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■永瀬流 負けない将棋

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永瀬流 負けない将棋
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マイナビ将棋BOOKS
永瀬流 負けない将棋
[総合評価] A

難易度:★★★★

図面:見開き3枚
内容:(質)A(量)A
レイアウト:A
解説:A
読みやすさ:A
上級〜有段向き

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【著 者】 永瀬拓矢
【出版社】 マイナビ
発行:2012年11月 ISBN:978-4-8399-4489-6
定価:1,575円(5%税込) 224ページ/19cm


【本の内容】
第1章 三間飛車 安西勝一六段戦/北浜健介七段戦(1)/大石直嗣四段戦/
小山怜央アマ戦/北浜健介七段戦(2)/村山慈明五段戦/
加藤一二三九段戦/佐藤義則八段戦/佐々木勇気四段戦
80p
第2章 中飛車 遠山雄亮五段戦/村中秀史六段戦(1)/稲葉陽五段戦/
村中秀史六段戦(2)/村田智弘六段戦/伊奈祐介六段戦/
北浜健介七段戦(3)
60p
第3章 相振り 高崎一生五段戦/矢倉規広六段戦/西川和宏四段戦/
佐藤康光九段戦/石川陽生七段戦/小倉久史七段戦
52p
第4章 その他
(総譜なし)
神谷広志七段戦/甲斐智美女流二冠戦/滝誠一郎七段戦/
佐藤秀司七段戦/広瀬章人七段戦/島朗九段戦/
阿久津主税七段戦/川上猛六段戦
・【コラム】永瀬流負けない秘訣
(1)トレーニング (2)研究会・VS (3)アマに贈る勉強法
(4)千日手の秘密 (5)千日手本当の秘密
/佐藤康光九段戦
・永瀬流 負けない将棋 総まとめ
26p

◆内容紹介
大山の再来、最強の受け将棋−。異才永瀬拓矢が放つ待望の処女作ついに完成!!

旬の棋士が贈る若手精鋭シリーズ第3弾は、今年度の加古川青流戦、新人王戦で連続優勝し、今最も注目されている若手棋士永瀬拓矢五段による将棋講座です。

永瀬五段は言います。将棋に勝つコツ、それは「盤上を占有し、自分の陣地を広げること」であると。本書は従来の将棋観を根底からくつがえさんとする永瀬五段渾身の野心作です。
永瀬五段が何を、どう考えながら将棋を指しているかを
自戦解説をしながら明らかにしていきます。彼の発する一言一言が、あなたの考える将棋観に大きなダメージを与えることは間違いありません。
仮想されたアマ強豪との掛け合いの体裁となっているため、非常に読みやすく、それでいて将棋の本質を鋭くえぐる斬新な内容となっています。

本書で永瀬五段の思考過程を追体験し、永瀬流の「負けない将棋」を体得してください。


【レビュー】
永瀬拓矢五段の自戦解説本。

永瀬は2012年の新人王戦、加古川青流戦で連続優勝。才能を開花させつつある若手棋士の一人である。

奨励会時代からプロになってしばらくの間は、角道を止めるノーマル三間飛車を指していたが、2011年の初めごろから▲石田流と△ゴキゲン中飛車を積極的に指すようになり、勝率が急上昇。2棋戦優勝の実績につながった。

本書は、永瀬の実戦をベースに、「永瀬流」の読みと考え方を解説していく本である。


【構成】
一局のうち、中盤の急所となるテーマ図を3〜5箇所挙げ、見開き完結の対話形式で解説していく。構成担当の美馬和夫が「仮想・アマ強豪」として質問し、永瀬がそれに答えていく。

永瀬の回答は上部に顔アイコンが付いており、感情や気持ちを補完している。これらの工夫によって、一見難しい内容でも堅苦しくなく、アマ初段くらいから高段者までしっかり楽しめるようになっている。

解説部のあとには、見開き2pで棋譜を掲載。ここの解説も結構充実している。棋譜部のレイアウトがちょっと詰まっているのと、装丁が若干固い(本を開きにくい)ので、慣れるまで少し棋譜並べがやりにくかったが、あまり気にならないレベル。

