんど先手良しの結論になるので、相中飛車で後手を持つのならこの作戦を選ぶべきなのかもしれない。

第5章・第3節は、▲9六歩△9四歩の咎め方。美濃囲いで端を受けるのは、相振飛車ではほとんど得がないので、まずやってこないと思うが、やられた場合に咎め方を知らないと相手の主張を通してしまう。本節では▲6六歩と角道を止めて咎める方法を解説。


第6章は、「相中飛車左玉対策」。

中飛車での相振飛車(たとえば中飛車vs三間)での左穴熊はすでに市民権を得た作戦だが、本章では後手が居飛車のように玉を囲う。

杉本のオススメは、△4二玉を見たらすぐに角交換。後手の居飛穴や左美濃を警戒し、左銀の進出を素早く行う。

・〔手筋〕後手は右銀を上がるため、△7四歩!〜△6二銀とするのが特有の手筋。単に△6二銀は▲8二角を喰らう。△7四歩〜△6二銀ならば、▲8二角には△7三角で大丈夫。

自分だけ穴熊に囲えたら指しやすいが、打開は難しい。駒の偏りを衝いて、▲9六角(△9四角)が狙えるかを常に意識しておこう。



本書は、どうしても中飛車に振りたい(譲りたくない)という中飛車党にとってはバイブルとなる一冊だろう。特に、互いに中飛車党なら、「本書では結論の出ていない戦型」を中心に戦うことになるだろうから、知識負けだけを絶対に避けたいので、マストの一冊だ。

「相中飛車は指しません」という人にとっては、実戦勝率upには結びつかない本ではあるが、特有の手筋や形勢判断がたくさん出てくるので、将棋の幅を広げるために読んでおくのも面白い。

タイトルに「これが決定版!」とあるが、その名にふさわしい一冊だ。ただし、さらに研究を重ねれば「最新版」「改訂版」はありそうな気がする。そういう意味でAにしているが、Sでもいいような気もする。A+が本音ですかね。(2017Dec07)


※どうでもいいことだが、表紙カバーのオビのように見える部分は、カバーのデザインの一部。



【関連書籍】

[ジャンル] 
中飛車
[シリーズ] マイナビ将棋BOOKS
[著者] 
杉本昌隆
[発行年] 
2017年

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