なお、総譜が掲載されているのは第3章までで計22局。第4部は解説部のみで、総譜はない。


【永瀬流について】
永瀬の棋風は、基本的に「受け」。また、棋界一「千日手を厭わない棋士」としても知られる。受けの得意な棋士といえば何人か思い浮かぶが、彼らとはイメージが異なる。各棋士のイメージを一覧にしてみた。(わたし個人の見解です)
棋士名 異名 イメージ
丸山忠久 激辛流 ・優勢から勝勢の段階で、勝ちを急がずに相手の勝負手を消し、万が一にも負けない指し方を選ぶ。
・序盤の千日手でも、打開できなければ受け入れる。
(ただし、近年の丸山は激辛や千日手のイメージがあまりない)
木村一基 千駄ヶ谷の受け師 ・相手の攻めを受けつぶす。
・自陣馬。
・不利な局面で粘り倒す。
中村修 不思議流
受ける青春
・常人には理解しがたい受けの手が出る。
永瀬拓矢 永瀬流
千日手○○
(名人、王子、観音ほか)
・やや有利な中盤で、龍を自陣に引いて受け、相手の無理攻めを丁寧に面倒を見る。
盤面の勢力、占有率を重視する。
・「斬り合い勝ちが望めそう」or「確実に千日手」の二択なら、躊躇なく千日手。
・序盤の千日手はあまり良しとしない。

このように、ただでさえ少ない「受け重視」の棋士の中でも、異彩を放つ存在である。


本書で学べる「永瀬流」の考え方のいくつかを表にしてみた。

テーマ 一般的な考え方 永瀬流の考え方 参照p
成った大駒の使い方 「龍は敵陣に、馬は自陣に」 龍はすぐに敵陣へ潜れるので、自陣に引いて使う。
馬はすぐに自陣へ引けるので、敵陣で攻めに使う。
p11
p27
p131
p141など
美濃囲い 美濃は王手をかけられたらもたない。
王手をかけられないように外壁で止める
(場合によっては)端を攻めさせて、手に乗って中央の厚みへ逃げ込む(のを最初から考慮に入れている)。 p80など
美濃への端攻め ほとんどの場合、歩を取る。
端を詰められて謝るのは大損。
相手の持ち歩が少なければ取る。
相手の持ち歩が多ければ詰めさせる。
p80
p125など
千日手 先手なら打開する。
後手なら千日手を目指すのもアリ。
無理に打開せずにもう一局指した方が勉強になる。 p143
p217〜
など
攻め・仕掛け 先に仕掛けの権利を得られるように駒組みする。 無理攻めさせて受けつぶすことも考える。 p87など
入玉 入玉すると決めたら一目散に。 入玉狙いだけでなく、攻めも見せる。 p175、
p195など

〔その他の「永瀬流」の教え〕(抜粋)
・ノーマル三間飛車では、▲7五歩(△3五歩)と位を取る。(石田流にするとは限らない)
・「受けの理想形」を描く。(p45など)
・苦しいときは、長い展開にする。(p77など)
・キーワードは「龍を引く」、「有利なときは丁寧に」(p13、p21など)、「不利なときは辛抱」(p70、p203、p212など)
・その他の勝負術はp28、p73、p198、p205、p209など。


【千日手】
永瀬の千日手好きについては、一部では支持しない人もいる。支持する/しないはもちろん各人の自由であるが、本書には長瀬が千日手を選ぶ理由について数ヶ所書かれているので、一度は永瀬の考え方に触れてみてほしい。

むしろわたしは新鮮な感じがした。ただ、理由の半分は永瀬自身の修行に関連しているので、数年経てば(≒永瀬が日常的に一流棋士と対局するようになれば)永瀬の千日手は半減するかもしれない。


【総評】
「おいしい料理を気軽にパクパク食べられて、お腹もいっぱいになれる、ニュータイプの自戦記本」。

先述のように、やや難しい内容ながら多くの人が読めるように仕上がっている。受けの棋風や千日手を前提としたプチブラックジョークも織り込まれ、解説部を読んでいるだけでも楽しい。もちろん、棋譜並べも行うことで、実戦的な中盤力upも見込める。

以下のような方には特にオススメだ。

 ・「中盤で優勢なはずなのに、いつの間にか逆転されてしまう」とお悩みの方
 ・受け棋風の相手の気持ちを知りたい攻め将棋の方
 ・「美濃囲いは王手がかかるまでが勝負」とお考えの方
 ・千日手を肯定的に捉えてみたい方
 ・今までと違う自戦記を読んでみたい方


このスタイルで何冊か出版されるのだろうか?シリーズ化してほしいが、これだけ特徴のある棋士はそんなにいないか?(2012Dec26)

※誤植・誤字等(初版第1刷で確認):
p27 △「ポイントを上げたら」 ○「ポイントを挙げたら
p145 ×「中断に引き」 ○「中段に引き」



【関連書籍】

[ジャンル] 
自戦記
[シリーズ] マイナビ将棋BOOKS
[著者] 
永瀬拓矢
[発行年] 
2012年

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